「だからといってニッコニコブレードはひどいのでは?」
「ごめんごめん、とっさでさ…」
「はぁ…あの男、名前が気に入らなかったのか『サーベルオブブラッディスクリームと名付けよう』とか言ってましたよ」
「ださっ!」「ださいね…」「うん…ダサい…」
「それならニッコニコブレードのほうがましじゃない?」
「「「それはない/かな/です/よね」」」 「くっ…」
イタリアを発ってから夜っぴいてうし車を走らせ、ニカニカ平原とリブロース台地を突っ切り、テープの街に到着した。
朝一で門をくぐったが、門番は「魔法使い1名、外国人2名ですねー。どうぞ」と普通に通してくれた。
こういった言葉遣い一つでも透けて見えるが、テープの近くのオールドゼスには港があり、カイズや自由都市と交易しているので、このあたりはそれほど偏見が根付いていないらしい。
まぁそんなことはどうでもいいくらい眠かったので宿屋に突っ込んでひたすら寝て、起きたらもう夕方だった。
この街はゼス第二の都市と言うだけあってでかく、いろんな店や施設があって見て回りたかったが、あのアホボンボンが追いかけてくるかもしれない。
長居はよそう、ということで宿のご飯食べて無理やり寝て生活リズムを戻し、翌朝テープを出発した。
オールドゼスは名前の通り、古くからある街らしい。
「あの街は、ゼス王国ができる前からあったのですよ。当時はゼスという名前だったのですが、ゼス王国が建国されたとき、紛らわしいのでオールドゼスと名前をあらためたそうで」
日光先生の講義を聞きながらうし車を走らせ、ポポラの実がたくさん成っている森を抜ければ港町オールドゼスだ。
ここも結構面白そうではあったのだが、よりにもよって治安隊の本部がある。
あの貴族の言いなりの治安隊長の様子を見る限り、ここも長居しないほうがいいだろうな。
最低限の買い物をして、早々に街を出発した。
「あとはひたすら西に向かうだけだね、健太郎くん…」
「うん、美樹ちゃん。次はマークの街だね…それでフルーツ遺跡の次元の門をくぐれば…」
「お母さんになんて言おうか…異世界に行ってたなんて、信じてもらえないかも」
「わたるのヤツ、心配してるだろうなぁ…」
うし車の荷台で、二人は声を押し殺して話をしている。
うん、もうすぐ目的地…つまり、この旅はそろそろ終わりなのだ。
「エール、貴女に感謝を。貴女がこの旅に同行してくれたことは幸運でした。」
御者席の傍らに立てかけられた日光さんが声をかけてくる。
「はい、あたしも楽しかったです。…日光さんは、二人と一緒にあっちの世界に行くんですか?」
「ええ…そのつもりです。」
やっぱりな。少し声を低くして続ける。
「…二人が心配だからですか?それとも、聖刀としての使命?」
少しばかり沈黙が降りた。空を黄色いトリが飛んでいく。
「…気が付いていましたか」「カマカケ半分ですけどね」
これだけ何度も見ていればわかる。美樹ちゃんがやばくなったときのあの雰囲気、あの魂が震えるような威圧感。
レッドやリーザス城でさんざん味わった、魔人や魔王にまつわるものに間違いない。
マリスさんが言っていた、魔剣と対をなすと言われる伝説の聖刀の話と合わせれば、大体想像はつく。
「…人類に対する裏切りだと思いますか?」
日光さんの声も低い。
「まぁ、多少は。でも…美樹ちゃんと健太郎くん、二人が頑張ってるところもたくさん見ましたから。」
日光さんが二人のそばにいるのは、どうしようもなくなった時のためでもあるだろうしね。
「…そうですか。ありがとうございます」
しばらく二人とも黙り込む。荷台から聞こえる二人の楽しそうな会話をバックに、うし車は草原をがらがらと走っていく。
「向こうの世界に戻ったとして、美樹ちゃんの暴走は…」
「…ええ。収まるという保証はありませんね。ただ、可能性はあります。」
「…そうですね。」
この世界の理が異世界でも通じるのかどうか…
それこそ、その先は神のみぞ知る、だ。
うし車はがらがらと走っていく。丘の向こうはもうマークの街だ。
マークに到着した(門番はダメなほうだった)。
一級市民用の宿屋に泊まり、荷物を仕分ける。
「えーとテントとか毛布とかアイマスク…一応持っておこうか。」
「健太郎くん、くぎ抜き、トンカチはどうしよう?」
「うーん、要らないかなぁ?…スコップは持って行くね」
「ええ、スコップは大事ね…あ、エールちゃん。あたしたちのお財布受け取ってくれる?」
袋を手渡される。ずっしりとした重みから、中身はそれなりにありそうだ。
「え?いいの?」
「うん。もう使わないから。中身ごとどうぞ」
「あっちの世界のお金はあるの?」
「うん、健太郎くんのお財布。ずっと持ってたの」
美樹ちゃんは荷物から折りたたまれた硬い布みたいなものを取り出した。
結構くたびれて見えるけど…ぴったり閉じてるな。
でもヒモとかボタンとかがま口とか、そういう開閉用の部分が見つからない。
「何これ?…どうやって開けるの?」
「ああ、それ?」健太郎くんが財布を手に取った。
「こうするんだよ。支払いはまかせろーっ」バリバリーッ!「やめて!」
「何それ?あははははは!」「こういうもんなんだよー」「あはははは!」
夜は更けていった。
そして翌朝、いらない荷物は古道具屋に売っぱらって、いよいよ出発だ。
うし車は近所の牧場にあずかってもらった。
「よし、忘れ物はないね!じゃあ行こう!」
「「おー!」」
あたし達は近くの森へと出発した。
「えーと、あの高い木がこっちに見えるってことは…この岩のあたりに…あった!」
丘にぽっかりと空いた石造りの出入り口。
脇にはゼスビルテクノサービスの看板と関係者以外立入禁止の文章。フルーツ遺跡の出口に間違いない。
「ここがフルーツ遺跡…」
「うん、まあ非常口というか作業用通路らしいけどね。他の入り口を知らなくて…」
「それより、早く行こうよ、健太郎くん!」
美樹ちゃんはそわそわしている。
「そうだね、美樹ちゃん…行こう!」
「…うん。そだね。」あたしたちは魔法ライトを灯し、遺跡に足を踏み入れた。
「わははー!まだまだいくよー!」「おおっと!」
滑空して槍を構え突っ込んでくるのは悪魔っぽい女の子モンスター、パタパタだ。
「でりゃー!」「正射必中!」「わあっ!」
突撃をかわして切りかかろうとしたところに、遠間から神風が弓を射かけてくる。
「だーっうっとうしい!雷の矢!」「ぎゃん! あ~れ~」パタパタに雷の矢をぶち当てるとふらふらと墜落した。
「だああっ!」「くっ!必中!鬼畜撲滅!」叫びながら矢を撃ってくるのを切り払いながら神風へと間合いを詰める!
一方では、「…えーと…たまーっ!」「…」ずばーっ!
健太郎くんがナマリダマを一刀で切り捨て、そのまま背後のまねしたに切りかかる!
「てやー!」「なんのてやー!」がきぃん!と健太郎くんが健太郎くんに化けたまねしたと剣を合わせた。
「ぐぬぬぬ…」「ぐぬぬ…うっ ぎょえー!幸之助さまー!」
ぼん、とまねしたが元の姿に戻り、そのまま健太郎くんに斬られた。
「…よし。エールちゃん、美樹ちゃん。大丈夫?」
「ふぅ…うん、大丈夫だよ」「ふがいない…」「うは~…やられたよ~…」
あたしの方も女の子モンスターをボコり終え、双剣を鞘に納めた。
「こっちも平気だよー」物陰から美樹ちゃんが顔を出す。
すっかり忘れていたのだが…この遺跡の敵はけっこー手強いんだった。
あの時はレベル400くらいはあったからなぁ…全然印象に残ってなかった。
美樹ちゃんを守りながらとはいえ、あたしも健太郎くんもいるし、美樹ちゃんはものすごく頑丈なので、万一のことがあっても大丈夫だし。まぁなんとかなる範囲だよね。
しかしナマリダマを真っ二つか…日光さんを振るってるとは言え、かなりすごいな。あの袈裟斬りをもっと練習したら必殺技になるかもしんないな。
モンスターを蹴散らしつつ、ひたすら階段を下りて最下層まで下りた。
「えーと…こっからは上だね。」「上?」「階段とかないけど…」
「天井に穴が開いてるでしょ?あそこに登らないと」
「うへー…ほかにルートはないのかな?」
「悪いけど出た時の道順しか覚えてないから…」
「仕方ありませんね。健太郎、私を肩車してください。エール、私たちを足場に登ってロープを…」
「はいよー」「よーし…」「健太郎くん、頑張って!」
人の姿になった日光さんの指図通りに、あたし達は穴をよじ登った。
「えーっと次は動く歩道を乗り越えてー」「うおおお」どたどたどた
「健太郎くんがんばれー!」
「あ、そっちは逆。こっちのほうを通れば走らなくていいよ」
「ぐえーっ」すてーん
「この橋を渡ってー」「よーしいくぞ…うわーっ」ひゅーっ
「落とし穴があるから気を付けてねーって…」「きゃー!健太郎くん、大丈夫ー!?」
「へ、平気だよ美樹ちゃん…ってうわぁ、毒沼だー!」「健太郎くん!」
「あっちの方に出口があるよー。ヒーリングするから早く戻ってきてー。あとそのそばに落とし穴切り替えレバーがあるからー」
「わ、わかった…これかなー!」(がっしゃこん
橋を渡って階段を降り、転送装置の前の部屋まで来た。
「えーっと…次はどうするの?」
「ちょっと待ってね。確かこの辺の壁が…おっ。」壁の中にあたしの腕が抵抗なく消えていく。
「わぁ、エールちゃんがめりこんでる!」
「幻ですか。壁があるように見せているのですね」
「ここまで来ればもうすぐだよ。ついてきてね」
あたしは同じような幻の壁を何度かくぐり、奥へと進み…
「…着いたよ。」
そこそこの広さの部屋には、よくわからない機械や用途不明の道具やらがたくさん転がっている。
ミラクルさんの魔法テントもない。
そして、部屋の奥には大きな輪っかが付いた装置が、前に来た時と同じように置いてあった。
「…あれが…」「次元の扉?」
「…うん。」
二人に向かって、あたしは頷いたのだった。
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