まあいいか!という感じです
あたしはお兄ちゃんの手がかりを探しに冒険者ギルドを回ってみることにした。
ロックアースに冒険者ギルドはいくつかある。まずは表通りのまっとうなギルドを訪ねてみたが手がかりはなし。
仕方ないので表通りから外れる路地に足を踏み入れたのだが…
「…うぇー…」
あちこちから視線が突き刺さるのを感じる。明らかに空気が違う。
何人か剣呑な目付きであたしを見ている連中もちらほらいる。さすがに冒険者をいきなり襲うほど無謀ではないとは思うが…
「…」剣の柄に手を置いてじろりとにらみ返すと目を反らす。今のうち、とあたしはとっととその場を去った。
いくつかのギルドを回り、ブハードについて、ランスという冒険者について聞いて回ったのだが…
心当たりがあるという人は見つからなかった。というかよそ者に対して言えることなんかねぇよ、という連中が大半だ。
たまに話が出来たと思えば、
「少し前に見かけたような気もするなー…嬢ちゃんがサービスしてくれたら思い出すかもなぁ!?ギャハハハハ…」
みたいなアホばっかり。あーやだやだ。
「まあ多少貧相でも俺は気にしねぇからよ…あだだだだ!」
「ふんっ」「ぐえっ!」
あたしのお尻へ伸ばしてきた手を掴んでひねる。
セクハラのプロのお兄ちゃん相手でないならこれくらい造作もない。
「てめぇ…このガキ…がっ……」
怒ったアホの手が腰の剣に延びるが、それを抜くより早くあたしは剣を男の喉元に突きつけていた。
「…で、思い出した?」
「…ちっ、知らねえよ…」
あたしはため息を着いて剣を腰に戻し、振り返って立ち去った。
そんな感じの聞き込みをしばらく続け、だいたいのギルドを回った頃には既に夕方だった。
流石に夜にうろつくのは危険だろう。さっさと宿にもどろう…
と思った矢先。
駆けてきた子供があたしに軽くぶつかり、そのまま去っていこうとするが、あたしはそのを手を掴んで止めた。
「…ぐっ…なんだよ!離せよババア!」
「すぐに離すわよ。今あたしからスッた財布を返したらね!」
「ちっ!」ビュッ「わっ!」
ガキがあたしの財布を持ってるのと逆の手でナイフを抜いて切りつけてくる。存外に鋭い!とっさに躱したが茶色の髪が数本散った。
「危なっ…何すんのよ!」「おっ…とお!」
あたしも剣を抜きナイフを叩き落とそうとするが、ガキは大きく飛び退いて距離をとる。
「やーいのろま!あばよ!」「雷の矢!」「ぐあっ…」
捨てぜりふを吐いて逃げようとするガキに、遠慮なしに魔法をぶちこむ。
もんどり打って倒れたガキの手からこぼれた財布とナイフを回収し、起き上がろうとする背中を踏みつける。
「さーて、どうしてくれようかしらね?」「くそっ…魔法まで使うのかよ…」
肩越しに睨み付けてじたばたするが、剣を突きつけるとおとなしくなった。
よく見ればまだ10かそこらだろうに、山賊くらいなら一発でダウンする雷の矢をもろに食らってこれだけ元気なのにはちょっと驚きだな。
少し癖のある黒髪をしたまあまあの美少年と言っていい顔立ちだが、今はその顔も凶悪に歪められている。
「離せババア!」
「あ?あたしはまだ20にもなってないわよ」
「年食ってんのは変わらねえだろ…ぐええ」
「口のききかたには気を付けた方がいいわよ…さて」
くそガキの背中をブーツで踏みつけながら考える。
どうしたもんかなあ…さっくりいってもいいけど子供を殺すのも寝覚め悪いしなあ…
とか考えていると、足の下で腹がぐううううと盛大に鳴った。
「なに?腹空かせてんの?」「…ちっ…」
この鳴り方だと二日くらいはまともなもの食ってないな…
体もしばらく洗ってないだろう。
「………………はぁ。」
あーあ…めんどくさいことになったなあ…まあ、仕方ないか。
「あんた、名前は?」
「言う必要ねーだろ…いてっ!ちっ………マルクだ」
「そう。マルク、ちょっと付き合いなさい」
「けっ、警備隊なんてこの街にはねーよ」
「そういうんじゃないわよ。言っとくけど逃げたら手加減なしの魔法で消し炭にするからね」
あたしは剣を納めて足をどけた。マルクと名乗った子供はあたしを睨みながら立ち上がる。
「…どこに連れてく気だよ」
「いいから着いてきなさい」
あたしはマルクを連れてその場を去った。
泊まってる宿に戻り、受け付けといくつかやり取りをして部屋に戻る。
薄汚れた子供を連れてく事に文句を言われるかと思ったが、清掃の代金は宿泊費に入ってるのでお気になさらず、だそうだ。
特別室のご用意もありますが、とか言われたが別の部屋を取る意味もないので断った。
マルクも途中からおとなしく着いてきたので、部屋に入ってとりあえず風呂にぶちこむ。
============(音声のみでお送りします)============
「離せよババア!自分で洗える!」わっしゃわっしゃ
「そう言ってアンタ1分もせずに出てきたでしょうが!ほら!全然汚れが落ちてないのよ!」
「貧相な体見せつけてんじゃねぇ!」がたがた
「は?見せつけてなんて…ってこらっ暴れるな!また魔法ぶちこむわよ!」じゃーっ
「くそーっ!」
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風呂から出て着替えたら部屋のドアがノックされた。出てみればルームサービスが届いたようだ。
テーブルに次々に並べられる料理をマルクはガン見している。
「…っ!」「こら」
従業員が下がると、なにも言わずに食べようとしたのその手を抑えた。
「…なんだよ!さっさと食わせろよ!」
「何か言うことあるんじゃないの?」
「ちっ……えー…食事を恵んでくださりありがとうございます!これでいいだろ!」
「そーじゃないわよ。『いただきます』は?」
「はぁ…?……わかったよ、いただきます」
「よろしい。いただきます」
言うが早いか、もぐもぐばくばくがつがつとすごい勢いで食べ始める。うんうん。善哉善哉。
「ちょっと、少しはあたしの分も残しなさいよね!」
かなり多めに用意したからたぶん足りるだろうが、負けじと食べることにした。
「ふぅー…」「食べたわねー…」
とりあえずお腹はいっぱいになった。味はまあ、…値段が張る割には普通だったけどね。ルームサービスならそんなもんだろう。
「おい、用がすんだらこれ…持って帰ってもいいか?」
マルクが食べ残しのサンドイッチやらパイやらを指差す。
「んー。いいわよ」
そのへんのに手を着けないと思ったらそういうことか。たぶん友達の分かなんかだろう。
あたしが頷くと、マルクはそのへんのものを包んでまとめた。
「さて、食事も済ませたし…」
「…ふん、わかってるよ。好きにしな」
マルクが立ち上がる。
「ほーん。急に殊勝になったじゃない」
あたしはマルクの肩を掴んで…
部屋の外に包みと一緒に押し出した。
「じゃーね。湯冷めしないようにさっさとねぐらに帰って寝なさい」
「はぁ!?」
閉じようとしたドアをマルクが掴んで止める。
「なに女の部屋に勝手に入ろうとしてんのよ!」
「連れ込んだのはお前だろうが!俺の体目当てじゃねーのかよ!」
「はぁ!?男を買うほど飢えてない!あたしは腹減らしてる汚いガキが嫌いなだけよ!」
「なんだよそれ!」
孤児院にいたころ、予算が厳しくなることはよくあった。
そうなると食事が貧相になったり、暖房をけちることになるのだが、寒くてひもじいのは正直…かなりこたえた。
風呂もなかなか入れないので、大分汚くもなる。
たまの機会には男も女も関係なく大勢で一気に入浴していたので、逃げるワルガキを取っ捕まえて髪を洗うのなんか日常茶飯事だったし。
リア様から大金をもらったあたしが真っ先にやったのは孤児院に金をぶちこむ事だった。
シスターはそのお金で風呂を改装して魔法給湯システムを導入した。これで冬でもポッカポカだそうだ。
他にもどうやら誰かが定期的に大口の援助をしてくれているらしく、最近は子供たちとシスターの血色も良くなっている。
大方リア様だろう。あたしがあの人に頭が上がらない理由のひとつでもあるし、それが狙いなんだと思うが…恩は恩だ。
「わかったらさっさと出てけ!次は容赦しないからね!」
「あっ…」
あたしはドアを無理矢理閉めて鍵をかけた。
マルクはしばらく部屋の外にいたが、そのうちどっかに行ったようだ。
「ふぁーあ…さて、今日はもう寝ようか…」
上でプロレスをしても全然平気そうなでかいベッドに身を投げて布団を被る。
しかし失礼な…体目当てとか思われてたとは…
あたしがやったのはそれなりに顔の整ってる子供を宿の部屋に連れ込んで…風呂に入れて、飯食わせて…って、あれ?
「どう見ても体目当てじゃん!!!!」
がばっと飛び起きた。
もしあたしの立ち位置を金持ってそうなババアに置き換えたらまさにそれそのものだ。
うわーっ、フロントが特別室がどうの清掃代がどうの言ってたのはそういうことか!孤児院ではよくやってたからつい…
うわー…なんてこった…マルクもそりゃ勘違いするわ…そんなつもりなかったのに…
あたしはベッドでゴロゴロして悶えたのだった。
評価1400を越えました!ありがとうございます!
書いたものに反応をもらうのがこんなに嬉しいとは思っていませんでした。
感想、評価、ここすきも本当に嬉しいです。ちょくちょく眺めてはニヤニヤしてしまいます。
今年も頑張りますのでよろしくお願いします。
マルクくん視点だと
あーー…殺されそうにはねえけど…このネーちゃんもそういう趣味かよ…まあ見た目はそこそこだし、変態ババアのケツの穴舐めるよりはましかー。
とか思ってたらお土産もたされて追い出されてしまい、
ちょっと残念な気…いや!そんなことねぇ!あんなババア!ふん!
と足早にねぐらに帰りました。