アリオスさんと一緒にお兄ちゃんたちを見送ったあと、あたしたちはコーラさんと合流した。
「それで、わかった情報ってなんだったんです?」
「ああ。あまり公言すべきじゃないと思って皆には黙ってたんだけど…エールちゃんならいいよな?」
「……ええ、構いませんよ」
アリオスさんに確認されたコーラさんはなんか世にも微妙な顔で頷いた。
「…実は…現魔王リトルプリンセスが人間界をうろついているらしいんだ」
「えーーー!?魔王が?」
リトルプリンセスか…年号でしか知らないけど、名前の通りならちっちゃい女の子なのかな…?
「…ああ。目的は不明だが、少数の供だけ連れて放浪しているそうだ。これを討つことができれば…」
「いや、そりゃ殺せればすごいことでしょうけれども!魔王ってめちゃめちゃ強いんじゃないですか?いくら勇者でも…」
あたしの脳裏にジルとの戦いがよぎった。
正直今のお兄ちゃんとあたしじゃそれぞれ1万人いても歯が立たないだろう。しかも、アレは血のほとんどを失った『元』魔王だったという話だ。現魔王となればどんな力を持っているか想像もつかない。
「ああ。だけど…」
アリオスさんの言葉にコーラさんが続ける。
「リトルプリンセスはまだ魔王の血を覚醒させていません。今なら、殺せる可能性もあるでしょう。」
「一応考えもあるんだ。そのためにも協力を頼みたい」
「そうなんですか?うーん…正直いくらアリオスさんが強くて勇者でも魔王はちょっと…そもそも魔王に効く武器があるんですか?エスクードソードは使えないんでしょ?」
「ああ、うんともすんとも言わない。今は人類のピンチではないからだそうだ。」
「ですよねぇ…せめて他に魔王と戦える武器があれば…」
武器…武器…ん?
「あーーーーーーっ!!!!」
あたしは思わず大声を出した。
「ど、どうしたんだ?」
「魔剣カオス!魔人殺しの剣!アレがあれば…」
「よく知ってるね、そんな伝説の剣…そうだね、魔剣カオスがもしあれば助かるんだけど、今から探し出すのは…」
「あたし場所知ってますよ!ていうかあたしが管理してて、今あるところに預けてます!」
「…は?」
「ええっ!?本当に?」
「レッドの街にあります!早速取りに行きましょう!」
そういうことになった。
ロックアースからアイスを経由して、カンラ、ラジール、レッドの街へ。
こんなことならマルクたちのうし車に載せてもらえば良かったな。
等と思いつつ久々のレッドに到着した。
スリアさんやワヨソちゃんに挨拶もしたいし、マルクの様子も見たいけどまずはカオスだよね。
「カオスはどこに置いてあるの?」
「オレリィ大聖堂ですね。さっそく向かいましょう。」
セルさん元気かな~?などと思いつつ近くまできたが、なにやら人だかりができていて、都市の警備兵がうろついている。
「なんだろこの雰囲気…あ、セルさんだ。おーいセルさーん!」
セルさんを見つけて声をかけると、ビクッと震えて振り向いた。
「え、あ…う…エールさん…お久しぶりです…お元気そうで…そちらの方達は?」
「アリオスさんとその従者のコーラさんだよ!ところでセルさん、ちょっと頼みがあって…」
ずい、とアリオスさんが進み出る。
「俺はアリオス、アリオス・テオマン。実はある目的のために魔剣カオスが必要なんです…貸していただけませんか」
「えっ…!?カオスをですか!あれは危険な魔剣で…」
「危険なのは承知の上です。どうか…」
「セルさん、アリオスさんなら大丈夫かもしれないし、ダメならあたしが使うし…たぶん平気だから!ね!お願い!」
「あ…う…そのぉ…ええと…ううう…はぁ…」
セルさんは顔を白黒させた挙げ句、ため息をついてうなだれた。
「…りません…」
「え?なんて?
「ありません!今ここにカオスはないんです!」
「はぁー!?なんで?盗まれたとか!?」
「そうです!盗まれちゃったんですー!ごめんなさーい!」
「「えーーーーーーーーーーーーー!?」」
とりあえずセルさんを落ち着かせてから話を聞いた。
カオスは貴重なものと言うことで、地下の倉庫で厳重に保管していたらしい。
セルさんが鍵を管理し、定期的に見回りもしていたそうだ。
だが、ある日倉庫の掃除をしていたとき。
『儂埃っぽいのきらーい!たまには外の空気を吸わせてくれん?息がつまりそうなのよ…儂、呼吸しとらんけど』
などと言うので、まあたまには…少しだけですよ、と外に持ち出して大聖堂の庭に置いた。
『おほーいい天気じゃのー…』などと気の抜けた声を漏らすカオスに釣られて、セルさんはちょっとだけ居眠りをしてしまった。
そして目を覚ますとカオスは無かったそうだ。
門の番をしていた神官見習いが走り去るボロ服の男を見たと言うが…未だに犯人は捕まっていないらしい…
「どーすんですか!ほんとか知らないけどあの剣、持ってるとだんだん頭がおかしくなってくるって…」
「流石は魔剣…そんな危険があるんだ」
「あくまで本人談で、おかしくなった人は見たことないですが」
「それにしゃべるのか…本人…本剣?の性格は?やっぱり狂暴なんですか?」
「その…なんと言うか…」
「神官フェチのスケベジジイだよ」
「ええ…イメージ崩れるなあ…」
「ともかく、あんなんでも切れ味はヤバいんです!被害がでる前に取っ捕まえましょう!」
「ああ!」「そうですね!」
というわけであたしたちは街中へと向かった。
「では、がんばってくださいねー」
まるでやる気のないコーラさんをほっぽって、あたしたちとセルさんは手分けしてレッドの街を走り回った。
「ワヨソさん!剣知らない!?」
「あらエールさん。剣ならあなたとその赤毛の戦士さんの腰と背中に二本づつ差されてますわー…」
「これじゃなくてカオスが…あ、でもあたしとアリオスさん、ちょっとペアルックっぽいかも?」
「いや、今はそんな場合じゃ…」
「おそらく大聖堂の剣が盗まれた件ですわよねー?」
「あ、うん…ずっと寝てるのになんでそんなこと知ってんだろ…」
「ベンビール商店は清く正しく手広い商売を心がけておりますし~故買品なんて扱いませんわー…ふぁぁ…他を当たってくださいな…ぐぅぐぅ…」
「寝た!?」
「こういう人なんです、次行きましょう!」
「マスター。カオスが…お兄ちゃんの剣が盗まれちゃって…」
「お?捜索依頼か?ならこの書類に必要事項を…」
「そうじゃなくって…」
「なんだ。ここは盗賊ギルドじゃないぞ。盗品の行方なんてわからんよ…他で聞いた方がいいぞ。調査依頼ならここに必要事項を…」
「そうですね、すみません」
「あら、エールちゃん。お帰りなさいー…そちらの方はー?」
「ただいまスリアさん!この人はアリオスさんだよ!えーとその…えへへ…」
「ど、どうも…」
「……………………これはこれは初めましてー。この宿を切り盛りしてますスリアですー。ゆっくりしていってくださいねー」
「あ、そうだスリアさーん!剣知らない?」
「剣?エールちゃんにはその双剣があるじゃないですかー。とってもよくお似合いですよー?どこで手に入れたかは知りませんが。」
「そうじゃなくて…」かくかくしかじか
「なるほどー…ちょっと待ってくださいねー…」
スリアさんは動きを止めて空中を眺め…
「そういえばー。欠けレンガ通りのあたりで血走った眼をした男がしゃべる剣を持ってうろついていたー。怖いですねー。みたいな話を聞きましたー」
「ずいぶん具体的だな…」
「スリアさんはうわさ話に詳しいから!早速行ってみよう!」
「エールちゃん、今日はご飯食べていきますよねー?用意しておきますからー」
「はーい、行ってきまーす!行こうアリオスさん!」
途中でセルさんと合流し、大通りからはだいぶ外れた欠けレンガ通りに足を踏み入れた。
名前の通りレッド自慢のレンガ畳もボロボロで、あちこち土が露出していたり、
街並みもぼろっちくて、ところどころ赤レンガでなくて赤樫で作られている建物も見える。
「この辺りは初めて来ますね…」
「エールちゃん、ここが?」
「うん。ここが欠けレンガ通りだよ。レッドの中でもあんまりガラがよくないところで…」
あたしが軽く説明しようとした瞬間。
「うぎゃあああ!」「人殺しだー…ぎゃっ!」「たっ!助けてくれーッ!」
路地から悲鳴が聞こえてきたのだった!
ランス6でセルさんがカオスをどうしても捨てようとする原因になる
魔剣カオス盗難事件についてです。
まぁ後付けではあるのですが、こういうことがあったなら頑なになるのも仕方ないな、と言う感じに書けたらいいなと思います