【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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18.エールちゃんは西に行く

ヤンクーツクに到着した翌朝、あたしたちは固いパンを薄いスープに浸しながら次の目的地について話していた。

「それでだけど、ここから南大橋に向かおう」

「え?サーレン山はへルマンの北西の端だけど、遠回りするの?」

「ええとね…」

健太郎くんが地図を広げた。

へルマンの中央を南北に流れる二本の大河が国土を分断しており、二つの大河の間に首都ラング・バウがある。

東側の大河には北端と南端にそれぞれ北大橋と南大橋、首都のすぐ東のマイクログラード大橋の三つの橋がかかっていて、

西側の大河には帝都のすぐ西の西大橋、南端のラボリ大橋がかかっている。

あたしたちは今へルマンの東側にいて、東の大河を渡るのに北大橋やマイクログラード大橋を使うと、ラング・バウを横断することになる。

首都は監視や警備が厳しく、少しでも怪しいと取っ捕まってしまうそうだ。

ならば、遠回りでも南大橋とラボリ大橋を通った方が安全…ということらしい。

「なるほどねー」「健太郎くんは物知りなの」

感心するあたしに美樹ちゃんが胸を張る。

そういうことなら異存はない。

あたしたちは南西に進路をとり、コサックを経てスードリ13へと向かった。

 

旅は順調に進んだ。途中であったことと言えばぷりょの集団から逃げていた悪人面のヒゲ親父を助けたことくらいだ。

 

「どりゃー!AL魔法剣!雷の矢!電磁結界ー!」

「うーん。ぷりょは面しかないぞ…まあいいや。いくぞー!めん、めん、めーん!めんったらめーん!」

「「「ぷりょりょーー!!」」」

あたしと健太郎くんでぷりょを全滅させ、美樹ちゃんがおっさんに声をかける。

「おじさん大丈夫?水飲む?」

「ああ…ぐびぐび…ぷはぁ…助かった。お嬢ちゃんたち、恩に着るぜ。」

ぜぇぜぇ言っていたオッサンは水を飲んで人心地ついたのか、笑いながら礼を言った。

「おじさんどうしてぷりょに追われてたの?」

「ああ、これだ」

オッサンが背負っていたずだ袋の口を少し空けると、中では青いぷりょがぷりょぷりょしていた。

「ぷりょだ。青いのは初めて見たなあ」

「え?捕まえたの?どうしたのこれ」

「それがな、オアマの奴…いや、ある変人博士がな。ぷりょが研究に必要だから捕まえてこいって言うからよ。」

「へー。なんに使うんだろ?」

「さぁな。ぷりょくらいなら俺でもと思ったんだが、ババロフスクからわざわざこんなところまで来る羽目になるし、やっと見つけた群れから一匹適当に捕まえたら群れがまるごと追いかけて来るし…ひでえ目に遭ったよ」

「変な仕事だねぇ」

「おじさんなんのお仕事してるの?」

「あー…ただの役人だよ。うん。…あーそうだ。礼と言っちゃなんだが、これを受け取ってくれんか」

オッサンはなにやら包みに入った丸薬を取り出した。

世色癌に似ているけど…表面にイカの絵が描いてある。

「なにこれ?」

「世烏賊癌だそうだ。瀕死の重症でもこれさえ飲めばすぐに治る…らしい。」

「へー!すごーい!」

「そんな薬聞いたことない!」

「あー。ただ副作用があってな…」

「どんな?」

「イカマンになるんだ」

「えーーーっ!!」「毒だよそれ!」

「正確にはイカマンの正面に元の顔がついた着ぐるみみたいな感じになる」

「大差ないよ!」

「本人が言うには完全なイカマンになれない失敗作らしいが…まあ、たぶん死ぬよりはまし…だろ?多分…」

「まし…かなあ?」「微妙…」「健太郎くんはイカになってもかっこいいと思うよ」「えへへ、そうかなあ…」

「じゃ、嬢ちゃんたちも達者でな。あ、この国ではおとなしくしていた方がいいぞ。捕まって収容所送りになったりすると大変だからな。じゃ」

なんだかんだ世烏賊癌を押し付けると、オッサンは手を振って北の方にぴゅーっと走っていった。

「素早いおじさんだねぇ…」まったくだ。

「…あの男が捕らえていたぷりょ…おそらくはクイーンぷりょの幼体ですね…」

「クイーンぷりょ?聞いたことないなあ」

「ええ。私の仲間が勝手にそう呼んでいたのを聞いただけですから。なんでも再生能力が高く、分裂したり戻ったりできて、何百年も生きて巨大に育つものも居るとか。群れのリーダーになることが多いので、追われていたのもその為でしょう」

そんなものを捕まえられるとか、あのおっさんには捕獲の才能があるのかもしれないな。

 

そんなこんなでスードリ13を過ぎて南大橋にたどりついた。

大河の幅がちょっと狭くなったところを狙って懸けられた石橋なのだが…でかい。

幅は30mくらいあるし長さは…200mくらい?

どうやってこんなもの作ったのか想像もつかない。

なんでも大昔の聖魔教団のころに作られた代物で、図面とかは残ってないので壊れたら多分直せないらしい。

「へルマンの大河は時折氾濫するのですが、これも含めた五つの大橋はびくともしないそうです。氾濫の後は豊かな土が残るので、大河の回りはへルマンでは貴重な穀倉地帯になっています」

「へぇー」「勉強になるー」「日光さん先生みたいー」

日光先生の講義を聞きながら橋をがらがら渡った。

 

橋を渡ると確かに回りは荒野ではなく畑になっていた。

へルマンらしくない景色の中を走ればすぐにラボリの大橋だ。ラボリ大橋は西の岸にあるラボリの街とくっついていて、門を通らないと渡ることは出来ない。

兜は被ってない騎士が警備にあたっていて、通りすぎる人達を一人一人チェックしている。

「はい、そこのうし車。止まってください…どうどう。」

くすんだ金髪をきれいに撫で付けた若い騎士がうしを止め、鼻面を撫でるとうしはみゃーみゃー鳴いた。

「あはは、いいうしですね…さて、皆さんは何処から?どちらに行かれるのですか?」

「僕は健太郎と言います。彼女は美樹ちゃんで、こっちはエールちゃん。自由都市から来ました。サーレン山にヒラミレモンを買いに行くんです」

健太郎くんが紹介するのに合わせて騎士の視線が一巡し、あたしのところで一瞬止まった。

「…はい、わかりました。問題ありません。」

騎士は特に何事もなくにっこり笑って道を空けた。なんだったんだろ?

「最近は物騒ですので気を付けて。街道から外れなければ大丈夫かと思いますが…」

「はーい」「おじさんありがとー」

うーん、へルマン騎士にもあんなに人当たりがいい人が居るんだなあ。

「おーいハンスキンス殿。奥方が弁当を届けに来とるぞ!この幸せ者め!」

「おお、すみません!今行きます」

門をくぐって振り向くと、さっきの騎士さんが詰所のそばで手を振る女の人に向けて歩いていくのがチラリと見えたのだった。

 

ラボリを過ぎたらあとは北上してするだけだ。

パルナス、ローゼスグラードを経てついにサーレン山の麓、ウォークランドにたどりついた。

目当てのヒラミレモンはサーレン山の高いところで取れるらしい。

一晩休んでうし車を宿に預けて、サーレン山の登山口にたどりついた。

「うーん…結構険しい山だね。美樹ちゃんは大丈夫そう?」

「どうかなあ…健太郎くん。前に登ったときはどうだった?…健太郎くん?」

なにやら健太郎くんはきょろきょろと周りを見ていた。

「ねぇ、どうしたの?」

「…あ!ごめんごめん。ちょっとぼうっとしてて…登山道が整備されてるから。見た目ほどには辛くないよ」

我に返って答える健太郎くん。…なんか気になることでもあるのかな…まあ想像はつくけども。

 

なにはともあれあたしたちはえっちらおっちらと登山道を登り、頂上近くの高台にたどりついた。

半分ほどは牧草地が広がり、青黒いひつじがもりもりと草を食っていて、もう半分は林になっていて、どの木にも見慣れた実が成っている。

何人かの農夫が林を出入りして実を収穫していた。

「おー。あれがヒラミレモン?」

「たくさんあるねー。わけてもらいに行こうよ健太郎くん」

「そうだね美樹ちゃん…あっ、ごめん!急にお腹が…ちょっとトイレ借りてくるね!はいこれ!あと日光さんも!」

「わっ」「健太郎?」

健太郎くんはサイフと日光さんを美樹ちゃんとあたしに押し付けてひつじたちの向こうに建っている小屋に走っていった。

あー…またあのパターンかな…

「そんなにお腹痛いのに走って大丈夫なのかな?」

「まあ平気なんじゃない?とりあえずヒラミレモンの話をしとこうよ」

「うーん、そうだね」「…」

日光さんもあたしの手の中で黙っている。たぶん察してくれたかな。

「すみませーん。ヒラミレモンを分けてほしいんですがー」

「ほしいんですがー」

あたしたちは林のなかを進み、山積みのヒラミレモンの脇で休んでいるおばさんに声をかけたのだった。

 

「いやー一杯買えたねー」

「これならしばらくは大丈夫だね!」

あたしと美樹ちゃんはカバンにいっぱいのヒラミレモンを抱えて来た道を戻っていた。さすがは産地だけあって大分安かったな…

美樹ちゃんが使う分の他に、あたしも少しばかり購入した。アリオスさんにへんでろぱを作るときに使おうと思う。

「ところで健太郎くんは戻ってこなかったね。」

「長いトイレだねー。」

あたしたちは話しながらヒラミレモンの林を抜けた。

視界が開け、その先では…

 

「健太郎さん久しぶりー。また会えて嬉しいー。」

「あ、あはははは…リンダちゃん、ちょっとくっつきすぎ…」

「いいじゃない。なにかまずいのー?」

「いや、もし見つかったら…あっ。」

 

ひつじ飼いらしき女の子が健太郎くんの腕に抱きついていた。

健太郎くんはこちらを見て固まっている。

「あー…」「……………………健太郎くん?」

ぴしっ。と何かにヒビが入るような音が聞こえた。

あーあ。




以下、妄想です。

ダーティ・キドナップ(悪徳政治家)
18/41
政治0 捕獲2 盗賊1

オアマのツッコミ役のおっさん。
逃げ足と捕獲の腕前に関しては素晴らしいものがある。
作中で政治家らしいことをしたことはない。
よく見たらラフ画集の新生トゥエルブナイトに人さらいの達人のヒゲがいたが
おそらくこいつ。

ランス10カード
へルマン所属
HP2200 AT1500
スキル1 捕獲ロープ
スキル2 逃走


騎士ハンスキンス
22/31
剣1 ガード1 木工1

ラボリ在住の1軍騎士。新婚ほやほや。
美人の嫁さんをもらって幸せいっぱい。
好きな食べ物は奥さんの作るもじもじスープ。

近所にエールという黒髪の少年が住んでおり、たまに稽古をつけているが、すごい才能の持ち主でそろそろ勝てなくなりそう。
将軍に紹介していい師匠を探してもらおうかと思っている。
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