【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【祖国の開放計画 フェイズ1】

ペンタゴンの【祖国の解放】計画というネーミングセンスのない作戦に参加することになった
脅迫状でラドンを赤川におびき出した、あとはうまく捕まえよう


39.エールちゃんは不思議迷宮に行く

赤川はマジノライン沿いの丘陵地帯から流れ出し、シナ海に注いでゼスを南北に分ける大河だ。

沿岸には森林地帯や湿地帯が広がり、モンスターもうろついているのであまり開発は進んでいない。ヘルマンと違って土地が豊かなので無理して危険地帯を開拓する必要はないし、水も最悪魔法でどうにかしてしまうのだそうだ。

そんな赤川のほとりにあたし達は縛り上げたエミを連れてやって来ていた。

「ふん、あの程度のことでわたくしが屈したと思わないことね。解放されたら、あなた方を地獄すら生ぬるいと思える目に…」

「まーだそんなこと言っとるのか」ずぼっ「あっ…♡ああっ…」

ぶちぶち言い出したエミのドレスの胸元にランスお兄ちゃんが手が無造作に突っ込む。

あっという間に顔を赤くしてくてっとおとなしくなるエミ…

というかこのやり取り、アジト出てからここに着くまでの間に4回はやってんだよね…

「…」

最初は顔をしかめて止めに入っていた志津香さんも頭痛そうにするだけで何も言わないし…。

なんか声だけでタグが面倒になりそうだから本気でやめて欲しい。

「あぅ…ああー…♡」

「おっと、そろそろ約束の時間だな」「あ…」

胸元をまさぐられ、エミの顔はあっという間にとろんとしてくるが、お兄ちゃんが手を引くと微妙に残念そうな顔になる。…どう見ても堕ちてるなこれ…

「じゃーあたし達はこっちで伏せてるから…」

「おう、行ってくる」

お兄ちゃんはエミを連れて川のほとりの開けたところに下りて行った。

 

ほどなく高そうな服を着た太ったオッサンがその場に現れた。見たことないけどアレがラドンだろう。

「ぷぷーっ!エミー!」

「お父様!」

「おっと、二人とも動くな」

甲高いぷるぷる声を漏らすラドンに対してお兄ちゃんはエミに剣を突き付けて制し交渉を始めた。

お兄ちゃんが何か言うたびにラドンはいちいち大げさにぷるぷると喚く。

「…マナバッテリーって言葉が出たら、少しだけ表情が硬くなったわね」

そんなラドンをじっと見つめながらかなみさんが呟いた。

「ってことは…」

「うん、マナバッテリーについて何か知ってそうね」

「成程なぁ。ウルザの嬢ちゃんの情報は確かだったって事か…」

感心したように頷くパットンさん。

「あれ?誰か出てきました。ラドンさんは一人で来たのでは?」

リズナさんの怪訝な声に視線を戻すと、藪がガサガサ揺れて誰かが出てきた。

「あのー?そろそろ出番ですかー?」

のんきな声とともに歩いてくるのは、修験者みたいな服の上からごてごてした装備を纏い、杖を持った青髪ポニテの女の子だ。

「こら!一人で来いと言ったはずだぞ!まぁいい。俺様も手下を連れてきてるからな…お前ら!出て来い!」

「呼ばれたね、行こっか」「ったく、偉そうに…」「まぁまぁ…」

あたし達はぞろぞろと進み出てお兄ちゃんの後ろに並んだ。

「わはは、魔法使いが一人いたところでこの数にはかなうまい。俺様の勝ちだ」

「ぷるるっ」

勝ち誇るお兄ちゃんに対してラドンは唇をぷるぷると震わせて笑った。

「人数など意味はない。千鶴子殿からお借りした我が国最強の魔女、アニス殿の力とくと知るがいい!」

「…アニス?まさか、アニス・沢渡っ!?」

志津香さんが悲鳴を上げる。

「知ってるの志津香?」

「知ってるも何も…あの子はゼス最悪の…」

顔を引きつらせる志津香さんの声を遮ってラドンが叫ぶ。

「ふふふ、もう遅いわ!アニス殿!」

「はーい。お任せ下さいー。ん-…とやーーーーー!」

アニスというらしい魔法使いが叫んだとたん、視界が真っ白に染まった。

 

「…ここ、どこ?」

気が付くとあたしは一人で白い霧の中に立っていた。

上下左右、どちらを見ても真っ白な空間だ。立てているということは床はあるんだろうけど…

「…なにこれ?」

手を伸ばしてみると何かに触れた。触った感じは石とも土とも木とも違う…不思議な感触だ。

見た目はほかの霧と全く見分けはつかないけど左右に長く続いていて、多分だけど壁かなぁ。

「うーん。どういう事かな?閉じ込められた?」

途方に暮れていると、どっかからラドンのぷるぷる声が響いてきた。

『ぷるるるるーっ!アニス殿!これはどうしたことだ!』

『あれー…?失敗かなぁー…?』

『奴らだけ異空間に閉じ込めて我々と娘だけは地上に残ったままにする作戦だったはずなのに…ぷるるっ!娘は…エミはどこだ?』

『たぶんあの緑の人と一緒ですから大丈夫ですよ』

『ぷるるるるーっ!大丈夫ではないぷーーーーっ!』

『ごめんなさいー。けど一生懸命探しますねー。さーいきましょー』

『ぷぷー…最強だがへっぽこ…噂には聞いていたが…ここまでへっぽことは…千鶴子様が微妙な顔をするわけだ…』

『へっぽこではないですよー。さぁ行きましょー』

…なるほど、どうやらあのアニスという魔法使いの魔法で作られた迷宮みたい。ということはたぶんみんなもこの中にいるよね。

「その前に一応帰り木を…うん、やっぱり圏外か。」

荷物から取り出した帰り木には圏外マークが出ている。まぁそりゃそうだよね。わざわざアイテムで脱出できるようには作らないだろうし。

もし脱出できてアジトに帰れてしまったら、またのこのこと赤川に出かけてまたアニスが魔法を失敗してまた同じように迷宮に閉じ込められるというシュールな事態になってしまう…

まぁいいや!要するにいつもの迷宮探索と変わんないよね!

「よーし!行くぞー!」

とりあえずあたしは右手の壁に沿って魔法の迷宮…アニス不思議迷宮を歩き出したのだった。

 

迷宮を歩いていると、遠くからと思しき声が響いてくる。

『ランス様ー。ご無事で何より…』ばしっ『きゃっ!』

『馬鹿者、奴隷が傍を離れるんじゃない』『はい…すみませんでした…』

「良かった、シィルさんはお兄ちゃんと合流できたかな…ん?」「わんわん」がぶーっ

声に気を取られていたら、落書き犬が腕にいきなり噛みついてきた!

「痛っ…あーもう!」ずばっ「ぐしゃぐしゃ」

振り払い、剣で薙ぎ払うと落書き犬は水に溶けるように消えていく。

大して攻撃力があるわけでもないのだが、なぜか必ず出合い頭に噛みついてくるし…強くはないけどめんどくさい敵だよね。

「がおがおーん」

一緒に出てきた落書きザウルスが顔をピカピカさせながら力を貯めている。

こいつはほっとくと放射能入りの炎を吐いてくるのだ。放射能が何かは知らないけどね。なんか体に悪いらしい。

とはいえ力を貯めてる間は動けないので…

「えいっ」ずばっ「ぐしゃぐしゃー」

あたしはすたすたと落書きザウルスの薄っぺらな体の後ろに回り、背中?のあたりを深く切り裂いて仕留めた。

「いたいのいたいのちょっととんでけー…っと。一人での攻略は久しぶりだから新鮮だね…ん?」

ヒーリングしつつ耳を澄ませると、どこかから声が聞こえてきた。

「海賊の名にかけてー!」「きゃあっ!」

「くっ…下がってマリア!」「で、でも…志津香!」

「この声…志津香さんとマリアさん?」

この迷宮内は音が響くのか、さっきまでのラドンたちやお兄ちゃんのように遠くで誰かが話していても聞こえてくることがあるんだけど、この声は…響いている感じがしない!近くに居るかも!

声のする方に走り、角を曲がるとその先には二人の姿が!海賊風の女の子モンスター、確かキャプテンバニラだ…に追いかけられてる!

「こっ…来ないでー!」

「魔法使い…もらった!」

撃つヒマがないのか、マリアさんはチューリップの銀色の砲身を振り回して牽制するが、キャプテンバニラは無視して志津香さんに殴りかかり…

「おんどりゃーーー!」「くっ!新手か!」

横から突っ込んだあたしが大きく振るった剣を避け、ステップを踏んで後ろに下がった!

「二人とも、大丈夫でしたか!?」

「エールちゃん!?」「よ、良かった…助かったぁ…」

露骨に安心する二人。よく知らないけどキャプテンバニラはちっこい体に似合わず、中級の女の子モンスターの中ではガチの前衛系と聞いたことがある。後衛二人だけじゃきついよね。

「水陸両用、いつも元気」

よく見れば後ろには回復系のズかっぱまでいる。こりゃ厄介だ。けど…

「あの、あたしがキャプテンバニラを相手しますから、二人は…」

「分かったわ、後ろは任せて」「うん。チューリップの力、見せてあげる!」

あたし達は頷き合い、女の子モンスターたちを迎え撃った!

 

「海賊の名にかけて!」「どりゃー!」びゅっ「しっ!」 

また性懲りもなく突っ込んできたキャプテンバニラに向け、突き出した右の剣はサイドステップで躱される。

「ふんっ!」ぶおっ「わっ!」がちん!

フックを脇腹に打ち込んでくるのを剣の柄で受けた。

「ふんがー!」「むっ…」

力任せに押し返すと、キャプテンバニラはきゅきゅっとちょっとファンシーな靴で床を鳴らしながら距離を取って避ける。

ちっちゃい体を生かして潜り込んで来る。下からの攻めが厄介だ。おまけに体格の割にタフで馬力があるからやりづらいなぁ。

無論ちょっと鍛えたくらいで拳で剣に勝てる道理はなく、既に何度か浅くだが切りつけてあちこち傷を負わせているのだが、その顔にひるむ様子はまるでない。ガッツも十分というわけだ。

「ファイヤーレーザー!」「逃げても無駄よ!食らえ炸裂弾!」「か、回復…」

ちらりと視線をやると、志津香さんとマリアさんは逃げるズかっぱにバカバカと攻撃を打ち込み続けていた。回復も追いついていないし、早晩落ちるだろう。

「…そろそろ倒れてもらおう!」あたしの視線を追い、それを確認したキャプテンバニラが改めて両拳を持ち上げ…姿勢を低くして突っ込んできた!

やっぱ勝負に出てきたか…なら!

「どりゃー!」

あたしは右手の剣をキャプテンバニラに向けて投げつけた!

「なっ…くっ!」ギィン!

驚きに顔をゆがめながらも剣は弾かれる!

そのまま突っ込んでくるキャプテンバニラの鼻先に、あたしは指を突き付けた!

「雷の矢!」ばしっ「きゃん!」「すかさずエールキーック!」ばきっ!「あうっ…」

至近距離から魔法を食らって体勢を崩したキャプテンバニラのお腹に容赦なく冒険ブーツの足先をねじ込む!

「がはっ…」「片手だけど…AL魔法剣!」ずばーっ!「…む、むかつくよー…がくっ」

とどめの必殺剣を食らったキャプテンバニラは、膝から床に崩れ落ちた。

ぱりーん「皿がー 皿がー…」

同時に、志津香さん達がズかっぱの皿をぶち割った音。戦闘終了だ。

「ふー。何とかなった…」剣を拾って鞘に納めて一息つく。

「ありがとうエールちゃん。助かったわ。」「あー。怖かったー…」

「いえいえ、お互い様ですから…わっ」

いきなり長身の人影がにゅっと割り込んできた。

「おや…?これはキャプテンバニラではないですか。ズかっぱも…こちら、不要でしたらいただいてもよろしいですか?」

「タ、タマネギさん…無事だったんですね。まぁ…要る要らないでいえば要らないですけど…」

「ありがとうございます…ふふふ。でしたらくるくるっと…」

タマネギさんはあっという間に二匹をす巻きにして麻袋に放り込んでしまった。手慣れてるなぁ…まぁいいけど。

「…で、これからどうする?」

「帰り木もダメですし…どうしましょう?とりあえずお兄ちゃん達と合流します?」

「そうね、アニス・沢渡を相手にするなら人数は多い方がいいわ」

志津香さんが顔をしかめる。

「そういえば志津香、あのアニスって子のこと知ってるの?」

マリアさんの質問に、志津香さんはため息をついて話し始めた。

「ここ最近だけど、魔法使いの間ではだいぶ噂になってるわ。魔法大国ゼス最強にして最悪のへっぽこ魔法使いアニス…ってね。あまりにも大きすぎる魔力を持て余していて、戦場に出れば敵も味方も被害甚大。味方殺しのアニス、人間災害とも言われてるらしいわ」

「うわぁ…」

確かにそれは近寄りたくないなぁ…

「この魔法で作った迷宮にしてもね。迷宮作成は超高度な魔法よ。少し失敗したみたいだけど、うまく行ってたら今頃私たちは迷宮に閉じ込められて脱出もできなかったでしょうね」

「ひー…そんなのを相手にしないといけないのか…」

「幸い隙はおおそうだからどうにか…っ!?」志津香さんが急に振り向いた。

「え?何?」「これは…!」あたしもわかった。壁の向こうから…ものすごい魔力を感じる!

『ぷるるーっ!何をするつもりだ!』

『近道をつくりますー白色破壊光線びーっ』

「伏せてーっ!」「ひーっ!」どかーん!!!

あたし達が伏せると同時に、極太のビームが近くの壁を突き破っていった。

『ぷるううううう!娘に当たったらどうするつもりだぷるううう!』

『そんなの確率は低いし大丈夫ですよー』

『ぷるるるっ…そういう問題じゃない…分かった、味方殺しのアニスと呼ばれる理由が…』

『そんなひどいこと言わないでくださいー』

ラドンとアニスの声が遠ざかっていく。どっかに行ったようだ。

「ひぃー…とんでもない破壊力ね…」

マリアさんが壁に空いた穴を眺めてしみじみという。

「志津香さんもあの魔法出来ますよね?壁壊せます?」

「無理よ…私のじゃ威力が足りない。頑張って1枚ぶち破ったらそれだけで魔力が切れるわ」

「そうですか…」

「それに…あんないい加減な詠唱でこの威力を…?どんな魔力量してるの…?」

アニスというのは思った以上に怪物らしい。どうしたもんかと皆が押し黙ったところで。

「ん?おお、お前ら。無事だったか。」

壁に空いた穴の向こうから、見知った顔がひょっこり覗いていたのだった。




読んでいただきありがとうございます。

原作ではアニス不思議迷宮はお帰り盆栽で脱出できるのですが、
それをすると
罠とわかっていてのこのこと赤川に行くランス、
同じ魔法を同じように試して同じように失敗するアニス
失敗すると判って任せるラドン
というアホなことになってしまいます。
この辺はゲームの都合ですね。

ラドンが生き延びた理由ですが、ここで娘想いな面を見せ、なおかつアニスにひどい目に遭わされたのが大きいと思っています。
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