【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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30.エールちゃんは泣かれる

アスベストさんに続いて進んでいくと、奥まったところの牢屋で横になってる人影が見えた。

「あなたがブハードさん?」

「おお…確かにワシがブハードじゃが…君は誰じゃね」

その人は身を起こしてこちらを見た。

ぼさぼさの白い髭に顔がほとんど埋まっている。結構な歳に見えるけど割と元気そうだな…

「ええっと、あたしはランスの妹のエールと言います。実はかくかくしかじかで…」

あたしは手短にお兄ちゃんが暴れだしたことを伝えた。

「そうか、ランス君がのう…まあ、多少言いたいことはあるが…連中に組織を乗っ取られたのはワシの落ち度が原因じゃ。なんにせよ、まずはここを出るとしよう。すまんが、カギを…」

「えーっと…どれかなあ?」

あたしが鍵束をジャラジャラしていると、足元からすっとアスベストさんが進み出た。

「ほれよ、手枷も…ほいっ」

手がぱぱっと動くとあっという間に扉が開き、手枷も外れてしまった。

「む、君は…」

「俺はアレルギー超大国のアスベストってんだ。あんたの手に入れたっていう地図について確認したいことがある。ここを出てからでいいんで一緒に来てくれるかい?」

「…あれは偶然手に入れたもので…」

「それでもだ。うちの上のほうは古いトンネルのことを知ってたし、アニャガスの連中もそうだろうが…下手にばらまかれるとつまらんし、火種になりかねねぇからな」

「…むう…仕方あるまい。」

話はまとまったようだ。たしかアレルギー超大国とアニャガス王国ってのはポピンズの二大国だったかな?まあ、ここから出たあとどうするかはあたしの知ったこっちゃないな。

「それじゃ、とりあえず安全なところに行き…あ。」

あたしは足を止めた。

「……すみません。後から行くので出口のところで待っててもらえます?」

「ん、なにか用でも…まあいいか。いくぞ爺さん」

「構わんが…もしギャングの連中に見つかったら嬢ちゃん抜きでどうするんじゃ。ワシは戦えんぞ」

「俺がどうにかするさ。これでも国じゃ最強の戦士なんだぜ」

「…ううむ…ポピンズの最強か…」

「へっへ…まあ楽しみにしてな」

二人は行ってしまった。確かにどうやって戦うのか気にはなるが…それよりこっちが先だ。

 

二人が視界から消えるのを待って、あたしは一つの牢屋に近づいた。中には一人の人間…子供が横たわっている。

「昨日ぶりね。マルク」

「…なんだよ、ババア…見てんじゃねぇよ…」

あたしが声をかけると、子供…マルクはゆっくりと体を起こした。

その顔はアザだらけ、服は血まみれで手足にも傷がある。これは折れてるかもしんないな。

「その様子だと、『約束』は守ってもらえなかったのね」

「チッ…関係ねえだろ?さっさと行けよ」

マルクは舌打ちして顔をしかめる。

「そうね、関係ない」

あたしは牢屋の鍵を開けてマルクに歩みよった。

「…いたいのいたいのとんでけー…いたいのいたいのとんでけー…」

「…っ…ヒーリング!?なんのつもりだ!」

「あたしゃ汚くて腹を空かせてるガキと同じくらい、ケガしてるガキも嫌いなのよ…で、何があったの」

ヒーリングをかけながら訪ねると、マルクはしばらく口をモゴモゴさせてからぽつりぽつりと話し始めた。

「…少し前に…俺の…手下共が、ドジってマフィア連中に捕まってよ。取り戻すには金が要るんで『仕事』をしてたんだが…あんたを捕まえるのに協力すれば、全員解放してやるって…」

「…ふーん。それで?」

「あんたが運ばれてってから…約束通り手下を返せって言ったら…連中のアジトに連れていかれて…それで…」

「…」マルクが口ごもる。あたしは続きを黙って待った。

「…ほらよ、って…投げつけられてよ…『生かして』解放とは言ってねえって…」

「…」声が震える。あたしは黙ってヒーリングを続ける。

「…俺、キレてナイフで切りかかって…何人か斬ったけど、取り押さえられてさんざん殴られて…このガキ、タダじゃ殺さねえって…ここに…」

「そう…。ほら、治ったわよ」まあ、たぶんそんなことだろうと思っていた。

マルクはしばらく深呼吸してからおもむろに立ち上がり、顔を笑みの形に歪ませてこちらを見た。

「………ふん。同情でもしてんのか?」

「…」

「バッカじゃねーの?連中のことなんてなんとも思ってねーよ!ただの手駒さ!やっぱ使えねー駒はダメだな!あーあ。俺としたことが無駄な事しちまったぜ!」

牢屋の天井に向けて笑いながら叫ぶマルク。

「俺は一人で生きていける!あんなクソ駒にこだわることねえんだ!あー!せいせいしたぜ!」

あたしはそんなマルクを、ぎゅっと抱き締めた。

「…なんのつもりだババア…」

「ババアじゃないけど…年上だからね。あんたが泣いてることくらいは判るわよ」

「…っ…は?わけわかんねぇ事言うんじゃ…」

「あんた、顔もいいし、歳の割には強いし…たぶん魔法の才能もある。確かに、大きくなったら一人だけでなんでも出来るようになるかもしれない」

「…だからなんだよ」

「でもね、なんでも出来たとしても、ずっと一人っていうのは退屈だし…寂しいんだよ。自分の体を千切っちゃうくらいにね」

「…っ」

「…大切だったんでしょ?悲しいならちゃんと泣いときなさい。」

「うっ…ぐっ、…ううあう…ひぐっ…ガズアル…エル……ダグにドール…助けられなくて…ごめん…ううう…うあっ…あーーっ!」

マルクは声を上げて泣き始めた。

その背中を、孤児院で良くやってたように軽く叩いてさすってやる。

あ、レディチャレンジャーに鼻水が…まあ仕方ないか。

あたしはしばらくそのままにさせていた。

 

「おまたせー…うわっ」

牢獄の入り口のところに戻ると、小さなナイフを何本か持ったアスベストさんとおじいさんが待っていた。

その回りには何人かの男が血を流して倒れていて、良くみれば目や首筋にナイフが深々と刺さっている。

「おう、用は済んだのかい。じゃ、とっとと行こうぜ」

アスベストさんが笑って、手を振るとナイフはどこにもない。

仕舞うの見えなかった…最強の戦士っていうのも伊達じゃないみたいだな…

「どこに向かうの?」

「うむ、ここからなら管理ルームから地上に出るのが早いじゃろう…」

「姉ちゃん、こいつら誰?」

「ここの元ボスとどっかのスパイ。この人たちと一緒に脱出するわ」

「その子も連れていくのかね?」

「なんだよ爺さん、悪いかよ」

マルクは泣いてすっきりしたのか、元の生意気なガキに戻ってしまった。まぁ元気なのはいいことだよね。

「いや、問題ない。管理ルームに向かおう」

そういうことになった。

死体が転がる通路を通り抜け、階段を上って降りて…たどりついた管理ルームはあちこちにモニターがあり、半分ほどは壊れていたが、無事なモニターにはいろんな部屋の映像が映っている。

「なにこれ?カメラ?」

「うむ、ここから遺跡内各所の監視が出来るんじゃよ。非常口もあるし、何らかの指揮をする場所だったんじゃろうな…」

はえー。そりゃすごい。

「えーと、非常口はここか…ってごっつい錠前だな…う、重てぇ…おい坊主、すまんが手伝ってくれ」

「へっ、非力なチビは仕方がねえな」

アスベストさんとマルクが鍵をガチャガチャとやり始める。

あたしは部屋をぐるーっと見回し、一つのモニターに目を止めた。

モニターに映る派手な装飾がされた大部屋に誰かが飛び込んできた。

「あ、お兄ちゃんだ。」

部屋の中にいた連中が何やら叫んで武器を抜くが、お兄ちゃんに叶うわけもなくあっという間にずばばーっと蹴散らされた。

恐らくこいつらが幹部だろう。あ、見覚えのある帽子も転がってる。あいつも死んだか…

お兄ちゃんが高笑いして…うん。これで解決かな。

と、思った瞬間。部屋の入り口から赤毛の男が飛び込んできた。

「えっ、アリオスさん!?」

モニターについているなんかのスイッチを押すと、マイクが入ったのか向こうの声が聞こえてきた。

『お前がブハードの幹部、鬼畜戦士だな!回りに倒れているのは…他の幹部か!?仲間割れでもしたのか』

『ふん、こんな奴ら俺様の仲間でもなんでもないわ!』

『…なんて奴だ…エカルちゃんをさらったのはお前たちだな!彼女はどこだ!』

『エカルちゃん?誰だそれは?知らんが…連れてきた女の子たちはみーんな俺様がおいしくいただいたぞ!残念だったな!がーはははは!』

『…っ…この外道め!許さん!俺は勇者アリオス!アリオス・テオマンだ!』

『…アリオス?どっかで聞いたような名前だな…ふん、まあいい!このランス様の邪魔をする奴は死ね!』

二人は剣を抜いて構え…って、大変だ!見てる場合じゃない!止めないと!

「あれは…ランス君か?」

「おじいさん!こっちから声は送れないんですか!?」

「それは出来ん!あの部屋は…大広間か!急いで行くといい、道順は…」

「あ、姉ちゃん!どこ行くんだよ!」

「アレを止めてくる!先に脱出してて!」

道順を教えてもらい、あたしは部屋を飛び出したのだった!




ランス君が暴れだしたのと同時に地上からアリオスも突っ込んできていました。

盗賊系ばかりで正面戦闘には向いてないというのもありますが、こんなにあっさり壊滅したのも同時に二人の主人公が暴れた(あといきなり塩の柱になったり発狂した連中がいた)せいです。

次回はいよいよ英雄VS勇者です!テンション上がるなぁー!

以下、妄想です。

アスベスト
Lv34/61
盗賊2

アレルギー超大国の親衛隊員。
超小型の投げナイフは百発百中。全身に仕込んでいて、どんな体勢からでも投げられる。
国有数の戦士であり、国一番のイタズラ者だが、仕事中はイタズラしない主義。
エールちゃんが見きれなかったナイフをしまう動きはマルク君には見えていた。

ブハード
Lv6/11
経営0 発掘1 穴掘り1

あんまり商売には向いていなかった。
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