【ペンタゴンと交渉】
ウルザさんを連れてペンタゴン地下基地に潜入したけど
想った以上に本気で狂っていてろくでもなかった
これはプランBやむなしだろうか
工場を破壊して先に進んでいると、どうやって入り込んだのか、見覚えのある少年が道を塞いでいるのが見えた。
「お兄ちゃん、あの子…」
「あー…フェリスのガキか。まだ俺様に用があるのか」
「そうだ、お前を倒す」
前に出て偉そうに胸をそらしたランスお兄ちゃんを少年は下から睨み返す。
「あ~~…おいガキ。お前は悪魔の契約というのを知っているか?」
お兄ちゃんは微妙にやりにくそうに切り出した。
「俺はその契約に基づいてフェリスを抱いたのだ。何ら文句をつけられる筋合いはないぞ」
はぁとため息をついて続ける。
「というかフェリスの奴…ガキがいるならいると最初から言えよ…そしたら俺様も…」
「………」
黙ったままの少年に対してひとりごちる。子持ちはめんどいからいやだ、って前に言ってたね。あれ?そういえば…
「フェリスさんは誰と結婚したの?悪魔回廊にたくさんいたリターンデーモンと職場婚とか?」
「…そいつだ」
なんとなく気になったあたしの質問に対し、少年はお兄ちゃんを指差して答えた。
「そうか、俺か……え?いや、俺はフェリスと結婚なんかしとらんぞ?」
「そういう事じゃない!お前がおいらの父親だと言ってるんだ!」
「えっ…」「「「えーーーーっ!!!!」」」
地下基地の廊下に悲鳴が響き渡った。
「えっ…えー…ほんとに…」
「へっ…はぁー…」
「ランス様にお子様が居ただすか…」
「確かにそっくりだけど…」
口々に驚きの声を漏らすみんな。マリアさんはへたり込む始末だ。
「うそ…ランス様…どういうことですか…?」
中でもシィルさんは顔がこわばっている。ちょっと怖い…
「ちょっと待て!待て!そんなことあるか!」
「子供ができたっておかしくないことさんざんやってるでしょうに」
「うっ…」
志津香さんに正論でぶった切られて冷や汗を流すお兄ちゃん。
「ランス様…?」
「ええい!シィル、少し黙ってろ!」
お兄ちゃんはふらふらと近寄るシィルさんをいったん押し返し、少年に向き直った。
「げほん! で…マジかそれ」
「マジだ」「ぐっ…」
一撃もらったように少しあとずさる。しかし首を振って口を開いた。
「…い、いや。しかし悪魔と人間の間に子供は出来ないはずだ。そう聞いていたぞ」
「ああ…本来はそうだ…けどお前が不安定なフセイの時期のかーちゃんを呼び出して…無理やり…その…したからだよ!」
「あっ…あの時か…」
なんか心当たりがあるっぽいな…あたしは覚えがないが。
『…シィルさん、心当たりあります?』
『…ええと…はい…玄武城の一件の時に…なんだか調子が悪そうなフェリスさんを…』
なるほど、あたしが同行してないときか。
あたし達が口を挟む間もなく、少年はお兄ちゃんに詰め寄る。
「お、お前は結構でかいじゃないか、時期が合わんぞ」
「悪魔と人間のハーフは成長が早いことがあるそうだ…カラーとかと同じだ」
「ぬ…ぬぬ…」
「それで俺が生まれて…それで…かーちゃんは…かーちゃんは…」
少年は拳をぎゅっと握ってうなだれる。
「えっ…?フェリスどうかしたのか?まさか…死んだのか?!」
「いや、生きてる」
「む…そうか。じゃあなんで俺様を狙う」
「うるさい!とにかくお前は許さないんだ!死ねー!」
ちょっと安心した様子のお兄ちゃんに、少年が襲い掛かってきた!
「だりゃー!どりゃどりゃりゃー!」
「おっ…ほっ…よっ!」
ムシ使いの村の時と同じように、変な剣を振り回して襲い掛かる少年をお兄ちゃんがいなす…という構造なのだが。
「なんか動きが…」
「ええ。前よりもだいぶ良くなってるわね」
かなみさんの言う通り、少年は前よりも格段に強くなっていた。あたしもちょっと本気でやらないと危ない程度に。
「でえりゃー!」「おっと」ギィン!「ふん!」ぐいっ!「くあっ!」
少年の力を込めた打ち込みをお兄ちゃんは真正面から受け止め、押し返した。
「…ちっ」「まだまだ!でりゃーーー!」
後ろに吹き飛ばされた少年は、気を取り直して再び襲い掛かる…とはいえ。
「ああ、少なくとも隊長が無傷でうまく取り押さえるのに手こずる程度にはなってるな」
パットンさんの言う通り、お兄ちゃんが殺す気ならとっくに勝負はついているんだよね。
さっきの押し返しもそうだ。少年の体勢を崩させたところに踏み込んでケリでも入れようとして躊躇したなあれ…
まぁ手加減攻撃って難しいしね。うちの部隊だとリズナさんや、プリマさんが得意だ。
リズナさんはともかくプリマさんの腕力で誰を手加減するんだって話はあるのだが…
「おわっ!」「おっ…だりゃー!」がきぃん!「うわぁっ!」
そんなことを考えているうちに、ボロ靴のせいで足を滑らせた少年の隙を見逃さず、お兄ちゃんは力任せに変な剣を弾き飛ばしていた。
「ふん、勝負ありだな。おい、まずはちょっと話を…」
「くっ…お前と話すことなんてない!次は殺す!」
「あっ!こら待て!」
話を聞こうとするお兄ちゃんを無視して、少年は変な剣を拾ってすごいスピードで走り去って行った。
「…逃げ足も父親譲りなのかしら…」
ぼやくマリアさんを尻目に涙目のシィルさんがお兄ちゃんに駆け寄る。
「ランス様、あの子…本当にランス様のお子さんなんですか…?」
「…知らん」
「でも、そっくりでしたよ…?」
「ええい、泣くな。知らんと言っているだろう」「でも…」
涙をこぼすシィルさんとひたすら困るお兄ちゃん。
そりゃ辛いよね。急にお兄ちゃんに子供が生えてくるなんて…
あたしにとってもあの子は甥にあたるわけで…で、あの子から見てあたしは…ん?え?あれ?あっ。
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」
思わず声が出た。
「わっ、急に大声を出すな」
「ど、どうかしましたか、エールちゃん…」
あたしはあまりの事実に、頭を抱えてへたり込み、声を漏らした。
「あ、あたし…まだ10代なのに…おばさんになっちゃった……」
「えーと…あー、そっか…」
「そうですね、ランスさんの妹なら、あの子にとってエールちゃんはおばさんに…」
「うわーーーん!やだーーーーーー!言わないでよーーーーーーーーー!」
「ご、ごめんなさい…」
思わず口に出したリズナさんに食って掛かるあたしに、お兄ちゃんが近寄ってきた。
「えーと…そのだな…これは仕方ないことでな…」
「はぁ!?誰のせいだと思ってんの!そもそもあたしがおばさんならお兄ちゃんはパパさんだからね!?」
「パ、パパさん…?い、いやだーーーー!」
「ランス様が…パパさん…ぐすっ…」「うう…おばさんはやだぁ…」
「えーい、泣くな!泣きたいのは俺だ!なんてことだ…」
「いい加減にしろ」ごんごんぽすっ「あだっ!?」「痛っ」「きゃっ!?」
仲良く頭を抱えていたあたし達3人の頭の上に何かが落ちてきた。
「これ…鉄球?きゃっ」
あたし達にぶつかってきた何か…ぎゅるぎゅる回る鉄球は、興味深そうに伸ばされたマリアさんの手から逃れるように転がり始め…勝手に跳ねてダニエルさんの手に戻った。ポケットの中身はこれかぁ…痛いなあ…
「いでで…何すんだジジイ」
「人の家庭の問題に口を突っ込むのは憚られるがな…ここがペンタゴンの基地内であるということを忘れておらんか」
「「「うっ…」」」
まさに正論。ギロリとにらまれ、思わず口ごもるあたし達。ダニエルさんの手の上で三つの鉄球が景気よく回っている。どういう技術だこれ…?
「気持ちはわかるが、後にしろ。いいな?」
「「はい…」」「ちっ、仕方ない…行くぞ」
あたし達はいろんなことを…本当にいろんなことをとりあえず一旦棚上げして、先に進むことにしたのだった。
通路の先を、ペンタゴン兵士の一団が塞いでいる。それを率いているのは…
「おう、爺さんに肉体労働させるなんてお前さんらしくないな」
「フット…」
錨を手にしたアイパッチのごついおっさん…ペンタゴン八騎士、フットだ。
「これは…その…」「儂なら構わん」
目をそらすウルザさんと、フットにまっすぐ言い返すダニエルさん。
「相変わらず、ウルザには優しいねぇ…」
「…っ…フット。ネルソンに話があるの。案内してちょうだい」
「ふぅ…提督んところ行って、どうするつもりだい?」
気を取り直したウルザさんの言葉に、フットはパイプをふかしてゆっくりと答える。
「今していることがどれほど愚かか、説明して説得を…」
「ほう、説得…それに応じなかったら?」
「それは…」
フットの口調は変わらないが、ウルザさんは口ごもって目をそらした。
「その時は、俺様が剣の錆にするまでだ」
「まぁ…そうだわな…だったら、ここを通すわけにはいかねぇな」
代わりにお兄ちゃんが前に出て、フットはパイプの火を揉み消した。
あたし達も、フットの背後の兵士たちも武器に手をかける。
「…み、皆さん…」
「うすうすは分かってたでしょウルザさん。最終的にはこうなるって」
「っ…」
この期に及んで何か言おうとするウルザさんの前で、あたしは剣を構えた。
「悪いな、ウルザ。俺は男だ。一度受けた恩を返すまで、突き進むっきゃないのさ」
フットが錨を持ち上げ、錨に付いた縄を握りしめた。
「…俺も、提督のすべてが正しいと思っちゃいない。でもな…もう退くことはできねぇんだ」
「やめてフット、お願い…貴方と戦う必要はないはずよ…」
「そっちに無くても、こっちにはある。」
声を震わせるウルザさんに言い返すその口調はあくまで優しげに。
「俺は、提督のいう世界を見てみたいんだ。方法は何でもいい…その世界を作れるかどうかが…一番大事なんだ。ウルザ、今のお前さんにゃあできないことだ」
「っ…フット…」
「それだけで、俺が提督につく意味、提督と共に戦う意味はあるんだ…退きな、ウルザ」
うーん…はぁ。男の理屈だなぁ…あーあ…どうしたもんかなぁ…
口ごもってしまったウルザさんを一瞥し…フットの口元に凶悪な笑みが浮かんだ!
「さぁて!覚悟はいいな!?」「面白い!ヒゲの前に貴様を剣の錆にしてくれるわ!」
フット達が襲い掛かってきた!
「行くぜ!どらぁ!」
フットの肩にぐっと力がこもり、間髪いれずに錨がまっすぐ投げ放たれた!
「うおっ!」「くっ!」「わっ!」
あたし達はとっさに飛び退いて躱す!
「がははは!武器をいきなり投げるとは!勝負を捨てたか!?」
「へっ…そういうわけでもないのさ!そうりゃあ!」
笑うお兄ちゃんに笑い返したフットが錨に付いた縄を掴んで振る!
縄がピンと張り…錨が回転しながら向きを変え、あたし達を薙ぎ払うように飛んできた!狙いは…後衛か!
「え…きゃあっ!?」「下がれ嬢ちゃん!」
錨の軌道上には身をすくませたシィルさん!しかしそこにパットンさんが割り込む!
ばきいっ!「ごはっ!」錨をもろに食らってよろめくが…踏みとどまる!
「ぺっ…洒落たことするじゃねぇかおっさん!」
「ほう、頑丈だなあでっかいの。キングジョージの奴と張るぜ」
血混じりのつばを吐き捨てるパットンさんに、手元に錨を引き戻してキャッチしたフットが不敵に笑う。
「俺様の女を狙いおって!許さん!」
「おっと!かかってきな兄ちゃん!」「どりゃーーー!」
お兄ちゃんが斬り込んだのをフットは真正面から迎え撃ち、ガキンキィンと錨と剣がぶつかり合う!
「今だ!フット様に続けー!」「ゼスの未来の為に!」「援護します!」
あたし達にも何人かの兵士たちが切り込んできて乱戦になった!後ろには弓兵が何人か!
「はぁっ!」「よっと!」ギィン!
勢いを付けて切り上げられる剣を、あたしは右手の剣で弾いて逸らす。そのまま左の柄頭を兵士の顔面に叩き込んだ!
「がはっ…」顔面を血まみれにして倒れる兵士。しかしその次の兵士たちがすぐに突っ込んでくる!
「おのれー!」「よくも」「くっ…数が多い!」
二人で同時に斬りかかられ、両手の剣で必死に防いで飛びのく。流石に二人はちょっと手に余る!呪文を唱える暇がない!
こうなると誤射も怖い。魔法使いに状況を打開して欲しいところだが…
「魔法使いを抑えろ!」「弓、放てー!」
「きゃー!」「くっ…」「皆さん…おらの後ろに!(ぐさっ)痛っ!」
敵の弓隊は間断なく矢を放ち、志津香さんやマリアさんを釘づけにしている!
「っ…この人たち…強いです!」
リズナさんが薙刀で応戦しながら叫んだ。確かに練度が高い。魔法使い相手の戦闘に慣れてる!
フットを中心に、たくさんの修羅場を斬り抜けてきたんだろう。
錨を縦横無尽に振り回す彼は確かに脅威ではあるのだが…
「がははははは!どうしたどうした錨オヤジ!」
「ぐっ…良い腕だな兄ちゃん…!」
お兄ちゃんとフットの一騎討ちは、徐々にこちら有利に傾き、フットは防戦一方となっていた。
「があっ!」「ずりゃあ!」キィン!
フットが苦し紛れに投げ放ってきた錨をお兄ちゃんが軽々と弾く!
弾かれた錨は宙を舞い…それを飛び上がったフットが掴み、振り下ろす!
「どりゃああああ!」
「甘いわ!がーーーっ!」ガキィン!「ぐあっ…」
フットの全体重をかけた振り下ろしを、力任せの横薙ぎで体ごと吹き飛ばすお兄ちゃん!なんてバカ力!
「ちょっと面白い戦い方だったが…俺様には通じん!とどめだ!」
お兄ちゃんは体勢を崩したフットに突っ込んでいく!
「っ!フット様をお守りしろー!」「防御陣形!」
数人のペンタゴン兵がカバーに入るが…
「がはははははは、無駄だ!まとめて吹き飛べ!ランスアターーーック!」
「「「がはあああああ!」」」
放たれたランスアタックの衝撃波は、兵士たちを吹き飛ばし…フットの肩口を深く抉っていた。
「あーあ…参ったなぁ…」
フットは肩から血を流し、ゆっくりと壁にもたれた。
他の兵士たちもあらかた倒れ、残った者も戦意を喪失したみたいだ。
「フット…」
「まあ…しゃああるめぇよ…これが俺が選んだ道だ…」
呼吸が浅い。致命傷…だな。
「ウルザ…火ぃ、つけてくれや…」
フットがパイプを差し出し、ダニエルさんは頷いて、ウルザさんをフットの傍に下ろした。
震える手でマッチを擦り、フットのパイプに火をつける。
「ん…ふぅ…すまねぇなぁ…」
「フット…」
パイプから煙が立ち上り、少しだけフットは吸い込んだ。
「見たかった、かな…ゼスが変わるとこ…見たかった…みたいだなぁ…はは…」
「フット…っ」
うなだれるウルザさん。フットの身体から力が抜けていく。
はぁー…全く男ってのはなー…はぁ…ちょっと大変だけど…あの話聞いちゃったしなぁ…しゃーないか…
「見たいなら見ればいいでしょ」「…あん?」
「エールちゃん…?」
あたしは、その愁嘆場に無遠慮に足を突っ込んだのだった。
以下、妄想です。
フット・ロット
LV30/31
槌1 統率0
自由都市出身の傭兵。
縄付きの錨を遠近自在に操る戦士。顔は凶悪で口も悪いが結構親切。
ジフテリアの船乗りの家に生まれたが、満ち潮の時以外は定期航路を往復するだけの稼業に退屈し、家を出て傭兵になった。
武器の錨はその時実家から持ち出したもの。
世界を巡って仕事をしていたが、ある時ゼスでの任務中、雇い主に見捨てられて死にかけていたところをネルソンに救われ、彼に恩義を感じて付き従うようになる。
ペンタゴンに入ってからは、テロ以外にも人助けや悪党成敗など様々な作戦に参加。
武闘派幹部のトップとして慕われるようになり、後輩のウルザやロドネー、キングジョージなどを可愛がっていた。
ネルソンが変わってしまった原因の一つはエリザベスだと薄々感じていて、ちょっと距離を置いている。
ポンパドールに関してもなんかうさんくせぇなあと思っていた。
現在のペンタゴンの方針とネルソンの言動については疑問を持ってはいるが、貴族が専横し、王は征伐ごっこに明け暮れるゼスの現状を鑑みて、少なくともそれを止めるのは自分の役目ではないと考えている。
犬好きで、今は落書き犬を飼っている。
名前はプリンスオブウェールズ。