【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【アルファ要塞を破壊せよ】

脱出集団は順調に進んでいるが、途中にあるアルファ要塞が魔軍に占拠されてしまったらしい
位置的に迂回もできないのでどうにかするしかない
アベルトさんが使徒になった…じゃない、だったのは驚いたけど、今は任務に集中しよう


65.エールちゃんは脱出する

 幻術で作られた壁をソルニアの案内ですり抜けた先は殺風景な石造りの部屋で、あちこちに敷かれた布の上に包帯を巻いた兵士たちが横たわってうめいている。

「これは…病院?」

「それにしてもなにもない部屋ね」

「なんのスペースかしら?」

「ここは…おそらく落ちてきた敵を討ち取るための兵士を伏せておく場所ですわね。そこを病院に使っているのでしょう」

 あたしたちが口々にしゃべっていると、カオルさんが説明してくれた。なるほどなあ、そういう場所もあるのか…でも…

「あんまり怪我人向きの場所じゃなさそうだけど」

 あたしはそのあたりをぐるりと見回した。石造りの部屋は殺風景で、地下ということもあり空気はしめってひんやりしている。怪我人には辛いんじゃないかなぁ。

「しょーがないでしょ。ほかに場所もなかったのよ…えーっと…あ、アスクニナ先生ー!」

 ソルニアが怪我人を診察している白衣の男性に声をかけた。

「ん?ソルニア君どうしたんだい…ってその人たちは?やっと助けが来たのか!?」

 アスクニナというらしい眼鏡をかけた割と若いイケメンの医者は、疲れた顔を輝かせたが、

「いや、俺様達はこの要塞を木っ端みじんに吹っ飛ばしに来たのだ」

「「えっ!?」」

 お兄ちゃんの身もふたもない回答に、二人は並んで驚きの声をあげたのだった。

 

 とりあえず二人に事情を聴いてみた。

 なんでもアスクニナ先生はアダムの砦で医者として働いていて、ソルニアは看護婦として手伝っていたらしい。

 んで、アルファ要塞に所要があってやってきたときに魔軍の襲撃があり、脱出するのも難しいので適当なスペースを借りて負傷兵の手当てをしていたのだが…アルファ要塞はあっさり陥落してしまった。

 これまでか、というときにソルニアがサボり場所を探していた時に見つけたこのスペースを思い出して、患者たちを連れてここに隠れることにした。

 そのうち炎軍が助けに来るんじゃないか、と隠れていたら外からアホみたいな会話が聞こえたので様子を見てみた…ということらしい。

 

「ううむ…なるほど…この要塞は取り戻すのではなく破壊するのですか…いや、仕方のない事ですが…」

「仕方なくないですよ!私も先生も患者も死んじゃうじゃない!どうにか連れ出してよ!」

「この人数を連れて要塞から脱出するのは難しいですし、帰り木もありません…500万の難民の命には…」

 頭を抱える先生と怒るソルニア。周りの負傷兵も心配そうだ。どうしたものだろうか?

「がはははは、安心しろ。ソルニアちゃんだけは俺様が連れて帰ってやる。他の男どもは要塞と運命を共にするがいい」

 お兄ちゃんはこれだし…うーん。

「ランスさん、そうおっしゃらずに。ランスさんはアレをお持ちでしょう?」

 あたし達が頭を抱えていると、カオルさんが前に出た。

「アレ?」

「お帰り盆栽ですわ。アレの枝を全て使えばここの皆さんを脱出させられるのでは?」

「あー!なるほど!」「おお!そんなものが!」

 そういえばそれがあった。確かにうまく行きそうだけど…

「ふーむ…使わせてやってもいいが、タダというわけにはいかんなぁ…」

「…あーそういう?」

 お兄ちゃんの目がちろりとソルニアを向いて、彼女は肩をすくめた。

「いいですよ。ちょっとあっちの影で…」「ぐふふ、話が速いな」

「ソルニアさん?」

「大丈夫ですから。先生は脱出の準備をしといてください」

 それだけ言って、二人は影に消えて行く。あーあ、タグが面倒になりそうだ…と思ったらすぐに戻ってきた。あれ?

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「…いや、なんでもない。そいつらに貸してやれ」「え?わっ」

 お兄ちゃんはそれだけ言って、あたしにお帰り盆栽を押し付けてどっか行ってしまった。一緒に戻ってきたソルニアが覗き込んでくる。

「ふーん。それがお帰り盆栽?どうやって使うの?」

「えっと、枝を折れば周りの何人かが…あの、どうしたの、その顔…」

 ソルニアの頬に、前はなかった何か黒いあざのようなものがある。あたしは思わず聞いてしまったが、失礼だったかな…

「ああこれ?私あのあと黒死病にかかっちゃって、その時にね。普段はファンデで隠してるの」

「え…」

 黒死病と言え去年にヘルマンで大流行した伝染病だ。感染力が強く、罹るとかなりの確率で死ぬが、予防手段はそれなりにある…と、教会の資料で読んだことがある。

「これ見せて黒死病が移っても知らないわよって脅かしたら神妙な顔になって帰っちゃった。」

「そっかー…」

 黒死病は治癒後は別に移ったりしないんだけどね。お兄ちゃんは知らなかったかなぁ…?それとも辛気臭いノリが嫌だっただけかな?

「そっかぁ…あ、一応ヒーリングで消せるかやってみようか?」

「ん-。別にいいわ。これはね…」

 ソルニアが説明してくれたことによると、あたし達と別れた後、ログBで男漁りしたけどいいのが居なかったので、ヘルマンに見切りをつけてゼスに来たが、国境で検疫を受けた時に黒死病に罹っていると診断されたそうだ。

 生死の境をさまよったソルニアだが、アスクニナ先生の親身な治療で一命をとりとめた…のはいいのだが、顔や体に黒いあざが残ってしまったらしい。

「こんなんじゃいい男は捕まえられない」と絶望したソルニアだが、そんな彼女をアスクニナ先生は必死で慰めてくれたそうな。

 その結果、

「…いい男…っていうかあざのことも気にしないし甲斐性あって性格のよさそうなイケメン目の前にいるやん!!!!!!」と、いう感じで立ち直ったソルニアは、無理を言って彼のところで看護婦として働きだしたんだそう。

 まぁ…ちょっとかかわっただけの人だけど、結構幸せそうでよかった。

 その後アスクニナ先生の自慢話をたっぷり聞かされてから、彼女たちは負傷兵たちと一緒にお帰り盆栽の枝を折って脱出していった。

「まぁ人助けできたのは良かったけど…お帰り盆栽の枝、みんな折れちゃったね」

「少なくとも今日は使えませんね…」

「ふん、俺様達は来たところから脱出すればいいだろ。行くぞ」

 あたし達は探索を再開したのだった。

 

 落とし穴のある部屋をカオルさんの指示の通りに扉を開けて進み、登って横行って登って降りてアレ避けて。どうにか爆破装置のある部屋にたどり着いた。

 正面の石壁にちょっとしたくぼみがあり、中にはぷちハニー入りの樽がぎっしり詰まっている。

「これが爆破装置か?」

「はい、間違いありません」

「結構な量だが、これだけで要塞を吹っ飛ばせるとは思えないが…」

「これは切っ掛けにすぎません。ここは要塞の基礎に当たるところで、ここを爆破することで各所が連鎖的に崩壊するようになっています」

「へぇー。要塞を作るときにそんなことまで考えるんだ」

「まぁいい、ではロッキー。俺様達は脱出するから、10分後に点火しろ。この要塞と一緒に吹き飛ぶがいい。立派な墓だ、うらやましいなぁ。がははははは」

「うう…ご命令とあらば…皆さんお元気でだす…」

「タイマーがあるから不要ですわ…はい、10分にセットいたしました。作動させます」

「ちっ。まぁいい、とっとと脱出するぞ」

 あたしたちは来た道を通ってアルファ要塞から脱出したのだった。

 

 と、言いたいところだったのだが。

「えーっと、入ってきた抜け道の出口はこの辺に…えっ」

 先頭を進んでいたかなみさんが立ち止まった。

「どうした?」

「崩れてるの」

「はぁ!?」「ええっ!?」

 入ってきた隠し扉の周りは無惨に破壊され、瓦礫に思い切り埋もれていた。少なくとも10分やそこらでは掘りだせそうにない!

「なんでこんなことに…自然に崩れた?」

「仮にも軍事要塞。そんなに柔ではないはずですが…」

「あん?なんだこれは…」

 お兄ちゃんが何か紙切れを拾い上げた。

「何か書いてありますね」

「どれどれ…」

 皆でのぞき込む。そこには、こんなことが書いてあった。

 

『こんなことだろうと思って出口は塞いでおきました。そのままここで死んでください。

 …と、思ったんですが、よく考えたらここで死なれると死体を確認するのが面倒なんですよね…ということで、脱出頑張ってください。 アベルト・セフティ』

 

 

==============ここからは音声のみでお送りします==============

「「「「「………………」」」」」

「あ…あの野郎ーーーーーーーーーーーーーーー!」ビリビリーっ!

「「あああああああああああああああ!!!」」

「どどどどどどどどどどどうしようどうしよう!早く脱出しないと!」

「ひいいいいい!なまんだぶなまんだぶ…」

「ロッキー!まだ早いよ!」

「爆発までは後何分だ!」

「7分ですわ!」

「カオルさん!ほかに脱出手段はないの!?」

「あいにくですが…他に利用できそうなルートは」

「ど、どうしましょうランス様…」

「どうもこうもあるか!内側から門をぶち破って脱出するぞ!」

「ええっ!?無茶よ!」

「無茶でもやるのだ!世界中のまだ見ぬ美女が俺様を待っている!こんなところで死んでたまるか!」しゃきーん

「いくぞ!突撃だ!」「「お…おーっ!」」

 

「いやー大層な要塞だけどあっさり落ちたなぁ」

「人間どもが内輪もめしてくれて助かったぜ…ん?何の音だ!?」

「邪魔だ死ねええええええええええええええええええええ!」ずばばーっ!

「「ぎゃあああああああああああああ!!!」」

「なんだなんだ!?」「人間か!?どこから入りやがった!」「舐めやがって!囲んで袋叩きに…」ぞろぞろ

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」どどどどどど

 

「どわーーーっ!」「なんだこいつら!」

「AL魔法剣!」

「衝撃パンチ!」

「いっけー!チューリップ!」

「おーみーくーじ!どーりゃーーー! …小吉!」「指にささくれができてる」「あっ、洗濯物干しっぱなしだ」「10G落としちゃった」

「スノーレーザー!」

「ロッキートマホークブーメラン!」

「火爆破!!」

「ニードルシャワー!」

 ちゅどちゅどどどかーん!

「「「ぎゃあああああああああああああ!!!!」」」

「よし!片付いた!」

「カオル!門はどっちだ!」

「あちらです!」

「よし!良いかお前ら!雑魚に構うな!一直線に門に向かうぞ!」

「「「「おーーーーーっ!」」」」

「人間どもめ!ここまで来るとはいい度胸だ!」

「俺様の道を塞ぐんじゃねー!!うおおおおおおおおおお!」ぶんぶんぶんぐるぐるぐるずばばばばーっ!

「「「ぎゃあああああ!」」」

「あ、あの技は!」

「知っているのエール!?」

「剣を振り回しながら駆け抜け様に斬って斬って斬りまくる…地味に高等技能な列車斬り!?久しぶりに見た!」

「人間どもを逃がすなーっ!」ぞろぞろぞろ

「うわっ!また来た!」「仕方ない!やるぞ!」

「AL魔法剣!電磁結界!ALスラッシュ!」

「仁王拳!輝燐脚!武舞乱舞ー!」

「ロッキートマホークブーメラン!」

「白色破壊光線ー!」

「「ぎゃああああああああああ!」」 

「みんな!あっちからハニーが来るよ!」

「みんないくぞー」「おーっ!」「はにほーはにほー」「むっ!あれは…めがねっこだ!」「おお!技術系めがねっこ!」「恋が報われないタイプ!」「そこそこのレアだ!」「待て!地下からも強力なめがねっこの気配を感じるぞ!」「しかもこの反応は…委員長だ!」「な、なんだってー!」「委員長!?激レアだ!叱られたい!」

「何言ってんだこいつら…」

「いつもながら鬱陶しい!」

「任せて!火丼の術!」ぼぉーーーっ!

「ぎゃーーーっ!」「あいやーっ!」「ぼくら陶器なのにーっ!」「めがねーっ!」ぱぱぱぱぱぱりーん!

「あれって魔法じゃないんだ…」

「ジャパニーズニンジャマジックは不思議なんだね」

 

「どうにか門についた…!」

「カオル!どうやって開けるんだ!」

「こちらにスイッチが…なっ!」

「どうしたの!」

「スイッチが破壊されています!これでは門が開けられません!」

「なんだとー!」

「ほ、他の門に回ろう!」

「爆破まであと3分です!もう時間が…」

「くそっ!こうなったら門をぶっ壊すしかない!やれ!マリア!」

「うっ、うん!チューリップ連射-!」どんどんどーん!

「お前らもやれ-っ!ランスアタック!」どかーん!

「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」

 ひゅんひゅんずばーっどかーっばきーっどかーんどかーんずどどどぶぉーっ!

「はぁ…はぁ…どうよ?」

「けっこう歪んだけど…」

「だ、だめです!破れません!」

「あと一分ですわ!」

「くそっ、こうなったら…むっ?」ごごごごごごごご…

「こ、この魔力は…?」

「全員、伏せろーーーー!」

 

「破邪覇王光ーーーーーーーーーーーーー!」どっかああああああん!

 

「きゃーーーーーっ!」

「な、なんだったんだありゃ…」

「あっ!門が壊れてるだす!」

「こ、これは…ガンジー王の魔法!?城壁の外から!?」

「かっかっかっ!征伐のミト…ではなく!ゼス王ガンジー見参!」のしのし

「ガンジー王…」

「うむ…しかしランス…まさか要塞を破壊せず、あえて中からの攻略を選ぶとは!なんという男らしさだ!」どばーっ

「めちゃめちゃ感動の涙を流してる」

「素晴らしい、お前は素晴らしすぎるぞランス!私も部下に止められたが、たまらずこうして駆けつけてしまった!さあ、共に戦おうではないか!」

「めちゃくちゃだなこの王は…」

「でも助かったよ!」

「ガンジー王!自爆装置は作動しておりますわ!あと10秒です!」

「なんと!それはいかん!すぐに脱出だ!」

「言われなくても!みんな逃げろー!」

「うわーっ!」「きゃーっ!」「ひーっ!ポマードポマードポマード!」

「3…2…1…ゼロ!」

どーん!ごごごごごごごご…

「うわっ、崩れ始めた!」「とにかく走れーーーーー!」

「きゃーーーーっ!」「ひえーーーーっ!」

 

がらがらがらがら…ごごごごごごご…ずずーん…

 

=========================================

 

 と、いう感じで、あたしたちはどうにか脱出に成功し、要塞も無事破壊されたのだった。

 まあちょっと煤だらけホコリだらけになってしまったけど、助かったからまあよしとしよう。

 司令部に帰ってみたら、なんでかマジック王女とウィチタさんもホコリだらけのボロボロだった。違う方向で激戦があったんだろうか?

 




読んでいただきありがとうございます。

 お帰り盆栽ってゲームやってるときは便利なんですけど小説にするといちいち封じないとピンチになれないので本当に大変ですね…
 
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