「あ、座ってください。今お茶をいれますから…」
「うむうむ、おかまいなく」
客室に備え付けのお茶セットでお茶をいれながら、あたしは内心盛り上がっていた。
(ひゃー…思わず入れちゃったけど、女の子の部屋に男の人が来るなんて…『そういうこと』だよね?ひゃー…)
後ろをチラリと見ると、ベッドに腰かけたランスさんはあたしの背中や少し下を見ながらニヤニヤと笑っている。
(やっぱそうだ…そうだよねー…でも…)
怖くはない、と言ったら嘘になる。なるけど…別に嫌…ってわけじゃないな。
(いつかは誰かとそうなるのは当たり前のことだし…今日ここでこの人と、というのも悪くはないかな…)
昼間のすごい必殺技を目にしたときの感動もあるし、それにこうして鼻の下を伸ばしていても何となくだが勝てる気がしないんだよね。あたしが振り返って襲いかかってもすぐ取り押さえられそうな気がする。
「粗茶ですが」「うむ…あちち」
ランスさんに熱いお茶を渡すと、ぐいーと一口で飲もうとして諦め、ふうふう吹いて冷ましている。
(ううー…シスター…セルさん…あたし今日大人の階段を登っちゃいますね…!)
あたしも鼓動が早まるのを感じつつ、彼のとなりに腰掛けてお茶をふうふう冷ました。
「ふうふう…ずずず…そういえばエールちゃんはどこの生まれなのだ?家族は居るのか?お姉さんなどが居ればさぞかし…」
お茶をすすりながらあたしの身の上を尋ねてくるランスさん。
「あ、あたしは孤児なので…ずずっ」
「む、それは悪いことを聞いたな」
「いえ、孤児院の皆は良くしてくれましたし…」
少ししんみりとする。
「ふーむ、そうするとエールという名前もそこでつけられたのか?」
「いえ。昔、あたしのことを抱いた女の人が、孤児院の前で行き倒れていて…その人はすぐ亡くなっちゃったんですが、最後にあたしの名前を言い残したそうです」
お茶を一口飲んで、続ける。
「『エール・
「ほう、エール・クリア。いい名前じゃないか…ずずず…でもどっかで聞いたような…ん?」
ランスさんはお茶をすすりながら何か考えている。
「それでですね、その人が言い残したことは他にもあってですね!」
熱が入り、ベッドから立ち上がってランスさんに背を向けて続ける。
「あたしには兄がいるそうなんです!」
「……ほ、ほう…」
「名前は分からないんですけど、片腕のおじいさんと一緒にいるはずだそうで」
「……」
「見つけるのは難しそうですけど、どうにかして会いたいなーって思ってるんです」
「…そ、そうか…」
「あ、手がかりって言ったらなんですけど。あたし、才能限界をレベル屋さんで何度計ってもらっても不明って言われちゃうんですよ!才能って遺伝するものらしいですし、兄ももしかしたらそんな感じかもしれません!ランスさん、そんな人知らないです?」
ランスさんからの返事はない。しゃべりすぎてしまっただろうか?
「あ、すみません、あたしの話ばっかり…」
気を悪くしてないかと振り向くと、何故かランスさんは顔を真っ青にしていた。茶碗を持つ手が震えて、中のお茶がちゃぷちゃぷ揺れている。
「あ、あの…大丈夫ですか?お茶、不味かったです?」
「いっ、いや、そんなことはないぞ、うむ。ほら」
残ったお茶をグビッと一口で飲み干して、ランスさんは立ち上がった。
「いやあ、ごちそうになった。それではまた明日!」
「は?」
ここまで来てそれはないでしょ?もしかして緊張してる?もしかしてあたしの身の上を聞いて同情してそういう気じゃなくなった?
あたしは手を伸ばしてランスさんの服の裾を掴み、
立ち止まったランスさんの背中に触れる。
おのれ逃がすか!こうなったら…孤児院の女子の間で密かに受け継がれてきた裏マニュアル『男の落とし方100選』その29を実践するしかない!
「あの、ランスさん…あたし、いいですよ?ランスさん強いし…あたし、そういう男の人好きなのかなーって…」
「…………」
背中を指でいじくりながら続ける。あ、なんかぴくっとした。
「あ、でも、ランスさんは慣れてるんでしょうけど、そういうの初めてなので…その…」
息を深く吸って、トドメ!
「…優しくしてください…ね…?」
(決まった…)
ランスさんはビクビクっと震えて、こちらを振り向いて、あたしの両肩を掴んだ。そして
「女の子が…そんなふしだらな事するんじゃなーい!!!!」
めっちゃ怒った。
「…えっ?」
予想外の事態にあたしは思わず固まり、同時にどんがらがっしゃーん、と隣の部屋で何かが盛大にこける音がしたのだった。
ランス君(そう言えば3歳くらいの時弟だか妹だかが産まれたような覚えがかすかに…どうせ死んでると思ってすっかり忘れとった…)