【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【解毒剤を探せ】
ドルハンの毒を受けたカオルさんの容体は悪い
解毒剤があるとしたら滅ぼされたムシ使いの村跡地しかない
かわいい少年にも出会ったし、もしかして誰か住んでるかも


17.エールちゃんは怪談を聞く

「だーっ!飽きた!別の場所に行くぞ!」

「えーっ?」

というわけで、あたし達は生活の痕跡がある小屋を出て、村の真ん中にある小高い丘に向かった。それにしても…

「うーん、なんだか変な形だねぇ」

「明らかに人の手が入っているわ。軍事施設かしら」

かなみさんの言う通り、丘は明らかに人工的に土が盛られたみたいに整った形をしている。角度も急で、階段以外の場所から登るのはちょっと骨が折れそう。

確かに砦跡地とかにも見えなくもないけど…

「櫓とか壁とかそういうのは見当たらないね」

砦には付き物の防御設備の痕跡がない。うーん?

「…ああ、これが古墳ってものなのかしら」

志津香さんがぽつりと言った。

「古墳?」

「文献で見たことがあるわ。大昔の…それこそGI歴よりもっと前の人が作っていた、丘みたいな形の宗教施設ね。

当時の王様とか偉い人のお墓とか…あるいは神様を崇めていたりしたみたい。ほとんど残ってないと聞いたけど…」

「なるほどねー。ムシ使いはものすごい昔から居たらしいし、残っていても不思議じゃないか」

「へぇー…なんだか太古のロマンを感じちゃうなぁ」

何を祭っていたのかなぁ?なにかすごい秘密が地下に隠されていたりするのかもしれない…

「古墳でも花粉でもどうでもいいわ。一通りがーっと探すぞ」

「はい、ランス様」「はーい」

崩れかけた階段を登ってみると、古墳は内側がへこんだ階段状に整えられていた。

とりあえず一番高い外側の段を探索することにして、ぐるーっと回ってみたが冒険功績くらいしか見つからない。

「この段には何もなさそうだ。内側に降りるか」

「あ、ちょうどそこに階段があるね」

「待って。何か来るわ」

かなみさんが制止すると同時に、階段を登って何者かが姿を見せた。

「うぇ…なにこれ…」

現れたのは、人型をした全身どろどろの肉塊…という感じの存在。

肉がボコボコズルズルと流れるようにうごめいて、ムシが時折顔を出しては肉に埋まっていく…

「ひぃー!ポマードポマードポマード!」

「人…でしょうか…?」

「飛び出してるの、ムシ…よね…」

「ふん、なんだか知らんが俺様の敵ではないわ」

お兄ちゃんは腰が引けてるみんなの前に一歩踏み出す。こういう時は頼りになるなぁ。

「ウァァ…グァ…アーーー…」

何やら声の様な音を漏らしながら、ゆっくりとこちらに顔を向け…

「Ahaaaaaaaaaaaー!!!」

大声を出して手を硬化させ、お兄ちゃんに向けて殴りかかってきた!

「甘いわ!死ねー!!」ぶしゃっ!「うわっ…気持ち悪っ…」

当然のごとく拳をかわし、怪物を袈裟懸けに切り捨てる。血と肉が噴き出すのをお兄ちゃんは慌てて避けた。

「大丈夫ですか、ランス様」

「ふん、こんなものに俺様が負けるか。しかし…こいつはなんだったんだ?」

シィルさんが渡したタオルで汗をぬぐいつつ首をかしげる。

「こんなモンスター見たことも聞いたこともないよ」

「ムシが寄生してるのかしら…」

倒れた怪物はビクビクとうごめき、あちこちからムシが顔を出している。正直あんまり直視したくない。

「ここの住人のなれのはてだというのか?ここが滅んで何年も経ってるのにそんな…」

「…っ!ランス様!」

「ん?うおっ!」ぶおん!

とっさに飛びのいたお兄ちゃんの横を硬化した拳が通りすぎる。

「ガあああaaaaaaAAAAAAAAA!!!!」

怪物は叫び声をあげながら立ちあがった!

お兄ちゃんの斬った傷口は、ひも状のムシによって乱雑に縫われたようにふさがれ…じゅくじゅくと泡立つ肉でどんどん埋まっていく!

「再生したの!?」

「うー…本格的にグロい…」

「ひぃー!ひぃー!」

「えーい!再生するなら本格的に死ぬまで叩き潰してくれるわ!」

お兄ちゃんの号令で、あたし達は怪物に襲い掛かった。

 

「…ふー。ここまでやればいいだろ」

しばらく後。怪物は斬られ殴られ焼かれ爆破され、バラバラにされていた。

あたりは血まみれで焼け焦げた体のパーツが散らばり、ムシの破片もたくさん転がっている。

「うーん…今晩ご飯食べられるかなぁ…」

「死体に慣れてない訳じゃないけど…これはちょっとね…」

「…がんばりましょう…」

あたしたちは軽くお腹を押さえて、青い顔を見合わせた。

「あ、マリアさん。大丈夫です…か?」

「もぐ…ふぇ!?んぐっ(ごくん)…だ、大丈夫よ」

先ほどから何もしゃべっていないマリアさんの方を見てみると、手に持っていたものを慌てて隠した。

一瞬見えたけどチョコバーみたいなやつだった。

ストレスがたまると食欲が湧くタイプかな…将来太るんじゃ…

「…ひっ…ひぃいい!」

あたしがマリアさんの体型について心配していると、ロッキーさんが素っ頓狂な声を出した。

「やかましい!今度はなんだ!」

「う、動いて…まだ動いてるだすよ!」

びくびくとうごめく肉片を指さすロッキーさん。

「あん?流石にいい加減死ぬだろ…」

「いえ…ランス様…これ、お互いにくっつこうと動いていませんか…」

「なんだと!?」

「…うわ、本当だ…」

よく見てみると、それぞれの肉片は確かに少しづつ、少しづつ動いて集まろうとして…触れ合った肉片同士はくっついて大きくなり、また這い出す…

「うぇぇ…気持ち悪い…」

「……ちっ。とっとと行くぞ。こんな気色悪いのに付き合っていられるか」

「そうね…それがいいわ」

あたし達はその場を離れることにした。

「あの怪物…やっぱりムシ使いと関係があるのかな…」

「…可能性は…あるわね…」

その続きは、誰も口にしなかった。

 

それから三つ目とかげやブルーハニーをぼこぼこにしつつ、なれのはてはやり過ごし、一番下の段まで降りてきた。

「むっ、また誰かいたぞ」

前方のほこらのような建物の前で、緑髪のおっさんとドレス姿の女性が立っている。

「あれは…エミとドルハン!?」

「しめた、奴なら解毒剤を持ってるかもしれん」

「何をやってるんだろう…」

あたしたちがこっそり見ている先で、ドルハンの持っていた卵からムシが孵化した。

ドルハンはそれを見てて、意を決したようにナイフで手のひらを傷つけた。そこに孵化したばかりのムシがうぞうぞと入り込んでいく。

「ぐっ…うう…ああ…」

苦しむように身をよじるドルハンの肉体がボコボコと蠢き、そばで見ているエミも顔をひきつらせている。

「うげー…なにをやっとるんだ」

「ムシを追加してるのかな…」

「さっきの怪物に少し似てるわね…」

「貴方達は…!」「あんたら…」

話しているうちにエミに見つかってしまった。ドルハンもこちらを向く。

「この間はよくもやってくれたわね!ドルハンはムシを追加してさらに強くなったわ!今度こそ始末してあげる!」

「何をこしゃくな!今度こそ処女をいただいてくれるわ!」

エミに対して性犯罪者としか言いようがないことをのたまうお兄ちゃん。

だが、ドルハンは首を振った。

「…すみませんエミ様…追加したばかりのムシはまだ使えませぬ…補給もまだで…今すぐこいつらの相手は無理です…」

「はあ!?何を…」

「ですから、失礼…!」「きゃあ!」ドルハンはエミを抱えあげ、あたし達に背を向けた。

「逃がすと思うか!?解毒剤とエミちゃんを寄越すがいい!」

「…レーザーバグ…!」

お兄ちゃんは構わず斬りかかり…ドルハンの足から隙間のある筒みたいな形のムシが突き出た。

「はぁっ…」

ドルハンが気合いの声をあげるとそのムシは光りはじめ…

「うおっ、なんかやばそうだぞ!?」「死ねーっ!」

足を止めたお兄ちゃんに向け光線が発射された!

「ぬおおおっ!」「きゃーっ!」どかーん!

光線はお兄ちゃんの脇の土壁に直撃し、あたりは土埃に包まれる!

「げほげほ…あっ、エミとドルハンが居ないよ!」

視界が晴れた時には、もう二人の姿は消えていた。

「ちっ、逃がしたか…逃げ足の早い」

「レーザーを撃つムシが居るなんて思わなかったな」

「すっごい威力…どういう原理なのかしら…」

「マリア…あんたまさか…」

「いや、さすがにムシはないかな」

あたし達はそのあたりを探したが、エミ達の足取りはつかめず、解毒剤の手がかりも見つからないうちに夜になってしまった。

 

「うむ、今日はこのへんでキャンプするか」

お兄ちゃんの一言で、古墳の角でキャンプすることになった。

「はい、ランス様」

「燃やすものあるかなあ?」

「その辺から廃材を集めてくるだすよ」

「あー。あたし達で行ってくるから、ロッキーさんご飯の支度しててよ」

「ありがとうございますだ、エール様」

「あ、あの…ロッキーさん。私も何か…」

「……いいだす。大丈夫だす…」「うう…」

「何しとるシィル。こっちに来い。」「は、はい…ランス様…」

そのまま建てたばかりのテントにシィルさんを連れ込むお兄ちゃん。どーせタグが面倒になることをするんだろう。

しかしロッキーさん…まだシィルさんに対して壁があるみたい。

「あのロッキーって人、なんだかシィルさんとリズナさんにだけよそよそしいのよね」

「…この国で二級市民として育ったなら、程度の差はあれああなるわよ」

かなみさんの疑問に志津香さんが答える。

「この国の魔法貴族の非魔法使いへの差別はものすごいって聞くしね…」

「そうみたいねー…でも、最近あたしとか志津香さんには普通に接するようになったんだよ。」

「魔法使い全てが嫌い、からゼスの魔法使いが苦手、になったのかしら」

「まあ、ロッキーさんもシィルさんもいい人だからそのうちなんとかなるんじゃない?」

「そうだといいねぇ…」「うん」「そうねー」

口々に言いながら、あたし達は倒壊した家屋に向かった。

 

ロッキーさんが作った煮込み雑炊はやたら美味しく、お兄ちゃんはあっというまに平らげておかわりをしていた。

その後、退屈だからなんかしろ、という無茶振りに答えてロッキーさんが、

「これは大分前のご主人から聞いた話だすが…」

と怪談を始めたのだが…

 

なんか鼻の下が長い感じに顔を変形させたロッキーさんが、どもることもなく独特の語り口で、唇を突き出しつつ語る怪談にあたし達はすっかり引き込まれてしまった。

挙げ句にその怪談のオチのところで急に焚き火が消えたり、タイミング悪く野良グリーンハニー(かなみさん談)が通りかかったりで…

正直な話、今まで聞いた怪談でもぶっちぎりで一番怖かった。

これ以上聞くとこの年で夜中トイレに行けなくなるかも…

そんなことを心配しつつ寝て、翌朝起きると。

 

キャンプの真ん中、目立つところにいつのまにか「ムシ使いの解毒剤」と描かれたビンがおいてあったのだった。




ちょっと体調崩してました。急に気温変わらないでほしい…

レーザーバグ
設定集にあったドルハンが宿しているムシのひとつ。足から出る。
強力な光線を撃つが一度撃つと一日冷却が必要。
実はつける位置が悪く、センサーバグも入れていないので狙いがさっぱり定まらない。
かっこいいが作中では披露されなかった。


ロッキーの怪談

顔を稲川淳二のように変形させて語られる怪談。
怪談を語るときはこうなるモンらしい。顔も相まって実際怖い。
懐中電灯や電池、缶ビールが出てきたりするあたりどう考えてもルドラサウム世界の話ではないが誰も突っ込まない。
流石に全文を書き写すのはダメだと思うので自粛。


なれのはて

ムシ使いの村跡地にのみ生息するモンスター。
溶け崩れた人体のあちこちからムシが顔を出しているみたいな外見をしている。
それなりのタフさ以外に見るべきところはない。

ムシ使いであるドルハンと同じように硬化した手で殴りかかって来る上に、人属性持ちでマンハンター証明書やカオルの柔術で弱点が突ける…と闇が深いモンスターなのだが、作中では誰も触れなかった。

ゼス軍がこんなもんを見逃したとも思えないので、ムシに心を壊された元住人が七年前からずっと死ねずにさ迷っているのだろう。
カロリアは早く楽にしてあげてほしい。
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