「アリオスさん。どうしてこんなところに?」
「話はあとに。まずはここを離れよう。こっちだ」
アリオスさんは森の中に足を踏み入れた。あたしも慌ててあとを追う。
藪のなかを突っ切り、丘を越えると、戦場からは死角になる場所にうし車が停まっていた。
「アリオスさん、戻られましたか。その方が例のレジスタンスの…?」
うし車の御者席から声をかけてきたのは、紫の学生服を着た赤ポニテの女の子だ。
珍しいことに腰には細身の剣。たぶん素人じゃないな。
「いや、彼女には遭えなかったよ。もう撤退してたみたいだ。
この子はエカルちゃん。前に知り合った自由都市の冒険者で、レジスタンスの一員と間違われてたんだ」
「そうですか…」
黙り込むポニテの人。
ていうかアリオスさんに本名名乗りそびれたまま大分過ぎてしまった…今さら訂正もしにくいし、とりあえずこのままで通すか…
「あ、あのー。あたしエカルです。貴女は…」
「ウィチタと呼んでください。フルネームはご勘弁を。さる高貴な方の手の者、とだけ…」「あ、はい…」
ウィチタさんは手を付き出して頭を下げた。
おおー…まるで忍者か密偵みたい…
「ともあれ、用が済んだなら長居は無用です。乗ってください。」
促されてあたしとアリオスさんが乗ると、うし車はすぐに走り出した。
「それで、なんでアリオスさんはこんなところに…」
「あー。いってなかったか。もともと俺はゼスの出身なんだよ」
「えー?そうだったんです?じゃあ…」
「…里帰りじゃないな。村は滅んでいるから…」
「あ、すみません!」
「いや、いいんだよ…それでね、実はこれを探していたんだ」
アリオスさんは背中に背負っていた二本の剣のうち一本をはずした。全体的に錆び付いた長剣だ。
「めっちゃ錆びてますねこれ…なんなんです?」
「うん。これは、勇者の剣。エスクードソードというんだ」
アリオスさんは語りだした。
勇者というのは十年くらいで代替わりするものなのらしいのだが、このエスクードソードは数代前から失われていた。
かつて魔軍からゼスを守る大要塞、マーゼルラインを乗っ取った魔人レッドアイに対して、ゼス軍と当時の勇者が協力して戦い、マーゼルラインを爆破した…所謂レッドアイダーク事件。
その作戦中に期限を迎えて行方不明となった勇者と共にエスクードソードの所在はわからなくなっていたのだそうだ。
アリオスさんはこれを探すためにマーゼルライン跡地に作られたマジノラインに入りたかったのだが、当然ながら国家機密で入れないのでどうしたものかと思っていたら、従者さんがとりあえずゼスまで行きましょうというのでやって来た。
それでいろんな事件に巻き込まれたり巻き込まれなかったりしているうちに、この赤毛ポニテさんの主が接触してきて、協力を申し出てきたらしい。
なんでも占いで勇者が困っていると出たのだとか。
ウィチタさんの協力でマジノラインに入り、しばらく探し回って首尾よく当時の勇者と思われる白骨死体のそばに転がるエスクードソードを見つけた。
山から降りてウィチタさんの主人に会いに行く途中で、以前の知り合いがゼス軍に包囲されて大ピンチと知ったので、慌てて駆けつけた…のだそうだ。
「これが勇者の剣なんですか…」
あたしはアリオスさんの持つエスクードソードを眺めた。
束のところになにか…メーターみたいなものがついた長剣…なのだが、全体的にサビだらけ。なんの力も感じない。
「うん、力を発揮するには条件があるみたいなんだ。人類の危機でないとただの赤鰯なんだってさ」
「へー。じゃあ今はピンチじゃないんですね…」
束のところのメーターはほぼ0…1~2%くらいを指している。
なんの数字だろこれ?ピンチ度?
「まあ、そういうことだね…」
「はえー…アリオスさんの知り合いの組織っていうのは?」
ウィチタさんの発言からして、どーせまた女の子がらみだろうけど。
「うん、それがね…」
ゼスには伝統的な反魔法使いテロリスト組織のペンタゴンなるものがあるんだそうだ。
まーこの国の階級社会のクソさはさんざん味わったので気持ちはわかるが、テロリストが伝統になるとか思ったより大分ひどいな…
で、アリオスさんがうろうろしている頃、去年の12月にペンタゴンは反国王派の貴族と結んで反乱を起こした。
結局それは失敗に終わったのだが、その時にアリオスさんは、ビルフェルムとウルザという兄妹のペンタゴン幹部を助けて知り合いになったのだそうだ。
で、割とまともな思想を持つ彼らはテロばっかするペンタゴンにはついていけへんわと脱退、穏健派のレジスタンス、アイスフレームを設立して活動を開始したらしいのだが…
「活動開始直後に尻尾を捕まれて一網打尽にされるところだったと…」
「ああ。急いで駆けつけたんだけど、間に合わなかった。兄と両親は亡くなって、重傷を負った妹だけはどうにか撤退したみたいだ…」
「なるほど…」
なんか理想は立派なのかも知れないけど脇が甘いレジスタンスだなあ…中に裏切り者でもいたのかな?
「でも、君を助けられてよかったよ。ところでどうしてあんなところに?」
「あーはい…ちょっと友達を見送りに来てて…で、帰りについでに迷宮に入ってみたら…」
面倒だから細かい事情は説明しないでいいよね。
「そうなんだ…運が悪かったね…」
アリオスさんが答えると同時にうし車が停まった。
「アリオスさん。着きました。主がお待ちです。」
うし車が停まったのは、どこかの小高い丘の上だった。
「お帰りなさいアリオス…おや、その子は…」
フードにリュック姿の小さい子が声をかけてきた。
「ああ、前に説明したエカルちゃんだよ。たまたま出会って…
エカルちゃん。こいつはコーラ。勇者の従者なんだ」
「へー。この子があの…」
子供の頃のアリオスさんの前に現れて彼を鍛えたという…たぶん見た目どおりの存在じゃないんだろうな。
「アリオスさん、主が丘の上でお待ちです。お二方はこちらで…」
ウィチタさんが切り出した。見れば丘の上には人影が見える。なんかやたらでかいな…ヘルマン人かな?
「わかった。済まないが待っててくれ」
あたしが頷くと、アリオスさんとウィチタさんは丘を登っていった。
お偉方の知り合いは間に合ってる。めんどくさいし、首を突っ込む必要はないだろう。
あたしはこちらに残ったコーラさんに話しかけることにした。
「こんにちは、エカルって言います。」
挨拶すると、コーラさんは億劫そうにこちらを見た。
「どうも、コーラです。貴女が例のエカルさんで…っ?」
コーラさんがあたしと視線を合わせるなり目を少し見開く。
「えー…はぁ…?どういうことで…はぁ…なるほど…はぁ…そうですか…」
背を向けて何やらぶつぶつ言い始めた。
「え?どしたんです?」
「はぁーーーーー……いえ、別に。」
ながーいため息と共にふいっと目をそらされた。
「よく考えれば私の仕事に直接は関係ない話でしたし」
「はぁ…そうなんですか…」
なんか微妙に失礼だな?まあいいけども。
「ところでアリオスさんあたしの事なにか言ってました?」
「…ええ。仲間に誘ったけど事情があって断られて残念、作るへんでろぱが絶品、また食べたいだそうで」
「えー…?えへへ、絶品だなんてそんな…」
ちょっと顔が緩みそうになるので両手で押さえる。頬が熱い。
「他にはなにか言っていませんでした?」
「あー……はぁー…。そーですねー…よく覚えてませんが…あーえーと…剣が使えてすごいーだとか、治癒魔法が得意で頼れるーとか…」
「えー?他には?他にはなにか?」
「あー…えー…笑顔がチャーミングだーとかー…服のセンスがいいーだとかー。ギザ歯がアクセントだーとかー…言っていたような~いなかったような~…」
「いやーーそんなーー?えへへへへ、そんなことも多少は…あるかなあー?えへへ…他には?」
「…えーっと…えー…はぁーー…」
アリオスさん達の話が終わるまでの間、接待ゴルフに付き合わされる社会人みたいな目つきで話すコーラさんの話を、あたしはちょっとくねくねしながら聞いていたのだった。
今回説明ばっかでわかりにくいので流れをまとめときます
イラーピュ墜落を勇者ガッツで生き延びたあと
アリオス「やっぱエスクードソードほしいなー」
コーラ「マジノラインにありますよ」
アリオス「えーっどうやって入ろう」
コーラ「とりあえず近くまで行きましょう」
連絡網
コーラ「だそうです」
神「あいよー」テレパシーびびーっ
マーシー「占いの結果ー」
ガンジー「勇者に協力せねば」
ウィチタ「はーい行ってきます」
一方その頃
貴族「二級市民!死ねーっ!」
二級市民「「グワーッ!」」
アリオス「やっぱゼスはクソやな。やめろーっ」ズバーッ
貴族「グワーッ!」
ペンタゴン「十二月革命だー!」
アリオス「おっ、ゼスを変えたいって連中もいたのか」
ペンタゴン「貴族死ねーっ!」
二級市民「「「グワーッ!」」」
ゼス軍「テロリスト死ねーっ!」
二級市民「「「「グワーッ!」」」」
アリオス「だめだこりゃ。やめろーっ!」ずばずばーっ
プラナアイス兄妹「いかんでしょこういうの」
アリオス「せやね」
アリオス「うーんやっぱゼスはろくでもないわ」
ウィチタ「勇者さんちーっす。マジノライン行こうぜ!」
アリオス「ゼスにまともな人がいたのかー」
マジノライン「魔軍死ねーっ!」どーんどん
カーミラの魔軍「グワーッ!」
アリオス「うーんテーマパークに来たみたいだぜテンション上がるなぁー」
ウィチタ「今のうちに侵入してください」
アリオス「おっ、宝箱(死体)見っけ。」
エスクードソードを手に入れた!
アリオス「さーてどっか行くか」
プラナアイス兄妹「グエーッ!」
アリオス「助けに行こう」
ビルフェルム「グワーッ!」(死亡)
ウルザ「グワーッ!」(重傷)
アリオス「間に合わんかった…ん?」
エールちゃん「ヒエーッ」
みたいな感じの事がありました