【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

13 / 198
7.エールちゃんはカイズで過ごす

 船から見えるカイズの町並みは、真ん中の大きな神殿を中心にひたすら教会が集まっているという感じで、どれもAL教のシンボルを掲げているのは同じだけど建物の形も大きさもさまざまだ。たぶん大陸各地の様式なのかな? 

 

 このままカイズに船を着けるのかなーと思っていたが、川中島の港に向かい、そこから小舟に乗り換えてから向かうみたいだ。

 

 小舟から降りると、例のお坊っちゃんらしき神官見習いを司祭らしき人と取り巻きが迎えに来ていた。

(なるほど、どっかのお偉いさんの子供なのねーはいはい……)

 心のなかでぼやきつつ船から降りる。あたしにはお迎えなんてものはないので一人で行くしかない。まあ子供の使いじゃあるまいし、別にいいけどね。

 

「えーとジャスラ修道院……こっちかなあ」

 

 カイズの町並みを眺めながら歩いていくが、回りは神官や見習い、もしくは観光客らしい整った身なりの人たちばっかりで、金のない駆け出し冒険者、といった格好のあたしは明らかに目立っているし、

 教会や神殿の警備をしている兵士もなんとなくこちらを警戒しているっぽい。

「……」じろり

 じろじろ見られて居心地が悪いので、さっさと指定の場所に向かうことにした。

 

 目的地の、ジャスラとかいう昔の偉い人が立てたらしい教会は古びていてそれなりの威厳がある……つまりカイズの町には掃いて捨てるほどある、全く目立たない地味な感じの建物だった。

 

「ごめんくださーい。レッドのセル神官の紹介で来たものですー」

 入り口で声をかけると、おばあちゃんの神官が出てきて応対してくれた。

「あら、レッドから。遠くから大変だったでしょう……お名前は?」

「エールです。エール・クリア。あ、これ、セルさんからの手紙です」

 鞄から手紙を取り出して渡す。

「そう、エールさん。セルさんから話は聞いています。剣術と治癒術の修行をしたいとか……」

 あたしが頷くと、おばあちゃんは微妙な顔をしてから、

「まずはお部屋に荷物をおいて、身を清めていらっしゃい。着替えもありますからね」

「あ、はい……」

 とりあえず部屋に通されたあと水場で体を拭いて、着替えとして用意された神官見習いの服に袖を通した。

 古着だがちゃんと洗濯されていて、お日さまの匂いがする。孤児院のことを思い出しながら外に出ると、おばあちゃんが待っていてくれた。

「あら、良く似合っているわね。さ、こちらへ。食事にしましょう」

 

 パンと薄いスープだけのお馴染みのメニューだったが保存食よりは全然ましだ。一通り食べ終わってお祈りをしたあと、おばあちゃんは切り出した。

 

「それが、これからしばらくの治癒術の訓練の枠が、その……もう全部埋まってしまったらしいのね」

「えー? なんでそんな……」

「なんでも司教に近しい子が今年は居るらしくて……」

「ああー……」

 合点がいった。船であったムカつく子だろう。

「剣術の方なら、いい先生を紹介できるわよ」

「そうですか、じゃあお願いします」

 腹は立つがこのおばあちゃんに言っても仕方ないだろう。あたしは黙って頭を下げた。

 

 訓練は翌日からさっそく始まった。

 修道院の裏にはそんなに広くない訓練場があり、そこで待っていると鎧姿の人がガシャガシャと入ってきた。

「貴様がエール・クリアで間違いないな?」

「は、はい!」

 入ってくるなり大声で誰何してくる。あたしはなんとなく背筋を伸ばした。

 その人はテンプルナイトの尖った兜を外して顔を出した。ちょっと痩せぎみの顔に不釣り合いに派手なヒゲの神経質そうなおっさんだ。

「我が名はナベロス7世! 栄えあるナベロス家の当主にして神に身を捧げた神殿騎士である!」

「はじめまして……エール・クリアです……」

 名乗られたのでとりあえず挨拶をする。テンション高いなあ……苦手かもしれない。

 

「時間が惜しい! さっそく訓練に入る! 剣を持て!」

「は、はい!」

 

 ナベロスさんの訓練は厳しかった。

 剣にはそこそこ自信があったのだが、何度か素振りをして見せると容赦ないダメ出しが来た。

「剣の振りはいい……しかし刃筋がぐちゃぐちゃだ! 根本的に振り込みが足りんのだ!」

「へ? えー……」

「疲れ果てた時こそ騎士の真価は問われる! 明日からは素振り200回をこなしてから訓練を行う!」

「あ、あたし騎士になりたいわけじゃ……」

「いい度胸だ、400回にするか?」

「は、はいぃ!」

 ひたすらに素振りを指示されたり……

 

「剣の握り方はこのように! 握りが悪いと力が剣に伝わらず、固い敵には通じん! しっかりと手に覚え込ませろ!」

「は、はい!」

 剣の握りかたをこと細かく指摘されたり……

 

「治癒魔法を使いながら前線で戦うものは決して倒れてはならん! 貴様が倒れれば誰が戦う! 誰が傷を癒す! 貴様に鎧は向かぬだろうが……受け流しや回避の技術は身に付けておけ!」

「はい!」

 ナベロスさんが打ち込んでくるのをその場から動かずに剣で防ぎ続けたり……

 

 体はガタガタになり、手のひらにできたマメは何度もつぶれて自分で癒してはベッドに倒れ込む日々が続いたが、自分が強くなっていく実感もあり、あたしは充実していた。

 

 ナベロスさんに用事があるとかで、今日は訓練が休みになった。部屋にいてもヒマなので、解放されている図書館に出掛ることにした。

「すみませーん。魔法の本はどの辺に……」

 受付の女の子に声をかけ、彼女が振り向いた瞬間あたしは固まってしまった。

 伸ばした黒髪で片目を隠している彼女は読んでいた聖典を閉じると、こちらに向き直った。

「……魔法の本ならば左に行って奥の方です……どうかしましたか?」

「……あ、へ? えーと……いえ、なんでもないです! ありがとうございます!」

 我に返って教えられた通りに奥の方に向かう。

(あの子、同じ歳くらいかなー? ずいぶん落ち着いてたけど……)

「時間があったらもっと喋ったり、友達になったりできないかなー。うーん……」

 こちらを見ていた目にはなんの感情も宿っていなかったが、なんとなく彼女はすごく優しい人な気がするんだよね。ちょっと難しい気もするけど……

 

「おっと、魔法の本を読みに来たんだった。勉強勉強っと……」

 

「ふーん……ヒーリングには自分を強化する使い方もあるんだ……でもリスクはすごい大きいのね……」

 

「……親族鑑定の魔法? ゼスでは古くから使われていると……へー。兄さんを探すのに役立つかも、どうにかして覚えたいな……」

 

 帰り際に受付を覗いてみたが、受付は別の人になっていた。なんとなく残念に思いながら修道院に帰った。

 

 そのあと何度か図書館に来たが、結局彼女を見かけることはなかった。

 

 

 訓練の日々は続いた。

 

 例のお坊っちゃんがそんなに効き目がなさそうなヒーリングをやって回りから拍手喝采されているのを偶然見かけたり。

 

 なんか教団の偉い人? からあたしに特別な呼び出しがあったとかで呼ばれて行ったり。

 大きな神殿の地下にある、ベッドとテーブルくらいしかない変に豪華な客室らしき部屋に通されて待っていたけど誰も来ない。

 何かあったのかなと思っていたら、テンプルナイトがやってきて、開口一番「帰ってよろしい」。

 はぁ? 人を呼び出しといて何やねん! とは思ったが、仕方なく修道院に帰るとおばあちゃんがあたしのことを抱きしめて、涙をぼろぼろと溢した。

「なにもなかったよ」と伝えると目を丸くして、笑いながらあたしをまた抱きしめて女神様に感謝していた。何だったんだろ? 

 

 そして、ついに。

「うー……そりゃあ!」

 ナベロスさんが構えた盾に剣を打ち込むと同時に全身に魔力を巡らせて体力を回復する。

「はぁ……できた! できました!」

「……うむ、よし! よくぞ会得したな!」

 治癒と攻撃を両立するテンプルナイトの十八番にして奥義である『剣と加護』の習得でもって、あたしの訓練は終わった。

 

「まさか貴様がこの短期間でここまで身に付けるとは思わなかった。良く頑張ったな」

 ナベロスさんも満足そうにしている。

「はい! すごくためになりました! ありがとうございました!」

 最初は苦手かもと思ったが、しっかりと稽古をつけてくれたなあ。感謝しかない。

「どこかの騎士団の見習いとして推挙してもいいくらいだが……貴様には目的があるのだったな。まあいつでも訪ねてくるといい。ではな!」

 来たときと同じようにガッシャガッシャと去っていくナベロスさんを頭を下げて見送って、あたしは修道院に帰った。おばあちゃんは少しだけ豪勢な晩御飯を用意して待っていてくれた。

 

 そして翌朝、出立の準備をしている途中で。

 あたしは、『へルマン軍、リーザスに侵攻』のニュースを聞いたのだった。




教団の暗部に巻き込まれてバッドエンドフラグを踏みましたが、教団のすごく偉い人や人じゃないののおかげで回避しました

ナベロスさんについては名前以外情報皆無なので適当にキャラ付けしてます
たぶん
22/28
剣0
ガード1
とかそんなんです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。