【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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予約投稿の年度が2025年になっていたぜ!


34.エールちゃんはまたまたドン引きする

悲鳴が上がった路地に駆け込むと、そこはまあ…とってもスプラッターであった。

「うわーっ!人殺しだーっ!」「やめろ!ダン…おまえ…ぐわっ!」「きゃーっ!」「ぎゃーっ!」

狭い路地はあちこちに何人もの人が倒れていて、うめいていたりいなかったり。

彼らから流れ出る液体で、レッドの街の赤い町並みがさらに真っ赤に染まっている。

「うえー…」

あたしもそれなりに修羅場をくぐっているし、今さら死体の一つや二つでギャーギャー言う感じじゃないけどさー…正直きつい…

あんまり詳しく描写したくない。タグの問題ではなく。

「これは…ひどい…!」「ああ…そんな……神よ…」

アリオスさんは顔をしかめ、セルさんは真っ青になり聖印を握り絞めている。

そりゃそうだ。こんな光景みちゃったらなあ…特にセルさんは自分が原因でもあるし…

「ぐげ、がっ…やめ…べっ…げっ………」

「っ、いひっ、いひひひひっ!ひゃはははは!」

で、それをやったとおぼしきボロ服の男が、道の真ん中で笑いながら倒れた男をザクザク刺している。

その手にあるのは…

「カオスだね…」「ええ…」「あれが…」

柄のところに二つの目のような装飾のある剣。カオスだ。

「…おー、セルさんとエールの嬢ちゃんか。」

血まみれのカオスがこちらに目を向ける。

「カオス…これ…」

「あー。ほれ、言ってた通り。適性のない奴が儂を持つと…まぁこんなふうにおかしくなるのよ。ぐえっ」

もう動かない男の腹にねじ込まれて、噴き出した血がカオスにかかる。。

「ぺっぺっ…この盗賊は特にダメだ。完全に心が壊れとる…はーぁ。だからとっとと返せって言ってやったのにのう」

カオスはつまらなそうな…まるであたしが恐竜肉の焼き串に使っていた時と同じ態度で言葉を紡いでいる。

「っつーわけで、とっととこいつを片してくれんかのう。魔人相手でもないのに頭おかしい男に振るわれるなんてまっぴらよ」

「…ひっ、ひひひ…女ぁ…ガキ…ひひひ…血、血ぃ…」

「ぎゃーーー!こら!儂を舐めるな!気持ち悪いんじゃー!」

カオスに滴る血に舌を這わせ、男が血走った眼をこちらに向けた。

顔は怖いし血まみれで恐ろしいけど…構えた感じは…まぁ、うん。

「うわ、こっち向いた…」「神よ…」

「…二人とも、下がって」

アリオスさんが前に出て剣を構える。

「行くぞ!」「ケヒャーーー!」「はあっ!」

カオスとアリオスさんの剣が音を立ててぶつかり合い…ガキンと音を立ててカオスが宙に舞った。

「ゲッ!?」「それっ」

丸腰になった男は、アリオスさんの返す刀の平でスパーンとはたかれて気絶した。

「まぁ、一合で…?」

「頭おかしくなるだけで強くなってたわけじゃないみたいね」

ちょっと暴走したくらいで簡単に強くなれるなんて甘い話はないのである。

「でも、十分被害は甚大みたいだけど…おっと、カオスを回収しなきゃ」

あたしは石畳に転がったカオスを拾おうとして…いったん引っ込めて、ハンカチ越しに掴んで拾った。

「…はぁ…すまんのう、お嬢ちゃん。こうなるのもいつ以来か…少なくとも千年以上ぶりじゃのう」

カオスもどことなく気落ちした感じだ。

「…あ、いけません。今は…神よ、ご慈悲を…」

セルさんはまだ息のある怪我人にヒーリングをかけ始めた。

あたしはカオスに話しかける。

「お兄ちゃんみたいな人ってやっぱり珍しいんだね」

「そうね…個人差はあるのう。人によっては持っているだけでおかしくなるし…特に人や魔物を斬ると一気に悪化するな。心の友ほど影響を受けない奴も珍しいのよ」

「あたしも結構長く一緒にいたけど、おかしくはならなかったよね」

「お嬢ちゃんもかなり耐性がある方だの。しかし儂を武器として使ったことはなかったじゃろ」

「そだねー…」焼き串にはしたけど…

「エールちゃん、それが…」「ええ、魔剣カオスです」

剣を仕舞ったアリオスさんがそばに来ていた。振り向いてカオスを見せる。

「なんじゃこいつは?」

尋ねるカオスに、アリオスさんは神妙な表情で話しかけた。

「…魔剣カオス。俺はアリオス・テオマン。勇者だ。実は…」

「パス。」

カオスは視線も合わせず断った。えー…

「え、まだ何も言ってな…」

「どうせ力を貸せ、とかじゃろ?確かに腕は立つようだが…経験上、お前さんみたいな優柔不断な真面目くんタイプは儂と相性最悪なんじゃ。」

「だ、だけど…」

「でももカカシもないわい。悪いことは言わん。やめとけ。さっきの男は腕がへっぽこじゃったからこの程度で済んだが…お前さんの場合どうなるか、想像はつくじゃろ」

「…」「…」

カオスのテンションの低い乾いた声に、あたし達は何も言えなくなったのだった。

 

とりあえずあたしたちは、スリアさんの下宿に引っ込んで今後の話をすることにした。

「大変だったね…」

「ええ…セルさん、落ち着きました?」

「すいません、大丈夫です…」

カオスは布で包んで置いてある。不満を漏らす様子もない。

「あの男はどうなったのかな?」

「あたし聞いてきましたよ。なんでも…」

あのあと警備隊が男を捕まえて取り調べたのだが、近所の人の話によると、なんでもあの男は奥さんの薬代のために盗みをしていたらしい。

そして奥さんはベッドの上でズタズタに斬り刻まれていたそうだ。その後、男は通りにでてあたりの人間を片っ端から…

男は意識が戻らないらしい。牢屋の中で口から意味のないうわ言を漏らしながらうろうろするだけだとか。

自分が何をしたかも分かんないだろうが、その方が幸せかもしれない。

セルさんの顔色がヤバかったので代わりに聞いてきたのだが、正直ご飯の美味しくなる話ではなかったな…

聞き終えたセルさんが聖印を握り締める。

「…そうですか…神よ…どうか…どうか彼らに憐れみを…」

「どうぞ、お茶ですー。」

「あ、すみません」

必死で祈るセルさんにスリアさんがお茶を出してくれた。

「そんなに根を詰めなくても大丈夫ですよー。神は見てくれていますからー。」

「そ、そうでしょうか…」

「ええー。きっと笑って許してくださいますー。」

「げふっ…」

にこにこ笑うスリアさんの隣で、なんかコーラさんが何かを我慢しているような顔して悶えている。何があったんだろ?

「…ありがとうございます。取り乱してすいませんでした…」

ちょっとはセルさんも落ち着いたようだ。

「それで、カオスはどうしようか…」

スリアさんが台所に戻るのを待って、あたしたちは話し始めた。

「…やはり封印すべきでは…?」

「いや、詳しくは言えないのですがカオスが必要でして…」

「でも、アリオスさんは使えないっていうし」

「エールちゃんなら使えるんじゃ?」

「あー。まあ感覚的には大丈夫じゃないかのう?心の友の妹じゃし」

「そんな…危険です…エールちゃんが暴走したら私…」

「うーん…前に一緒に過ごしたときは平気だったんだけどなあ」

あれを見ちゃうとなあ…うーん…

「とにかく、カオスは危険です…封印すべきです…!」

「うーん…」

3人と1本の間にしばし沈黙が下りる。口を開いたのはアリオスさんだった。

「…分かりました。カオスは諦めます」

「アリオスさん!?」

「ああ、元々はカオスがなくてもどうにかするつもりだったんだ。考えがある、って言ったろ?」

「…わかりました。」

いいのかな?まあ、大体見当はつくけどね。

「ほっ…よかった…」

「ちぇー…まあしゃあないのう…」

安心するセルさんと不満そうなカオス。

けどそんなに騒がないのは、まあ自分でもわかってるんだろうな。

 

セルさんとカオスを大聖堂まで送った後、今日は下宿に泊まることにした。

コーラさんと合流して3人で戻る。

「あら、久しぶりにお客さんがいっぱいねー。うれしいわー」

「お邪魔します。」「…オジャマシマス…」

コーラさんがなんだかガッチガチになっている…人見知りなのかな?

スリアさんは喜んで4人分の夕食を用意してくれた。

金魚のスープにパンが入っていて驚いたのだが、よく見ると今となっては懐かしいヘルマンパンだ。

多少煮込まれて柔らかくなりつつも香ばしいパンとスープの相性はなかなかだった。

 

なんでもしばらく前に近所に引っ越してきた夫婦がパン屋を始めて、旦那さんが急に作り方を思いついたというふわふわでうまい上に力が湧く食パンを売り出して大繁盛していた。

前に食べさせてもらったパンもそれだったらしい。

が、急に旦那さんがその食パンの作り方を忘れてしまい、急にこのカチカチのヘルマンパンしか作れなくなり、店はさびれて大量の在庫を抱える羽目になった。

気の毒なのでスリアさんが引き取ってきたそうで、このスープはカチカチパンをおいしく料理するためのメニューらしい。

「そのパン屋のご夫婦は結局はどうなったんです?」

「最近ようやく普通のパンを焼けるようになってお客も戻ってきたみたいねー。スータレンさんもアミランさんも元気になってよかったわー」

「へぇー。今度寄ってみようかな」

「あら?コーラさん手が進んでないわねー。金魚はお嫌い?」

「ア、イエ…大好物です…はい…」

「そう、よかったわー。いっぱい食べてねー。ヘルマンパンは部屋がいっぱいになるくらいあるからー」

「うう…ありがとうございます…光栄です…」

「そんなに買って大丈夫なの?」

「平気よー。アレ賞味期限が5年くらいあるからー」

「じゃあスリアさん。おかわり!」「あ、俺も…」

なんでかコーラさんはヘルマンパンみたいにカチカチだったが、あたし達は気にせずお腹いっぱい食べたのだった。

 




はい、カオス盗難事件の顛末でした。

男はのちに自殺、セルさんはさらに気を病みます。
カオスが人類に必要なものであると理解しつつも悩み続け、
ランス6でカオスを求める手紙が来た時もこの光景がフラッシュバック。
近しい人達をゲラゲラ笑いながら手に掛けるランスを想像し、
カーミラダークの真っ最中でありながら廃棄迷宮へ捨てることを決意してしまいます。

カオスが言った通り、アリオスとカオスの相性は最悪で、レベルや精神力はそれなりでも2~3日で飲まれて殺戮に走る…という想定です。

ちなみにカオスを盗んだ男ですが、カオスによって限界まで力を引き出されていました。
が、剣戦闘0、才能限界L13程度ではアリオスやエールちゃんにとってはゴミ同然です。
一発で叩き伏せられましたが、その辺の警備兵にはちょっと面倒な相手ですね。
アリオスが相手でなかったらもっと被害者は出ていたかもしれません
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