【クーデターの成果を確認】
マナバッテリーをぶっ壊した結果あちこち大混乱だ
首都に行ったペンタゴンとも連絡が取れない
仕方ないから様子を見に行こう
「うわああああああ!」「きゃーっ!」「おかーさーん!」「助けてくれー!」
「火事だー!」「軍は何をしてるんだ…うわーっ!」
やってきたゼス首都だが、あちこちから火の手が上がってるし悲鳴や怒号が聞こえてくる。
「だめっぽいなこりゃ」
「だめっぽいっすね…」
「とりあえずネルソンたちを探すか…おい、アベルト。連中はどこにいるんだ?」
「ええとですね、ここまでくる間に手に入れた予定表によると、今の時間には中央放送局を抑えて、臨時政府を樹立。部隊を派遣してゼス王宮を包囲しているはずですが…」
「そんな様子はないよねぇ」
王宮はここからも確認できるが、周りにはゼス軍の姿しか見えず、包囲されているようには見えない。
「放送局も現時点では占拠されていないようですし、うまく行ってないんでしょうね。適当なところに簡易基地でも作ってるんじゃないですか」
アベルトさんはどうでもよさそうに肩をすくめた。
「ふむ…仕方ない。まぁこのあたりに居るだろ。エリザベスちゃんやポンパドールちゃんがピンチだったら助けてやらねば」
そんなわけで、あたし達は首都の街中に足を踏み入れた。
ゼス首都は、リーザス王都とも趣が違い、背の高くて四角い建物…ビルやマンションが立ち並んでいる。
ビルの間をいくつもの歩道が走っていて、建物同士をつないでいるのでいちいち地面に降りなくても移動ができる。
基本的にこういった歩道は一級市民とその奴隷専用の道で、二級市民は入れないらしいが…今は警備もいないので、あたし達も勝手に入ってのし歩いていく。
「やった、大儲けだぞ」
「次はあっちの建物に行こう」
「ん?なんだあんたら?」
当然勝手に入ってのし歩いているのはあたし達だけではなく、こういった暴徒もうろついているわけで。
5人組の暴徒は、あたし達が軍や治安隊ではなさそうと見ると明るい声で話しかけてきた。
「ああ、あんたらもクーデターか?お祭りみたいで楽しいぜ」
「見てくれよこれ!取り放題だぜ!」
「なにせ魔法使いの奴ら、なんか変な機械にかかりきりで反撃してこない。殴り放題だ」
現金や金目のものがたっぷり入ったカバンと、血が付いた棒切れを持ってゲラゲラ笑う男たち。
「次はあのビルに行こうぜ!前から金持ちが住んでそうと思ってたんだ!」
「おー!」
男たちはどやどやと行ってしまった。
「うむ、どう見ても暴徒だな」
「あれ?何か落としていったわよ」
かなみさんが何か書類のようなものを拾い上げる。
「えーと…これは指令書ね。なになに…」
みんなで書類を覗き込む。
「『祖国の解放作戦』指令書、発・ペンタゴン作戦司令部…ゼス首都方面第37小隊宛…」
「18時に主要新聞社のどれかを襲撃、社長以下重要人物を捕虜とし、別命あるまで待機のこと…」
「なにこれ?あいつら、ペンタゴンの一員だったってこと?」
「どう見ても作戦に従ってはいなかったが…」
「たぶん暴徒に指令書を押し付けてるだけなんじゃない?」
「そんなんでいうこと聞く訳ないだろうに…」
「あの、それにあの人たち、多分文字自体読めないだすよ…」
「ていうか、あっちの通りで暴徒にぼこぼこにされてるのペンタゴン兵士じゃない?」
「「「…」」」
想像以上のどうしようもなさに、一同黙り込んでしまった。どうするんだろうこれ…
「よし、引き続きペンタゴンの連中を探すぞ」
しかしお兄ちゃんはなんでか平然としていて、すたすたと先に歩き出してしまった。
しばらく進むと大きめの陸橋のど真ん中にでかいテントがあった。ペンタゴンの旗が掲げられている。
「お、あそこか。行くぞ」
テントの中を覗いてみると、中はハチ女の巣をつついたような大騒ぎだった。
「何とかしろっ!57地区の責任者からの返信は!」
書類や地図が散乱した大きな机の前でエリザベスが回りの兵士に向けてヒステリックに喚いている。
「ありません!ひょっとしたら死んでいるのかも…」
「泣き言は聞きたくないわ!通信が繋がらないなら直接伝令を走らせて!」
「B62地区、作戦失敗!正規軍から逃走しています!」
「なんですって!?近くには相当数の二級市民がいたはずでしょう!」
「そ、それが…二級市民達は一向に我々の指示に従わず…主要施設の制圧前に正規軍が…」
「くっ…遺憾ながら、B62地区は放棄する!ほかの地区に兵を振り向けるぞ!かならず…必ず盛り返して見せます!提督!」
「…うむ…」
テントの奥に座っていたネルソンが鷹揚に頷く。こんな状況だけど落ち着いて…いや、フリーズしているだけかもしんないな。貧乏ゆすりしてるし。
「うむ、面倒なことになっとるな。ほっとこう」
お兄ちゃんはそれだけ言って振り返った。
「お兄ちゃん、これどうすんの?」
「どうもせん。どうせこんなこったろうと思っていたからな。」
「ええ…」
「うむ、それよりもだな…」「待て!」「ん?」
話を中断され振り向くと、エリザベスがいた。
「お前たち、ポンパドールを知らないか?」
「あん?ない乳ちゃんか。見てないぞ」
「くっ…そうか…作戦指示や連絡担当のあの子がいないからこんなことに…何とかしなくては…なんとか…」
ブツブツ言いながらエリザベスは戻っていく。
「ま、こういうこった。結論。クーデターは失敗、解散、閉店ガラガラ、がめおべあだ」
「そんな無責任な…」
涼しい顔のお兄ちゃんにサーナキアさんが食って掛かる。
「俺様達は連中のやりたいという事を手伝ってやっただけだ。文句を言われる筋合いはないし、何よりもうどうしようもないだろ」
「くっ…」
サーナキアさんは歯噛みして引き下がった。
「まぁ、せっかく首都まで来たんだ。この隙に美女を根こそぎ…いや、困っている美女を助けて回るぞ。がははは…」
そういうことになった。
とりあえず近場のマンションに押し入ったあたしたちは、
「おっ、金庫があるぞ。そりゃー」ばきーん
「おお、結構入ってるな。大漁大漁」
「どう見ても泥棒ね…」
「どーせおいといても燃えるかその辺の暴徒に取られるだけだ。俺様が有効活用してやる」
金庫をぶち壊して金を奪ったり、
「えいっ、えいっ。死んじゃえ!」
「あちっ、あちちっ…なんだお前は!やめんか!」
「うっさい。死んじゃえ。強盗!暴徒!馬鹿の二級市民!」
「むかっ。馬鹿っていった方が馬鹿なんじゃー!」
「きゃーー!」
超弱い炎の矢で反撃してきた女の子をお兄ちゃんがハイパー兵器でお仕置きしたり、
「うおおおお死ね魔法使い!」
「お前が死ね二級市民!」どたんばたーん
「ランス様、助けないのですか?」
「オッサンに興味はない」(ハナホジー
取っ組み合う住民のおっさんと暴徒をそっとしておこう…したり、
「うわーこの部屋の住人、相当な読書家ね…本がこんなに…あっ、これ欲しがった論文集…」
「欲しいならもっていけばいいだろ」
「いや、そういうわけにはいかないわよ…うう…」
「そうか、んじゃ次の部屋に…」
「あっ、火事だ」
「あー…本に燃え移ってて…あー…」
「スプリンクラーでグシャグシャになっちゃったね」「あー…」
マリアさんが貴重な文献を見かけて悩んだあげくに置いて行ったらそこが火事になったり、
「おっ、まあまあ美人。安心しろ、俺様が…」
「いやあああ!助けてえええええ!」
「待て、落ち着け、俺様たちは助けに…」
「いやあああ!おげええええええ!やめてええええ!ああああああ!」(じたばた
「…いかん、完全に正気を失っとる…ほっとこう」
助けようとしたご婦人が発狂していて怖かったので放置したり、
「あん?なんだ、貴様等は暴徒ではないのか。ならば金をやるから私の護衛をしろ。ただし部屋には入るなよ。家が汚れるからな。さ、とっとと外に…」
「ムカつくから殺す」ざしゅー
「うぎゃーっ!ぼ、暴徒だったのか…」ばたっ
「暴徒ではないわ」「暴徒でしょ」
イヤミな住民が護衛に雇おうとしてきたのをムカつくからとぶっ殺したり、
「よっしゃあ!」
「わ、どうしたのコパンドンさん」
「ゼスの企業の株価が想像通りに大暴落!仕込んどいた空売りが大当たりや!」
「へ、へぇー…」
「元値の1/5あたりになったら今度は買い!よーし儲けたるでー!うち大金持ちや!」
ラジオを聞いていたコパンドンさんが暴落するゼス株の空売りに成功したとガッツポーズしたり…
強盗、強姦、殺人、インサイダー取引などいろんな悪事をこなしながらマンション内を練り歩き、入ってきたのとは別の階層の入り口から外に出た。
「む、正面のでかい建物はなんだ」
「ゼス水道局だってさ。『ゼスの美味しいお水は貴方の魔力供給にかかっています』…だって」
「なんとなく美人がいそうな気がする。入るぞ…こんにちはー。水を一杯下さいな」
「ランス様、水道局は家庭にひく水道を管理するところなので…あ、今月の水道代払ってたかな…あてなちゃんが何とかしてくれるといいけど…」
「シィルさん、案外図太いんですね…」
「ぴがーっ!」「ん?」
見れば警備用の魔法ウォールがこちらに警告音を出しながら迫って来ている。
「おお、魔法生物がいるということはまだ暴徒に荒らされていないな。美女が居るかもしれん」
ガッシボカッ!とやっつけて奥に進むと、水道局の局員たちが何かの装置を囲んでいるところに出くわした。
「魔法使いの連中こんなところでなにしとるんだ?」
「あ、あたしこれ見たことあるよ。魔力注入装置。あーやって魔力を注ぐの」
「あー。ウルザちゃんが言ってたアレか。マナバッテリーに魔力を注ぐってやつ…そのせいで何もできんのだな」
あたし達がやいのやいの言っていると、局員もこちらに気が付いたみたいだ。振り向いてなにやら相談し始める。
「ぐっ…こんなところまで暴徒が…どうしますか所長」
「うむ…君たち。そこにあるものは何でも持って行っていい。だが、我々の邪魔はしないでくれ。この通りだ」
なんと、ちょっと立派な服を着た局長らしきおっさんが、装置に手をかざしたままだがこちらに頭を下げた。
「所長!?」「二級市民相手ですよ!?」「今は一国の大事だ。些末なことにはこだわってはならん」
「ほう、殊勝だな…お?そこにいる女の子はなかなかだな。宝物は要らんからその子を…」
お兄ちゃんが手をワキワキとさせる。うーん、この人たち比較的まともだしあんまりひどいことしたくないなぁ…とはいえ言っても聞かないし。なんか気を引けるものないかなぁ…おっ。
「あっ、お兄ちゃん。あそこに貝殻があるよ」
「貝だと?」お兄ちゃんは脱ぎかけたズボンを履きなおし、ぐるりとこちらに振り向いた。
「ほら、あそこの机の後ろの箱に…」びゅん!「わっ」
「どれどれ…ふむふむふむ…なかなかの粒ぞろいだぞ…ぐふふ…」
ものすごい勢いで箱に飛びついたお兄ちゃんは慎重な手つきで貝殻の吟味を始めた。
「これは…バハマ貝じゃないか!これはいいものだ…むっ!このコムラ貝…良く見れば産卵穴が二つ!レアものだ!俺様の目は誤魔化せん! そしてこっちのはそら貝!この透き通るような青はどうだ!」
「ランスさんって変わった趣味をされてるんですねぇ」
「意外だよなぁ。女にしか興味はないと思っていたぜ」
楽しそうに貝を漁るお兄ちゃんを眺めながらパットンさんとアベルトさんが漏らす。
「がーははははは、大漁大漁!おい、おっさん!この貝殻は頂いていくぞ!」
「あ、ああ…水道工事の際に出てきたものだからね。遠慮せず持っていきたまえ」
「ほう、それは盲点だったな…また様子を見に来るか。よーし、引き上げるぞお前ら!」
機嫌よさそうにお兄ちゃんが宣言して、あたし達は胸をなでおろしたのだった。
「はーい!あなたたちのおかげで作戦が成功したわ!ありがとーう!」
もうそろそろ戻ろうか、ということで元来た道を引き返していると、いきなり声が掛けられた。
見ればベレー帽に工作員スーツという感じの女の子モンスターがにっこり笑って片手をあげている。
「あん?ライカンスロープか?お前なぞ知らんが」
「あ、わかんないか。えーっと…」女の子モンスターは顔の前で腕を動かし…
「はいはいはーい!我がペンタゴン機関紙『我が闘争』最新号でーす!どぞ、どぞどぞ、どーぞー!」
「えっ…お前…!?」
次の瞬間、そこに現れたのはペンタゴン幹部のポンパドールだった。
「んふふー。貴方達には感謝してるから見逃してあげる。じゃあねーん(ちゅっ)」
ポンパドールは一瞬で姿を戻すと、投げキッスしてぴょーんとジャンプ。どこかに消えてしまった。
「へあー…あの子、女の子モンスターだったんだねぇ…」
「てーことは、ペンタゴンには魔軍のスパイが入り込んでいいように操ってたって事か…」
パットンさんが苦い顔になる。昔を思い出したかな。
「ふむ…もう一度、ネルソンたちの様子を見ておくか」
ということでペンタゴン臨時基地まで戻ってきたのだが…
「C12地区、立てこもっていたビルごと魔法で爆破され、全滅!」
「D81地区も暴動により全隊員負傷、行動不能っ…!」
「A46地区より救援要請!治安隊に完全に包囲されたとのこと!」
「あ…E36地区、生命反応消失…生存者0です…」
「エリザベス様…っ…」
「く…ああ…そんな…作戦がすべて…もう…どうしようもないの…?」
「は、はは…」
「…提督?」
「もうダメだ…ははは…どうすればいいのだ…だめだ…終わりだ…どうすることもできん…」
「くううっ…まだ諦めるな!我々には思想が、信念が!正義がある!我がペンタゴンは不滅だ!諦めるなぁ!」
頭を抱えて絶望するネルソン、金切り声で空虚な信念を叫ぶエリザベス。想像以上に終わっていた。
「うーん、だめっぽいなこりゃ」
「だめっぽいっすね…」
「おお、お前さん達。無事だったか」
ぼやくあたし達の前にのっそりと出てきたのはフットだった。疲れた顔でパイプをくわえている。
「フットさん、あの、実は…」
「ポンパドールがどっかの回し者だったって話かい?」
あたしが話す前にフットは正解を口にした。
「気が付いとったか。あいつ、女の子モンスターだったぞ」
「成程ねぇ…怪しいとは思っていたが…ま、消えるまで気が付かなかった俺たちが間抜けだわな」
フットはふーっ…とタハコの煙を吐き出した。
「これからどうするんです?」
「まぁ、提督をどうにか安全なところまで逃がして…そこから先は…そのあと考えるさ。…達者でな、嬢ちゃんたち。ウルザに謝っておいてくれや」
そう言って、フットは背を向けてテントに向かっていったのだった。
もう首都でやることもなかろう、とあたし達はアジトに戻ることにした。
報告のために会議室に向かうと、ウルザさんとダニエルさんの前で何かを抱えたキムチさん達が話している。
「戻ったぞー。クーデターは失敗失敗、大失敗。暴動は制御不能だ」
「や、やっぱり…」
ウルザさんの顔色は真っ白だ。
「どうしたんです?…キムチさん、その紙ごみは?」
「子供たちが森で見つけたの。ウルザが…協力してくれる人たちに向けて出していた手紙だけど…破かれて、森の中に捨てられていて…」
「えっ…?そんな…じゃあ…?」
「手紙は届いていなかった…氷溶の者たちも動いてはくれない…もう…希望は…どこにもっ…」かくっ
「わっ…」「ウルザちゃん!?」「ウルザっ…」
気絶し、崩れ落ちるウルザさんを慌ててキムチさんとダニエルさんが支えた。
「ウルザっ…ウルザ!…くっ、医務室へ!」
「ちっ、俺様が運んでやる。貸せ」
「…」
あたし達が騒ぎながらウルザさんを運んでいくのを、アベルトさんは何の感情も籠っていない眼で見つめていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
以下、妄想です。
ウッノセ
Lv12/23
魔法Lv1 事務Lv1 政治Lv1
ゼス水道局局長。ゼス全土の水道を管理する、長官の次くらいには偉い人。妻に先立たれて独身。
長官は名門貴族が世襲制で回しているので、普通の役人としては限界まで出世したと言っても過言ではない。
実際に役人としては有能で二級市民への偏見も薄く、日々まじめに仕事をしていた。
原作では秘書のミヤビくんを目の前で犯されてしまったが、本作では工事中に出土した貝殻を取っておいたために難を逃れた。
後にゼス脱出集団に加わり、どうにか生き延びて水道局長に復帰、ミヤビくんと再婚した。マジック王時代には世襲制ではなくなった内務長官に出世する。
時々ランスが貝をたかりに来るので、妻を守るため相変わらず貝は集めている。