怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件 作:しゅーびんで
動員された兵数では、今回の戦争において最大の規模となった戦いである陽泉攻防戦。
9万のルーシ軍と、40万の北洋政府軍がぶつかったこの戦いは、動員戦力の規模もそうですが、犠牲者数も大きなものとなる戦いになりました。
元々山西戦線に派遣されている北洋政府軍には、正規兵は少なくほとんどが開戦に伴い強制的に集められた質の悪い徴収兵で構成されていました。
理由は中華の主要な都市が集中している沿岸地域に攻勢を仕掛けている秋津洲皇国の対応にほとんどの正規軍を動員していたためであり、北洋政府としては時間稼ぎができれば最悪捨ててもいいと考えていた西や北から侵攻するアルビオンやルーシへの対応には正規軍のほとんどを動員しなかったからです。
そのためルーシが担当する山西戦線やアルビオンが担当しているチベット戦線には数だけの寄せ集めの民兵が主戦力として動員され、少ない正規軍はどちらかというと彼らが裏切ったり逃げたりしないよう後ろから脅して戦わせる督戦隊のような仕事が主な役目になっていたようです。
100年前の戦列歩兵を並べていた戦場ならばいざ知らず、この時代の戦争ともなれば技術や質が大きな格差があればどれだけ数を募ろうとも戦いにならなくなります。
父が参加したかつての世界大戦でも10万を超える軍勢が100人ほどしかいない航空魔導師の部隊に一方的にやられて壊滅させられた、なんて事例もあったそうです。
そして今回の北洋政府軍も、数ばかりの軍勢。
航空魔導師による偵察でも被害が出なかったことから、航空戦力どころか対空砲なども用意していない空からの攻撃に無力な軍勢だったことが判明したので、私たちが来る前に行われた大規模な会戦でも数の差を覆して勝利したこともあって、司令部は40万の大軍相手だろうと勝利できるとみて、その日のうちに前方に展開する北陽政府軍に対する大規模な攻撃を決断しました。
ルーシ帝国軍の作戦は、前回とほぼ同じです。
秋津洲皇国から購入した爆撃機2機と、航空魔導師3個中隊からなる空の戦力を先行させて対地攻撃を敢行し北洋政府軍に打撃を与え、爆撃で被害を与えた場所に機甲戦力を先頭にした陸軍戦力で全面攻勢をかけて突破、側背を取り前面に攻勢をかける部隊と共に包囲殲滅というものです。
私たち航空魔導師の役目は、対地攻撃と包囲殲滅時の援護、爆撃機の護衛、砲撃部隊のための観測、そして戦況の確認と司令部への報告です。
爆撃機の護衛は重力に逆らうカイゼル髭のアレクサンドル大尉が率いる中隊が担当するので、私の所属するグスタフ中隊は対地攻撃と砲撃のための観測が主任務になります。
爆撃機は南北に広がって展開している北洋政府軍に対し、北から順次爆撃を実施していく予定です。とはいえ北洋政府軍は数が多く広範囲に展開しているため、南側に展開する敵軍に対する爆撃を行うための爆弾が足りません。
私が所属するグスタフ中隊の役目は、この南側に展開する敵軍に対する対地攻撃です。偵察を実施した敵軍ですね。
南に展開しているこの敵軍だけでも10〜12万はいる大軍ですが、対空砲もなければ防壁を貫けない歩兵銃しかないので恐れる必要はありません。
「他所から買った爆撃機に頼り切っては帝国軍の名折れ! 遠慮は無しだ、更地にするつもりで奴らを殲滅しろ!」
グスタフ大尉の号令に従い、眼下に広がる多数の人の群れに対して銃を向けます。
「術式展開! 総員、一斉斉射!」
この引き金を引けば、人を殺すことになる。
それでも、私は軍人です。
貧しい開拓民でも、シングルファザーでも、体を壊してまでも愛して育ててくれた父の治療費を稼ぐために、私を育ててくれた今世の親を報いるために、この道を進むことを決断した日に引き金を引く覚悟は決めました。
悪く思わないでください。
ここは戦場で、私たちは戦争をしています。
せめて1日でも早く終わらせるために、祖国とそこに生きる家族を守るために、北洋政府軍には犠牲になってもらいます。
あらかじめ爆裂術式を仕込んでいる弾丸に着弾と共に発動するよう演算宝珠を通じて魔力を送って、引き金を引き弾丸を発射します。
発射された弾丸は狙った敵軍の一部隊に向かって飛ぶと、着弾と共に術式が発動して爆発を起こしそこにいた北洋政府軍の兵士たちを吹き飛ばしました。
距離があるので豆粒みたいな敵兵の様子は詳しくは見えないですが、おそらく肉片になって吹き飛ばされているでしょう。
即死ならまだ幸せな方です。
フランソワ軍が蹂躙した戦場跡では、手足の一部が千切れたり、飛ばされた破片が突き刺さったり、爆風で飛ばされて骨折したりして、怪我の苦痛に苛まれることになる兵士の方が多かったです。
あの呻き声や助けを求める声がこだまするのは、かなりグロテスクで戦場の悲惨さを知らないと心をゴリゴリ削るので。それが聞こえない、見えないというのは、次の攻撃の躊躇いを減らしてくれます。
「攻撃を緩めるな! 殲滅しろ!」
一斉斉射で被害を与えた敵軍に、グスタフ大尉は情けをかけず攻撃を続けるよう命令を出します。
航空魔導師の中隊による一斉斉射とはいえ、数が多い北洋政府軍からすればその損害は微々たるもの。北洋政府の正規軍にとってみればいくらやられようとも消耗品に過ぎない徴収された民兵ならばなおのこと、大したことはないと認識していることでしょう。
彼らに負けを認めさせるためには、もっともっと殲滅しなければいけません。
次弾を装填し、別の敵部隊に対して爆裂術式をこめた弾丸を発射します。
着弾地点で術式が発動し、そこにいた敵の部隊が爆発によって被害を受けました。
航空魔導師による空からの一方的な攻撃を受けた北洋政府軍には混乱が広がっています。
ルーシ軍から見ても一昔前の型落ちの歩兵銃を向けて反撃を試みる敵兵もいますが、射程外から攻撃する魔導師には届かず、届いたとしても防壁を貫けないので無意味な反撃に終わります。
そして、反撃を試みる敵はごく一部。
大半の敵兵は元々士気が低いこともあり、我先に逃げ出すか恐怖でその場で動けなくなるかがほとんど。
逃げる敵兵は踏みとどまろうとしている部隊とぶつかったり、後方の正規軍から敵前逃亡を阻止するための容赦ない銃撃を加えられたりして、私たちの攻撃を受けていないところで被害を拡大させていく光景が生まれています。
そして、正規軍に殺されたくないと前を向こうとする部隊と、逃げる兵士たちとがぶつかり、密集地帯が作られました。
「よし、混乱する敵軍の密集地帯の場所を送れ!」
その光景を見たグスタフ大尉が、着弾観測要員の部下に密集地帯になった場所を後方の味方に伝えるよう指示を出します。
私たち航空魔導師による対地攻撃で混乱した敵部隊を追い込み、密集したところに大砲による攻撃を加えてまとめて殲滅するためです。
「魔導師部隊の諸君、観測任務ご苦労。さあ、空の友軍ばかりに活躍されるわけにはいかないぞ! 砲撃開始!」
通信後、後方のルーシ軍が大砲を発射し、北洋政府軍に砲弾の雨を降らせました。
無数の爆発が敵兵を飲み込み、吹き飛ばしていきます。
100門以上の大砲から放たれる一斉斉射は航空魔導師の一個中隊の斉射よりもはるかに広範囲に破壊をもたらし、爆風と破片によって多数の敵兵を瞬く間に吹き飛ばしました。
今回の中華との戦争において、ルーシ帝国軍は皇国から購入した爆撃機の他にも新しい兵器を投入しています。
それが北洋政府軍に大打撃を与えることとなった、駐退複座機を備えた速射性と精度を向上させた榴弾砲です。
元々は塹壕などの強固な防御陣地が構築されていることを想定して戦車と共に持ってきたこの大砲ですが、航空魔導師の上空からの着弾観測と連携して対人戦において大きな破壊力を発揮する大砲としてその威力を発揮しました。
着弾と共に破裂し破片を広範囲に撒き散らす榴弾は、戦車などにはその装甲に阻まれてしまいますが、密集する無防備な歩兵には絶大な効果を発揮します。
榴弾の砲撃にさらされた北洋政府軍は爆発音でもかき消せないほどの阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡り、大きな被害が出ることになりました。
「────ッ!」
悲鳴と爆発は先ほどの対地攻撃よりも遥かに大規模に広がります。
距離があるのでアリの群れに見えて細かくは見えなくても、爆発音と悲鳴は耳に届き、フランソワが蹂躙した惨状の光景を、人の破片が飛び散る光景を思い出させ、私は思わず目を背けました。
「新兵、目を背けるな! ここに敵の航空魔導師や対空砲があれば、お前はその瞬間お陀仏だ! ゲロ吐こうともこの場で慣れろ!」
目を逸らした時、私のことを見ていたグスタフ大尉がすぐに叱責してきました。
大尉からの喝に、私の意識もすぐに眼下に広がる戦場に引き戻されます。
「申し訳ありません!」
ここは戦場です。
今回はたまたま航空魔導師に対する反撃能力がない敵だったので無事でいられるだけであり、敵にも航空魔導師がいたり対空砲があったりした場合には今みたいな一瞬の隙が死に直結することになります。
それに空対空戦闘ともなれば、今回みたいに豆粒ではなく敵兵の表情が見えるような距離で殺し合いをしなければならないことも多いです。
この程度で目を背けたりするわけにはいかないのです。
他の初陣の兵士は、私と違って戦場跡を見た経験がないため、むしろこの距離ならばそれこそ虫を潰すような光景にしか映らないようで、誰も目を背けてません。
むしろ自軍が一方的な展開で敵を屠る光景に興奮を覚えている節も見られます。
グスタフ大尉はむしろそちらの方が危ういように思ったらしく、私に一喝して向き直った姿を確認した後はヤジを飛ばし始めた別の新兵を怒鳴りつけました。
「貴様も調子に乗るな! 本物の戦場は敵にも航空戦力や対空砲がある、ヘラヘラ笑っている間に撃ち落とされるぞ!」
「了解ッ!」
グスタフ大尉は20年前に起きたかつての世界大戦や、秋津洲皇国が介入してきた共産主義勢力との内戦にも参加した歴戦の兵士です。
その怒鳴り声は戦場の騒音の中にあってもよくとある重みがあり、自軍が敵を圧倒する光景に高揚していた新兵の弛んだ気をすぐさま引き締めました。
そして、新兵たちをグスタフ大尉が怒鳴りつける間にも、眼下の戦場では北洋政府軍の逃げ惑う人の群れを友軍の砲撃が一方的に吹き飛ばしていきます。
遠い北側の戦場では、ここからでは蚊のように見える爆撃機が飛行している姿もかすかに見えます。
ここが砲撃で地獄絵図となっているなら、向こうは爆撃で地獄絵図になっているでしょう。
制空権を競えなくなった時点で、数しかいない北洋政府軍に勝ち目は残されていません。
一兵卒からみてもこの戦況は決着がついたも同然なのがわかるほどの状態になっていますが、北洋政府軍は負けを認めようとしないのか退却しません。
それどころか後ろ側の北洋政府軍は、銃撃したと思われる硝煙が上がると、空を飛ぶ私たちではなく地上の榴弾砲の砲火から逃げている友軍に向かって銃撃を敢行しました。
「なっ──!?」
私たちに向かって発砲しているかと思い、防壁を貫けないことはわかっていても撃たれると思って反射的に防壁の出力を上げてしまいます。
その際に撃ってくる敵を確認しようと無意識に視覚にも術式を展開してしまい、地上の景色が見えるようになりました。
その時、私の目にその友軍を撃ち殺すという狂気の光景が、逃げ延びてきた味方を撃ち殺すという光景が映り、絶句してしまいました。
「あいつら、何で味方を……!?」
「逃げれば撃つから逃げずに戦えってことだ。この戦場でやるのは明らかに悪手だがな」
その光景を見て衝撃を受けたのは、私だけではありませんでした。
本来ならやってはいけないはずの味方撃ちを敢行する北洋政府軍の凶行に、敵とはいえ流石に動揺します。
その中で1人、グスタフ大尉は冷静に北洋政府軍の凶行の理由を見抜き、簡単に説明しました。
逃げる兵士を撃ち殺して無理矢理にも戦わせるやり方があるというのは知識としては知っていましたが、こうして実際に見るのは初めてです。
それも踏みとどまらなければいけない戦況からいざ知らず、ただ一方的に蹂躙されるだけの地獄から運良く生き延びてきた兵士に向かっての銃撃です。
グスタフ大尉の言葉の通り、この戦場において味方撃ちは逃げ道を塞ぎ砲撃に味方を晒すだけ、被害を一方的に増やすだけになる、素人でも分かる悪手でした。
そして、逃げれば撃ち殺され、進もうにも砲撃にさらされて吹き飛ばされ、止まっても殺されるしかない状況に陥った敵軍は、もはや統制が崩壊してしまいます。
混乱の中、何とか殺されるだけの状況から逃げようとする者同士が前に後ろに進もうと押し合いになり、結局前にも後ろにも進めず、密集したところを空から観測されて榴弾の餌食になっていきます。
夥しい数の兵士が何もできないままに殺されていきました。
先ほど叱責されたばかりですが、強化した視界にはっきりと見えるようになった人が榴弾にさらされて挽肉になる光景は見ていられず、また眼下の戦場から目を逸らしてしまいます。
しかし、今度は怒鳴りつけられることはありませんでした。
「……胸糞悪い光景だ」
グスタフ大尉は私の方を見ておらず、無理やり駆り立てた徴収兵たちを砲撃に晒してそこから逃げることすら許さず味方撃ちをしている北洋政府の正規軍部隊の方を見ていました。
「観測手を残し、次の敵を撃破するぞ」
そして、グスタフ大尉は再度対地攻撃を行うことを告げます。
その目標は、北洋政府の正規軍部隊。
決壊を防いでいるなどではなく、狩場と言っていい場所に味方を押し込めていたずらな犠牲者ばかり増やし続けている、その場しのぎで集めている民兵ではない倒すべき正規の敵兵です。
「北洋政府軍の後方の部隊を叩く。奴らの銃撃を止めれば、敵は逃げ出しあの押し合いが奥にまで波及する。その混乱に乗じて味方の陸軍が攻撃を仕掛ける。俺たちでその最初の布石を作るぞ! 中隊、続け!」
「「「了解!」」」
味方撃ちをやめさせれば、敵は逃げ道を見つけ自ずと後方に流れます。
そうなれば今の逃げようとする者と止まる者とで押し合いになる箇所が後方へ広がり、敵軍全体に混乱が広がります。
そこにルーシ軍の地上部隊が突撃を行い、敵軍を撃破。そこから北に向かい、側面と正面から攻めて崩していくというのが今回の作戦です。
グスタフ大尉の狙いは、その第一段階となる敵軍の混乱を広げるために、味方撃ちをして徴収兵たちを押し留めている敵部隊を撃破することです。
そのために着弾観測を担当する人員を残して、北洋政府軍の正規軍部隊への対地攻撃の号令をかけて、先頭を切って飛んで行きました。
遅れをとるわけにはいきません。
私もグスタフ大尉に続き、北洋政府の正規軍部隊に向かって飛んでいきます。
それに、いくら敵でも味方を撃つような奴らには憤りを覚えます。
今度の人殺しは、この感情に従ってやる方がきっと戦果を上げられると思います。
「術式展開──」
照準は見るからに指揮官そうな、周りの兵士よりも飾りの多い帽子を被り剣を振り回して叫んでいる敵です。
「擊ちまくれ!」
グスタフ大尉の号令を受けて引き金を引きます。
周りの味方の撃った弾と並んで飛んでいった私の1発は、狙いを定めていた敵の指揮官らしき男の派手な帽子に守られた頭を撃ち抜き、頭蓋を砕いて中身をぶちまけました。