【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【解毒剤を探せ】
ドルハンの毒を受けたカオルさんの容体は悪い
ダニエルさんが診ているが急いで解毒剤を探さないと
ムシ使いはもういないけど、村跡地に何かあるかも


16.エールちゃんは廃村に行く

「カオルさん大丈夫かな…」

女の子刑務所を脱出したあたし達は、毒に犯されたカオルさんをダニエルさんのところに運び込んだ。

とりあえず部隊はいったんそこで解散、としたのだが…なんとなく帰りづらかったあたしとお兄ちゃん、シィルさんは診療所の前で待っているのだ。

「ああ、ダニエルの奴が診察にかこつけてカオルにエロいことするかもしれんからな」

「ランス様、さすがにそれは…」

「そうだよ、ダニエルさんは立派なお医者さんだよ」

「ふん、ああいうまじめくさった顔をしたやつが一番危ないんだ。それに息子のアベルトが居るんだ。女に興味がないということはなかろう」

「そりゃそうだけど…」

話題に出たアベルトさんだけど、あたし達が返ってきた後すぐここに来たんだよね。

あたしの顔を見て一瞬固まっていたけど、すぐにいつもの顔に戻って無事を喜んでくれたっけ。

連行された後お兄ちゃんに助けられるまでの話をしたら、なんか『運と言ってしまえばそれまで…しかしそれもまた強さか…?いや…まだ結論は…』とかブツブツ言いながら去っていった。

ちょっと気になるけど今はそれどころではない。カオルさん大丈夫かなぁ…?もうだいぶ時間がたってるけど…

「…」がちゃり

あたしが考え事をしていたら、扉が開いて険しい顔のダニエルさんが出てきた。

「おい、ジジイ。カオルの様子はどうだ」

「…良くない。このままでは早晩衰弱死するだろう…」

 

ダニエルさんの説明によると、カオルさんが犯されているのは「ムシ使いの毒」と言われる毒。

ムシ使い、というのはゼスにいた少数民族で、体内に特別なムシを寄生させることでいろんな力を使うことができたらしい。

あのドルハンが手を固くしたり火を吹いたりしたのがそれだろう。

なんでも気が遠くなるほど昔からいたそうで、ゼスの建国より先にこの辺に住んでいたらしいのだが…7年ほど前の民族浄化政策、とやらで絶滅させられた。

貴族が魔法以外の不思議な力を使う人が居るのが気に入らなかったのかもしれないな。

んで、そんな彼らが「テントウムシ」とかいう彼らしか飼っていなかったムシから抽出した毒素をあれこれして作ったのがムシ使いの毒。投与されると高熱を発して4~5日で衰弱死するそうだ。

当然成分も製法も全く不明。当然解毒剤もない…

「じゃあカオルはこのまま死ぬしかないという事か!」

「…現時点では…そうだ」

「そんな…」「カオルさん…」

「あんないい女をみすみす死なせてたまるか!ダニエル!何か手はないのか!なんでもいい!」

「…解毒剤がもし残っているとしたら、あそこしかない。雲をつかむような話ではあるが…」

お兄ちゃんの剣幕に押されたダニエルさんは、重々しく口を開いたのだった。

 

「ここがムシ使いの村か…」

あたしたちはダニエルさんに教えられた場所…ゼスの南西部にあるムシ使いの村。正確には、村跡地にやってきていた。

「…うん、もしかしてと思ったんだけど…」

「やっぱり誰もいませんね…」

あたりを見回してみるが、壊れたり崩れたりした建物ばかりで人っ子一人見当たらない。

流石に死体とかは見当たらないが…代わりにモンスターはうろついているみたいだ。

「これじゃあ解毒剤なんて…あたっ!」

「やかましい、とっとと探すぞ」

弱気なことを漏らしたロッキーさんの頭をはたいたお兄ちゃんの後について、あたし達は廃村に足を踏み入れたのだった。

 

「…こっちには何もなさそうです…」

「この壺は…カラか。」

「うわっ、ムシの死体がある…」

「この棚はどうだ?」ばきっばふんっ

お兄ちゃんが乱暴に叩いた棚が崩れて盛大に埃が舞った。

「げーっほげほげほ!何やってんのお兄ちゃん…けほっ!」

「げほげほ…かーっぺっ!やかましい、兄のすることに口を…げほげほ!」

「こほっこほっ…そ、外に出ましょう…」

あたし達はたまらずその廃屋から飛び出した。

「げほっ…あーひどい目に遭った…おい、そっちは何かあったか?」

お兄ちゃんは別の建物を探していたマリアさんたちに声をかける。

「ダメねー…生活の痕跡でもあればと思ったけど…」

マリアさん達もあたしたちに負けず劣らず埃まみれだ。

「一軒一軒探してる時間はないし、多少ましな建物を探した方がよさそうね」

「けど、燃えたり崩れたりしている建物ばかりで…」

「まったく…ゼスの魔法使いたちはひどいことをするだすな…」

「っ…」

ロッキーさんの言葉にシィルさんが顔を伏せ、リズナさんはうなだれた。

「…どうしてこんなことをするんでしょう…私の時代には、ムシ使いが国民の生活を脅かしているとかは聞いたことがありませんでした…」

「そうなんだ…」

「ええ…むしろ、マジノライン完成前はゼスの国民と力を合わせて魔軍と戦っていたと歴史の時間に…」

「…君のせいじゃない」「はい…」

落ち込むリズナさんをお兄ちゃんがイケメンフェイスで慰めている。下心6割…いや、7割だろうけどね。

「…この辺はもう探索しつくしたみたいね。村の反対側に回ってみましょう」

かなみさんの提案で、あたし達は村の奥に進んだ。

 

「待って。前に誰かいるわ。あれは…」

かなみさんがみんなを止めた。

「…子供?」

確かに子供だ。色黒で茶髪、変わった髪飾りを付けていて…変わった短い剣を持った少年がこちらを睨んでいる。

…なんだろうな。なんかこう…

「どうしたの、ぼく。迷子になったの…」(ぺしっ)「へ?」

シィルさんがその子に近寄って手を伸ばし…少年にその手をはたかれた。

「こら、俺の奴隷に何をしやがる」

お兄ちゃんがシィルさんの前に出て少年をにらんだ。

「お前がランスか!」

少年は見た目に似合わない堂々とした態度でお兄ちゃんをにらみ返す。

「そうだ、俺様がランスだ。ガキが生意気に俺様を知っているのか。サインでも欲しいのか?」

「……………」

少年は何も言わずにじーっとお兄ちゃんをにらんでいる…

 

というか…うん。

めちゃめちゃ可愛いなこの子!?

いや、可愛いって言ったら失礼かな…でもカッコいいも少し違うし…

お兄ちゃんと少し似てるけど目元に誠実さと生意気さ、そして相反するようだが素直さ、そして未熟さが表れているような気がする。

半ズボンからのぞく膝小僧がちょっと荒れている瑞々しい足が、わずかに震えているのも見逃せない。

正直たまらん。めちゃめちゃ抱っこしたい……けど嫌がるかな…嫌がるよな…でもそこがまた…

 

「……うへへへへへ…(じゅる」

「エールちゃん…よだれ垂れてますよ?」

「へ…わ!ほんとだ!」あたしは慌てて口から漏れた美少女汁を拭った。

そうこうしている間にも少年(可愛い)はお兄ちゃんをにらみつけ…意を決して剣を突きつけた!

「おー。ガキのくせに俺様にケンカを売る気か?」

「ランス!お前を倒す!」

「ほー。面白いことを言う。しかし俺様に歯向かうものはガキとは言え容赦は…」

「死ねー!」

その子は変な剣を振りかざしてお兄ちゃんに斬りかかってきた。

「おっ…と。」(ひょい)「わぁ!?」

思ったよりもだいぶ鋭い太刀筋。だがお兄ちゃんはあっさり見切ってかわし、足を引っかけて転ばせる。

「あっ…」「あ、大丈夫…?」

「くそっ…でやーっ!」

少年はすぐに跳ね起きて、シィルさんとあたしの声も無視してお兄ちゃんに斬りかかるが…

「ほい、ほいっと」きん、ぺちーん「ぐえっ」

あっさりと剣を弾かれ、頭にぺちんと剣の平を食らって倒れた。

「がはははは、俺様に挑むなど百年早いわ」

「くっ…くそーっ!今日のところは引き分けだ!いつか殺す!」

「「あっ…」」

少年はちょっと目に涙を浮かべつつすごい勢いで逃げてしまった。

逃げていく少年の背に揃って手を伸ばしかけていたあたしとシィルさんの視線が合う。

「…エールちゃん」

「うん、シィルさん」

お互いに目配せし、お兄ちゃんに背を向けて内緒話をはじめた。

『…あの子のことですけど…』

『…なんかすごく可愛かったね…』

『いえ、そうではなくて…確かにとっても可愛かったですが』

『うん、なんかお兄ちゃんに似てたよね?』

『ええ…エールちゃん何か知りません?弟さんがいたとか』

『うーん…あたしたちの両親はあたしが生まれてすぐに死んだらしいから…親戚とかはいたかもしんないけど…そこまでは…』

『そうですよね…他人の空似でしょうか…』

「なにをこそこそしとるんだ」ぽかぽかっ

「きゃん!」「いたっ!」

お兄ちゃんに二人まとめて叩かれた。

「いたた…ランス様、さっきの子はお知り合いですか?」

「ふん、知らん。俺様を妬む奴は多いからな。その手の有象無象に違いない。がはははは」

お兄ちゃんは毛ほども気にしてないみたいだ。まあ男の顔なんて良く見ちゃいないか…

 

「とああーっ!」

「ふんっ…がー!」

キィン!と剣と刀が噛み合い、お兄ちゃんは剣を力任せに押し返す。

お兄ちゃんが戦っているのは、デフォルメしたJAPANの武士のような人型モンスター、サメラーイだ。

気の抜けた顔をしているのだが、二刀流の剣技はそれなり以上に本格的で、ベテラン冒険者でもタイマンは避けるべき相手だ。

あたしも魔法抜きで戦ったらたぶんきついかな。

「がはははは!どうしたどうした!」

「ぐっ…」

とはいえ、そんな相手でもお兄ちゃんは普通に優勢に戦っている。

あっちは援護は要らなそう…こっちはこっちに集中しよう。

「うし、突撃-!」どがっ「どひーっ!」

振り向いた先では女の子モンスター、うし使いが操るうしにロッキーさんが轢かれて吹き飛ばされていた。

「大丈夫かい!」「はらほれひれはれ…」

目を回したロッキーさんにプリマさんが駆け寄る。

「よし、もう一回突撃…」

「たあっ!」しゅっしゅ

反転しようとしたうしに手裏剣が突き刺さった!

「きゃっ…あれっ?こらっ!止まるな!突撃よ!突撃!」「みゃーん…」

うし使いはうしが言うことを聞かず止まってしまい…

「今のうちよ!いっけー!」「蜂のように刺す!」「とりゃー☆」「…うぃ」どかーんべちぼいんごーん!

「ぐえええーっ!…うしは無事なの?」ばたん

集中攻撃を食らってうしごと倒れた。

「えいっ…えいっ…雨の日は雷がお似合い…」ばしっばしっ

「えっ…!?…今日は雨なんですか?」

「お似合いぃ…」ばしっ

一方では、雷の矢を何発食らっても平然としているリズナさんにかえる女が涙目になっていて、

「きつね、たぬき、いけーっ」

「魔法バリア」かーん

「ううーっ…」

座敷わらしが志津香さん相手に人形攻撃が通じず、やっぱり涙目になっていた。

あたしはそんな女の子モンスター二匹に背後から忍び寄り…

「えいっ」ぽかぽかっ

「ぐえっ…悲しいよー」「痛い…怖い人だよー」ばたばたっ

「ふふふ…ありがとうございます…大漁ですね…」

後ろから適当にしばいて仕留めた。タマネギさんがホクホク顔でロープで縛り上げていく。

「ふんっ!」がきぃん!「くっ…」

「がはははは!とどめだ!死ねーっ!」ずばーっ!

「…無念…」ばたっ

そして、ほぼ同時にお兄ちゃんはサメラーイの刀を弾き飛ばし、切り捨てていたのだった。

 

モンスターを蹴散らして、あたしたちは村の探索を続行した。

やっぱり廃屋と廃墟ばかりかと思ったのだが…

「む、この家から女のにおいがする」

お兄ちゃんが一軒の小屋の前で足を止めた。

「またそんないい加減な…」

「いや…この扉。頻繁に開閉されてるわね…」

「ええ…?ほんとに…」

「すごいけどちょっと変態っぽいね」ぽかっ「いたっ」

「やかましい、中を調べるぞ」

小屋のなかには確かに人が暮らしている痕跡があった。

ツボには水が貯まってるし、埃もほとんどない。何より洗濯物が干してある…

「おっ、パンツも干してあるな」

「まさか盗ったりしないでしょうね」

「いや、嗅いだあとでブサイクだったら目も当てられんからな。ここは慎重に行く」

「あっそ…」

「この家に住んでいる人に話を聞きたいわね…」

「帰ってくるのを待ちましょうか」

あたしたちは、その場で待つことにしたのだった…




以下、妄想です。

ドルハン・クリケット
Lv37/37
ムシ使い1 執事1

エミの下僕として仕えるムシ使い。
特に絶対忠誠魔法などで縛られているわけではないが、エミに忠誠を誓っている。
七年前のムシ使い殲滅作戦の時、妻子を連れて村から脱出したが、琥珀の城近辺で軍に捕えられる。
俺はどうなってもいい、家族だけは助けてくれと懇願したが通じず、一家まるごと処刑されるところに子供のエミが通りすがる。
なんとなくオモチャが欲しかったエミは、これからドルハンが自分に仕えること、家族はムシ使いをやめ、ドルハンとは二度と合わないことを条件に家族の命を助けることを提案。ドルハンはそれを飲んだ。

以後、ドルハンはエミの手先として忠実に働き続けた。

なお、エミは約束を守り、家族はムシ使いをやめたあと贋の戸籍を用意されてクリケットから姓も変え、普通に二級市民として生活を送った。
娘は別れた当時はカロリアにそっくりだった。
後に猛勉強して魔法試験に合格、軍に入る。
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