翌日の朝、カンラの街を発ってひたすら街道を西に歩き、お昼過ぎにアイスの街に到着した。
「へぇーけっこう大きい……それに建物がみんな石なのねー」
レッドと同じくらい規模の町だが、基本的には石造りの建物が多い。たぶん山に近いからだろうか?
「……ギルドに行く前になんかお腹空いちゃったし、どっかで食べてからでいいよね……お昼もまだだし……」
その辺の昼もやっている酒場に入って、なにやらこだわっているらしいのだが何が違うのかわからんカレーを食べつつ外を眺めていると……
「っ……?」
窓の外をすごい髪型の人が通って、危うくカレーを吹き出すところだった。
(すごい髪型……お風呂に入ったあと髪の毛を乾かさずに寝るのを毎日繰り返したのかな……)
もっこもこのライオンヘア、それも派手なピンク色の髪で、さらに露出度の高い魔法使いの服を着ている。
そんな女性がダイコンが飛び出した買い物かごを下げて歩いていくのを呆気に取られて見送った。
(都会にはいろんな人がいるんだなー……ん? いや、あの歩き方……冒険者? それもけっこう経験を積んでるような……)
カレーをもう一口食べて落ち着く。
(冒険者には変わり者が多いし、驚くようなこともないのかもしれないなあ……)
キースギルドの場所はあちこちに派手な宣伝の看板が出ていたのですぐにわかった。古い建物にこれまたギラギラ派手な看板を増設している。
受付の秘書らしきお姉さんに届け物がある旨を伝えるとすぐに奥に通された。
「おう、レッドのギルドから届け物だって? 遠いところからご苦労だったな……」
キースさんはレッドのマスターのいう通り脂ぎったハゲ親父だった。口はニコニコと笑っているが、目はギラギラとキラキラが7対3くらいの割合で混じった感じであたしを見定めている。
その表情が一瞬いぶかしげに歪められた。
「……どうしました?」
「いや、なんでもねぇ。あいつに親類がいるなんて聞いたことねえしな……」
後半は良く聞こえなかった。首をかしげていると、
「粗茶ですが、どうぞ」
さっきの秘書さんがお茶をいれてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
恐縮しながら一口飲む。普通のお茶だ。
「おう、いつもすまんねぇ」
キースさんが流れるような手付きで秘書さんのお尻を撫で、あたしは固まってしまった。
秘書さんが「ひゃっ?」と声を漏らしてバランスを崩しかけるのを、「おっと」腕を伸ばして抱えるキースさん。
「も、もう! 何するんですか!」
顔を赤くして足をばたつかせる秘書さんだが、そんなに怒っているように見えない。
「おう、済まんなあ。あんまりいい尻だったもんだから……」
(お、大人だ……)
あたしがそのやり取りを呆気に取られて見ていると、
「おっと、で、荷物だったな?」
キースさんが秘書さんを離し、急に仕事の話を始めた。
「あっはい、これです」
「おう」
包みを手渡すと、キースさんはどこからか短剣を取り出して封を開けて中身を見て、軽く頷いてそのまま机に仕舞った。
(短剣を取り出す動き、見えなかったなー……シーフかな? 昔は痩せてたのかも)
どうやらただのスケベじゃないらしい。あたしは少しだけこのおっさんを見直した。
「確かに受け取ったぜ嬢ちゃん。えーと……」
「あ、エールです。エール・クリア」
「エール。届け物の用はこれで済んだわけだが……この後なにか用事はあるのかい?」
「はい、カイズに行きたいんです。招待されてまして」
「ほほー、その年で大したもんだな。テンプルナイト志望ってわけかい?」
腰の神官ソードに目をやって尋ねてくる。
「いえ、そういう訳じゃないんですけど……」
「ふうん……だが、今、ちょっと厄介なことになっててな……カイズに行くなら、南のコーを通ってジフテリアに行くつもりなんだろ?」
「は、はい……」
「だが、コーがしばらく前からゾンビが沸いて大騒ぎになっててだな……」
「えーっ、ゾンビですか……」
ゾンビ、魂が汚れてしまった人間の死体が変じたモンスターだ。
うーん、なんでか考えるだけでイライラする。生理的にダメかもしれない。
「冒険者を何度も送り込んだが……倒しても倒してもゾンビの数が多すぎて対応できず、町の守備隊が討伐作戦をやったが失敗して大きな被害を受けた。……ここだけの話だが、町の破棄も検討されてるらしい」
「うえー……」
それはひどい……もうダメじゃない?
「というわけで、ジフテリアに行くなら少し遠回りになるが……西に向かってからシナ海沿いの街道を歩いて向かうべきだな。途中町はないから野宿する羽目になるが……冒険者なら慣れっこだろ?」
「うーん……それしかなさそうですね」
ゾンビはなんとなく許しがたいのだが、あたし一人でどうにか出来る事態ではなさそうだ。
「すみません、道を教えて頂いても?」
「ああ、いいぜ。地図は持ってるな? 見せてみな。
まずアイスの西門から出てだな……」
教えてもらった道順をメモって頭を下げた。
「ありがとうございました。助かりました」
「おう、またいつでも来な。あんたみたいな有望な冒険者は大歓迎だ。とくに嬢ちゃんみたいな可愛い子はな」
「はいはいどうもー……」
秘書さんの尻を揉みながら言われても困る。悪い人ではないのだろうが……あたしはとっととギルドを出ることにした。でもその前に……
「……あ、トイレ貸りていいですか?」
「ああ、出て右の奥だ」
「ありがとうございます、それでは」
トイレから出ると、顔は見えなかったがマントを身につけた誰かがキースさんの部屋に入っていくのが見えた。
「やいキース! 簡単でがっぽり金がもらえて美人とお近づきになれる仕事を寄越せ!」
「いつも言ってるがそんな仕事があったら自分でやるっての。えーとだな……」
そんなやり取りが聞こえてきた。なるほどギルドマスターというのは大変な仕事なのだなあ。
その日はハピネス製薬のそばに宿をとり、翌朝早くには西門から出発した。観光もしたかったが遠回りするなら急いだ方がいいよね。
あんまり街は見て回れなかったけど、また来ることもあると思うし……
カレー
カレーという名前の怪魚をとっ捕まえて絞った汁にいろいろ調味料と具を加えて煮込んで作る料理。
この世界の料理はだいたいこんなんばっかである。
とりあえず辛くておいしいことは一緒。
キース・ゴールド
Lv5/28
盗賊Lv1
髭を生やして悪趣味な服を着た恰幅のいいハゲ親父で、アイスの街の冒険者ギルドの責任者。
若いころは腕のいい盗賊だったらしい。
原作主人公ランス君の父親代わりのような存在。
秘書のおねーさん(後に結婚する)の尻を撫でながらギルドの業務拡大にハゲむ。