怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件   作:しゅーびんで

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華北戦役 1

 

 北洋政府との戦争でルーシ帝国が担うのは、沿海州など北方の満州戦線と、この山西戦線の二つである。

 開戦から一週間ほどで沿海州を奪還し、半島を攻略して北上してきた秋津洲皇国軍と南北より挟み撃ちにする形で満州方面の攻略も成功したことで、満州戦線は終結した。

 占領軍を残し、満州戦線にいた部隊を山西戦線に回し本国からの増援と共に戦力を増強したルーシ帝国軍は、積雪の前に山西戦線を大きく押し上げるべく大規模な攻勢を仕掛ける事を決定する。

 

 山西戦線に集結したルーシ帝国軍はおよそ12万。

 500門以上の大砲と、旧式だが塹壕突破用の戦車を10両配備しており、加えて航空戦力として魔導師の他に秋津洲皇国より輸入した3機の新型爆撃機を配備した大戦力である。

 

 対する北洋政府は30万。

 数の上では圧倒的だが、その実情はほとんどが数の水増しのために周辺から強制的に徴収された民兵で、正規の北洋政府軍は4万ほど。

 その正規軍もほとんどが連日の敗戦の敗残兵を集めた寄せ集めで、航空機はおろか車両や大砲すらなく、歩兵銃も2人に一挺しか配備できない状態であった。

 民兵の武装はもはや武装と呼べるものではなく、農具や包丁、石ころなどを手にした中世の歩兵のような有様であり、北洋政府から戦う事を強要されているためし士気も非常に低い、数だけの軍勢である。

 実質的な戦力となるのはせいぜい2〜3万程度であり、それを考慮すれば戦力的にはルーシ帝国軍が圧倒的に上であった。

 

 ルーシ帝国軍はまず虎の子の航空戦力である爆撃機を先行させて太原を中心に展開する北洋政府軍に対し爆撃を実施。

 対空砲を持たない北洋政府軍は高高度から一方的な攻撃を可能とする爆撃機に手も足も出ずに蹂躙され、大きな被害を受ける。

 爆撃で崩壊した箇所に戦車を先頭にした主力部隊を突撃させ防衛線を突き破ると、傷口を広げるように後続の戦力を投入し、後方の都市には砲撃を叩き込み後詰を蹴散らす。

 この大規模攻勢は見事成功し、本国からの増援である魔導師部隊を投入するまでもなく山西戦線の攻略に成功した。

 

 リーナの初陣は、後方にいるだけで何もすることがなかったという拍子抜けする形で終結することとなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 初陣だと緊張しながら鉄道に乗せられアジアの前線に向かったのですが、本国からの増援として派遣された私たちが到着した戦場では、後方に配備された増援部隊が動く前に私たちよりも早くからアジアの戦場に立っていた友軍によって圧勝し、私は何もせずに初めての戦いを終えることになりました。

 もはや骨董品になりつつある複葉機が航空戦力のほとんどを占めているルーシ帝国ですが、今回の戦争に臨むにあたって秋津洲皇国から新型の爆撃機を輸入しており、それを今回の戦いに投入したとのことです。

 

 2台のレシプロエンジンを搭載した爆撃機。その見た目は完全に九六陸攻です。

 なんでもシベリアのいくつかの鉄鉱山の採掘権を対価にして購入した相当高価なものらしく、私たちが何もせずに終わった今回の戦いにて投入され勝敗を決定づける大活躍をしたそうです。

 数は北洋政府軍の方が遥かに多かったですが、対空砲を持っていなかったので爆撃機の降らす爆弾に歯が立たずやられたそうで、地上戦が展開された頃には勝負が決まっていたとのこと。

 今回の戦いで航空機の評価がまた上がるかもしれません。魔導師にとっては逆風ですが。

 

 勝利したルーシ帝国軍はこの戦いで攻略した都市である太原に山西戦線の前線司令部を設置し、戦線を東と南に大きく押し上げました。

 今後の方針は山西省から東に進み、満州の攻略時と同様に海から上陸して戦線を構築している秋津洲皇国軍と華北で北洋政府軍を挟撃するそうです。

 この日、戦闘に参加しなかった本国からの増援である魔導師たちは、太原の司令部と前線の部隊との間を伝令役として飛び回って終えることになりました。

 

 

 

 翌日。

 山西戦線に展開していた北洋政府軍30万を蹴散らしたルーシ帝国軍ですが、河北方面に進軍した部隊の前に大規模な北洋政府軍が立ち塞がりました。

 どうやら前日に蹴散らした敗残兵に加えて、南から北上してきた新手の軍が合流して結成された軍勢らしいです。

 さすがは世界最大の人口を抱える国。兵士はまるでわんこそばのように蹴散らしてもすぐに補充されてきます。

 

 遠目からの偵察にて、少なくとも10万以上はいると推測される新手の北洋政府軍。

 現地徴収や敗残兵の寄せ集めではなく、南から派遣されてきた軍が主力になっていることから、今度は見せかけではない北洋政府の正規軍が中核になっていると推測されています。

 この敵の大軍の規模や内情を探るために、ルーシ帝国軍は航空魔導師を中心とする偵察部隊を編成して派遣することを決定。

 私もその偵察部隊に配属されることになりました。

 

 昨日の初陣では何もせずに後方で待機していたら半日足らずで味方が勝利したので、今日の偵察任務が事実上の初陣になると言っていいでしょう。

 私は何もしなかった前日の戦いにて交戦した北洋政府軍は、正規兵はごく一部でほとんどが現地で徴兵された民兵が占める本当に数だけの軍勢だったそうです。

 

 しかし、今回の敵は北洋政府の正規軍で構成されていると推測される大軍。

 航空魔導師や対空砲が配備されていてもおかしくないため、航空機より遅く高度も低い魔導師では空を飛んでいたとしても撃ち落とされるかもしれません。偵察は命懸けになります。

 

 それでも私たちの偵察で敵軍の詳細が判明すれば、ルーシ帝国軍は被害を抑えて勝利できる可能性が高くなります。

 危険ですが重要な任務です。

 コルチャーク少佐の改革をアシストするためにも、父の治療費を稼ぐためにも、活躍して手柄を立てなければいけないので。

 

 正規兵として配属された際に支給される演算宝珠。

 現行のルーシ軍魔導師に配備されているこの演算宝珠、開発されたのは30年前とかなりの旧型です。常に予算不足の魔導兵科は新型を研究開発する余裕もないとのことで、拡張に関しては個人でカスタマイズするしかなく、ルーシ軍の魔導師たちの演算宝珠は各々で改造したものがほとんどです。

 

 ちなみに私の演算宝珠も闇市とかフランソワでの戦場跡とかで入手したパーツを色々と取り付けて改造したものになってます。

 死体から拝借したフランソワ軍の演算宝珠に一度手をつけてみたこともありますが、彼らの演算宝珠は新型というだけありかなり効率がいいのですが、運用思想から他の演算宝珠とは違う代物で扱いにくく、結局パーツだけいただくことになりました。

 フランソワ製の演算宝珠はパーツだけでも高性能なので、使えるようにするためにさらに改造する必要がありましたけど、おかげで旧型でも世界に一つだけのオリジナル演算宝珠ができました。えっへんなのです。

 

 偵察部隊は3個中隊で構成されており、私はグスタフ大尉というスキンヘッドにモネみたいなフッサフサなヒゲを蓄えているベテランの方が隊長を務める部隊に配属されています。

 ちなみに他の中隊の隊長もスキンヘッドに個性的な髭を生やした方で、ワックスで固めていそうなくらい立派なカイゼル髭の持ち主であるアレクサンドル大尉と、上はツルツルなのに横はフサフサなマトンチョップスが特徴のブルスタフ大尉です。

 ルーシ帝国の航空魔導師の隊長たちって、スキンヘッドと個性的な髭生やすのがブームになっているのでしょうか? 

 

「航空魔導師部隊、出撃準備完了しました!」

 

「状況に応じ攻撃も許可する。各中隊、出撃せよ!」

 

「了解! グスタフ中隊、出撃!」

 

 出撃準備が整い、将軍からの号令を受けて、グスタフ大尉を先頭にして空へと上がります。

 目指すは北洋政府軍の陣地。軍容や装備が判明していない、ある意味1番危険な敵の情報を集めるために接近する任務です。

 

「簡単に落ちるなよひよっこども!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 グスタフ中隊で初陣なのは、私を含めて4人。

 ルーシ帝国軍の魔導師は4人で1つの小隊を構成しており、グスタフ中隊の新兵は各小隊に1人ずつ配属されています。

 私はグスタフ中隊長の直属の小隊に組み込まれました。

 

「飛行は問題ないか?」

 

「問題なしです!」

 

 改造品は予期せぬトラブルが起きることも多いですが、私の演算宝珠の調子は良好で飛行に問題はありません。

 他の皆さんも別の中隊含め全員問題なく飛び立つことができたようで、離陸でいきなり脱落者が出るということはありませんでした。

 

「よろしい、では行くぞ! しっかり追ってこい!」

 

「「「了解!」」」

 

 各々の中隊は隊長を先頭に担当の区域に向かって飛んでいきます。

 私もグスタフ中隊の担当する場所に向かって隊長の背中を追いかけ、加速しました。

 

 

 

 北洋政府軍の防衛線に接近すると、そこには味方の数倍はいるだろう大軍が展開していました。

 幸いにも私たちが偵察に来た箇所には対空砲や魔導師が配備されていないのか騒いでいるだけで迎撃に出てくる様子はありませんが、10万をはるかに超える軍勢はその数だけで威圧感があります。

 

「多いな……この辺りだけでも10万はいる。南にも同規模の戦力があるなら、ざっと見積もって30……下手したら40万はいるぞ」

 

「40万!?」

 

 ざっと敵の防衛線を見渡したグスタフ隊長が見積もった北洋政府軍の総数は40万という大きな町の人口みたいな数字でした。

 その数を聞いて私だけでなく、先輩の兵士の皆さんも驚きの声をあげます。

 

 太原など占領地の防衛に部隊を割いていることもあり、こちらに展開しているルーシ帝国軍はおよそ9万。単純な数では4倍以上の戦力差です。

 その上、爆撃機は3機中1機がエンジントラブルで整備中であり、戦車も故障などで今日の戦いに出せるのは5両のみと、昨日に比べてルーシ帝国軍側の使える戦力は少なくなっています。

 

「この辺りに対戦車砲や対空砲はなさそうだが……予定通り小隊ごとに分かれて一帯の敵部隊の陣容を確認するぞ。兵科、装備、陣容などの情報を集めてこい!」

 

「「了解!」」

 

 偵察任務はここからが本番。

 予定通りグスタフ隊長は小隊に分かれて担当する区域の敵軍を探るように指示を出し、中隊は3つに分かれました。

 私もグスタフ隊長に従い、地上を埋め尽くす北洋政府軍の様子を調べるべく目を凝らします。

 

「数は多いが、この辺りはほとんどが歩兵だな。基本は歩兵銃、対空砲もここにはなさそうだが……」

 

 グスタフ隊長は冷静に敵軍の様子を確認しています。

 兵科はほとんどが歩兵で、装備も歩兵銃が大半。対空砲はこの辺りには配備されておらず、戦車なども確認できません。

 

「機銃やトーチカも無さそうだな。……というか、よく見たら塹壕すら掘ってねえじゃねえか」

 

 トーチカや塹壕もなければ機関銃や大砲すらありません。

 あまりの数の多さに衝撃を受けましたが、よくよく見てみれば北洋政府軍はまともな防御陣地も構築していない、人数をかき集めてただ並べただけのような状態になっています。

 

「罠じゃねえよな……」

 

 攻めて来てくださいと言わんばかりの布陣に一周回ってグスタフ隊長も罠を疑っているようです。

 数は多いですが、こうして偵察すると非常に防御が杜撰になっていることがわかります。この辺りはかなり攻めやすいポイントになりそうですね。

 

「まともな防御体制が完成していないなら攻め時だな。戻るぞ」

 

 偵察して撤収するまで、私たちに対して北洋政府軍から対空攻撃が飛んでくることも魔導師が迎撃に上がってくることもありませんでした。

 今度こそ初めての空戦を覚悟していましたが、結果として戦闘はなく偵察も無事に成功したので、拍子抜けしたものの任務は無事に達成できました。

 

 

 

 ちなみに、これは帰還後に知ったのですが。

 どうやら北洋政府軍の状況は他の場所も似たり寄ったりだったらしく、数ばかりで対空砲や魔導師はおらず、防御陣地もまともに作られていない状態だったとのことです。

 南から上がってきた増援を正規軍と思って警戒していたルーシ帝国軍でしたが、実際のところこちらも急遽数合わせで徴兵された者たちで構成されていたらしく、今回対峙していた北洋政府軍も数だけの軍勢でした。

 

 魔導師の偵察で敵軍の陣容が数だけのハリボテであることを確認したルーシ帝国軍は、すぐに攻勢に出ることを決断しました。

 

 前日と同様に、まずは爆撃機など航空戦力で打撃を与え、防衛線に傷口を作ってから戦車を前衛に立てた地上戦力を突撃させて壊滅させる作戦です。

 

 対空戦力がないことは偵察で判明しているので、空からの攻撃は一方的なものになります。

 まず爆撃機は南の敵軍に対して大規模な爆撃を敢行し、魔導師で構成される各中隊は中央から北側にかけて展開している敵軍に攻撃を行います。

 私もグスタフ隊長の中隊にて、今度は偵察ではなく攻撃のために敵軍に向かって飛んでいくことになります。

 

「準備はいいな?」

 

「はい!」

 

「よし、行くぞ!」

 

 こうして山西省の突破を試みるルーシ帝国軍9万と、それを阻まんとする北洋政府軍40万がぶつかった──私にとっては初めて前線に参加した戦いでもある──山西戦線において最大規模の戦闘となった“陽泉攻防戦”が開始されました。





グスタフ大尉
→リーナの所属する中隊の隊長。クロード・モネばりの立派な髭の持ち主。

アレクサンドル大尉
→魔導師部隊の中隊長の1人。毛先が重力に逆らうほど立派なカイゼル髭が特徴。

ブルスタフ大尉
→魔導師部隊の中隊長の1人。上はツルツル、横はフサフサのマトンチョップス。
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