【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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32.エールちゃんは破壊する

お兄ちゃんの傷の応急処置も終わったところで、アリオスさんが切り出した。

「それじゃあ、ここに用はないし地上に戻ろうか。ここからなら俺が入ってきた入り口が近いよ」

「そうですね…お兄ちゃん、シィルさん、大丈夫?」

「ううう…重いです…鎧が痛い…」

「あだだだ…こら、重いとはなんだ。もっと優しく支えんか」

「…俺が言うのもなんだけど、背負おうか?」

「要らーーん!男が触るんじゃない!ぺっぺっ…痛だだだだだだだ!」

「あーもう…こっちからあたしも支えるから…一歩づつ行こうね。ほら、いっちに、いっちに…」

「いっちに…いっちに…」

「ぐぬぬ…いっちに…いっちに…」

 

「…おや、戻りましたか。無事だったようですね」

アリオスさんの先導で遺跡から出ると、コーラさんが待っていた。

コーラさんの視線がお兄ちゃんとシィルさんをグルーっと回ってあたし…から超高速で逸らされた。

「まぁいろいろあったけどね。実は…」

「ああ、アリオス。ちょっと話があるのでこちらに来てください」

「え?いいけど…」

アリオスさんがあたしたちを見るが、コーラさんはちょっと迷惑そうな顔をしている。

勇者の使命に関する話だろうか?必要ないなら聞かないでいいよね。

「ああ、あたしたちはホテルの部屋に戻ってますね…マルク達も探さないといけないし」

「そうか、じゃああとでね」

「ホテルだと…?部屋だとぉ…?貴様、人の妹にいったい何を…」

「部屋は別だから!別だから!」

 

お兄ちゃんをなだめつつその場を立ち去る。少し歩くと、マルク達を見つけた。

「おーい!姉ちゃん!無事だったか…ってそいつら誰?」

「あたしのお兄ちゃんとその彼女さんよ」

「彼女だなんてそんなぁ…えへへ…」「いや、こいつは奴隷だ」「ひんひん…」

「…さすがは姉ちゃんの兄貴だ、変わってんな」

「どういう意味…ん?」

言葉の途中でスカートをちょいちょいと引っ張られた。振り向けばアスベストさんだ。

「済まんがどっか落ち着けるところで話さないか?俺もひとっ風呂浴びたいし…こっちの爺さんもそっちの兄ちゃんも一旦寝かせたほうがいいだろ」

「そうですね…」

 

というわけであたしのホテルに移動して、今後の事について話した。

まずお兄ちゃんなのだが…

「あだだだ…こら、もっとゆっくり下ろさんか」

「きゃ…ランス様、あまり暴れると…」

「お兄ちゃーん…無理はしないでよ」

「ぐぐぐ…おのれあのキザ赤毛がぁ…絶対そのうち仕返ししてやる…」

「もー…アリオスさんの事そんなふうに言うのやめてよ…」

「そうですよ、今回は悪いのはこちら…」

「えーい!やかましい!俺様は認め…あだっあだだだだだ!」

「ランス様!いたいのいたいのとんでけー!」

「あーもー…いたいのいたいのとんでけー…」

ずっとこんな調子だし、ちゃんと治すには一回入院した方がいいとのことで、お兄ちゃんはアイスの大きい病院に入院することになった。

最後の最後まで認めんぞ~とドタバタして、シィルさんにたしなめられてた。

まああの分ならすぐに治るだろう。むしろケガを口実にサボりすぎるかもしんないな。

 

ブハードのおじいさんは、アスベストさんと一緒にアレルギー超大国に一回行くそうだ。用が済んだら故郷のポルトガルに戻るらしい。

地下道を通っていけば早いのだが人間のお年寄りにはきつい、ということでハンナまでうし車で向かってから地下に入る。そういう感じの入り口は世界じゅうにあるんだとか。

いつか探検してみたいなぁ…

 

「で、アンタはこれからどうすんの?なんか当てあるの?」

あたしはテーブルで菓子をもりもり食っているマルクに尋ねた。

「もごもご…ん?俺?姉ちゃんについて行くぜ!」

「はぁ?なによそれ。あたしは子供連れで冒険する趣味はないわよ」

「なによもねぇよ、勝手にでも絶対ついて行くぜ」

「ダメって言ってんでしょ!冒険は15になってから!」

「そんなこと言われても俺ほかに行く当てねぇし…付き合いがあったマフィア連中は全滅したし…この街に残ってたら絶対ろくなことにならねぇ。頼む!連れてってくれよ!足手纏いにはならねぇからさ…」

「うーん…そういう問題ではないんだけど…むむむむ…」

話し合いの結果、あたしの育った孤児院に預けるということで話が付いた。

マルクは最初は渋っていたが、あたしがまだレッドの街に住んでるということを聞いて納得したらしい。

まぁほかに頼れる相手もいないだろうしね。

孤児院のシスター当てに手紙を書いてこのクソガキをお願いします、と伝えておこう。

 

お兄ちゃんとシィルさん、マルクはアスベストさんたちのうし車に同乗させてもらえることになった。これで一安心かな。

 

地下遺跡なのだが、あたし達が脱出した後にすぐにDXの会のカチューシャとか言う女が部下と踏み込んできて占拠したらしい。

内部を調べ、残ってた物資やらなんやらを改めた後何日か経って地下トンネルに入ろうとしたが、すべて途中で埋められていたそうだ。

これに関してはアスベストさんとポピンズがなんかやったんだろうな。

結局トンネルは使えないという結論になり、DXの会は地下遺跡を放棄。

地下帝国ブハードはこうして滅亡した。

まあ、跡地はそのうちモンスターでも沸いてダンジョンにでもなるんじゃないかな?

お宝があるわけでもないから、物好きか戦闘狂くらいしか潜らないだろうけどね。

 

というわけでアリオスさんは戻ってこないまま翌日。うし車が出発することになり、あたしは見送りに出た。

「それじゃーねお兄ちゃん。体に気を付けてね」

「うぐぐぐぐ…」

「はい、エールちゃんも元気で。またアイスに遊びに来てくださいね」

お兄ちゃんとシィルさん、おじいさんとアスベストさんはうし車に乗り込んだ。

「ほら、マルク。アンタもとっとと乗りなさいよ」

一人だけ突っ立ってこっちを見ているマルクに声をかける。

「…あー。そうだな。姉ちゃんには特別に教えてやるよ」

「え?何を?」

なにやらしゃべりだしたマルクを見ると立派なドヤ顔だ。何を言うつもりなのだろうか?

「マルクってのはまぁ…あだ名でよ。俺の本当の名前は…ゲイマルクってんだ!」

胸を張って自分の名前を高らかに名乗った。ツラはいいもんだから結構絵になるなぁ。

「へぇー、ゲイマルク。かっこいい名前ね」

「だろ?いつかすげぇ男になって、この名前を大陸中に轟かせてやるんだ。姉ちゃんも俺の事ゲイマルクって呼べよな」

「ふん、まだまだガキンチョのアンタはマルクで十分よ。悔しかったらいい男になりなさい」

ふふんと胸を張るマルクの額をぺちんと叩く。

「へっへへ…見てろよ?すぐに成長して、姉ちゃんが認めざるを得ないような男になってやるぜ」

「ふふふ、楽しみにしとくわ」

しばらく二人で笑い合ってから、マルクが切り出す。

「それじゃあな、姉ちゃん。また…」

「おーい!エールちゃーん!」

「あっ、アリオスさーん♡」

アリオスさんが声をかけてきて、その場をほっぽってあたしは振り向いた。

 

「いや、ごめんごめん。コーラの話結構込み入っててさ…間に合ってよかった…って、その子は?」

アリオスさんがマルクを見ている。

「え?この子?やだなー!この街で助けただけのガキンチョですよー。そういうのじゃないですってー!」

アリオスさんの腕を取りながら笑ってまくしたてる。もしかして嫉妬とかか?可愛いところもあるなぁ…

と思ったが、アリオスさんは沈痛な顔をしてマルクを見た。そうじゃないっぽいな…

「そうなんだ…よほど辛い目に遭ったんだね…表情がものすごいことになっているし…」

「え?…うわ、ほんとだ。どうしたのマルク。まるで胴体に穴開けられても死ねずに殺してくれとつぶやきながら彷徨い続けるゾンビみたいな顔しちゃって」

「すごいたとえ方するな…」

マルクはギギギ、と油の切れた人形みたいな動きでアリオスさんを見る。

「……………………………………………姉ちゃん、そいつ、誰?」

「え?ああ、この人はアリオスさん。勇者なんだよ!かっこいいでしょ。えへへ」

「エールちゃん、その話はあんまり…」

「あっ!ごめんなさーい」

あははは、とあたし達は笑い合う。

「…者なんて…」

「え?何?」

「勇者なんてクソだあああああああああああああ!うわーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」

マルクはなんでか泣きながらうし車に飛び込んでいった。

 

「…何があったんだろう?」「さぁ?」

出発するうし車を、あたしとアリオスさんは並んで見送ったのだった。




以下、妄想です。

ゲイマルク
Lv6/70
剣2 槍2 魔法1 盗賊0 性技0

ロックアースのストリートチルドレン。LP3年現在まだ10歳。
人類トップクラスの才能を持つが環境が悪く、性格は歪む一方であった。

(この作品の)史実においては同じようにブハードに友人たちを殺され、投獄されていたところをカチューシャに拾われ、情夫兼暗殺者として教育を受ける。
その過程で、女を使い捨てることや殺人に一切忌避感を覚えなくなった。
第二次魔人戦争終結後の混乱でDXの会が潰れた際にコーラと邂逅。
勇者となり英才教育を受け、才能が開花。
「魔王を殺す」という「勇者」としては全く正統な目的のために手段を選ばず邁進し始める…

この世界線では、昇竜山で最期の最期にようやく感じられたぬくもりをだいぶ前倒しで受け取ることができたが、その直後にNTRで脳を破壊されてしまった。
その後はレッドの孤児院で暮らしつつ剣や魔法の修行に励む。
勇者なんて碌なもんじゃないらしい。

第二次魔人戦争の際、魔軍に襲撃された孤児院を守るために必死に戦い、力尽き倒れた14歳の彼にフードの少年の冷たい声が掛けられる…
ことがあるかもしれない。

R10カード
見習い勇者 ゲイマルク
自由都市所属
AP3500 HP3200
スキル1 突撃
スキル2 乱舞

勇者 ゲイマルク
自由都市所属
AP52000 HP40000
スキル1 突撃-零-
スキル2 勇者斬り
※入手条件:人類死亡率30%以上/低確率
※無敵結界破壊可能
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