「エールじゃないか。こんなところでなにやっとるんだ」
ニヤついた笑みを引っ込めたお兄ちゃんが怪訝そうな顔で訪ねる。
「もがががーっ!」(それはこっちのセリフーっ!)
「えっ…エールちゃん?」
扉からシィルさんが顔を出した。
「たいへん、今ほどきますからね…よいしょよいしょっと…はい、こっちの手錠も…」「ぷはー!」
シィルさんが猿ぐつわを取り、持ってた鍵で手錠を外してくれた。
ふー。空気が美味しい、腕が軽い。ぐるぐる回してからお兄ちゃんたちに向き直る。
「で、どういうことなの?お兄ちゃん。」
ちょっとジト目になったのは仕方ないだろう。
「ふ、ふん…妹の癖に兄のやることに文句つけるんじゃない」
微妙に目をそらした。うすうすは不味いことやってるって自覚はあるみたいね。
「ランス様ぁ…やっぱりここっていけない組織ですよぅ…」
「えーいうるさい!」ぽかり「ひんひん…」
いつものやり取りだけど、みてるとなんか安心するな…
「シィルさん。お兄ちゃんはこんなところでなにしてんの?」
「それがですねぇ…」
お兄ちゃんとシィルちゃんの話を総合すると、この組織…地下帝国ブハードはもともと秘密ではあるが悪い事する組織ではなかったのだそうだ。
最初に地下で怪しい動きをしている組織を調べていたら、お兄ちゃん達は偶然見つけて入り込んだ地下トンネルでブハードというおじいさんに出会った。
大昔に滅んだポピンズの国の地図を手に入れたおじいさんはそれを解読して、ロックアース地下の遺跡を中心に現在使われていない地下通路が広がっており、それは自由都市地帯全域に伸びていることを知った。
これを利用すれば流通に革命が起きる、自由都市の経済をひっくり返せる!と野望を抱き、こっそり仲間を集めて組織を作り、地下道の整備を始めたそうだ。その名も地下急便ブハード。
長年放置されていた地下通路を使えるようにするには当然ながらポピンズたちの協力が欠かせないし、あちこちにモンスターが巣くっているので駆除する戦力も必要だ。
そんなときにお兄ちゃんが接触してきたので、おじいさんは渡りに船、とお兄ちゃんを仲間に引き入れた。
ポピンズたちとの付き合いもなんやかんやうまく行っていたらしい。
しかしそのうち、いつのまにかロックアースのギャングたちが組織運営に絡んでくるようになり、気がつけばブハードおじいさんを監禁して組織を乗っ取っていた。名前も地下帝国ブハードに。
お兄ちゃんは幹部待遇で迎える、金も女も好きなだけ用意する、これまで通りモンスターや邪魔者を片付けてくれればいい、と説得され…
「今に至る、というわけなんです」
「うーん…」
なんというか丸め込まれてるなあ。お兄ちゃん…
「ふん、俺様はやりたいようにやるのだ」
「ランス様…さすがにそろそろまずいのでは…」
「そーだよ。もう結構有名になってるし、そのうち本気で潰されちゃうよ」
「うーむ…むむむむ…」
お兄ちゃんが黙って色々と考え始めた。
「「はらはら…」」
あたしとシィルさんははらはらしながらそれを見守る。
お兄ちゃんこういうときにたまに変な風に意地を張っちゃうからな…
「…うむ、やはり俺様にこんなショボい組織は似合わん!とっとと出ていくぞ!」
「ランス様!」「お兄ちゃん!」
あたしとシィルさんはよかったよかった、手を合わせて喜んだ。
「が、その前に…二人ともしばらくここで待っとれ」
「え?」「どこに行かれるんですかランス様?」
「うむ、出ていく前にハーレムの女の子たちを一通り楽しんでくる!もったいないからな!がーはははははははは!」
お兄ちゃんはぴゅーっと走っていってしまった。
「うーん…どうします?」
「とりあえず…待ちましょうか。エールちゃんはお正月に会ってからどうしてたんですか?」
「あの後リーザスに行って…」
あたしとシィルさんはお茶を飲みながら旧交を温めたのだった。
お兄ちゃんが戻ってきたのは翌朝だった。
「がはははは、ふた回りしてきたぞ。そこそこ満足だ」
「ふぁあ…おはよーお兄ちゃん」
「それでランス様、これからどうしますか?」
「うむ。それはな…」
お兄ちゃんは壁のベルを鳴らした。足音がして、ドアからあたしを担いできた大男が姿を見せる。
「なにかご用ですかい…お?」
あたしをみて怪訝な顔をする大男。
「その嬢ちゃんには手を出されなかったんで?」
「うむ、こいつは俺様の妹でな。」
「えっ…それはとんだ失礼を…」
「謝らんでいい。代わりに死ね!」
「は…ぎゃー!?」
大男が斬られて倒れた。
「ひゃっ!?」「うわー…」
「今から直接他の幹部共のところに突っ込んで首を取る!それでこの組織は壊滅!俺様は正義だ!がはははは!突撃ー!」
お兄ちゃんは勢いよく部屋を飛び出した!
「なっ…どうしたんでぎゃー!」
「うわーっ!裏切りだ!ボスが…いやランスが裏切りやが…ぐえー!」
「たっ、助け…がっ…!」
「がはははははは!俺様の正義の刃を受けてしねー!」
外からはすぐに暴れまくる音が聞こえてくる。
「…とりあえず…ついてこっか…」
「あ、はい。そうですね」
あたしたちもお兄ちゃんを追って駆け出した。
「囲んで殺せ!殺すんだ!」
「無理ですよ俺たちじゃ束になっても…」
「がはははは!その通り!群れたところで雑魚は雑魚だ!くたばれランスアターック!」
「「「ぐあああああ!!!」」」
「こっちだ!挟み撃ちにしろ!」
「氷の矢!」
「電磁結界!」
「「ぎゃー!」」
お兄ちゃんは手当たり次第に組織の連中をぶち殺しながら突っ込んでいく。
地下道のモンスターを倒してたせいかな?レベル40位はありそうだ…あれ?
「あっ、あれあたしの剣だ!」
詰所のような場所の机の上に二本とも置いてあるのを見つけた。
ずかずかと上がり込んで早速拾う。
「うん、無事そう。良かった…ん?」
詰所の中には誰もいないのだが、なんか服や装備品だけあちこちに積み重なってる。
脱ぎ捨てたって訳でもなさそうで、下着とかアクセサリー、短剣とかも転がってるな…うわ、なんか服の中に白い粉がいっぱい入ってる。なんだこれ?塩?
例えばだけど。人間が神の怒りにでも触れて、塩の柱にでもされたらこんな感じになる…かな…?
「おいエール!何しとる!」
「あ、ごめんね!剣拾ってた!」
まあ、ごろつきがどうなろうがどうでもいいか。あたしは剣を腰に戻してお兄ちゃんを追った。
「おっと、そうだ。エール。お前に任務を与える。」
「任務?」
「あそこに牢獄があるだろ。あそこにブハードのジジイが取っ捕まっとるはずだ。お前行って助けてこい」
「え?あたしが?」
「グズグズしてると逃げられる!ジジイはたぶん弱ってるから適当にヒーリングして恩を売っとけ!行くぞシィル!」
「は、はい!」
お兄ちゃんはシィルさんを連れてがはがは笑いながら突っ込んでいく。
仕方ない。牢屋を調べてみよう…
あたしは死んでる牢番から鍵束を回収して牢獄に入り込んだ。
牢獄は結構広く、牢屋の数も結構あったが、閉じ込められている人はそんなに居なさそうだ。
その辺を見渡すがおじいさんらしき人はいない。
「ようお嬢ちゃん。こんなむさ苦しいところになんの用かね?」
牢屋の中から、手枷を嵌められた身長50センチくらいの小さい人が声をかけてきた。
「もしかして…ポピンズですか?」
「おう、ポピンズを見るのは初めてかい?俺ぁアスベストってんだ。嬢ちゃんなら抱き上げて頬擦りしてくれてもいいぜ」
なんか見た目と違っておっさん臭い話し方だなあ…見た目は若そうだけど、年齢はよくわかんないや。
「いや…遠慮しときます…あの、ここにブハードって言うおじいさんはいませんか?…」
「あー?あの爺さんを助けに来たのかい?ってことは潮時かね…」
アスベストと名乗ったポピンズが軽く身をよじるとがちゃがちゃんと音がして、手枷がその場に落ちた。
「えっ?」
そのまま扉を開けて外に出てくる。…鍵は自分で開けたのか…?
「あーすっきりしたっと。ブハードの爺さんだろ?こっちだぜ」
アスベストさんはさっさか行ってしまった。足はやっ。
何者なんだろうかあの人…腕利きの盗賊?
疑問に思いつつもあたしは慌てて後を追ったのだった。
ブハード老人はポピンズの両大国に直接交渉することができず、個人的に知り合ったポピンズたちににエログッズやエロ本、媚薬などを渡すことでいろいろと協力してもらっていました。
しかし彼らの要求はエスカレートし、求めるエログッズは合法的に入手できる範囲を超えてしまい、仕方なくロックアースのギャングを頼ったのですが…
そこから軒を貸して母屋を取られる、と言う感じでずるずると食い込まれて組織を丸ごと奪われてしまいました。
で、もう使ってないトンネルを人間が再利用しようとしているのは両大国も察知しているので、厄介なことにならないようにいろいろ手を打っています。
という妄想です。