まっ白
さて、何をしようかな
「はぁ~~~~…」
孤児院での朝食後、あたしはテーブルの上に突っ伏してため息をついた。
「どうしたんですかエールさん。お行儀悪いですよ」
「……」
カーマの小言とアルフラの無言の視線が刺さる。
「あ~…ごめん…ちょっとあちこちの任務で疲れちゃってさ…ペンタゴンの連中、滅茶苦茶やるんだもん…」
「…そう、ペンタゴンがね…」
お皿洗いを終えたキムチさんがいつのまにか戻ってきていた。
「そうなんですよ、ペンタゴンの連中本当に頭おかしくて…」
「…カーマ。ちょっとアルフラを庭で遊んでやってくれる?」
「え…?あ、はい…わかりました、キムチ先生。行こう、アルフラ。」「……」
カーマはアルフラの手を引いて外に出ていった。
「…ペンタゴンねー…話は聞いてるけど…」
キムチさんは二人がいなくなるのを待って、はぁと深いため息をついた。
「はぁ。昔は、ここまでじゃなかったんだけどね…」
「キムチさん、なにか知ってるんです?」
「知ってるもなにも…私、元ペンタゴンだし」
「えっ!?キムチさんが!?」
「そうそう。まあ、別に作戦とかに参加した訳じゃなかったけどね…」
正直ビックリだ。あのキチガイテロリスト集団と優しいキムチさんに接点があるとは…
「あの、ちょっと話を聞いてもいいでしょうか?」
ペンタゴンがなんであんなになっちゃったのかは気になってたんだよね。昔からああだったなら組織が存続できてるわけはないし…
「…うん。いいわよ。少し長くなるから、お茶でもいれよっか。」
キムチさんは立ち上がり、台所の方に歩いていった。
キムチさんがお茶を飲みながら話してくれたことによると、
昔のペンタゴンはレジスタンス、といっても魔法使いの暴虐に対抗する互助組織に近いもので、歴史もだいぶ古く、ある程度は国ともなあなあの関係であったらしい。
例えば、魔法使いにひどい目に遭わされた子供を庇護したりといった、今アイスフレームがやっていた活動もペンタゴンがやっていて、他ならぬキムチさんもそうやって助けられたそうで…
「その時、私を助けてくれたのがフットだったの」
「フットっていうと、あのアイパッチの錨持ってる…」
「そうそう。人相は悪いけど…悪い人じゃないわ。子供や動物も好きで…わんわんなんかを良く世話してたっけ。今も何か飼っているかもね」
へぇー…人は見かけによらないなあ。
「今リーダーをやってるネルソンも、少し熱心すぎる嫌いはあるものの、話し合いや交渉で二級市民の権利を拡大していくことを主張していたのよ」
「へえー…今のネルソンからは考えられないなあ」
「でしょうね。今の彼の話は聞いてるわ」
「なんでそんなことになったのかなあ…」
「そうね…少し、歴史の話をしましょうか」
かつてのゼスにおいて、魔軍という共通の敵と対する必要があったため、魔法使い貴族の振る舞いも今ほどは酷くなかったらしい。
しかし、マジノラインという強力な対抗手段の完成後、魔法使いは…増長した。
二級市民の各種権利の制限にはじまり、あまり交流はしていなかったものの、魔軍相手には共に闘っていたドルイド、リカーマン、ムシ使いといった各部族の絶滅政策、ゆとり教育の導入による格差の固定…
「マジノラインが完成したのは、ネルソンが10代の頃だったそうよ。彼は良く言ってたわ。
『マジノラインが稼働したとき、魔法使いもそうでないものも、もう魔軍に怯えなくていいのだと、共に喜び、笑っていた。』
『確かに、その瞬間はあったのだ。』」
「……」
そうか、その光景を見た上で、魔法使いが他の皆を裏切ったのなら…許せなくなるのも仕方ないのかもしれない。
「それで、彼のもとにウルザのご両親と、ビルフェルム、ウルザも参加して…規模も大きくなって。キングジョージやロドネーも加わって…」
「…」
「キングジョージは名門貴族の生まれらしいんだけど、頭が悪くて試験に受からなくて…家族にすごい疎まれて追い出されたらしいわ。
そのせいかしら、口数は少なかったけど…皆を守ろうといつも一生懸命で、いつも両手に盾を持って最前線に立って、いつも傷だらけだった。」
「へえー…」あのでか針ブロック、変な武器だなあと思っていたけど…あれはもともと皆を守る盾だったのか…
「ロドネーは…すごく勉強を頑張って、学校で素晴らしい成績を修めたのに…魔力が一切無いものだから卒業試験に受からなくてね。
少し陰険な感じはあったけど、仲間には親切だったわ。私がお腹を壊したとき、ぱぱっと薬を調合してくれて…
お礼を言ったら、『こんなつまらないことで感謝されても嬉しくはないね』とか言って、プイってどっかに行っちゃったのよ」
「そうなんですか…」あの毒ガス魔、最初は薬作りから始めていたのかな…
「それでね、エリザベスが加わったくらいかしら。もともとその兆しはあったんだけど…ネルソンと、組織全体の方針がどんどん過激化し始めた。それで、私たちはついて行けなくなって、独立してアイスフレームを作ったの。
でも、穏健派だったウルザ達が居なくなったことで、ペンタゴンは本当に止まらなくなってしまった…」
「でも、今のペンタゴンは…」
「…今のペンタゴンの事件には最近は最初から正規軍が出張ってきているでしょ?」
「はい…」
「軍はね、国民に…犯罪者を相手にする組織じゃない。『外敵』と闘う組織。ペンタゴンは、もうそういう段階になってしまった」
「…」
「ごめんね。こんな話して。別に彼らを助けろ、とか許してあげて、とか言うつもりはないんだけど…誰かに話しておきたくなっちゃってて。ランスはこういう話し聞いてくれそうにないし…」
「いえ…ありがとうございます。」
とはいえ、もうロドネーもキングジョージも生きちゃいないだろうし、ネルソンを説得するのも無理だろう。
なんか複雑な話を聞いてしまったなあ…
話を聞いて数日後。あたし達はまたロッジに呼び出された。
「うむ、集まったな。では、次の作戦を発表する!…おい」
「は、はい…」
いつも通りにえらそーなランスお兄ちゃんが促すと、シィルさんが任務表を読み上げ始めた。
「ええとですね、今回の作戦は…『マジック王女の誘拐』…?」
「「「ええっ?」」」
だいぶヤバい作戦内容に、隊員一同は驚きの声をあげた。
「…ちょっと見せて…ええと…マジック王女は、今度卒業試験のために第三試験会場というダンジョンに潜るから、そこを襲って攫って、国と交渉して平和な国にする…お兄ちゃん、これ本気?」
確かゼス美女名鑑にマジック王女も載ってたはず。たぶんそれ目当てじゃないかなぁ…
「ふん、本気も本気だ。」
「でも…」「やかましい、兄貴に逆らうんじゃない」
取り付く島もない。
「うーん、でもペンタゴンのテロよりは建設的…かな?」
「そうだすな、王様の命令ならきっと貴族も逆らえないだすよ」
「確か、今の王には子供は一人しかいなかったはずだ。人質としては結構いいんじゃないか?」
「王と話ができれば何か事態が開けるかもしれないわね」
「ええと、王様には何人かお子さんが居たような…」
「リズナさん、それ前の王様じゃない?5年くらい前に代替わりしたのよ」
「そうなんですか…」
隊員のみんなも異議はないし、お兄ちゃんが言いだしたならしょうがない、って感じ。
最近のペンタゴンの大規模テロのせいで感覚がマヒしてるのかもしれない。
「…………」
一人だけ、カオルさんはものすごーく硬い表情でお兄ちゃんを見ている。
「ウルザちゃんが今侵入のための手筈を整えてる。試験は明後日からだ。準備しておけ。」
お兄ちゃんはそれだけ言って、シィルさんとロッジを出て行った。
「…………失礼。」
カオルさんがお兄ちゃんの後を追っていく。たぶん作戦の中止を申し入れるんだろうなぁ。
でも、こういう時のお兄ちゃんって、マジで何を言っても聞かないパターンなんだよね…
試験会場となればそれなりに警備もあるだろうし、強いモンスターもいるだろう。
少しは修行しておこうということで、その日の晩、あたしは志津香さんの後について行っていた。
「エール、なんでついてくるのよ」
「白色破壊光線の練習するんですよね?一緒にやろうと思って…それにちょっと心配で。前に失敗してズタボロになってたじゃないですか」
「…勝手にしなさい」
「はーい」
あたしは志津香さんと並んで魔法の練習を始めた。
むにゃむにゃと呪文を唱え…「えーい!電磁結界!」ぱり…ぱち…と静電気みたいな雷しか出ない。
そろそろ使えそうな気はしていたのだが、なぜか上手くいかないのだ。
「うーん、なんでだろ…?」
「……電磁結界の呪文の3小節目、発音が間違ってる。あと5小節目と6小節目、順番が逆よ」
「えっ?」
志津香さんに指摘されて振り返る。
「どうせ呪文はちゃんと覚えてるから、って魔道書を持ち歩くのをやめたんでしょ?」
「うっ…はい…持ってくるのが面倒でレッドにおいてきちゃって…」
横目でにらんでくる志津香さんに小さくなるあたし。
神魔法はすっごく適当に唱えてもちゃんと発動するのに…魔法はきっちりやらないといけないんだよね…
「…ほら、私の魔導書を貸してあげるから…ちゃんとチェックして覚え直しなさい。」
「はーい…えーっと…むにゃがむ~にゃむにゃ…」
「そこは、むにゃがむにゃむ~にゃの方が魔力の通りがいいわよ」
「なるほど…志津香さん教え方うまいですね…」
「教わった通りにやってるだけよ。あとは自分でやってみなさい」
志津香さんは向こうを向いて、白色破壊光線の練習を始めた。
確か、志津香さん達カスタム四魔女に魔法を教えたのはラギシスという人で、最終的に皆を裏切って魔法の指輪で魔力を奪い、お兄ちゃんに倒されたと聞いている。その過程で、マリアさんは魔力を失ったとか。
でも、今話しているときの表情は少し柔らかくて… もしかして、ただの裏切り者、ってわけじゃないのかもしれないな。
その後、二人で並んで練習し、無事あたしは電磁結界、志津香さんは白色破壊光線を再び使えるようになったのだった。
============☆☆スキルGET!☆☆==============
【 エール 】が技を覚えた。
電磁結界を取得
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=============☆☆好感度上昇☆☆==============
エール FR==18+1/20
エール FR==19/20
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記念小話でも書いてみようかな、と思うのでネタを探しています。
以下、妄想です。
ペンタゴン暴走の経緯について
ゼス王国伝統のレジスタンス組織、ペンタゴンはかつてはそれなりに穏健な方針も持っていました。
リーダーのネルソンの話術もまだ未熟であり、暴走するほどではなかったのです。
しかし、ネルソンと同じく話術技能を持つエリザベスが加入したことで事情が変わります。
ネルソンがエリザベスを説得
→説得されたエリザベスがネルソンを説得
→説得されたネルソンが自分を説得し、さらに説得されたネルソンがエリザベスを…
という流れで、エリザベスとの相乗効果でネルソンの話術技能に磨きがかかり、
自分で自分を説得してしまうデメリットも加速。
ネルソンを尊敬するキングジョージとロドネーもその過激化した思想に急速に染まり、二人よりは老成していたフットも影響を受け…ペンタゴンは暴走を始めました。
キングジョージ・アバレー
LV30/42
格闘Lv1 プロレスLv1 ガードLv0 魔法なし
ゼスの名門貴族の生まれ。
戦士としては申し分ない才能を持って生まれたが、魔法の才能がからきしであったためにすべてを失った男。
それゆえに自分を初めて受け入れてくれたペンタゴンの仲間たち、ひいてはネルソンの事を何より大事に思っている。
最初は剣を使っていたが、すぐに壊してしまい(プロレス技能の弊害)盾を二つ使って皆を守るようになる。
ペンタゴンの活動が過激化するにつれ、盾は大型化、凶悪化し最終的にトゲブロックで敵を挟み潰す極悪テロリストと化した。
仲間想い、という面だけはそのままに、仲間とネルソンの言葉以外のものには一切価値を見出さず、邪魔するものはゴミのように叩き潰す。
ロドネー・ロドネー
LV13/29
科学Lv1 薬剤Lv1
ゼスの一般家庭の生まれ。
苦労して入学した応用学校で優秀な成績を収めたが、魔力を持たない彼は卒業試験を突破できず退学となり、農奴か単純労働者になるしかないという状況に追い込まれたところをネルソンに拾われる。
自分の能力を誇示する事と恩人のネルソンのために働くことだけを考え、当初は医薬品の調合等を担当していた。
ペンタゴンの活動が過激化するにつれ、毒を作ることに血道をあげはじめ、やがて自分の毒でのたうち回る人間を見ることを生きがいとする極悪テロリストと化した。
ネルソンと自分の小さなプライド以外には一切価値を見出さず、毒ガスを撒いて殺戮に酔う。