【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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【マジック拉致計画】

パットンさんがア・モメントなピースもゲッタウェイしてRunning To The Straight(アレンジバージョン)して、
ロッキーさんのヤングなライフがレッドにバーンしたおかげで王女様に追いつけた。
あとはうまく近づいてお兄ちゃんを待とう。
なんで変な言葉遣いなのかって?
世の中には面倒なことがあるのだ。歌詞とか。


29.エールちゃんは王女様に会う

前方で話し込んでいる王女様チームの3人をあたし達は物陰からこっそりうかがった。

「あれが王女様…だすか?」

「あのデコ…写真で見た通りだよ、間違いない」

「よし、それじゃあ手筈通りに…嬢ちゃん、頼むぜ」

「うん、都合よく困ってるし…ありがとね二人とも」

「気を付けてくだせぇ、エール様」

王女様に接触するのはあたしひとり、ということは事前に決めてあったからね。

二人を見送って、あたしは彼女たちに近寄ったのだった。

 

「マジック、私のことはいいから先に行って…」

「バカ言わないで!私にチームメイトを見捨てて合格しろって言うの?」

「そんなこと言っても…」

「あ、あのー…」

座り込んだ生徒を囲んでやいのやいの言っている王女様と取り巻きに、あたしは声をかけた。

「…ほかの生徒?もう追いついてきたの?」

「何の用よ!?」「…」

3人はこちらを不審そうに睨みつけている。

「いやあの、あたしエー…サイダーっていいます。そこの人、足をくじいちゃったんですよね?良ければヒーリングしましょうか?」

「え?あなたヒーリング出来るの?」

「あ、はい…一応神官でもあるので…」制服の胸元から聖印を引っ張り出して見せた。

「やった!ありがとう!早速お願い…」

「待って」

他の二人を制したのは王女様だ。

「サイダーって言ったかしら。何が目的なの?」

眼鏡越しに警戒心丸出しで睨みつけてくる。まぁそりゃそうか…。

用意していた言い訳を繰り出そう。

「あたし、奴隷戦士を連れて攻略してたんですけど…そこのトラップ地帯で二人ともリタイアしちゃって。ここから一人で進むのは不安で。よろしければ、ご一緒させてもらえないかなって…」

「貴女、チームメイトはいないの?」

胸元の黄色いタイを見せながら続ける。

「あたし、第三応用学校の生徒なんですけど…この会場はレベルが高いから一緒に来る友達が居なくて。それで仕方なく奴隷戦士を雇って…」

「ふうん…。第三応用学校からじゃあ仕方ないのかもね」

「マジック…ここはお願いしたら?キヨコの足をどうにかしないと3人じゃ進めないよ」

「…サイダー、貴女リンゴは?」

やっぱそーくるか。カバンからこれまでのリンゴを取り出して見せる。

「えーっと、2個ありますよ。ほら」

「私たちも2個づつ。ちゃんと回収しているのね…。いいわ、一緒に行きましょ。でも…」

「なんです?」

「私、王女として、主席として。一番以外を取るわけにはいかないの。悪いけど、私たちのチームは貴方よりも先にゴールさせてちょうだい。それでいいなら…」

なんだ、そんなことか。王女ってのも大変なんだなぁ。

「それでかまいません。よろしくお願いします」

「分かったわ。時間が惜しいの。早速キヨコの足を治して」「はーい。いたいのいたいのとんでけー…」

というわけであたしはマジック王女のチームに同行することになった。

 

取り巻き二人の名前はキヨコとタミコというらしい。

主席のマジック王女とチームを組むくらいだから強いのかもしれないけど、魔法使いの強さってみただけだとよくわかんないんだよね。

王女様のお手並みと合わせて、拝見させてもらおう。

「貴女、剣持ってるけど使えるの?」

「あ、はい一応…」

歩きながらしゃべっていると、取り巻きが足を止めて先鋒。

「マジック、魔物が…」

見れば曲がり角からプロレス男やらぷりょやらの一団が顔を出したところだった。

「これまで通りに対応するわ。構えて…サイダー、邪魔よ。下がって」

「へ?あ、はい…」つい剣に手をかけて前に出かけたあたしは引き下がった。

そりゃそうだ。これは魔法使いの試験なのだ。まず剣で対応しようとしちゃダメだよね。

「おおおおお!」

「突っ込んできた!いくわよ!氷の矢!」「炎の矢!」「氷の矢!」

「ぐわーっ!」「ぷりょーっ」

取り巻きの二人が基本魔法をつるべ打ちして足止めを始めた。マジックさんは後ろでなんか詠唱…なるほど、そういう…あたしもやろーっと。

「雷の矢ー!」

「よし…行くわよ!電磁結界!」

バリバリバリバリバリ!

「おー…すごーい…」

あたしが放った奴より格段に密度の濃い雷撃の嵐がモンスターたちを包み込み、全滅させた。

威力もそうだが呪文のスピードも速い。四天王の座っていうのはどうやら伊達ではないみたい。

お兄ちゃん達グリーン隊が正面からこの3人と戦ったら…まぁそりゃ負けはしないだろうけど。

無傷で取り押さえるのは難しいだろう。何人か大けがするかもしれない。

ちゃんと肉壁兵とかウォールを配置してたら普通に負けるかも…小細工を選んだのは正解だったかな。

「…」そんなことをつらつら考えていると、マジック王女があたしのことをじろじろ見ていた。

「え?何か?」

「何でもないわ。急ぐわよ」

「あ、はーい。」

魔物を蹴散らして冒険功績を拾い、しばらく進むと三つ目のリンゴがあった。人数分だけ確保して、あとはゴールに進むだけだ。

「へー。あなた自由都市からの留学生なんだ。」

「外国では魔法使いもそうじゃない人も同じ場所で暮らしてるってほんと?」

「あはは…そりゃそうですよ。この国が特別なんです」

「うえー。私ちょっと無理かも…」

「そうだよね、怖いよね…なんか野蛮そうだし」

「武器とか振り回すし…近くにはいたくないよね」

ゲロゲロこわーいって感じの顔のキヨコとタミコ。

…この二人、別に悪い子ではなさそうなんだけども…これがゼスの貴族の普通の意識ってやつか…?

「…ちょっと、私語は慎みなさい。それに…失礼よ」マジックさんがたしなめた。

「あ、すいません。ごめんねサイダーちゃん。」

「剣とか持ってても魔法戦士ならカッコいいと思うよ!」

そういう事じゃないんだけど…

「あ、あはは…ありがとうございま…」何か騒ぎが聞こえて、あたしは途中で言葉を切った。

「どうしたのサイダーちゃん。」「えーっとなにか聞こえて…えっ?」

通路の脇に格子のはまった窓があり、そこから向こうが見えるんだけど…

「…めろ…言って…でしょう!」「こら…やめ…」「…オルさん、落ち着…だす…」

どたんばたんわーわー!

向こうで何人かの集団が取っ組み合っていて…ってランスお兄ちゃんたちじゃん!

暴れてるのは…カオルさんか。わざわざこんなところで実力行使に出なくても!もうちょっとやりようとかあるでしょ!気持ちはわからんでもないけど!

「何あれ…怖…」

「あの格好、受験生じゃないみたいね」

「じゃあ二級市民の職員かなぁ?うわぁ…やっぱり野蛮…」

わたわたしているあたしを尻目に、取り巻きABがひそひそしてるが…何も言えねぇ!

「…私たちには関係のない事よ。あそこはもう過ぎた地点だし…先を急ぎましょ」

えーっと…今は…作戦を続行すべき…かな?

「「はーい」」「は、はい…」

あたしはマジック王女の後を追いかけたのだった。

 

魔物をボコボコにしつつ進んでいく。足止めをしなきゃいけないんだろうけど…先を急ぐマジック王女の邪魔をして疑われるわけにもいかないしなあ。

通路の前方に何か看板がある。

「えーとなになに…『この先ハニー溜まり…魔法は効かないぞ、武器で戦え・武具教官ザンジバル山田』…」

「うえー…ハニー?やだなぁ…ハニワ臭いし…」

「武器を取って戦えって言われても…やったことないよー…」

「だよねー…どうしよう」

「…基礎的な杖での白兵戦術は授業で扱ったはずよ?」

ぐちぐちいう取り巻きABを尻目に、マジック王女は短いけど頑丈そうな短杖を取り出した。

ハニーを叩き割るくらいは出来そうだけど…あんまり荒事は得意ではなさそうかな。

「だってザンジバル先生、元奴隷兵士だっていうし…」

「なんか暑苦しいしめんどくさいよね。パパに頼んで単位だけ出してもらったの」

「どうせ近接戦闘なんてするわけないしねー」

取り巻きABはぶーぶー口をとがらせ、マジック王女は少し額を抑えた。

「はぁ…貴方たちねぇ…いいわ…サイダー。あなた剣ぶら下げてるんだから多少は使えるんでしょ。手伝ってちょうだい」

「はーい」

この王女様、少なくとも真面目ではあるみたいね。

通路を曲がった先にはハニーがあいやあいやと群れていた。

「わー。生徒たちが来たぞ」

「やっつけろー…あっ!めがねっこが二人!」「やったー!」

「わーい。めがねっこめがねっこー…ん?」

「どうしたのー?」

「こ、これは…ニセめがねっこの気配!」

「ええっ!?じゃあ…伊達眼鏡!?」

「そんな…あんなに委員長とイモおさげで眼鏡が似合っているのに…」

「ひどい…詐欺だ!」「神をも恐れぬ所業だ!」

「やっつけろー!そして改造手術でほんもののめがねっこに…」

「なるかアホー!」ぱぱぱぱぱりーん!「「「「「あいやーーーーーーー!」」」」」

ハニーは全滅した。またつまらぬ者共を割ってしまった…

なんでか知らないけど、ハニワを叩いて割るのは昔から得意なのだ。

「サイダー…貴方ずいぶん剣の扱いがうまいのね」

マジック王女が目をぱちくりとさせている。

「あ…はい…」しまった、つい全部割ってしまった。おとなしくしとくべきだったか?

通路を進みながら、マジック王女は話しかけてくる。

「ねぇ、剣はどこで習ったの?」

「えーと…カイズで…」

「ああ、カイズの出身なんだ。それで、魔法の才能があることがわかって留学に来たとか?」

「あ、はい、そんな感じです。」

「卒業後はどうするの?やっぱり上級学校に?」

う、なんか突っ込んでくる…もしかして怪しまれてるのかな…えーとえーと、ここは適当に…

「ええと、まだ考えてなくて…一度家元に帰ろうかなって」

「そう…」

マジック王女は少し黙り込んでから、言葉を続ける。

「私は今も四天王の地位にあるけど…学生でもあるから。実際の四天王の業務は半分くらいしかこなせていないのよ」

「そうなんですか」十分大したものだと思うが。その上成績も優秀なわけだし…

「卒業後、私は四天王として、ゆくゆくはこの国の王族として義務を果たさねばならないわ。だから…有能な部下はいくらいても足りないの…」

「へ?」それって…

「貴女が卒業後に学校に行くにせよ、どこかで職を探すにせよ、ゼスに来るなら連絡をくれない?」

「えー?あたしがそんな…」

「さっきの魔法も威力は十分だったし、剣もヒーリングも見事なものだったわ。今は、将来の選択肢に入れておいてくれるだけでいいから」

「は、はい…」

マジック王女はそれだけ言って前を向いた。

うーん、変なことになったなぁ。どうしたもんだろう…別にこの人、リア様みたいに怖くはないから別に部下になってもいいっちゃいいんだけど…あたしまだまだ冒険したいしなー…

(って、今はこの人をさらう作戦中じゃん!どうにか邪魔をしてお兄ちゃん達が追いつく時間を稼がないと…)

すっかり忘れていた。「あっあのー…」あたしが何か言おうと声をあげた瞬間。

「見て!あれ!ゴールだわ!」「やったー!」

曲がり角の先に、係員が待っているゴールが見えた。あーあ…もう作戦は失敗だ…

まぁ、これでよかったのかもしれないな。この王女様、ちょっとカリカリしてるけどい頑張ってるし…

「ゴールはこちらでーすお疲れ様でーす」「はーい!マジック班3人です!お願いします!」

取り巻きABが受付に足取りも軽くかけていく。

「おめでとうございます…ええと、3人ともリンゴ所持よし…オッケーです!一番で突破おめでとうございまーす!」

「ふぅ…これで1番で突破出来たわね…ありがとう。キヨコ、タミコ…」

「いえいえー!」「良かったね!マジック!」喜び合う三人。うん…よかったね…

『ただいま、最初の突破チームが出ました。リーダーはマジック・ザ・ガンジー。繰り返します…』

アナウンスが響く中、満面の笑みを浮かべたマジック王女があたしの手を握った。

「貴方もよ、サイダー。感謝してるわ。さっきの話、考えておいてね」「はい。ありがとうございます…」

あたしも係員にリンゴを渡し、二番手での合格を告げられながら返事を返したのだった。




マジックはその人が信用できるかは後で判断すればいい、という考えで、見どころありそうでほかの貴族の息がかかってない人なら結構気軽に声をかけています。
とにかく父親と世界に自分の実力を証明することで精いっぱいで余裕がなく、学業でも仕事でも人間関係でも焦りがちです。
サイダーちゃんに関しても国外出身でほかの国の事情に明るく、第三応用学校から最難関試験を受けに来るほど向上心があり、腕も立つなら声かけておこう、といった感じですね。

以下、妄想です。

キヨコ 
Lv18/31
魔法1 教師1

タミコ
Lv17/29
魔法1 詩1

マジックの同級生。マジックに対してへりくだったり距離を置いたりする生徒が多い中、普通に友人づきあいができる貴重な存在。
名家の生まれで、国一番の名門校である第一応用学校に通うだけあり、魔法使いとしてはそこそこ優秀。
しかし家の権力を利用することにためらいがない、二級市民を自然に見下している等腐敗の影響も受けてしまっている。
別に彼女たちの性格が悪いとかではなく、現在のゼスの貴族社会で普通に育てばこうなる、という例。

キヨコはこの後のカミーラダークで死ぬ思いをした際、二級市民の若い男兵士に助けられる。
上級学校に進んだ後、恩人の兵士に再会。彼と付き合い始めることになる。

タミコは自分以外の家族をカミーラダークで失い、学校には戻らず軍に身を投じる。
第二次魔人戦争時、マジノライン守備隊として魔軍と戦い戦死した。
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