アイスの街からカンラの街へと向かう道中で、あたしとランスさんは言葉を交わしながら歩いていた。
「ふむ、なるほど。ではエールちゃんはずっと一人で冒険していたわけか」
「ええ、何度か誘われたことはあるんですが……なんか皆あんまり強そうじゃなかったので……」
「ほうほう、では誰とも付き合ったことはないのか」
「えー……はい……そうなりますね……」
「ぐふふ……つまり処女だな……うむうむ……」
ランスさんは後ろを向いてぐふぐふ笑いながらうんうん頷いている。
それで聞こえてないつもりなんだろうか……向けてくる視線も露骨にだし……でもなんかそんなに嫌じゃないんだよね。
あたし、こういう強引な人がタイプなのかもしれないな。
後ろではシィルさんは苦笑してかなみさんは呆れていたが、かなみさんが急に顔を上げて遠くを見た。
「何か来るわ! あれは……イカマンの群れね」
「なあんだ、イカマンかあ……」
あたしたちは一瞬表情を固くしたが、すぐに力を抜いた。
とはいえこっちに向かってくるなら迎撃しないとね。
ランスさんとあたしで止めてシィルさんが魔法、かなみさんが遊撃かな?
ランスさんがどれだけ強いのか、確かめるいい機会だ。
「じゃあ、あたしも前に立ちますから……」「いや、下がっとれ」「え?」
剣を抜いて前に出ようとしたあたしをランスさんが止めた。
「ふふん、俺様に任せておけ!」
「え? イカマンとはいえけっこうたくさんいますよ?」
「がはははは! イカマンなんぞいくら居ても俺様の敵ではないわ!」
後ろの二人の表情を見ると、二人とも仕方ないなあ、という感じの顔だが……少なくともランスさんの心配はしていないな。
「よーく見ておけよエールちゃん!」
ランスさんは無造作に剣を抜き、姿勢を低くしてイカマンの群れに突っ込んだ。衝突する直前に大きく跳躍し、剣を振りかぶる。
(列車斬りじゃなくて縦斬り? 群れ相手にそれは……っ!?)
振りかぶられたランスさんの剣が光を纏い、あたしは目を見開く。
「木っ端微塵になりやがれ! ランスアタッーク!」
着地と同時に剣が思い切り叩きつけられ、まるで爆発でも起きたような衝撃が辺りを揺らした。
巻き上げられた小石がパラパラと落ちてきて、土埃が吹き去ったあと、そこには一匹残らずバラバラになったイカマンたちと、ランスさんだけが立っている。
「…………」
あたしは口をぽかんと開けて見入っていた。
「ふん! 楽勝だ楽勝!」
「お疲れさまです、ランス様!」
戻ってきたランスさんにシィルさんが駆け寄って、タオルと水を差し出す。
今の技、威力だけで言うなら、魔法使いの火爆破とそう変わらない。
けれど、前線で暴れまわる一流の戦士が振り回すなら、もはやそれは災害に近いだろう。つまり、あれが噂に聞く……
「ラ、ランスさん! あれ、もしかして必殺技ですか!?」
「がはははは! そう、あれこそは俺様の超グレートな必殺技だ! かっこいいだろう!」
「はい! すっごくすっごくかっこいいです! どうやって覚えたんですか!? どうやって出してるんですか!?」
たぶんあたしの目はキラキラと輝いていたと思う。
「わははは、それは今夜にでもじっくりとだな……」
「それはいいんだけど、もたもたしてるとカンラに着く前に日が暮れるわよ?」
かなみさんに促されてあたしたちは先を急ぐことにした。
あたしとランスさんが笑いながら歩いている後ろで、かなみさんとシィルさんも何やらひそひそとしゃべっていたが良く聞こえなかった。
「あの……かなみさん……あの二人……」
「うん……私も思ってた……髪の色とか……歯とか……目の感じも……」
「でも……親戚がいるなんて……聞いたこと……」
どうにか日が暮れる前にカンラの街に着いた。
こちらにはへルマン軍は来ていないらしいが、ハナから抵抗する気がないのかそれとも呑気なだけなのか、ものものしい雰囲気はまるでなかった。相変わらずやる気のない町だなあ。
もう遅いので宿で食事をして客室に入り、荷物を下ろしてシャワーを浴びた。
寝間着に着替えて髪を乾かしていると、ドアがノックされた。……来たか。
「俺様だ、入るぞ」
「ランスさん? はーい、どうぞ」
あたしは、笑顔で彼を迎え入れたのだった。
このエールちゃんは基本的にはまともな倫理観を有していますが、甲斐性のある男が女をたくさん抱えることに関しては肯定的です。
孤児院では誰かの後妻や妾になる子も多く、なおかつそれは進路としては比較的ましなほうだったためです。
別に孤児院が腐っていたというわけではなく、犯罪者や奴隷商は弾いて娼館などにも直接は引き渡してはいませんが、厳しいルドラサウムでは限界があるのです。