怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件 作:しゅーびんで
投票結果に基づき、オリ主の転生者を放り出す先は“ルーシ帝国”になりました。
前半はこの世界の第一次世界大戦におけるルーシ帝国の解説、後半は転生したオリ主の視点になります。
東欧の帝国 1
産業革命以後、資源を求め海を越え世界に植民地を拡大した、アルビオン連合王国やフランソワ共和国などの西欧諸国が世界を支配した時代。
植民地主義の時代に、東欧に西欧諸国と肩を並べる巨大な帝国が存在した。
ルーシ帝国。
極寒のシベリアの大地に存在するこの国家は、肥沃な大地と不凍港を求めてレガドニアやライヒの前身にあたるかつて東欧の中心だった国々との戦争に勝利しバルト海へ進出し、さらに後に欧州諸国にとって大きな脅威であったマユヴィーク朝との戦争にも勝利して黒海を獲得したことで西欧諸国に遅れながらもこの時代の列強の一角として台頭した。
ライヒが統一されるまで西欧と渡り合う東欧の巨大帝国として君臨したルーシ帝国であったが、第18代皇帝であるアレクサンドル4世の時代に朝鮮半島を巡って秋津洲皇国と争った帝皇戦争に敗戦。
満州や朝鮮の影響力を失い、戦費と賠償金により国家財政が傾く事態となった上、世界の支配者である欧州の大国がアジアの新興国家に負けたという事態となったこの敗戦以降、アレクサンドル4世は対外戦争への意欲を無くし、大国であったルーシ帝国の没落は始まった。
南下政策を太平洋から地中海に切り替えバルカンに影響力を拡大しようとするも、西アジアへの進出を目指すライヒを統一した大国である帝国と対立。
後にアルビオン連合王国が主導した帝国包囲網の一翼として参加しライヒの拡大を牽制するも、レガドニア協商連合と帝国のノルデンを巡る諍いが1発の銃弾により開戦に繋がったことで同盟の安全保障が発動し、ヨーロッパのほぼ全ての国が参加した第一次世界大戦に参戦することとなった。
財政難により帝国との戦争準備が整っていなかったルーシ帝国は戦火の拡大を嫌う皇帝の方針もあり、共和国と熾烈な戦闘が繰り広げられたライン戦線への増援に帝国軍の戦力が引き抜かれた中でもほとんど攻勢に出ず東欧戦線にて帝国軍と睨みあいや小競り合いに終始した。
6年以上続くこの第一次世界大戦にて帝国とルーシの戦闘はほとんど発生しなかったことから東欧の戦線は“まやかし戦争”などと呼ばれ、ルーシが本格的な戦闘を展開していればこの大戦は帝国の敗戦で終わったかもしれないと後世で言われることとなった。
長引く戦争は皇帝の権威も削がれ財政も傾き国家そのものが破綻寸前だったルーシに革命の赤い津波を呼び込むこととなる。
共産主義者レフ・ブロンシュテインを指導者とする労働者たちにより体制崩壊を目指す革命が勃発すると、ルーシはオストラントの割譲とヒルトリアに対する支援の打ち切り及び大戦の離脱を条件として帝国と単独講和。勝者のいない戦争となった第一次世界大戦から離脱し、共産勢力の拡大阻止のために介入してきた秋津洲皇国と協力して“第一次ルーシ内戦”と呼ばれることとなる国家を引き裂く内戦の対応に走ることとなる。
民衆の大半を占める地方の農民がいまだに皇帝への敬意を持つ者が多く革命勢力を支持しなかったことやかつて敵であった秋津洲皇国の軍事介入もあり、ルーシは帝都の革命勢力をウクライナ方面に抑え込み、帝政の維持とルーシ崩壊の阻止に成功した。
しかしライヒにて発生した革命運動がついに帝国を打倒しレーテ共産主義共和国連邦が成立したことにより、レーテのウクライナ介入を恐れたアレクサンドル4世は、共産主義者と講和。
ウクライーネ共産主義人民共和国を承認し、肥沃なウクライナの大地と黒海のほとんどを手放してしまう。
このウクライーネの承認はレーテとの対立を緩和したが、肥沃なウクライナの地を失ったことによりルーシに深刻な食糧不足をもたらすこととなる。
アレクサンドル4世はシベリアの大地を開拓して農地を増やす農業政策を推進しこの食糧難に対応しようとしたが、皇国に敗れ、帝国に屈し、共産主義者にも和平を結ぶ弱腰によりルーシの民に飢餓をもたらした弱い皇帝にはルーシを率いる資格はないとした軍がクーデターを決行。
帝都ザントベルクとコーカサス地方にて発生した軍のクーデターによりアレクサンドル4世は殺害され、辛うじて襲撃を逃れた皇太子パーヴェルが近衛を中心とする帝国軍と皇国からの援軍を纏めて反乱を起こした軍とぶつかり合うことによりルーシは再度の内戦となる“第二次ルーシ内戦”に突入することとなった。
このクーデターは皇太子率いる帝国軍側が勝利しザントベルクを奪還。
しかしパーヴェルが帝都における内戦に専念している間に、コーカサス地方で発生したクーデター勢力はヴォロシーロフとジュガシヴィリが率いる親共派と、デニーキン率いる反共派に分裂。
レーテが介入し支援した親共派が勝利したことにより、コーカサス地方に新たな共産主義勢力が誕生することとなった。
財政難、大戦、飢饉、内戦とボロボロだったルーシ帝国に、レーテが背後にいるコーカサスのクーデター勢力を駆逐する力はない。
アレクサンドル4世に代わり第19代皇帝となったパーヴェル2世はレーテとの本格的な軍事衝突という最悪の事態を回避するため、油田や鉱山などの豊かな資源があるコーカサス地方を共産主義勢力に明け渡すことを決意し、カフカス共産主義人民共和国が成立することとなった。
こうして東欧にふたつの大きな共産主義国家が誕生する。
レーテはカフカス、ウクライーネ、そして合衆国内戦において社会主義勢力である労働党の共産諸州連邦などとともに、共産主義の陣営である“第3インターナショナル”を結成。
この東欧を中心に拡大する巨大な共産主義勢力の誕生を阻止できなかったことにより、ルーシ帝国の権威はさらに落ちることとなり、そして同じ反共という目的により秋津洲皇国などの君主制国家との関係が深くなることとなる。
後に親密な関係となった秋津洲皇国との間にアレクサンドル4世の次女である皇女マリアと秋津洲皇国の皇主弟、皇主の妹とパーヴェル2世の叔父であるミハエルという2組の婚姻による、皇族同士による婚姻同盟が結ばれることとなった。
さらに民衆の革命により本土を追われてオセアニアに亡命してきたアルビオン連合王国を加え、シベリアからオセアニアに広がる三つの君主国家による陣営である“王権同盟”が設立されることとなる。
カフカスの承認により共産主義勢力との対立は緩和されたが、ルーシは国内で弱腰の皇帝に対する風当たりがより強くなる。
そして秋津洲皇国との婚姻同盟の一周年を迎えた日。
ザントベルクにて行われた祝祭の舞台にて、フランソワ出身の魔導師が自爆テロを起こしパーヴェル2世が暗殺される事件が勃発した。
パーヴェル2世に男児はいなかったため、統一歴1935年にアレクサンドル4世の三女がルーシ帝国初の女帝となる第20代皇帝アナスタシア1世として戴冠することとなった。
2度の内戦、皇帝の暗殺、共産主義勢力の拡大、欧州の混乱、フランソワやアルビオンに見られる共産主義以上の狂気の思想、それに乗じてアジアで拡大し同盟国の秋津洲皇国と対立を深める中華の北洋政府。
世界に広がる火種は、20年前に欧州全土を戦場に変え、連合王国も共和国も帝国と合衆国も崩壊に導いたあの世界大戦を再び巻き起こそうとしている。
かつて東欧の大国として君臨したルーシ帝国の栄光は、もはや過去のもの。
臣民の食糧を確保するために農業を推進し工業分野にて他国に大きく遅れをとってしまった。
そんな過去の栄光と広いばかりの凍った大地が残された帝国。
その帝国の田舎にて。
帝皇戦争、第一次世界大戦、そして2度の内戦に参加し、そして片足の自由を失ったことにより退役し田舎に下りた開拓農民となった元軍人の農夫が、先立たれた妻との間に授かった一人娘と共に暮らしていた。
エカチェリーナ。
これが今世の──人違いでホームから突き落とされて死亡し、怠惰な半裸3面の神によって輪廻転生に前世の記憶を持ったまま放り出された魔法が存在する夢の世界とか言われたこの世界での私の名前。
ファミリーネームとか含めた正式な名前はエカチェリーナ・ドミートリエヴナ・ストゥカリスカヤだけど、長いのでエカチェリーナ、或いはリーナとでも呼んでください。
ルーシ帝国という国の田舎で、シベリアの大地をひたすら耕し農地を広げることを仕事とする開拓農民の父親、ドミトリー・エゴロヴィチ・ストゥカリスキーと2人暮らしをしています。
生年はこの世界の暦である統一歴1925年の3月。
純粋を意味するというこの名前は、私を産んだ直後に亡くなってしまった今世の母がつけてくれたと父から聞いています。
開拓農民というのは、大陸などの地理は前世とほぼ同じこの世界のユーラシア大陸にてロシアとほぼ同じ位置にあるルーシ帝国の国土に広がるシベリアの大地をひたすら耕し農地を広げていくことを仕事にしている農民のことです。
この世界で敗戦や内戦の歴史を歩んだルーシ帝国は、肥沃な土地や資源豊かな土地を次々に失い、私がまだ小さかった頃国家財政が困窮し深刻な食糧不足に見舞われていました。
当時のルーシ帝国の皇帝陛下であるアレクサンドル4世は臣民を餓死から救うために氷の大地に農地を拡大して食糧生産を増やす政策をとり、その一環としてシベリアの大地を耕して農地を広げるために帝国が農具や肥料を支給して送り出されたのが開拓農民です。
父のドミトリーことジーマはルーシ帝国の元軍人で、この世界の日本にあたる極東の島国“秋津洲皇国”との戦争である帝皇戦争、レーテの前身であるライヒの帝国と戦った第一次世界大戦、共産主義者の革命軍と戦った第一次ルーシ内戦、アレクサンドル4世を殺めた反乱軍と戦った第二次ルーシ内戦と、多くの戦争を戦い抜いてきたベテランの軍人でした。
しかし第二次ルーシ内戦にて右脚を負傷したことにより走ることができなくなった為、内戦の終結を持って軍人を辞め子供だった私を連れて開拓農民になりました。
開拓農民の生活は決して楽ではありません。
極寒のシベリアの大地は凍っているので、土を掘り起こすだけでも一苦労です。
まして非力な少女と右足が不自由な退役軍人の男性の2人家族。寒さに凍え、お腹を空かすなど、今日明日を生きるのが精一杯な毎日でした。
それでもジーマは私を男手一つで育ててくれました。
走ることができない足で凍った土を耕して、自分のことを二の次にして私の分の食べ物を確保して、時間があれば森で生き抜くサバイバル術や文字の読み書きなど様々なことを教えてくれました。
厳しい人でしたが、同時に誰よりも優しく愛情深い人でした。
前世の記憶があっても、わたしはこの人を父親として深く尊敬していますし、この人が父親で良かったと、誇れる最高のパパなのだと胸を張って言えます。
けれど厳しい環境の中、不自由な体を酷使して娘を第一に優先し自分を後回しにした生活は軍人として鍛え抜かれた肉体を蝕んでいました。
統一歴1935年の夏。
私が10歳の時、ジーマは突然倒れてしまいました。
栄養失調で免疫力が低下していた中で、病を患ってしまったのが原因でした。
そしてその病気は長期の入院が必要な重いものでした。
近所の方の手を借りてジーマを近場の町の病院に運びお医者様に診てもらったところ、そのような診断が下されたのです。
治療費は高額なものになります。今日を生きるのに精一杯の開拓農民にすぎない私達に出せるものではありません。しかし治療が受けられなければ、その命はいつ消えてもおかしくありません。
父親を愛していた私は諦めきれず、治療費賄うために帝国軍に入隊することを決意しました。
この世界では適性がある者が希少な魔力を駆使して魔術を行使する魔導師というものがあります。
世界各国ではこの魔導師により編成される魔導兵科というものが存在しており、技術レベルにおいて他国に劣るルーシ帝国は兵器を駆使するほかの兵種に比較して技術格差の壁が低いが適性のある者が希少な魔導師を戦力として多く確保するために、10歳以上ならば男女問わず魔力適性のあるものを高待遇で募集していました。
幸い魔導師としての適性があった私は、父の治療費を稼ぐためにルーシ帝国軍の魔導師に志願しました。
この頃、世界では20年前の再来、2度目の世界大戦の機運が高まっていました。
大西洋を隔てた先の新大陸では超大国であった合衆国が様々な問題から分裂して内戦状態に陥って長く、ライヒでは第3インターナショナルを形成したレーテが共産主義の拡大を目指して暗躍し、ライヒの西にあるフランソワでは共和政府に代わって実権を握ったアヴァンギャルドがライヒへの復讐を叫んで戦争の準備を進めており、海を隔てた先のアルビオンでは王家を放逐したマキャヴェリストたちが世界征服を目論み軍備を拡大しています。
東に目を向ければ欧州の混乱に乗じてアジアの支配者となった北洋政府が海へ勢力を拡大する動きを見せておりルーシの同盟国である秋津洲皇国との対立が深まっており、その秋津洲皇国では北洋政府だけでなく新大陸の内戦に介入したことで太平洋の島々の利権をめぐって社会主義勢力や加速主義勢力とも衝突し同盟国のアルビオン連合王国と結ぶ相互安全保障から王家の滅亡を望むマキャヴェリズム・アルビオンともいつ戦端が開かれてもおかしく無い火種を多く抱えています。
国境を越えるイデオロギーの共産主義や加速主義は拡大の一途を見せ、世界の分断は第二次世界大戦をいつ起こるかわからない脅威からいつか必ず起こる脅威という現実的なものにしつつあります。
当然、軍部の反発を招きクーデターが起きてしまったほどに戦争を嫌い融和的な外交政策を展開していたルーシ帝国も、無関係ではいられないでしょう。戦争が始まれば、当然私も戦地に送られることになるかもしれません。むしろ訓練期間を繰り上げて早々に出されたりするかもしれないです。
それでも私は帝国軍に志願しました。
私には自分を後回しにして育ててくれたジーマに返しきれない恩がありますし、何より今世の父親を愛していますので。私は愛する父を病から救う為ならば、軍人でもなんでもやります。
時は流れ、統一歴1938年。
2年間の訓練生として過酷な訓練期間を経て、銃の撃ち方や演算宝珠を使った魔法の扱い方などを学び兵士に必要なスキルを叩き込まれ正式に帝国軍魔導師となった私は、上官であるコルチャーク少佐とともに故郷であるルーシ帝国を離れ、イルドア、レーテ、フランソワと国境を接し、峻険なアルプスの山々に囲まれた永世中立国であるはずの森林三州誓約同盟の領土
ボロボロになったこの街はほんの2日前まで永世中立国のはずの森林三州誓約同盟の領土にある平和な街であり、今はアヴァンギャルド・フランソワ軍が駐留・占領する破壊された街になっていました。
そう、この年すでに戦争は起きていたのです。
森林三州誓約同盟は永世中立国である為、マキャヴェリズム・アルビオンの陣営である革新同盟にも、共産主義者たちの陣営である第3インターナショナルにも属しておらず軍事同盟を結ぶ国もなかったこと、太陽連盟ではなくアヴァンギャルド・フランソワのみが宣戦布告したから、すぐさま複数の国を巻き込む大戦にはならなかったものの、この戦争は欧州では不安定で紛争は絶えなかったものの第一次世界大戦以降国家間の総力戦がなかった仮初の平和の時代に終焉を告げるものでした。
統一歴1938年7月17日。
レーテとの戦争に備えるために以前から森林三州誓約同盟に対して太陽連盟へ加盟させようと圧力をかけてきたアヴァンギャルド・フランソワは、永世中立国の立場を貫くことを強く表明した森林三州誓約同盟に対し傀儡化か戦争かの二者択一を突きつける最後通牒を出し、それを森林三州誓約同盟が拒絶したことを受け、宣戦布告。
狂気の加速主義者たちによる一方的な侵略戦争の火蓋が切られることとなりました。
この戦争にルーシ帝国は今後起こるであろう第二次世界大戦の戦場がどういったものになるかを調査するため、アヴァンギャルド・フランソワの許可を得て秋津洲皇国やアルビオン連合王国らとともに観戦部官を派遣。
ルーシ帝国の派遣した観戦武官の1人がコルチャーク少佐であり、私は少佐の護衛として同行することとなったのです。
そして昨日、アルプスを超えるべく侵略を開始したアヴァンギャルド・フランソワ軍と、それを阻止しようとする森林三州誓約同盟軍がぶつかる戦場を間近で見ることができました。
その戦場で見たのは、第二次ルーシ内戦でも活躍したコルチャーク少佐から教えられた戦場とはまるで違いました。
峻険なアルプス山脈を用いて迎撃する森林三州誓約同盟軍に対し、アヴァンギャルド・フランソワは人口からは考えられない40万という桁違いの数の魔導師を動員し、空と陸から一気に攻撃を仕掛けました。
本来魔法によって空を飛べる利点を生かし、ルーシ帝国も含めた多くの国では魔導師を航空魔導兵として運用していますが、ありえない数の魔導師を保有するフランソワ軍は陸軍に同行し友軍を守るための大規模な障壁を展開する防御専門、敵軍を掃討するための大規模な攻撃を仕掛ける砲戦専門の陸上魔導兵と、観測や爆撃、空中戦などを担う航空魔道兵に分けて運用していました。
適性を持つ人材が希少ですが、魔法により空を飛べるという機動力と1人で多くの役目がこなせる万能性が大きな利点のため、通常の魔道兵は様々な役割を兼任します。
そのため歩兵として運用し特定の魔法に特化した魔導兵というのは万能性と機動力のメリットを潰すために見られないのですが、どのような手段を用いてここまで集めたのか見当がつかないはどの人数の魔導兵を運用するフランソワ軍は魔導師の中にも専門職を設けることにより、通常は飛行や観測に攻撃や防壁など複数の魔法を展開する魔導師の魔力を一つの役割に集約させることでその威力を底上げし大規模・高威力な魔法を展開できる運用を可能としていました。
多数の魔導師を運用するフランソワだからこそできる戦略だったのでしょう。
そしてその中でも一際異質だったのが、障壁や爆裂魔法を駆使してアルプスの山に車両を通す道を作ったり即席の防御陣地や塹壕を人力よりも遥かに早く大きく作ったりする魔導工兵と呼ぶべき存在がいたことです。
これにより重装甲で高火力ながら雪山や森を進むのには不向きなフランソワ軍の最新兵器である大型の戦車や自走砲などを運用することが可能となり、天然の要害たるアルプスを容易に踏破してみせたのです。
高所からの砲撃も爆撃もことごとく陸上魔導兵たちが重厚な障壁で守り、山を切り崩して持ち込んだ高火力の砲撃や爆撃のように降り注ぐ爆裂魔法が森に隠れる兵士を吹き飛ばし、止めに機甲戦力を先頭にした大規模な陸軍の攻勢が反撃する力を失い破壊された陣地を踏破していきました。
アルプス山脈という天然の要塞に守られ、一家に一丁の銃が備えられ誰もが銃の扱いを学んでいることから有事となれば文字通りの国民皆兵により国力に不釣り合いな兵力を有することで、堅牢で攻略してもあるものが少ないことから永世中立国として存在していた森林三州誓約同盟。
しかしその天然の要塞と大きな戦力を、アヴァンギャルド・フランソワはルーシの想定を遥かに超える戦略で突破し攻め落としてみせたのです。
先日繰り広げられた第一次世界大戦の頃とは全く違う、20年で急激に進化した戦場を目の当たりにしたコルチャーク少佐は言葉を失いました。
それは秋津洲皇国やアルビオン連合王国などの同盟関係にある国だけでなく、イルドアやヒルトリア、マユヴィーク朝などから派遣された観戦武官たちも同じでした。
当然、無知な私でもあの戦場がどれだけの衝撃をヨーロッパ各国に与えることになったのか想像もつかず、ただただ言葉を失いました。
そして今日、アルプスを踏破したフランソワ軍が攻略したこの街に来たのですが。
建物は破壊され、抵抗したと思われる住人たちの死体が道に転がり、子供や老人も容赦なく殺されているなど、凄惨な光景が広がっていました。
肉や石が焼けた臭いが満ちる町の残骸の姿に、観戦武官の中には嘔吐する者までいるほどでした。
街を占領するフランソワ軍は、まるで感情を無くしたように虚な目で機械のように残骸の撤去などの作業に取り組んでいます。
案内役の士官などは会話に応じてくれますが、フランソワ軍の兵士、特に魔導兵たちはまるで私たちの声が聞こえないかのように話しかけても無視します。
人口に対して明らかに不釣り合いな魔導師のこともあり、焦点が合わない虚な目と合わせてフランソワ軍は不気味な雰囲気が漂っています。
不気味な雰囲気の漂うフランソワ軍の様子に、この占領地は砲火飛び交う最前線以上に何が起きてもおかしくないという不穏な空気が観戦武官達の中に広がっています。
私もなるべくコルチャーク少佐から離れず行動することにします。
この占領された街の中に若い女性の死体が殆ど転がっていないことからも、流石にそこまではしないと思いたいですがフランソワ軍に拐われたりするようなことがあれば何をされるか想像もしたくないです。
コルチャーク少佐からもなるべく離れないようにと言われました。
その日の夜。
各国の観戦武官用に用意された宿にて、コルチャーク少佐は同僚や同盟国の秋津洲皇国やアルビオン連合王国からの観戦武官らとともに先日の言葉を失ったフランソワ軍の今までにない戦争の姿をついて意見を交わしていました。
臣民の食糧を確保するためにこの20年を農業に費やしたルーシ帝国は、他の国々と比較して技術面で大きく遅れており、戦車も演算宝珠も戦艦も航空機も銃器も第一次世界大戦の頃から進化していません。単葉機が主流でジェットエンジンの研究開発もおこわなれている時代に複葉機が主力であり、戦車同士の砲撃戦用に作られる中戦車が主力を担い重戦車が生産され始めている中で菱形戦車ばかりな上にいまだに騎兵を運用しており、海では空母や潜水艦もなく前弩級戦艦がほとんどで一握りの弩級戦艦があるくらいといえばどれほど遅れているのか分かり易いでしょうか。
私みたいな平の兵士から見ても、あのフランソワがルーシに攻め込んできたらと考えると純粋な歩兵の数以外全てが劣っている今の帝国軍では絶対に勝てないだろうと思います。
「この戦争で起こることを具に記録し、本国に持ち帰らなければならない。今後の戦争の様相は大きく変わることになるだろう」
フランソワが見せた新しい戦場。
それが明日起きるかもしれない第二次世界大戦の姿になる。
だからこそこの戦争で起きることをできる限り記録し本国に持ち帰り、この新しい時代の戦場に対応できる軍備と体制を整えていかなければならない。
観戦武官の皆さんは己の使命を再確認し、翌日に備えることにしました。
明日以降、フランソワ軍は再び首都を目指して進撃する予定とのことです。
アルプスの要害を突破できることが証明された時点で、もはやこの戦争の趨勢は決しています。
近いうちに森林三州誓約同盟は併合されるか傀儡化され、レーテとフランソワの間の緊張はさらに高くなるでしょう。戦争の準備が整えば、太陽連盟と第3インターナショナルによる第二次世界大戦が勃発し、長く続く膠着から休戦期間になっている新大陸の内戦も再燃するはずです。そうなれば革新同盟も世界大戦に介入するでしょうし、ヨーロッパが戦火で荒れる時期を好機と見た北洋政府や秋津洲皇国が動き、ルーシ帝国が属する王権同盟も世界大戦に巻き込まれることになるはずです。
これのどこが魔法のある夢の世界だというのか。
窓から夜空を眺めながら、私は転生前に夢の世界に送ってやるなどとほざいていたあの半裸三面の神へ声には出さずに苦情を向けました。