【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【ゼス脱出集団の護衛】

お兄ちゃんはへそを曲げてしまったので、
他のみんなは、あたしも含めてゼス脱出集団に義勇兵として参加することにした
気にはなるけど仕方ないよね


56.エールちゃんはこき使われる

 人や荷物を満載したうし車、そしてその回りを歩く人たちが列をなして平原を進んでいく。その列はあまりに長く、中段当たりのここからは、先頭も後端も遠くに霞んで見えない。

「あ”ぁ~~~~~~~頭痛い~~つかれた~~~」

 その列の中に混じったうし車の荷台の上で、あたしは美少女らしからぬうめき声をもらしながらごろごろ転がっていた。

「エールさん、大丈夫ですか?」

 御者をやってるゼス軍の人が声をかけてくる。

「あ、はい…なんとか…」

「次の目的地まで少しありますから、そのまま休んでいてください。」

「…すいませんけど、そうさせてもらいますね…」

 あたしはガンガン痛む頭を抱えて毛布をひっかぶった。

 

 どうしてあたしがこんなにくたびれているか説明するには、まずゼス脱出集団について理解する必要がある。少し長くなるぞ。

 ゼス脱出集団は首都を出発して国境のアダムの砦を目指す大集団で、まぁ実質的には巨大な難民キャンプが移動しているようなものなのだが…問題は規模だ。その数…550万。

 550万人である。550万人。びっくりどころの話ではない。

 この世界の全人口が3億だから、だいたい2%弱がこの集団にいることになるな…。あれ?世界の人口とかどこで習ったんだっけ?まぁいいや。

 550万人のうち、軍人や義勇兵、自警団など戦える連中は30~40万くらいかな。それで回りを固めつつ進んでいくわけだ。

 魔軍の本隊は王都に残った後詰の部隊が食い止めてくれているとはいえ別動隊はひっきりなしに襲い掛かってくるし、その辺には野良モンスターも生息している。そういうのと戦えば、当然負傷者は出る。

 こんな状況だと戦力はいくらあっても足りないので、急いで治療せねばならない。つまりヒーリングでどうにかするしかない。これが…だいたい一日に3万件くらい出る。

 まぁここまではいい…よかないけど。3万件はよかないんだけど、話が進まないのでいい事にする。

 

 まず、550万人の人間というのは大群だ。これが毎日歩いたりうし車に載ったりして一日中移動するというだけで…そりゃまぁものすごいことになる。人が一日3食食べるなら550万人の人は一日に1650万食食べるし、寝るなら550万人分のテントやら寝袋やら毛布やらがいるし、それらを輸送する手段も必要だ。

 それに加えてトイレの問題がある。550万人がトイレで…………うん、この話はよしとこうか。とにかくそれも大変なのだ。

 で、この人たちの大半は首都周辺の住民で、旅慣れてはいない。そういう人が急にこういう移動をすると、まぁ足をくじいたり腰だの膝を痛めたりといった怪我をしたり、体調を崩して病気になったりする。

 そういう人たちを置いていくわけにもいかないので、当然治療するのだが…この環境ではゆっくり寝かせたり入院させることもできない。つまりヒーリングでどうにかするしかない。これが…まぁ一日に5万件くらい出る。

 

 合計すると、だいたい1日8万件のヒーリング案件が発生するわけだ。

 んで、魔法大国ゼスと言っても神魔法の使い手はそれほど多くない。一部の部隊に回復兵がいるだけだ。この集団には、義勇兵の中の回復魔法が使えたり応急手当ができる連中を足しても2000人程度しかいないそうな。

 つまり8万件を2000人で割って、一人頭で一日40件のヒーリング案件をこなす必要がある。

 そしてさらに、ゼス軍の回復兵の練度はとても高いとは言えないので…高度な神魔法を使える人材…例えば、神魔法技能持ちの人は特に頼られてしまうことになるんだよね。

 というわけであたしもヒーリングのかけすぎでくたびれているのだが…それだけではない。

「あ~~~~~~~~あの時あんなこと言うんじゃなかった…」

 あたしは、数日前の事を思い出した。

 

 もわんもわんもわん(回想の音)

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 あの時、ゼス城でへそを曲げてしまったランスお兄ちゃんをあたし達は散々なだめたりすかしたり頼んだりしたのだが。

「めんどい。

 しんどい。

 あほらしい。

 かったるい。」

 などとダメダメ星のダメダメ星人みたいなことを抜かして尻を掻いて屁をこくばかりで全然立ち上がってくれなかった。

 あのあといろいろ考えてみたのだが、

 ・国民と国家のためにみんなで力を合わせよう!みたいなノリがなんかヤダ

 ・ウルザさんが自分のいう事聞いてくれなくなったのがヤダ

 ・1義勇兵として戦うのは自分が中心じゃなさそうでヤダ…etc

 みたいな感じの細かい不愉快が積み重なった結果なんじゃないかなぁ…たぶん、だけれど。

 ともかくお兄ちゃんはニートと化してしまったので、あきれたみんなは少しづつ離れていき…結局シィルさんとカロリアさんだけ残して、他のみんなは全員お兄ちゃんの下から離れて、ゼス脱出集団に義勇兵として参加することを選んだ。

 残った二人については…シィルさんはお兄ちゃんから離れる訳はないし、カロリアちゃんもゼス軍に協力なんてもってのほかだろうしね。

 正直あたしもさんざん悩んだし、ロッキーさんも辛そうだったけど。さすがにマナバッテリーを壊した責任みたいなものも感じている。ここでじっとしてるということは流石にできなかった。

 てっきりコパンドンさんあたりは残るかと思ったんだけどね。どうもここでゼスの上層部にガ~っと顔を売りたいねん、あとイイ女は男がダメなときは立ち上がるまでは世話を焼かないものや…らしい。よくわかんないな。

 ということでお兄ちゃんから離れた一同で大噴水の前に行くと、そこには老若男女関係なく、冒険者警備隊貴族二級市民、様々な格好をした人たちがすでに集まっていた。

「いろんな人たちがいるねぇ」

「あっ、アイスフレームの人たちもいるな」

「男の人たちと話しているけど…誰かしら?アイスフレームのジャケットを着てるけど」

「ああ、ランス様が前にまとめて追い出した男隊員の皆さんだすな」

「それどころかペンタゴンの連中や夜盗も混じってるぜ。本当になりふり構わずって感じだなぁ」

 まぁこういう感じならあたしたちもしょっ引かれることはないだろう、と安心して待っていると、拡声器を抱えた兵士が進み出てきた。

「ご協力いただきありがとうございます!先に伝えた通り出自は問いませんが、まずは皆さんのできることを確認させてください! 魔法を使える方はこちら、武器を使って戦える方はあちら! 戦えなくても、手伝いは出来るという方はそちらに集まってください!」

「なるほどな、とりあえず大雑把にそう分ける訳か」

「それじゃあ、ぼくたちはあっちだな」

「はいだす。みなさん、どうかご無事で…」

「えーと、志津香。私はどっちに行ったら…」

「はぐれたら面倒だし、マリアもこっちでいいでしょ。行くわよエール、リズナ。」

「はーい」「ええ…」

 あたしは志津香さんについて、魔法使いが集められている場所に向かったのだった。

========================================================

 もわんもわんもわん(回想終わりのの音)

 

 んで、そんな状況で、もし、仮にだが。

 その魔法使える組の集合場所で、

「すみません、魔法使いでもヒーラーは特に足りていません!回復魔法が使える方はこちらに集まってください!技能Lvがわかる方は申告もお願いします!」

 とか言われて、いい気になって、

「はーい!エール・クリアです!神魔法Lv2です!(どやぁ」

 とか堂々と名乗ってしまった義勇兵志望のスーパー美少女神官戦士がいた場合どうなるだろうか?

 答えは、ものすごい勢いで確保されて、こうして専用うし車と人員まで付けられて、一日中走り回ってはひたすらヒーリングを頭痛がするまでかけまくる羽目になる、だ。

 とはいえ、あたしも結構冒険していろいろ経験しているし、神魔法にもそこそこ習熟している。そりゃきついけど、この程度耐えらんないほどでもない。人類の為我慢だ我慢。

 

 走り回っている間、仲間のみんなの姿を見かけることもあった。

 志津香さんマリアさんは前衛の魔法兵部隊に混じって危険の排除を担当しているみたいだ。バカスカぶっ放されるマリアさんのチューリップの破壊力に周りに魔法使いたちが目を丸くしていたっけ。

 パットンさんとロッキーさん、コパンドンさんは後方で肉壁兵部隊に混じって敵の追撃への対応をしていた。まぁ時間がなかったので遠くから手を振るくらいしかできなかったけどね。

 他にはプリマさんは同じ治療役なので救護所でよく見かけたし、パリス学園で出会ったカナさんは冒険者風の服に着替えて楽しそうにモンスター相手に剣を振り回していて、守備隊の春川さんも張り切って魔軍に白色破壊光線をぶちこんでいた。

 他のみんながどこでどうしているかはわからないが、まぁたぶんそれなりにやっているんだろうな。

 

 そして、結局お兄ちゃんは、ウルザさんに魔法ハウス…必要に応じて実物大になったり模型サイズに縮小する、便利で貴重な家型魔法アイテムだ…をもらったキムチさん達と一緒に、何をするわけでもなくぐうたらしているらしい。

 正直早く機嫌を直して手伝って欲しいんだけど…そうもいかないよねぇ。このままアダムの砦まで何事もなく着けばいいんだけど…

「あの、エールさん。本部から連絡です。急に産気づいた妊婦がこの傍にいるそうで…できれば軽く治療しておいてほしいとのことです」

 そんなことを考えていたら追加の仕事か…まぁ妊婦さんじゃあ仕方がない。

「…ごくん。げほっ…。大丈夫です、向かってください」

 あたしは効果とまずさが倍増しているらしい高級竜角惨を飲み下しながら、どうにか返事したのだった。

 

「ふぃー…疲れたぁー…(つんつん)ん?」

 どうにかお産を済ませた妊婦さんへの処置も終わり、医療テントの外で深呼吸をしていたら、肩を誰かにつつかれた。

「誰…ってげっ!ガンジー王!」

 振り向いたその先に立っていたのは、巨体の魔法使い、ガンジー王だった。

「うむ、弾倉の塔で見た時はまさかと思ったが…やはりアリオス殿の供周りをしていたエール殿であったか」

 う…やっぱりあたしがあそこにいたの見られてたか…

「い、いえあれはおにい…兄がですね…」

「いや、分かっている。君たちはウルザ殿の命で動いていたのだろう?」

「え?はい、まぁ…」

 とっさに言い訳をしようとしたあたしをガンジー王は制した。

「以前からアイスフレームの理念と、家族から受け継いだ彼女の意志については知っていた。それゆえレジスタンス活動を見逃し、カオルを通じて支援していたのだが…アイスフレームがカオルを監禁し、マナバッテリーの破壊を計画していると聞き、正直な話、私は彼女を疑った。弱ったところを何者かにつけ込まれ、好き勝手に利用されているのではないかと…」

「は、はぁ…」

 すいません。うちの兄がすこし…いやだいぶつけこんでました。

「しかし、それは間違いだった。魔法使いと二級市民の融和という、彼女の信念には傷一つなかった…見るがいい、この脱出集団を…」

 ガンジー王は周囲を見回した。

「魔法使いとそうでないものが、皆手を取り合い力を合わせ、困難に立ち向かっている…私が王になって以来、どれほど努力しても成し遂げることができなかった光景が、ここに実現しているのだ…!うう…」

 涙を流しながら感動の涙を流すガンジー王。

「君たちはこうなることを見越して行動を起こしたのだな?弾倉の塔では失礼な物言いをした…申し訳ない。そして、ありがとう。心から礼を言う…」

「は、はぁ…」

「確かに今、ゼスは未曽有の危機を迎えている。しかし、国民が一つとなり、力を合わせたならできないことなど何もない…恐れることはないのだ…ああ、私の代でこのような光景を見ることができようとは…」

 感動しているところ申し訳ないんだけど…正直めちゃめちゃドン引きだ。

 さんざん国内でいろいろ暴れて、挙句にマナバッテリーをぶっ壊して魔軍侵攻を誘発して、多分死者も大勢出るだろう。どれくらいの被害が出るか想像もつかない。

 そんな事態を、これはむしろ国民が団結できる好機、と捉えるのもぶっ飛んでるが、それを引き起こした相手に礼を言うのは…はっきり言って正気とは思えない。

 いや…まぁ感謝はしてるけどそれはそれとして張本人たるお前らは処刑だ!とか言い出さないのは助かるし、ある意味器が大きいともいうのかなぁ?偉い人の考えてることはわからん…

「エール殿ー?どこにおられますか?そろそろ次の場所に向かわねば…」

 おっと、呼ばれてる。ちょうどいいや。

「すみません、あたしそろそろ…」

「おお…うむ、邪魔をしてすまなかった。行くといい」

「は、それでは失礼しますね… はーい、今行きまーす」

 あたしはうし車に飛び乗り、次の現場に向かった。

 

 だいたい数日間はこんな感じで、あたしはひたすら走り回ってヒーリングし、ゼス脱出集団はどうにかえっちらおっちら進んでいった。

 そんなある日、ちょっと時間ができたのでお昼にキムチさんのところに寄ってみると、

「え?お兄ちゃんいないの?」

「ええ、昨日、『しばらく出かける』って、シィルさんとカロリアちゃんと、荷物を持って出て行っちゃったのよ。」

 お兄ちゃん達はいなかった。

 ふーむ、荷物も持っていったということは目的地はその辺じゃあないんだろうけど。もしかして暇だからってどっかに冒険にでも行ったのかな?ここからだと秋の森が近い。

 とりあえず気にしないことにしてキムチさん達と久々にお昼を一緒にして、その後ヒーリングをして回って、与えられた寝床に入って眠りについた。のだが。

「…い、…きろ……てくれ…おい、起きろ!」ゆさゆさ

 夜中になんでか誰かにたたき起こされた。

「うーん…なに…うるさいなぁ…ふぁぁ…。…あれ、ウィチタさん?」

 寝ぼけまなこを擦りながら起きてみれば、目の前にいるのはガンジー王のおつきのウィチタさんだ。

「説明は後でするから急いで来てくれ!治癒魔法が必要なんだ!」

「あー。はい。わかりました…」

 ウィチタさんは結構取り乱しているし、ただ事じゃないなこれは…

 面倒だけど、こういうことはヒーラーにはつきものだ。あたしは仕方なく彼女についていき、キャンプから少し離れたところに止まっているうし車に案内された。

「ここだ、中にいる」

「はいはい、患者はどなた…ええっ!?」

 うし車の荷台には、ガンジー王とシィルさん、リズナさんが血まみれで横たわっていた。

「えっ!?シィルさんにリズナさん?それにガンジー王?なんでこんなことに…」

「…エールさんですか。お久しぶりです…」

「カオルさんまで…」

 三人の看病をしていたらしいカオルさんがこちらを向いて頭を下げた。カオルさんも浅いけどケガしているな…

 あとカロリアちゃんが荷台の壁にもたれて寝ている。こっちはケガは…してないかな。途中で自己治癒したのかもしれないけど、少なくとも治療の必要はなさそうだ。

「いったい何があったんです?お兄ちゃんは…いや、先にヒーリングしますね」

 何があったかは気になるが、まずは怪我人優先だ。まずは三人の生命力をチェックして…

「うわっ」

「どうかしたのか?」

「いや、なんでもないです」

 ガンジー王生命力すごっ。ほんとにゼス人?ヘルマン人じゃないの?

 まぁそれはともかく…けっこう負傷はひどいけど、みんなすぐに気合入れて治療すればどうにかなりそうだ。

『天にまします我らが神よ…地に満つ数多の聖霊たちよ…此方より、祈りを捧げ奉ります…』

 あたしは居住まいをただし、あの後ちゃんと覚え直したヒーリング3の聖句を唱え始めた。

 

「…いたいのいたいのとんでけー…はい、これでいいですよ」

「ありがとうございます」

 ガンジー王たちの治療が無事に済んだあと、カオルさんのケガにも軽くヒーリングしておく。三人はまだ起きないけど、顔色も良くなったしもう大丈夫だろう。ようやく話が聞けそうだ。

「それで、何があったんです?シィルさんとカロリアちゃんが居るってことは、お兄ちゃんも一緒だったんですよね?お兄ちゃんはどこに?」

「あの男か、あいつなら…」

 答えようとしたウィチタさんを抑えて、カオルさんが前に出て口を開いた。

「…ランスさんは…その、おそらくは、魔軍に捕らえられたと思われます」

「ええっ!?」




読んでいただきありがとうございます。

説明回になってしまいました。

状況がわかりにくいのですが、ゲーム画像を使うのもなんかの規約にアレしそうとのことで
絵とか描いたことはあんまりないエールちゃんが地図を頑張って描いてくれました。
よろしければご覧ください。

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