【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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6.エールちゃんは船に乗る

 アイスから街道をひたすら西に進むと急に視界がぶわーっと開けた。

「うわー……これがシナ海……」

 大陸中央を流れる大河は、あるところから大潮の時期に現れる『海』と同じく、塩辛い水に変わる。そこから下流をシナ海と呼ぶらしい。

 近くに展望台があったのでそこから見渡してみると、見渡す限りに大きな水面が広がっており、向こう岸は霞んで見えない。崖の下の水面はばしゃーんばしゃーんと岸を洗っていて、遠くでなにかのサカナが跳ねるのが見えた。

「はぁー……風も心なしかしょっぱい……」

 

 ひとしきり堪能した後、南に向けて出発した。北に行くとロックアースという町があるけど、あんまりよろしくないところらしい。まあ、遠いし用はないよね。

 あたしは海を時おり眺めながらずんずん南に進んでいく。

 

 歩いていると日が暮れてきたし、ちょうど夜営にちょうど良さそうな原っぱがあったのでここで休むことにしよう。

「てってれーてーれーれーらー♪ てってれーてーれーれー……ん?」

「……」

 鼻歌を歌いながら簡易テントを立てて焚火なんかの夜営準備をしていると、離れたところからヤンキーが一匹こちらを伺っていた。

「なんだヤンキーか。はー、めんどくさー……」

 まあ一匹ならすぐ終わるかな……剣を抜いて近づくと、ヤンキーも吠えながらバットを構えた。

「ゴアア!」ヤンキーは力任せにバットを振り回してくるが、冷静になれば見切るのは難しくない。

「そりゃ!」ズバッ「ガアーッ!」

 あっさりと掻い潜って駆け抜け様に脇腹を切り裂く。悲鳴を上げて傷口を押さえるヤンキーに、切り返して追撃をかけた。

「ふん!」ガキッ「はっ!」

 片手で突き出されたバットを神官ソードで切り払い、返す刀で首をはね切る! 

 ヤンキーは倒れてひとつ震えると動かなくなり、あたしはため息をついて剣を拭いて鞘にしまう。

 

「街道なのに物騒なんだなー。まあ一匹ならいいけどさ」

 あたしは経験値になった憐れなヤンキーに一応祈りを捧げてからテントに戻った。

 晩御飯はアイスを出るときに買ったホットドッグだ。包みを開いてかぶりつく。

「あっ、これ赤いな……アカメフルトじゃんこれ……まあ美味しいからいいけど……」

 アカメは見たことある。真っ赤な肉の塊みたいな一つ目モンスターで、炎系の魔法を使ってくるのだ。

 アカメフルトがあるということは食べられるんだろうか? あまり食欲を誘う見た目でもないが……

 ヤンキーは食べられないから倒してもいいことないな、等と思いつつ毛布をかぶって寝た。

 

 次の日からはモンスターに出くわすこともなく、他の冒険者や隊商とすれ違うくらいで何事もなく移動を続け、潮風にも味気ない保存食にも飽きてきたころ、ようやくジフテリアが見えてきた。

 

「おー……あれが港町ジフテリアかぁ……」

 

 ジフテリアはシナ海に面しており、川中島にあるカイズや海の向こうのゼスとの交易で栄えている。

 なにせ自由都市からゼスに行こうとするとリーザスとの最前線、パラパラ砦とアダムの砦を抜ける上に間の砂漠を通らなくてはならない。

 リーザスとゼスの関係はあんまりよくないし、入国手続きもめんどい。必然、やり取りは船便が主流というわけだ。

 町並みにもあちらこちらにゼス風なのか、まるっこくてとがった感じの建物が見つけられる。街灯も魔法式だったり、異国情緒が溢れる面白い町並みだ。

 

 見物ついでに港に向かってみる。

「へぇ──……やっぱ活気があるなあ……うわー……」

 港には大きな船が行き交い、海の男達が怒鳴りながら荷物を運んだりうしクレーンで積み降ろしをしていた。

 

「へいお嬢ちゃん! こっちを見な! むん!」「ふん!」「ハァ!」

「……わーっかっこいー。キレてるー」(ぱちぱち

 マッチョ達の作業をしばらく眺めていると男達がポージングを決めてきて、正直暑苦しかったが笑顔を作って拍手をすると満足そうに去っていった。

 

 船着き場にいってカイズ行きの船を探すと、一際豪勢でゴテゴテした船が見つかった。

 船首にはアリス様の彫刻があり、「女神の祝福号」というらしい。女神様の加護でこれまで一度も沈んだことがないんだとか。

(それって当たり前なんじゃ……)

 と思いつつ、セルさんから渡された乗船券を見せるとすんなり乗せてもらえた。

 

 船を探検してみると、こんな悪趣味な見た目でもAL教の船だけあり、バリスタもいくつか載っているし、立派な軍船である。

 その辺りの船員もなんだかさっきの連中と比べて服装もパリッとしていて動きがきびきびしている。さすがだなーと眺めていたらやはりポージングを見せつけてきた。船乗りの習性なのかな……? 

 

 そろそろ出港だ、というときに上等な服を着た同じ年くらいの男の子が、テンプルナイトを何人かを引き連れて船に乗ってきた。

 

「へー、テンプルナイトが護衛なんていいところの子っぽいけど……もしかしてあたしと同じ留学生かな?」

 声でもかけてみようか? 

「ねえあなたも留学……わっ」

 テンプルナイト達が間を遮るように割り込み、男の子は彼らの隙間から私の格好を見て、フッと鼻で笑って船室に去っていった。

「……」

 片手を上げたポーズのままあたしは固まっていた。

 そりゃあたしの装備は中古の皮鎧とお古の神官ソードだけどその態度はないでしょ! その顔覚えたからね! 

 内心かなりキレていたが、出港して船が動き出すとどうでも良くなってしまった。

 

「わぁー……!」

 舳先に立ったあたしは感嘆の声を漏らした。

 パンパンに張った帆が風を受け、舳先が波を砕いて進んでいくのは、内地育ちのあたしにとっては初めて見る光景だ。

 夕方になり陽が赤くなると、見渡すかぎりの水面も紅に染まっていく。あたしは陽が完全に沈むまで飽きずに眺めていた。

 

 そして船の中で一夜を過ごし、翌朝。あたしは産まれて初めてカイズの地を踏んだのだった。




ヤンキー
ゴブリンが茶色になってでかくなった感じの
こん棒代わりのバットを振り回してくる初級モンスター。
対して強くもないが一般人には十分な驚異。
ネイティブヤンキーやコマンドヤンキーなどの亜種もいるらしい。

アカメ
直立した肉塊に一つ目がついてる感じのモンスター。
炎系の魔法を使うのでさっさと退治したい。

港町ジフテリア
大陸周辺は断崖になっている平面形状のこの世界ではとても珍しい港町。
海運で宗教都市カイズや魔法大国ゼスと交易して栄えている。
都市長はAL教の司祭の資格を持つなど、AL教との関係も深い。
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