見張っているうちに魔人サテラとハウゼルとかいう女は席を立って移動し始め、あたしはこっそり後を付けて二人が少し離れたところにある二階建ての一軒家のような建物に入るのを確認した。
あたしも別に尾行が得意なわけじゃないし、見つかったらどうしようと思っていたのだが…後ろを気にするそぶりもなく、すんなり居場所を特定できた。
人間なんかに傷つけられるわけない、って感じだな。前にお兄ちゃんにさんざんな目に遭わされたのに…
まぁいいか、好都合だよね。というわけであたしは引き返して皆と合流した。
アリオスさんは物陰から建物を覗き込んだ。
「その二人はあそこに入っていったのか…」
「ええ、一人は間違いなく魔人サテラでした」
「それで、『あの方』がどうのとか話しておりましたし…」
「…なるほど。あそこに魔王が隠れている可能性は高いな…」
厳しい表情で頷くアリオスさん。
「…夜に襲撃をかけよう。エールちゃん、エリザベート。すまないけど…」
「…うん、わかった。」「ええ、魔封印結界ですわね」
「ああ、まずは建物の周りにこっそり触媒を配置、不意打ちで結界を張る。それで倒れてくれればよし、破られたら俺が斬り込む。」
「分かりましたわ」「了解です」
「よし、じゃあ準備に入ろう」
あたし達はエリザベートの家に戻り一休みして、日が沈むころに出発した。
「…それでは、結界志木を配置していきますわね」
「うん、お願いね」
エリザベートが建物を囲むようにこっそりと触媒を配置していく。
一見ぼろい金属棒だが…ちょいと魔力を通した感じでは大丈夫。呪文もちゃんと覚えてる…よし。
アリオスさんは入り口の近くに立ち、エリザベートとコーラさんとはあたしの後ろ。
こちらを見るアリオスさんと視線を合わせて頷き合い、あたしは詠唱を始めた。
「 天にまします我らが神よ
四方より、聖具と共に、捧げ奉ります
呪われし魂に安らぎを
邪なる息吹に浄めの祈りを
魔なる者よ。呪われし者よ。邪なる者よ
祝福の雷霆に導かれ、とこしえの眠りを
彼の者に、哀れみを!魔封印結界!!」
聖句とともに稲光で構成された四角い結界が発生、建物の一階部分を包み込んだ!
「ぐああっ!?なん…だっ!これは…あの時の!くうっ!」
「魔封印結界…!?何故急に…ぐあああっ!」
中からは二つの悲鳴が聞こえてくる。少なくとも魔人二人は巻き込めたようだ。
このまま封印して殺せれば…そう思っていたのだが。
「くううううっ…こ…の…程度!」「…っ!ぐっ!」
サテラのではない声とともに中からの圧力が増す!あたしは必死に結界を維持するが…
「え、エールさん…頑張って…ああっ!?」
エリザべートが悲鳴を上げる。視線を上げてみれば、目の前の結界志木にヒビが入って…どんどん大きくなってる!
「…あーもう!」このオンボロ触媒!あたしは心の中で罵りつつ、一歩前に出た!
「くっ…くうううううううううううううう!」全身に電撃を浴びたような痛みが走るが…結界は解除しない!
「エールさん!?自分を触媒代わりに!?」「エールちゃん!」
「あああああっ!ハウ…ゼル…っ…」
「ぐっ…この術者…なかなか…うあああああああああああああ!」
「ふんがあああああああああああああ!」
あたしを含めた3人の悲鳴が響き…パキィン、という音とともに結界が消えた。
別の個所の結界志木が折れたようだ。あたしは膝をつき、地面に突っ伏す。
あ~~~~きっつい…でも…
「大丈夫かい…」「…アリオスさん!行って!今なら無敵結界は…」
こちらに駆け寄ろうとするアリオスさんに怒鳴る。
「……分かった!エリザベート!エールちゃんを…」
「はい!任せてください!」
エリザベートにそれだけ言って、アリオスさんは建物の中に飛び込んでいった。
「はああっ!そりゃあああ!」
「…なんだお前…くっ…ああああああ!」
「サテラっ!?よくも…きゃあああああああああ!」
「がはっ…う…」「あ…っ…ホーネッ…様…サイゼ…」
中から悲鳴とともにどさどさ、と倒れる音。結界は解除できてたようだ…
「…よし…」
アリオスさんの声とともに、ごろんごろん、と何かが転がる音が聞こえた。
そして、アリオスさんは窓が開いていない二階へと階段を上がっていき…何も聞こえなくなった。
「………」「…………」
あたしもエリザベートも何も言わないまま時が過ぎる。
「…戻ってこないね…」「そうですわね…あ!」
入り口の扉が開き、アリオスさんが姿を見せた。
「アリオス様!」「アリオスさん…いたた…」
まだうまく立てないあたしを尻目にエリザベートが駆け寄り、アリオスさんがこちらを向いた。
「…ああ、二人とも。ありがとう」
なんだか返事に元気がないな…
「ど、どうだったんですか?魔王は?」
「…その。ごめん。俺には…無理だった。勇者…向いてないな…」
そのままとぼとぼと歩きはじめる。
「アリオス様!?」「アリオスさん!?…くっ…」
立ち上がろうとするが、まだ足がしびれててうまく歩けない。
「あ…エールさん、すみません!」
エリザベートはアリオスさんを追いかけて行ってしまった…
「ぐぬぬぬ…よっと。」
あたしはどうにか立ち上がった。
建物の中で何があったんだろう?魔王は殺せなかったみたいだけど…
ヒーリングをかけつつひーこらと歩いて建物の中を覗き込んだ。
部屋の中には赤い球…魔血魂が2個転がっている…アリオスさん、魔人は殺したんだな。
じゃあ何が…と思ったところで、ギシギシと階段を下りる音が聞こえた。
「っ!?」とっさに身構えるが、特にできることもない。
階段を降り切った何者かはこちらに顔を向け…
「あれ、エールちゃん?ひさしぶりー」「エール…?」「…すぴーっ」
「……え?健太郎くん!?それに美樹ちゃん!?日光さんも!?」
姿を現したのは、しばらく前に異世界に消えたはずの友人たちだった。
健太郎くん達はここから離れたいようなので、歩きながら話をすることにした。
美樹ちゃんは健太郎くんの背中でよく寝ている。
アリオスさんの事は気になるけど…まずはこっちだよね。
「…美樹ちゃんが、魔王リトルプリンセスだったんだね」
「…うん、内緒にしててごめんね」
「いや、魔人かなーとは薄々思ってたんだけどね。まさか魔王だとは…」
リトルプリンセスっていうからもっと子供かと思ってた。
美樹ちゃん、あたしと身長大して変わんないし…うーん。まぁあたしも大きい方じゃないけど。盲点だったなぁ…
「それで、いったいなんで魔人と一緒にこんなところに?」
「それがですね…」
日光さんがかいつまんで説明してくれたことによると、元の世界に戻って一か月くらいでヒラミレモンが切れて美樹ちゃんが魔王になりそうになり、急いで次元の門をくぐってこちらに戻って来たそうだ。
次元の門は壊れてしまったが、あたしの残した荷物のヒラミレモンは役に立ったたしい。
まぁそれでは足りないのでサーレン山に調達に行ったところを、待ち構えていた魔人たちにつかまってしまった。
なんでも、今魔人たちは「美樹ちゃんに魔王になってもらおうぜ派」と「やる気ない魔王なんてぶっ殺しちまえ派」に分かれて争っており、魔人二人は前者の派閥…ホーネット派の一員だったらしい。
で、後者のケイブリス派につかまらないように同行して護衛する…という名目でついてきたらしいのだが。まぁ監視だよね。
魔王になりたくない美樹ちゃんからすればどっちもどっちだし。
で、二人が片付いたこのタイミングでさっさと逃げようとしているようだ。
「しかし…少しまずいですね。」
「なんです日光さん?」
「ホーネット派の魔人二人がこんなところで滅びては…ホーネット派の戦力低下は避けられません。ケイブリス派が勢いづきます」
「でもまぁ大差ないんじゃないの?」
「…ケイブリスと比べれば、ホーネットはまだ比較的穏健です…ケイブリス派が勝てば、魔軍は再び人類圏に…」
「え?それやばくない…?」
===============================================
『うん、ちょっとタイミングが早いかな』
===============================================
「…あれ?」
なんか、一瞬ぼーっとしていたような…
「あ、でも大丈夫じゃないですか?サテラさんもハウゼルさんも、気絶してただけだったし…」
寝てる美樹ちゃんを背負った健太郎くんが能天気に言う。
「…おや…?ええ、そうですね…」
「うん、そうだよね…」
日光さんと二人で相槌を打つ。
あたしが部屋を覗き込んだ時も、魔人たちは傷を負って倒れていただけだった…よね。
おかしなところはない…はずだ。
「あの、これからどうするんです?」
「二人が目を覚ます前に渡し舟に乗って逃げたい…んだけどもう船は出てないよね…」
「そうですね、じゃあ今日はどこかで…」
「エールーーーー!」
言ったところで、エリザベートが走ってきた。
「あれ?どしたの?」
「はぁ…はぁ…大変なんです…アリオス様が…アリオス様が…どこかに居なくなってしまいましたの!」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
アリオスの美樹襲撃の顛末ですが、
自分のなかでつじつまを合わせるのにめちゃめちゃ苦労しました。
・エスクードソードは未開放
・勇者の特殊能力に無敵結界突破の手段はない
・カオスは日光とJAPANで再会しているのでここでは出会っていない、カオスは使われていない
・魔封印結界しかない
まではよかったのですが
・アリオスは、無敵結界を解除して倒せる状態になったサテラとハウゼルを何故か殺さなかった
この理由がいくら考えても思いつかず…強引に解決することにしました。
流石に「女の子は切れないよ~」で二人とも見逃したとも思えませんし…
アリオスとしては、
魔王はあんな普通の女の子で、聞けば魔王になりたくないので逃げながら手段を探しているというし、斬るのは忍びないな…
ま、魔人は二人も殺せたしいいか!立派立派!俺にしちゃ上出来…
=======================================================
…あれ?よく考えたら俺魔王どころか魔人も斬ってないな…俺、何もできなかった…
と、めちゃめちゃ消沈する感じになりました。
史実より心折れ度が高いので、冒険にすら出られなくなるかもしれませんね
あと
魔物界にて
サイゼル「(ぴきーん)えっ…ハウゼル…ハウゼルが!?そんな!?うわああああああ!!!」
ユキ「ケケケケケケ、落ち着いてくださいご主人」
サイゼル「うん」
ユキ「うわぁ!急に落ち着くな!」
みたいなことがありました
UAが6万に到達しました。
だいぶ長くなったこの話もだいたい500人くらいは読んでくれているということで、ありがとうございます。
2章もそろそろ終わりですが、もうちょっと頑張ろうと思います