怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件 作:しゅーびんで
勝者のない世界大戦の終結後、仮初の平和の時代を迎えていたヨーロッパ。
それは大戦の終わりから20年の月日を挟み、突如として破られることとなった。
拡大する第3インターナショナルに対し、ライヒへの復讐を叫ぶアヴァンギャルド・フランソワが対抗して結成した加速主義者の陣営である太陽連盟への加盟を永世中立国よ森林三州誓約同盟に迫り、これを同盟が拒否したことから始まった2国間の戦争。
ヨーロッパの平穏の時代を破って起きたこの戦争は、鉄血諸州連合国の開発した新型中戦車や大量の魔導師を揃えたアヴァンギャルドが同盟軍を圧倒。
森林三州誓約同盟は全国民に抵抗を呼びかけ、その難所の広がる地形を利用して徹底抗戦するも、大量の魔導師の作る術式を応用することで軟地形に機甲戦略を展開できる道を作り進行するフランソワ軍を止めることはできず、遷都した臨時首都が陥落し首相をはじめとする指導者たちが殺害されたことにより、解散から47日後にアヴァンギャルド・フランソワが同盟政府の打倒を宣言したことで実質的に全土が占領され、戦争は終結した。
結果はアヴァンギャルド・フランソワの圧勝。
フランソワ軍の戦死者が約6万人に対し、市民一人一人に至るまで徹底抗戦を続けた森林三州誓約同盟は軍民合わせて50万人に上る犠牲を出した。
この犠牲者のおよそ半数は終戦までの間で占領地等にて行方不明となった人間の数であり、アヴァンギャルドの占領統治下にある旧同盟領では今も行方不明となる人の数が増え続けているという。
戦後、アヴァンギャルド・フランソワは同盟政府を解散させ森林三州誓約同盟の全土をフランソワの直轄地として併合。
地図から国家一つを消した上で、廃墟となった旧同盟領各地に多くの軍が数ヶ月間にわたって駐屯し、何も残らなくなるまで物資と人間を徹底的に収奪し持っていった。
地図から国が消えただけではない。
狂気の加速主義者たちは、文字通り森林三州誓約同盟という国家が存在した痕跡を消し去るかのように何もかもを略奪し、アルプスに囲まれた国の街も、人も、何もかもを破壊し持ち去り消してしまったのである。
この地に永世中立国が存在した痕跡は残っていない。
あるのは廃墟の瓦礫も消えた更地と、来るレーテとの戦争に備えそこに進駐する不気味なフランソワ軍だけである。
アヴァンギャルド・フランソワが永世中立国である森林三州誓約同盟を攻め滅ぼしたのは、レーテへの復讐を果たすための戦争の準備の一手として南方に戦線を構築すると共に、同盟国であるヒルトリアとの挟撃態勢を構築するためであった。
アヴァンギャルド・フランソワの圧勝で終わった今回の戦争は、かつて欧州に地獄を見せた世界大戦と比較すれば、数字の上では2国間の戦争だったこと、フランソワ軍の膨大な数の魔導師と大きく進化した機甲戦力を中心としたまったく新しい革新的な戦略により同盟軍を圧倒したことなどから、短期間に、そして数字の上では少ない犠牲で終結した。
しかし、当然この新たな戦火が世界に与えた影響は大きい。
世界大戦の反省を踏まえ、多国間で開催された国際連盟。
二度と世界大戦を起こさないために結成された国連は形骸化し、終戦不況と世界経済を支えた合衆国の崩壊からくる世界規模の恐慌によって蔓延した破滅に向かう新たなイデオロギーと、新興勢力間の対立。
侵略の成功例が作られたことによる、植民地や国土の拡大を狙う国々の暴走。
仮初の平和を砕いたフランソワによる森林三州誓約同盟への侵略戦争。
それによる永世中立国の滅亡。
この戦争が引き金となり、世界は二度目の世界大戦に向けて動き出すこととなる。
触発されたことにより延焼した新たな戦火は、中東を発端にして勃発することとなる。
マユヴィーク朝領、シリア地域──
「王朝の不当な搾取に耐えてきた同胞達よ、雌伏の時は終わりを告げた! 我々は、我々の民族のための国をかつてマムクト人共に奪われた故郷の地に築く! 何者にも支配されぬ、何者にも搾取されぬ理想郷を! 我らクルディスタンの社会主義国家を! 立て同胞よ、武器を取れ同胞よ! レーテとカフカスの同志とともに! 我らクルディスタン社会主義人民共和国は、ここシリアの地にてマユヴィーク朝より独立を果たし、第3インターナショナルへの加盟とマムクト人共への宣戦布告する!」
カフカス共産主義人民共和国、首都エレバン──
「マユヴィーク朝に虐げられし同志たちは立ち上がった! 我らはこの新たな同志、クルディスタンを第3インターナショナルに歓迎しよう! さあ、圧政を敷き民草を飢えさせ私腹を肥やす王侯貴族どもより同志を救おうぞ! 我らカフカス共産主義人民共和国は、同盟国であるクルディスタン社会主義人民共和国を救うため、マユヴィーク朝に対し宣戦布告する!」
マユヴィーク朝領、ペルシア地域──
「我らが飢餓に苦しむ中、貴族共は贅を凝らした世界で遊侠に耽り、この国の民衆を顧みない。もはや我慢の限界だ! 圧政者たちに叛逆せよ! マムクト人を打倒せよ! 狼煙を上げろペルシアの民よ! マムクト人をペルシアより放逐せよ!」
地中海南方、アレクサンドリア近海──
「さあ偉大なる総統閣下の下に集いしの諸君、戦争を始めようか。この戦争に、国家の未来が懸かっていることを肝に銘じてほしい。では──砲撃開始! マユヴィーク朝を駆逐し、東地中海の覇権を我らイルドア共和国のものとする!」
ヒルトリア連合、首都ベオグラード──
「我らが盟主、偉大なるフランソワの指導者、アトルー閣下は仰られた。文明を停滞させる退廃主義者たるマユヴィーク朝を滅ぼし、ペルシアの地を我ら太陽連盟の統治下とせよと。偉大なる閣下のご指導の下、彼の地は停滞より解放され加速するのだ。加速せよ、加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨ加速セヨカーソークセヨカソクセヨ!!」
統一歴1939年4月──
マユヴィーク朝統治下のシリアにて王朝の統治に反発した民族運動が、やがて革命に発展。サンディカリストが蜂起しクルディスタン社会主義人民共和国の建国を宣言すると、まるで示し合わせていたかのように独立運動が勃発した日のうちに第3インターナショナルに加盟。
そして同盟国の支援を名目に、国際連盟が正当な独立国として承認していない中カフカス共産主義人民共和国がマユヴィーク朝に宣戦を布告し、中東地域へ侵攻を開始した。
さらにその1週間後には、ペルシア地域にて反乱が勃発。
ペルシア反乱の4日後には東地中海に勢力拡大を目指すイルドア共和国が突如として海軍をアレクサンドリア地域に派遣すると、一方的な宣戦布告とともにマユヴィーク朝に対して攻撃を開始。
これを受けてダキア鉄衛団など革新同盟各国もマユヴィーク朝へ宣戦を布告。
ペルシアや南方大陸北東部などを中心にマユヴィーク朝と革新同盟との戦端が開かれることとなった。
さらにさらに5月になるとヒルトリア連合をはじめとする太陽連盟各国が突如としてマユヴィーク朝に宣戦布告。
中東から南方大陸北部、西アジアに広がる地域にて、マユヴィーク朝と第3インターナショナル、太陽連盟、革新同盟、反乱軍など多数の勢力が入り乱れる大規模な戦争が勃発することとなる。
四方八方にいきなり多くの敵を抱えることとなったマユヴィーク朝は単独で抵抗するも、終戦不況による困窮と合衆国を始めとする戦費を賄うための借金による多額の負債から経済が低迷し地方の多くが飢餓に苦しめられる情勢が続いていたこともあり、思うように戦力の集まらなかった王朝軍は次々に敗北を繰り返す。
その上技術力でも軍事改革の進まなかった王朝軍はかつての大戦からほとんど更新できなかった旧式装備ばかりに対し、社会主義陣営はレーテ主導のもと新型の中戦車を主力とする最新鋭の機甲戦力を揃えており、イルドア共和国は超弩級戦艦を超える16インチの主砲を備えた新型戦艦“ケイロン級”を旗艦とし単葉機の爆撃機を運用可能な大型空母などを揃えた圧倒的な対地攻撃能力を持つ艦隊を用いており、ヒルトリア連合を中軸とする太陽連盟軍はアヴァンギャルド・フランソワ軍に見られた人口に対して明らかに不釣り合いな大量の魔導師部隊を動員してきた。
もはやかつての大戦とは全く違う装備、全く違う戦略を展開する各陣営の軍勢を前に、装備も戦略も旧式で士気も低い王朝軍は大敗を繰り返し、瞬く間にかつて欧州を恐れさせた西アジアの大国は蹂躙されていった。
マユヴィーク朝と革新同盟・太陽連盟・第3インターナショナル、そしてペルシアなどで発生した反乱軍による複数の勢力が入り乱れた一連の戦争は、フランソワの森林三州誓約同盟に対する侵略戦争と共に二度目の世界大戦の前哨戦と位置付けられている。
欧州の西アジア侵攻と呼ばれることになる今回の戦争は、マユヴィーク朝という共通の敵という名のケーキを切り分けるため、本来対立関係にあった世界大戦の主役である三陣営が唯一味方同士となった戦争であり、厳密には世界大戦には含まれない戦争である。
だが、マユヴィーク朝の崩壊とその広大な領土の切り分け合戦は西アジアから南地中海に至る広範囲の地域に三陣営の新たな戦争の火種を作ることになり、この戦争を阻止できなかった国際連盟の意義を喪失させ世界大戦へ向けて急速に世界が動く要因にもなった。
かつて欧州を脅かしてきた西アジアの大国は、わずか4ヶ月ほどで世界地図より消えることとなる。
戦後、マユヴィーク朝は解体、その領土は戦勝国に切り分けられることとなる。
南方大陸北東部などはイルドア共和国領に、シリア地域は新興国であるクルディスタン社会主義人民共和国領に、ペルシアを始めとする西アジアの多くはカフカス共産主義人民共和国領に、中東の半島地域はヒルトリア連合とアヴァンギャルド・フランソワ領へと塗り替えられた。
マユヴィーク朝崩壊後もペルシア地域の反乱軍は第3インターナショナルに抵抗を試みたが、砂漠すら踏破する最新鋭の機甲戦力を中心とする電撃戦を展開したサンディカリストの軍勢には歯が立たず数ヶ月で鎮圧された。
欧州を発端とした戦火は、アジアや南方大陸にまで波及し、そして領土的野心を抱く多くの国の暴走を促すこととなる。
そしてそれは、東欧の帝国が主体として作られた第四の陣営である王権同盟も同じであった──