【祖国の開放計画 フェイズ1】
ペンタゴンの【祖国の解放】計画というネーミングセンスのない作戦に参加することになった
ラドンの連れてきた最強へっぽこ魔女アニスの魔力で作られた迷宮に閉じ込められてしまったが、
失敗でラドンとアニスも中にいるらしい。とっ捕まえて脱出だ
お兄ちゃんと合流できればあとはいつもの流れだ。
迷宮内をサクサク歩き回ってフィッスネだのちゃぷちゃぷだのをしばき倒し、バラバラになっていた皆を集めていく。
ただし、相変わらずのアニスの破壊行為は続いていて…
『えーい。道がわかりません。白色破壊こうせんー』
『ぷるーっ!やめろといってるだろー!』
遠くからどかーん!とまたしても壁がいくつもぶち破れる音が響く。
「うーむ、相変わらずとんでもないことをしてやがるな」
「魔法Lv3らしいからね…最強魔法使いのガンジー王でもLv2だから相当よ」
「ほう、おなじへっぽこでも実力は大違いというわけか」
「何よその目は!」
かなみさんをからかって遊んでいたお兄ちゃんがふと真顔になった。
「そういえば戦士は必殺技が使えればLv2、というのが決まっとるが…魔法使いにもそういう決まりがあるのか?」
「ええとね、魔法使いの場合は魔力にも差が出るけど…なにより技能レベルごとに使える魔法が決まってるの。例えば志津香は白色破壊光線が使えるから魔法Lv2ね」
お兄ちゃんの質問にマリアさんが答える。眼鏡キャラの面目躍如だ。
「ほー。そうなのか。エールの奴はどうなんだ?この間死にかけのおっさんを生き返らせとったが」
「え?あたし?よくわかんないなぁ…フットさんはまだ死んでなかったし…」
「私は神魔法には詳しくないから…どうなんだろ?シィルちゃんわかる?」
「あ、はい。あれは大回復…ヒーリング5ですから、エールちゃんはLv2かと思いますよ」
「へー。あたし神魔法Lv2だったんだ」
「まったく、自分の事だろう。なんで知らんのだ」
「う…その…剣を振り回す方が楽しくて…」
「まぁいい。シィルは魔法と神魔法、どっちも使えるけどすごい魔法は使えんからLv1というわけだな。やーい中途半端。」
「うぅ…」
「がはははは…ん?」
「この壁、邪魔ですー。いきますよー。」
「ぷるーっ!」
お兄ちゃんの笑い声に混じって、またアニスとラドンの声が響いて…
「なんか…この声…近くないか?」
「やばっ、みんな…」
「黒色破壊こーうーせーん!」
どかーーーーーーーん!
逃げて、という前に目の前の壁を粉々にしながら黒い光線が迫ってくる!
「ランス様!危ない!」「ぐっ…馬鹿が!」「ひゃっ…」
シィルさんがお兄ちゃんをかばおうとして前に出て…お兄ちゃんはシィルさんを抱きしめ、崩れてくる壁に背中を向けてシィルさんをかばった!
これまでの白い光線より格段に太い黒い光線は、あたりを派手にぶち壊し、大きく崩壊させながら突き進んでいく!
「くっ…魔法バリア!」「きゃーっ!」「嬢ちゃんたち!しゃがめ!」
魔法と壁の崩落に、あたしたちは巻き込まれたのだった…
悲鳴と崩れる音がやんで、あたりに静寂が戻る。
「うう…みんな無事?」「なんとか…」「」
とりあえずあちこち痛いけど…生きてはいるか。
「あ~…どっこいしょっと…ちょっと死ぬかと思ったな…みんな無事か?」
瓦礫の山が動いて、中からパットンさんが出てきた。皆をかばってでかい瓦礫の下敷きになったはずなんだけど…頭にでかいコブができているくらいだ。
なんでコブで済んでんのかな…というかなんで生きてんのかなこの人…
ともかく、おかげでみんなもひっくり返ってうめいているだけで死んではなさそうだ。
破壊光線の直撃自体はしなかったのは運が良かったかな。してたら蒸発していたかもしんない。
「…ふー。あ、いたー。極悪人はっけーん。千鶴子様、アニスはやりましたー」
「エ、エミーーーーーーーーーー!」
そんななか響いたアニスの能天気な声は、ラドンの悲鳴にかき消された。
目を向ければ、エミが瓦礫の中でドレスを血で染めてぐったりと倒れている。
「あ、あー。や、やっちゃいましたー?…その、えーっと。ごめんなさいー。」
ぴゅーっとどっかに走り去っていくアニス。
「エミ!エミ!しっかりするぷるーっ!…うう…エミ…」
ラドンはエミに駆け寄り、豪華な服を血まみれ埃まみれにしながら、エミを抱き締めぽろぽろと涙を流した。
その首筋に、剣の切っ先が突きつけられる。
「さぁ、答えてもらおうか…娘は返した。マナバッテリーは…どこにある!」
同じくズタボロのお兄ちゃんがふらふらになりながら立っていた。シィルさんは気絶してるみたいで、壁際に寝かされている。
「ぷるるるるっ!エミをこんなにしておいてよくもぬけぬけと!」
「アホか、こんなケガをさせたのはお前の連れだろうが」
「ぷるるるるっ…うっ…」
涙を浮かべたラドンはお兄ちゃんをにらむが、冷静に言い返されぷるぷると唇を嚙む。
「さっさと言え…でなければ、お前をここで殺す。そしたら娘もここで野垂れ死にだ」
「わ、わかった!言う!言うから!」がばっ!
ラドンが、ゼスの魔法使い貴族が、魔法の使えないお兄ちゃんに向かって頭を下げ、額を地面に擦り付けていた。
「エミを!娘を病院に連れて行かせてくれっ…頼むっ…」
「………………ちっ。先に言え」
舌打ちしたお兄ちゃんに向け顔をあげたラドンが、唇をぷるぷるさせながら言葉を紡ぐ。
「わ、わかった…マナバッテリーは…四天王の塔の地下にあるぷるっ…」
「四天王の塔?」
四天王の塔と言えば、首都防衛のための4つの要塞だ。名前の通り、ゼス四天王がそれぞれ守っているらしい。
「一つの塔に、一つづつ。全部で4つだ、ぷるっ…このことは、四天王の中でも千鶴子様しか知らせられていない…」
「成程な、それだけ大事に守っているってわけだ」
「そ、それを外国人のお前がどうするつもりだぷるっ!」
「社会科見学だと言ってるだろうが…で、嘘はないな?」
「ぷるるるるっ!こんな時に嘘などつかん!ああっ…!か、顔色が…エミ…エミ!」
「はぁー…………わかった。…おい、エール!」
「え?何…?」
急に呼ばれてどうにか返事する。
「そいつにヒーリングをかけてやれ」
「ええ?あたしもケガしてんだけど…」
どうにか立ち上がるが、脇腹がずきりと痛む。アバラくらいイッてるかもしんないな。
「シィルは寝とるし…お前はそれくらい平気だろ。さっさとやれ」
お兄ちゃんは剣を収めて額から垂れる血を袖で拭っている。まーしょーがないか。
「…ん、わかった。よいしょっと」
「ぷ、ぷる…お前は…」
「はい、ちょっと失礼っと…いたいのいたいのとんでけー…」
あたしはエミを抱くラドンの傍に寄り、ヒーリングをかけ始めた。
「お、おお…エミ…」
すぐにエミの顔色が少し良くなり、ラドンがまだ涙を流す…んだけど。あれ?
なんか…ずいぶん生命力が強いな?傷はそれなりに深いけど…全然死にそうにはないぞこれ…うーん。まぁ言う必要もないか。
「はい。とりあえず命に別状はなくなったけど…早く病院に連れて行った方がいいよ」
死にはしなくても傷が残るかもしれないからね。
「お、おおっ…ぷっ…ぷるうっ!」
ラドンはエミを背負い、走り去って行った。
迷宮はいつの間にか消えていた。アニスがどっか行ったからだろう。
「ふぅーーーーーー…任務完了…帰る、ぞ…」
お兄ちゃんは心底疲れた様子で、その場に座り込んだのだった。
帰り木でアジトに帰ったあたし達は、みんな多かれ少なかれケガをしていたのでしばらく休むことになった。
特にお兄ちゃんとシィルさんは割と重傷だ。包帯まみれで横になっている。
ネルソンが早速情報を聞きに来たが追い払ってしまったらしい。まーそのうち教えるだろう。
んで、あたしは比較的ケガは軽い方だったので、皆にヒーリングをかけて回っていた。
「いたいのいたいのとんでけー…っと。」
「ありがとう。少し楽になったわ」
足を瓦礫に挟まれてしまったかなみさんは、足に添え木を当てて氷で冷やしている。
「この分なら2~3日でよくなると思う。はぁ…足をケガするなんて…忍者失格だわ…見回りもできない…」
「アジトの周りをいつも警戒してくれてますもんね。ありがとうございます」
「任務だからお礼を言われるようなことじゃないんだけどね…」
かなみさんの部屋を出ればしばらくは暇だ。
「さーて…何をしようかな…ん?」
伸びをしながら見回すと、アジトの周囲をランニングするでかい人影が見えた。
「パットンさーん!もういいんですかー?」
「おお、エールの嬢ちゃん。おかげでもうピンピンしてるぜ。頑丈なのが取り柄だからよ」
でかい顔にくちゃっとした笑みを浮かべるパットンさん。もうコブも引っ込んで、この間のエミ以上に生命力も溢れまくっている。
「そういえばちょっと時間いいか?聞きたいことがあるんだが」
「えっ、彼氏はいませんけど‥好きな人は居るんで…ごめんなさい」今は逃げられてるけどね。
「あ、いや…そっちの話じゃなくってな。あんたの兄貴、隊長さんは強いな」
「ええ、強いですね」
「師匠はどんな人なんだい?家は自由都市と聞いたが、そこにいるのか?」
「えーと、前に聞いてみたことありますけど、『師匠などおらん。俺様の強さはすべて俺様の才能の賜物なのだ』とか言ってましたよ」
まーどっかで基礎は叩き込まれたんじゃないかと思うんだけどね。
「へー…こりゃ意外…でもないか。誰かに従うようなタマでもなさそうだしな」
納得したように頷くパットンさん。
「なんか強い人の情報でも集めてるんです?国にスカウトでもするとか…」
「いや、個人的に強い奴に興味があるのさ…俺は剣はからきしでなぁ。強くなれなかったんで、強さにコンプレックスがあるみたいなんだ」
「…いや、十分強いですよ?」
お兄ちゃんと二人で前線で暴れ回る姿を思い出す。あんまりスマートではないし、ちょっとヒーリングは大変だけど、あの戦いっぷりを見て弱いという人は居ないだろう…
「いや、剣がダメだが拳ならいける、と気が付いたのは結構最近でなぁ」
「へー…そうなんですか」その割には結構技が多才だけど…どっかの冒険で覚えたのかもしれない。
「世の中は広い。強い奴がいっぱいいる…例えば、リーザスの赤い死神、リック・アディスン。昔少しだけ見たことがあるんだ。戦うところは見れなかったが…ありゃきっと強いぜ」
「あー。リックさんですか…あの人は強いですよ、ええ」
「お?知ってるのか?」
「あー…ちょっと縁がありまして。」
「そうか、世間は広いと思ってたが案外狭いのかもな…他にはそうだな…」
「ゼス王ガンジーとか?すごい強いって聞きますよ」
「ああ、そういう噂だな。でも魔法使いはちょっとな…理不尽だから好かん…」
「ヘルマンにはどんな強い人がいるんですか?」
「そうだなぁ…強者と言えば、二刀流のロレックス将軍だな」
「あー。ヘルマンの人斬り鬼!リーザスの赤い死神とどっちが強いかってよく話題になってました」
あたしも我流だけど二刀だし、いつか会ってみたいとは思ってるんだよね。
「他にはそうだな、ヒューバートの奴の戦い方も見ていて気持ちがいい」
「ヒューバート…ヘルマンのヒューバート?もしかして、赤毛でちょっと不良っぽくて刀使ってる…?」
「おお、そいつだそいつ。なんだ?ヒューの奴と知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとお兄ちゃん達と空中都市を冒険した時に知り合って…」
「え?あのイラーピュの墜落騒ぎに隊長は関わってたのか?もしかしてリーザスのリックと並んで戦ってた剣士って…」
「まぁお兄ちゃんでしょうねぇ…」
「はぁー…成程なぁ…隊長さん、なんかやたら強いとは思ってたが、なるほど納得だ。」
うんうんと頷くパットンさんが、ふと遠い目をした。
「まぁ、いろいろ強者はいるが…それでも俺が知る限り、最強はトーマだな…」
「あー…トーマですか…ありゃ確かにやばかったですねー。お兄ちゃんも流石に死にそうになってましたよ」
「……ちょ、ちょっと待て。隊長はトーマと戦ったことがあるのか!?」
「え?ええ、はい。」
「なんで知ってるんだ?」
「そりゃああたしもその場にいましたし…」
「そうか、トーマを相手にしてよく命があったなぁ…」
「いえ、勝ったのはお兄ちゃんですが…」
「はぁ!? え?… じゃ、じゃあ…トーマを討ち取り第3軍を壊滅させた、リーザス解放軍を率いた黒い剣の戦士って…」
「まぁお兄ちゃんのことでしょうね…」
「……」
険しい顔で黙り込んでしまった。まーそりゃあショックだろう。
そういえば聞きたいことがあったし、聞いてみよう。
「ところで、あの時、リーザスに攻めて来てた皇子って何て名前でしたっけ?」
「はぁ?」
「いや、ご兄弟の事を悪く言うのもなんですけど…魔人に担がれてたアホで間抜けで弱っちくて偉そうでスケベで図体だけはでかいくせに短気なバカ皇子って解放軍内で評判だったんで、名前を忘れちゃったんですよね。結局死んだって聞いてますが」
パットンさんはものすごーく微妙な顔をして、口をモゴモゴさせた後、大きなため息と共に答えた。
「………パットン・ヘルマンだ」
「へー、そうですか…パットン…えっ?」
「そうだ、俺がその、魔人に担がれてたアホで間抜けで弱っちくて偉そうでスケベで図体だけはでかいくせに短気なバカ皇子だ!」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「なんかその…すみません…」
「いや、いいんだ。その…俺がしでかしたことに比べれば大したことじゃあないからな…はぁ…」
肩を落としてため息をつくバカ皇子…じゃない、パットンさんが言う事には、国元での立場を政敵に脅かされているのにつけ込まれて魔人の提案するリーザス侵攻に加担したが、あたしたちリーザス解放軍に巻き返され敗北。
魔人にも裏切られて死にそうなところにハンティというすごい魔法使いに助けてもらったそうだ。
どうにか生き延びたが、ヘルマンでは死んだという事にされてしまい国にも帰れず、仕方なく隠れていたら、拳でなら戦えるということに気が付き、日々修行をしていたのだという。
ん~~~。あたしとしてはレッドに被害はそんなになかったので恨みもそこまでないけれど。
リーザスの人たちは恨み骨髄なんじゃないかなぁ…?かなみさんは知ってるはずだよね?
いや、今はそれよりも。
「お兄ちゃんの事、恨んでます?」
「ん?ん~~~~~~~~~~…」
パットンさんは腕を組んで目を閉じ、少しうなってから口を開いた。
「…………いや、いろいろ思うところはあるが…今では感謝かな。」
「へ?」
「あれで、俺はようやく自分で何とかしなきゃならんと思って…ちっとはマシになることができたわけだし…それに…」
「それに?」
「今考えてみれば、あの時の俺があのままリーザスや自由都市を征服出来ていたとしても絶対ろくな事にはなってなかった。…魔人連中、なんか企んでたんだろ?」
「ええ、まぁ…ちょっと話せないんですけど…」
「いいさ。ろくでもないことだってことは聞かずともわかるからな」
パットンさんは息を吐いて、でかい顔に太い笑みを浮かべた。
「代わりといっちゃなんだが、一つだけ聞かせて欲しい。トーマはどう戦って、どう死んだんだ?」
「…分かりました、」
あたしは、ノースの街の郊外で起きた戦いについて、パットンさんに説明したのだった。
話を聞いたパットンさんは、「そうか、トーマは最後は笑ってたのか…ありがとよ。少しすっきりしたぜ」と言って去っていった。
けっこう長い話だったので、もうそろそろ日が沈む。…いい時間だ。
あたしはぶらぶらと歩き、丘を越え、アジト近くの森へ。少し入り込んだあたりで足を止める。
すっかり日が沈み、あたりが真っ暗になってもあたしはその場に立ち続け…気配を感じて振りかえる。
「やっほー。久しぶりですね。えーっと、なんてお呼びしたら?ウィチタさんでいいですか?」
「ああ、本名だからな。それでいい」
予想通り、学生服を身に纏い、剣を身に着けた赤髪ポニテの女性がそこに立っていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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くっそ暑い…エアコンが壊れたら死んでしまう…