【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【アルファ要塞を破壊せよ】

脱出集団は順調に進んでいるが、途中にあるアルファ要塞が魔軍に占拠されてしまったらしい
位置的に迂回もできないのでどうにかするしかない
こんなこともあろうかと設置されていた自爆装置で(もったいないけど)破壊しよう




64.エールちゃんは潜入する

「アレがアルファ要塞か」「はい、そうです」

 平原のど真ん中に立つ要塞から少し離れたところにあたし達は立っていた。

 アルファ要塞は、流石にマジノラインやアダムの砦とは比べ物にならないが、十分巨大な要塞だ。円形で城壁は高く、魔法兵器があちこちから顔を出していて、周りには深い堀を巡らせている。

 そんなアルファ要塞だが…今、中をうろついているのはゼス軍の兵士ではない。魔軍の魔物兵たちだ。3万ほどの兵士を収容できるらしいが、まぁさすがにそんなにはいないだろう…。

「はー…これがゼスの中央部、本土防衛の要になる要塞かぁ。ちと造りは古そうが…」

「流石に正面から攻めるのは厄介そうね」

 パットンさんとかなみさんがぼやく。

「というわけで裏口から忍び込みましょう。こちらです」

「ゼスの要塞の裏口かー。売ったらええ金になりそうな情報やな」

「ふふ…『破壊された要塞の裏口』の情報、ですが、売れますか?」

「あ、せやな。ちぇっ」「あ…そうか…」「そうよね…」

 コパンドンさんと一緒にパットンさんとかなみさんもため息をついた。仕事熱心で結構なことだね。

 でもまぁそりゃ、外人ばっかのあたし達に任せるんだから、その辺はちゃんと考慮しているんだろうな。

 あたしはカオルさんの後に続きながら、司令部であったことを思い出していた…

 

ほわんほわんほわん(回想の音)

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 それなりに順調に脱出集団が進んでいたある日。あたし達はまた司令部に呼び出された。

「で、なんだ?俺様に話とは」

「まぁそう急くな。今からする」

「…」「…」

 偉そうなお兄ちゃんを気にする風もなく話を始めるガンジー王。そんな光景を不機嫌そうにマジック王女が睨んでいるが…うーん。

「では、始めよう。現在の脱出集団の位置はここだ…」

 ガンジー王は壁のモニターを操作して喋り始めた。

 現在、あたし達ゼス脱出集団は予定のルートの半分くらいまで来た。ここまではうまく行っていると言っていい。後詰の部隊や橋を破壊するなどの妨害で魔軍本隊の足止めをしつつ、回りこもうとする別動隊などを叩いて進路を確保、ゆっくりゆっくり進んでいる。

 このままいけば、予定通りアダムの砦まで着けそうなのだが…一つ問題が起きた。

 進路上にあるアルファ要塞が、魔軍の別動隊によって陥落したらしい。

 

「何やっとるんだ、だらしない」

「うむ…それなりの数の兵と義勇兵が詰めていたのだが…どうやら二級市民と魔法使いの不和が収まらなかったらしくてな…隙を突かれた、ということになる」

「部隊を率いていたのは魔人カミーラの使徒、ラインコックと思われますが、魔人ジークも暗躍していたという情報もあります」

 横から千鶴子さんが補足した。

「ジーク?カミーラの他にも魔人がいるのか」

「ああ、現在国内では魔人カミーラの他に、ジーク、サイゼルの二人の魔人が活動している」

「ほう、女か?」

「ジークは…まねしたの魔人だな。サイゼルは外見は美しい女性との報告がある」

「まねしたはどうでもいいとして、そうかそうか…ぐふふふふ…」

「……っ!」

 ガンジー王は気にしてないみたいだけど、マジック王女のおでこにビキビキと筋が浮かんできている。

「えーっと、それでアルファ要塞なんですけど。どうするんですか?」

 あたしは慌てて話を戻した。

「おお、そうだったな…まず、アルファ要塞に敵兵力がいる状態で脱出集団が通り過ぎるのは危険が大きすぎる。かといって要塞を攻めるには戦力が足りない…」

「そうか?頭数なら結構いるし、力押しでどうにかなるだろ」

「いや、無理だな。数はいても正規兵は少ない。義勇兵は平野戦では戦力になるが…攻城戦では勝手が違う。おそらく大きな犠牲を出すことになってしまうだろう」

「あー…リーザスでも大変だったもんねぇ」

 あたしはリーザス解放戦争を思い出した。お兄ちゃんが率いた民兵多めの解放軍はカスタム近郊、レッド前の平原、ホッホ峡、サウスとノースで連戦連勝、元バカ皇子のパットンさん…失礼かな…いや、本人もあの時はバカ皇子だったって言ってるし…いいか。バカ皇子率いるヘルマン軍を首都リーザスに追い詰めた。

 しかし、トーマやミネバと言った将は倒してるし兵力も多いし何とかなるだろ!突撃!と首都に襲い掛かった解放軍は2度にわたって撃退されてけちょんけちょんのボッコボコにされてしまったのだ。

 結局お兄ちゃんのゴールデンランス作戦にバカ皇子が引っかかってくれたおかげで攻略できたが…あれも野戦とは違う攻城戦のむずかしさなんだろう。

 なんかこう…イラーピュにあった空飛ぶ船のでかいのみたいなのがあって、兵士をたくさんのせられるなら楽かもしれないな。

「ほう?ランスはリーザスで攻城戦の経験があるのか」

「あー…まぁな。根性なしどもばかりでは仕方あるまい。で、どうするんだ」

「うむ、そこで少数の精鋭部隊で要塞に忍び込み、破壊する。これしかない」

「破壊?要塞を破壊するなんてどれだけ爆弾がいるかわからんぞ」

「こんなこともあろうかとつけていた自爆装置がある」

「自爆装置!?」

 せっかく作った要塞にそんなもんをつけるとは…抜け道もそうだけど、金持ちのやることはわかんないなぁ…

「作動させれば、要塞は吹きとぶ。魔軍も一網打尽だ…まぁ、奴らが自爆装置に気が付いて撤去していなければだがな」

「普通要塞に自爆装置を付けるなんて思わんだろ」

「そこでだ、ランス。カオルを案内に着けるのでお前たちの部隊で侵入し、自爆装置を作動させてきてほしい。戦闘力、人数共に適任だ。」

「でも、さすがに制圧されてる要塞にこれだけの人数で忍び込むのは危なくないですか?」

「うむ、同時に陽動作戦を実施する。タイミングを合わせて正規軍が要塞に攻撃を仕掛けるので、その混乱に乗じて欲しい」

「ふーむ…よかろう、やってやろう。」

 お兄ちゃんは偉そうに頷いたのだった。

====================================================

ほわんほわんほわん(回想終わりの音)

 

 ということで、あたし達はアルファ要塞までやってきたのだ。

 その後も、褒美としてマジック王女を抱かせろと要求してマジック王女がキレる一幕もあった。

 なんかマジック王女は光軍のアレックス将軍と付き合ってるらしいんだけど、ガンジー王は許可してないみたいなんだよね。その許可を、お兄ちゃんが作戦を成功させた暁には与える…ということらしい。

 マジック王女は絶対嫌!とまくしたてて指令部を出て行ってしまったが、妙に気の合う二人は全然気にしていなさそうだった。

 まぁ、一般常識としてはマジック王女の方が正しいんだろう。けど、現在は魔軍に攻められてる真っ最中で、話が王族の婚姻関係となると話は違うんじゃないかなぁ。リア様くらいに権力を掌握できてれば別なんだろうけど…うーん…

 そうこう考えながら、カオルさんの後についていき…まぁ詳細は国家機密につき省くが歩いたりくぐったり登ったり下りたり走ったり伏せたり転がったり飛んだり滑ったりして、どうにか隠し扉から要塞内部に入り込んだ。

「ひー…やっとついた…」「大丈夫?マリア」「うん、なんとか」

「ちゃんと出られるもんなんだな…」

 隠し扉からみんながぞろぞろと出てきてうーんと伸びをする。

「うむ、まさかあんなところから入るとは思わなかった」

「偉い人って考えることが変わってるから偉くなれるの?」

「まぁ、入れたからいい。ここはどこだ?」

「要塞の地下1階です。自爆装置は4階にありますから…道は私が案内します。寄り道はご遠慮下さいましね」

 ダンジョンなら隅々まで探索した方が良いけど、なにしろ軍事要塞だもんね。普段のダンジョンとは勝手が違う。おとなしくしたがった方が良いだろう。

「気を付けてよねお兄ちゃん」

「なんだいきなり」

「普段みたいにお宝とか美女とかモンスターとか見つけたらすぐ飛びついたりしたら危ないよってこと…」ぼかっ「あたっ!」

「やかましい!わかっとるわ!」

 というわけであたし達は要塞の中に足を踏み入れた。

 

「そこの扉を入ってください。その先を右です」

「うむ」

 カオルさんの案内に従って、廊下を進んで部屋に入り、いくつかある扉の中から指定された扉を開いてまた次の部屋へ…と要塞内をひたすらに突き進んでいく。

 最初は「こっちの部屋は何かなー!」などと勝手に関係ない扉を開けていたお兄ちゃんだったが、一回ローパーシンディの団体に出くわして苦手な光魔法をしこたまぶち込まれてからはおとなしくしている。

「でも、あんまり魔物が出てこないね」

「そういうルートを選んでいますし、何よりガンジー王が陽動作戦をしてくださっていますから」

「えっ?陽動作戦ってガンジー王がやってるんですか?」

「ええ、皆さんだけに任せるのは忍びないと…」

 実際耳を澄ませてみれば、上の方からワーワーと騒いで走り回る音が聞こえる。陽動はうまく行ってるみたいだ。

「ふん、俺様に手柄を独り占めされるのが嫌なだけだろう」

 お兄ちゃんは鼻を鳴らしたけど、ありがたい話だよね。おかげで敵にはほとんど出くわすことなくサクサク進める…

「あっ…またお前かよ」

「ランス!覚悟しろ!」

 そんなあたし達の前に、またしてもダークランス君が立ちはだかったのだった。

 

====================================================

 

 しばらく後。あたし達は黙って要塞内を進んでいた。

「ランス様、その…」

「何も言わんでいい」

「あう…」

 先頭を行くお兄ちゃんが口を一文字に引き結んでずんずん先に行ってしまうからだ。

「まさかフェリスがそんなことになってるなんてね…」

「悪魔とはいえ気の毒な…」

「まぁさんざん犯されてはいたし…そういうことがあってもおかしくないわね」

「リーザスの時かしら?」

「玄武城の時かと…体調が悪くて不安定とか言っていた覚えがあります」

 あたし達は後ろ声を潜めて話し合う。

 なんでも、ダークランス君がいうにはフェリスは人間の子を産んだことで階級を最下級まで落とされてしまい、悪魔たちの間でひどい虐待を受けているらしい。

 ダークランス君は、お兄ちゃんを倒すことでそれを何とかしようとして襲ってきていたようだ。

「どうにかならないでしょうか?」

「いや…相手は悪魔でしょう?人間の手に負えることじゃあ…」

「そうだよね、そもそもどこにいるかもわかんないし…」

「悪魔界じゃない?」

「行き方がわからんがな」

「「うーーん………」」『あっふーん♡』「え?」

 どうしようもないという結論に至って押し黙ったところに、場違いな声が響いた。

「何これ?」

『いやーーん。ばかーーん。うっふーーーん。』

「おお、女だ。色っぽい女の声だ!」

 急に色めき立つお兄ちゃん。いや、確かに色っぽくはあるがなんか…わざとらしいような…

「こっちだな!」

「あっ、ランス様!危ないです…」

「なーに平気平…(ぱかっ)ぎぃやーーーーーーーーーー!」

 足元の床がぱかっと開いて、お兄ちゃんは情けない悲鳴を残して落っこちてしまった。

「あっ、あの馬鹿落ちたわよ」

「ランス、どんくさいところもあるねんなー。ま、そこも可愛いんやけど」

「案の定罠かぁ…」

 でも、こんなピンポイントにお兄ちゃんだけが凄く引っ掛かりそうな罠を仕掛けるなんて…よく知らないと出来ないことだよね。誰の仕業だろう?

「ランス様ー!大丈夫ですか!?」

 あたし達がぶつぶつ言う間に、シィルさんが後を追って飛び降りようとする。

「待ってください、危険です。」

「でも…」

「ここの落とし穴は、下の部屋に落とすだけのタイプです。スパイクなどの仕掛けはありませんから、ランスさんも無事かと思われます。あちらの通路から向かいましょう」

「は…はい…」

 カオルさんの案内に従って隠されていた通路を滑り降り、さっきの落とし穴の下あたりに走っていくと、前方からはガキンガキンと武器がぶつかる音と、怒声が響いてきた。

「だりゃーーーーーー!」

「おおっと!流石はランスさん!やりますね!」

「気色悪いんじゃ!とっとと死ね!」

「あれは…ランス様と…」「アベルトさん!?」

 お兄ちゃんと戦っていたのは、映像で見た偉そうな鎧姿のアベルトさんだった。

 前に持っていた小剣とは違うロングソードを振るって、普通にお兄ちゃんと渡り合っている。

「…多勢に無勢…かな。それでは、ランスさん。そのうちまた殺しに来ますから、楽しみに待っていてくださいね」

「うるせぇ!それは俺様のセリフだ!」

 お兄ちゃんの怒声を無視して、アベルトさんは帰り木をへし折り、消えてしまった。

「今の、アベルトさんだったよね?」

「ああ、そうだ。アイツは魔人の…カミーラの使徒なんだそうだ」

「ええっ!?使徒になったって事?」

「違う、元からそうだったんだ。記憶をなくしていたとか言ってたが…」

 お兄ちゃんが言葉を止めて、ふっと表情を消すとリズナさんに歩み寄って…頭を撫でた。

「ど、どうしたんですかランスさん?」

「なんでもない。なんでもないが…仕返しは絶対にしてやるからな」なでなで

「???」

 決意を込めたように言って、リズナさんの頭から手を離したお兄ちゃんは、こっちに目を向けた。

「へ?何?」

「おい、エール。アベルトには気を付けろよ、金輪際近寄るなよ。いいな?」

「え…いや、あの人使徒だったんでしょ?もう近寄らないよ」

 そりゃずいぶん親切にしてもらったけど…そうなっちゃったからにはもう…ね。

「…そういう意味ではなくてな、いいか、俺様から…………」

「俺様から?」

「…………いや、なんでもない」

 お兄ちゃんは途中で言葉を止め、ぷいっと視線をそらしてさっさと行ってしまった。

「???」「なんだったんでしょう…?」「さぁ…」

 あたしとリズナさんは顔を見合わせて首をかしげたのだった。

 

 落とし穴の下は、敵兵を閉じ込めておく部屋になっている。それなりの広さはあるが、針だのギロチンだの物騒な罠は仕掛けられていないけど…たぶん、ペンタゴンの基地の地下と同じ設計だろう。

 水だのガスだのを流し込む仕掛けはあるはず。気分悪いし、とっとと出ていきたいよね。

 降りてきた通路は一方通行で使えないということで、少し離れた登り階段まで移動する必要がある。

「まったく、つまらんトラップを仕掛けおって」

「そうカリカリすんなよ。角砂糖食うか?」

「俺様はうまではないぞ」

「うまって何?うしなら知ってるけど…」

「すごく珍しい生き物ですよ。六本脚で角があって、ひひーんと鳴くんです」

「へぇー…」

「足が速いので、ゼスでは四天王の移動する車を引くことも…」

「…ちょっと!貴方たち!」「え?」

 どうでもいい事をしゃべりながら歩いていたあたし達に、急に声が掛けられた。

 また罠?と思いつつそっちを向いてみると…壁から若い女の顔が生えている!

「うわっ!壁にかわいこちゃんの顔!?」

「妖怪壁女!?」

「いや、モンスターじゃ?!」

「もしかしてパパイアの犠牲者かも…」

「何よ!失礼ね!」

 女の顔は驚き戸惑うあたし達の様子に腹を立て…そのまま壁から体が出てきた。

「へ?壁から出てきた…?」

「ここの壁が魔法で作られた幻ってだけよ。それより、貴方たち救出に来てくれたの?」

 白い服…よく見ればナース服だ…に身を包んだその子は腰に手を当ててこちらをにらむ。内側にカールした茶髪のなかなか可愛らしい女の子…ん?どっかで見たような…

「あれ?あなた確か…エール?」

「…えーっと…ああ!ログAで会った…カチューシャ!?」「ソルニアよ!」

 ヘルマンで会った女の子…ソルニアは、まなじりを釣り上げてそう言ったのだった。




お読みいただきありがとうございます。

以下、妄想です。

アルファ要塞 

五十年ほど前にゼス中部に作られた要塞。
アダムの砦の本格稼働前にヘルマン・リーザスの侵攻を防ぐ目的で建設された。
対人間用要塞なので、人間を殺傷するための装備を多く配備されている。
日曜の塔攻略を他の指揮官に任せたジークが参加した結果、
オーロラの暗躍により魔法使いと二級市民の不和が高まり、魔物用装備の不足もあってあっさり陥落してしまった。
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