翌日からあたしたちは魔王探しを始めた。
「コーラさん、魔王がどこにいるとかわかんないんですか?」
「近くに居れば大体わかるってだけです。この街に居るのは間違いないかと」
そういうもんらしい。従者の能力かなんかだろうか。
というわけでカイズの町をうろついてみたのだが…
「うーん、うまくいきませんね」
「リトルプリンセスという名前しか手がかりはないからね…」
「どうしたものでしょうか…?」
そりゃ角が生えててガオーみたいな姿だったり、ジルみたいにものすごい威圧感を放っていたら人間社会に潜伏なんてできないだろう。
きっと人間と見分けがつかないような姿をしているに違いない…けど、となるとどうやって探したものか。
一度戻って、一同で(コーラさん除く)頭を抱えてうんうんうなっていると、エリザベートさんが口を開いた。
「そうですわ。修道院のあたりを探してみるのはどうでしょう」
「修道院?」
「ええ、男子禁制の一帯がありまして。その分人の出入りも制限されていますし、女性が隠れるにはうってつけかと」
「へぇー。じゃあ明日はあたしとエリザベートさんで探してみようか」
「じゃあ、俺とコーラは別のところを探してみるよ」
そして翌日。あたしとエリザベートは神官服を着こんで修道院エリアにやってきていた。
正直どこもかしこも教会だらけの街並みで、カイズのほかの場所と違いは分からないが、確かに歩いているのは女性ばかりで、大半は神官服だ。
「…えーと、エリザベートさん。まずはここを一周してみようか」
「…ええ、エールさん。そういたしましょう」
あたしたち二人だけだと微妙に気まずいな…なんかあんまりバチバチするのもアレだしなぁ…
気まずい雰囲気のまま修道院エリアを一回りしてみたのだが…
「出歩いてる人はそんなにいないねここ」
「そうですわね、祈祷や神学、礼儀作法の授業などを受けている方が大半ですし」
入り口のあたりを離れると人影はほとんどなかった。その辺の建物からは聖歌だの聖句だのが聞こえてくるので人はいるんだろうが…
「まさか魔王がそんなもの習ったりしないでしょうし…」
「そうだよね…讃美歌とか聞いたらキレそう…でも、このままうろついてもあんまり意味はなさそうだね」
「ふむ…でしたらいいところを知っていますわ。こちらです」
エリザベートの後について歩いていくと、ちょっと開けた場所に立っている小さな教会があった。
でも周りには丸テーブルと椅子が並べられてて…
「えーと、見た目は教会だけど…」
「まるで喫茶店のようですが、喫茶店ではありませんよ」
「えーでも…」
隅の方の席では、女の子が何人かクッキーを食べながら談笑していて、その隣ではえらい美人の女性が本を読みながらお茶を優雅に楽しんでいる。
無論、全員服装は神官のものだが…
「どう見ても喫茶店じゃん。あっちのカウンターに神官服にエプロンの店員さんいるし」
「あくまでも教会であの方はシスターです」
「でもあの子お金払ってクッキーとお茶買ってるじゃん」
「喜捨をすると神の御恵みである聖餅と飲み物を分けていただけるのです」
「あっちの綺麗な女の人、ドラゴンパッチの最新刊読んでるね」
「えっ?もう最新刊でてたんですか?見逃してました…ではなく。時として見聞を広めるのも大事なことなのです」
「…はぁ…なるほど…」
そういうものらしい。カイズの真ん中でお店なんかできるはずがないけど、そりゃ甘いものは欲しいもんね。
「というわけで私たちも喜捨をしてしばしここで寛ぎ…いえ、祈りを捧げませんか?」
「うん、この辺は人通りも多いし。そうしよっか。」
あたし達はお茶とクッキー…じゃない、喜捨をして聖餅と飲み物を分けてもらって適当な席に着いた。
しばしの沈黙の後、エリザべートが切り出す。
「…エールさん。黙って座っているのもなんですし、少しお話しません?…アリオスさんの事とか。」
「…そーだね。エリザベートさん。監視の邪魔にならない程度に…ね。」
あたし達はお茶を飲んで、話し始めた。
そしてしばらく後。
「えー…エールの方でもそうなのですか…」
「うん…アリオスさんったら悪魔の女の子にまで助けて、親切にした挙句付きまとわれそうになって…」
「やはりそうなのですね!私が巡礼中にアリオス様に助けて頂いた時もセシルという名の露出度の高い女傭兵といい感じで…」
「エリザベートの時も?絶対どこ行っても女の子引っ掛けてるよね!よく考えたらゼスに居た時もウィチタさんとかと絡んでたし、生まれた村にも幼馴染の女の子がいたって話だし!」
「アリオス様がどなたにも優しいのは素晴らしいことなのですが…もう少し節操というものをですね…」
「わかるー!ピンチに駆けつけてくれたりするのは本当にかっこいいんだけど、ちょっとだけ気取りすぎっていうか…」
気が付くとあたしとエリザベートは話に夢中になっていた。既にお茶とクッキーは何度もお代わりしている。
結構美味しいしね、これ…素朴な味だが飽きが来ない。お土産に少し持って帰ろうかな…
「それでさー…」
「貴方達。」「え…はい」
あたし達の背後から抑えた声が掛けられた。振り向けば年配のシスターが立っている。
「…ここは教会です。そういう事になっています。せめてもう少し声は抑えるように。いいですね?」
「はい…すみません」「は、はい…申し訳ございません…」
シスターは頷くと去っていき、あたし達はほっと息を吐いた。
「盛り上がりすぎちゃったねー…」
「そうですわね…監視の事すっかり忘れていましたわ」
「うん、今からでもちゃんとやろっか。この辺に怪しい奴は…」
ぐるっと首を巡らせてあたりを見回す。
話している間に客が何組かは入れ替わっていて、隅のテーブルで本を読んでいた女性のテーブルにも一人客が増えて…っ!?
「なーハウゼルー。あたし達何時までここに居るんだー?」
神官服からはみ出した燃えるような赤毛のポニーテールが揺れている。
その問いに、先ほどまで本を読んでいた美人が答えた。
「さあ…わかりません。あくまでもあの方の御意思を尊重するように、と命令されたでしょう?」
「はぁ…そうだけどさぁ…」
その赤毛の持ち主は、つまらなそうにクッキーをかじってため息をついた。
「…っ…」
服装は違うし、あのガーディアンもつれていない。
だが、間違いない。血の気が引く。レッドの街での襲撃の記憶がよぎる。
エリザベートがあたしの顔を覗き込んできた。
「…どうしたんですかエール…まさか…」
声を潜めて、あたしは答えた。
「うん、見つけた。あれはサテラ…魔人だよ…!」
「…っ…」
顔を青くするエリザベートに座るように手で示して、あたしは頭巾を深くかぶり直す。
サテラにはあたしの顔も見られている。
お兄ちゃんのはともかく、あたしの顔なんて覚えているとは思えないけど念のためだ。
「…あの赤毛の女性が魔人だと…?でしたらもう片方も…」
「うん…魔人かも。…で、魔人たちが『あの方』なんて呼ぶ存在は…」
「…魔王…ですわね…」
どうやら、手掛かりを見つけたようだ。魔王は本当にカイズに居たのだ。
「…ど、どうしましょう…?」
エリザベートの声は震えている。荒事には慣れてないみたいだしね。無理もない。
「あたしが見張ってるよ。エリザベートは…アリオスさんたちに知らせに行って」
「エール…でも…」
「いいから。早く。でも怪しまれないようにゆっくりね」
逡巡する彼女を促して立ち上がらせると、エリザベートは頷いて歩き去った。
「じゃ、また後でねー。さて、あたしもそろそろお祈りに戻らないと」
がんばって能天気な声を捻りだして手を振って見送り、席を立って教会を離れる。
少しばかり離れて、サテラたちの視線がこちらに向いていないことを確かめてから、様子をうかがえる建物の陰に飛び込んだ。
「…ここからなら…」
十分距離は取っている…とはいえ、やっぱり怖い。
やっぱりカオスがないと心細いな…いや、お兄ちゃんがいないからか。あの根拠のない自信が懐かしい。
でもお兄ちゃんいまは療養中だしなぁ…アリオスさん早く来てよ…
あたしは、いろいろ考えつつこっそりと魔人二人を見張るのだった。
アリオスの十人の女のうち、少しでも情報がある四人にはこれで全員触れられました。
こういう設定だけはあるけど本編に全然でてこない要素を拾うのが好きです