【マジノライン再稼働計画】
マジノラインを再稼働するため、いくつかのダンジョンの転移装置を使ってマジノラインを目指そう
最初の目的地は煙のする地下水道だ
「ほう、ここが煙のする地下水道か。でもあんまり煙はしていないぞ」
転送装置の出口からダンジョン内部に足を踏み入れたランスお兄ちゃんは開口一番そう言った。
確かに言う通りあんまり煙はしていない。微妙にもやは出ててるかなぁ?地下水道というだけあってどこかから水の流れる音、ぽちょんと水滴が垂れる音はするんだけどね。
「このダンジョンを命名したのは最初に足を踏み入れた人物だそうだ。その者が来た時には煙があったのだろう」
「ふーん。そんなものか…それより…ぶるるっ。ちょっと寒いな…」
ガンジー王の説明を聞き流したお兄ちゃんは軽く身震いした。
「確かにちょっと寒いね…カロリアちゃん、今何度?」
「えーっと、いま7.6度、湿度40%だって」
あたしの問いにカロリアちゃんがにょいーんと額からあげはをのばして答える。
「7.6度?そりゃ寒いわけだわ…」
「うう~…さ、寒いです…」
「だ、大丈夫?シィルさん…」
特に露出度の高い服のシィルさんは特にきつそうだけど、そうでなくても裾の長い和服のリズナさんと神官衣のセルさん、古臭い鎧のサーナキアさん以外の女の子メンバーはみんな生足スタイルなのでこの寒さはこたえる。
「これじゃあ戦闘どころじゃないかも…」
「ななななななな何を言っているんだエールルルルル…ボボボボクたちの肩にはゼゼゼゼスの民の命がかかっているるるるるる…」がくがくがくぶるぶるぶる
「うっわ、サーナキアさん真っ青」
「そんな全身鎧など着ているからだ」
金属鎧が冷気を吸収して大変なことになっているみたい。脱げばいいのに…
「まぁ、ヘルマンに比べりゃ大したことないが…お嬢さん方には辛いだろう。いったん戻って防寒具を用意してきた方がいいんじゃあないか?」
「そうですね、ご婦人がたが体を冷やすのは良くないと聞きます」
全然平気そうなパットンさんとリックさんの提案にガンジー王は首を振った。
「いや、その必要はない。こちらで用意してある…カオル。全員にほこほこ袋を」
「はい、皆さんこちらをどうぞ…」
カオルさんが配ってくれたのはなにやらほこほこあったかい小袋だ。
「いい物があるじゃないか…おお…ほこほこだ…」
「うう…あったかいです…」
「一個じゃ足りん。お前のも寄こせ」ばっ
「ううっ…ランス様…ひどいです…」
「がはははは、ほこほこ袋が二つでぬくぬくだー」
「お兄ちゃん…ただでさえ寒そうなんだからそういうのやめたげなよ…はい、シィルさん。あたしのをあげる」
「え?いいんですか?エールちゃんは…」
「あたしタイツ履いたから。日糸テックだからぽかぽかだよ」
「いつの間に…」
そんな感じで防寒対策をしたあたし達は、やたら冷えるダンジョン内を奥へ奥へと進んでいった。
煙のする地下水道は実際けっこうな高レベルダンジョンで、湧いてくるモンスターもそれなりだ。
デカントが寒さに耐える強さを身に着けたら戦闘力も上がったらしいアイスデカントに手足を伸ばしてくる宇宙怪獣ジャバラ、女の子モンスターならフローズンに髪長姫。それになんだかあちこちもこもこしている魔物兵・寒冷地仕様たちもうろついている。
どいつもこいつも一筋縄ではいかない相手だが、今のあたし達が持つ縄は一筋どころではない。特に問題にもならずどかばきちゅどーんずばずばびしがしぐっぐっとボコして先に進んでいく…のだが。
「これは…氷?床が凍り付いて…」
「がはははは!ちゃーーんす!」ぺろーん
床を調べようとしたマジック王女のスカートをお兄ちゃんがすぱーんとめくった。
「ちょっと!何を考えているのよ!」
「パンツのことに決まっているだろう。正確にはその中身のことだが…へ、へ…へーっくしょい!」
「うわ、ばばちい。はいティッシュ」
「うむ…ちーん!…がたがたがた…さらに寒くなって来たぞ」
「あげは報告―。温度マイナス2度、湿度32%ー。」
「うわ、そんなに…?」
寒さはさらに厳しくなり、あったかタイツを履いていてなお辛くなってきた。周りの皆も寒そうに身体をさすっている。ほこほこ袋を懐に入れててもそろそろきついよね。
「おかしいぞ…資料ではこの迷宮は寒い程度で凍り付くほどではないはずだが」
「はい、変ですね。異常気象でしょうか?」
「当てにならん資料だな、本当に先に転移装置があるのか?」
首をひねるガンジー王とカオルさんに、お兄ちゃんはシィルさんの服に手を突っ込みながら文句を垂れた。
「ぶるぶる…かちかち…つめ、冷たいですランス様…」
「俺様は暖かいからいいのだ」
「お兄ちゃんやめなよー…ん?あれ?」
「なんだ、どうした」
「あそこからなんか湯気みたいなものがあがってるような…」
「湯気?もしかして…温泉じゃないでしょうか?」
「温泉!こんな寒いところに温泉、まさにオアシスだ。あそこに行って一休みしよう」
「いいい…今はそんな場合では…」
「いや、このままでは進むこともままならん。一度温まるべきだろう」
そういうことになり、凍り付いた通路を震えながらひーこら進むあたし達の前に、
「んぁぁぁ!?ちょーーーどえー!」
「あん?お前は…」
馬鹿でかい両手の雪女、使徒ユキが姿を現した。
「うっわやっばー!侵入者発見しちゃったじゃないですか、めんどくせーなーもーーー。サイゼル様に報告報告ー」
ユキはこっちが何か言う前に一方的にまくしたて、氷の上をたったかたーと去っていく。
「…サイゼルって言ったか?」
「言ったのう」
「ああ、あの時ヤりそこなった魔人のことか」
「うむ、あの時殺りそこなった魔人のことだ」
なるほど、この異常な寒さは氷雪魔人サイゼルの仕業だったんだね。
「魔軍を避けて地下を通ったのによりによって魔人の住処にぶつかってしまうなんて…」
「どこか迂回した方がいいのでは?」
ウルザさんに提案されたガンジー王は、しばし考えてから首を振った。
「…いや、他のルートは現実的ではない。強行突破するしかあるまい…ランス、お前が頼りだ」
「がはははは、これまでに何人も魔人をぶち殺した俺様がいるんだ。大船に乗った気でいるがいい」
お兄ちゃんはいつも通り根拠のない自信たっぷりに頷く。その姿は、ちょっとだけカッコよく見えたのだった。
そう、さっきまでカッコよく見えていたんだけど…
「ど…どわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!俺様の…俺様のハイパーーーーー兵器が――――っ!」
「ラ、ランス様の…ランス様のえーっと…武器!男の武器が凍ってしまっただす!」
あたしの目の前で、股間が凍りついた全裸のお兄ちゃんが頭を抱えて叫んでいる。
「ケケケケケケケケ!名付けて、カチンコチンチン作戦!」
「きっ…貴様ー!許さんぞ―――!」
「おおっと、下手に動かないほうがいいですよ。砕けますから。かぴーんと。ケーケケケケケ!」
「ぐっ…がっ…」
「というわけでユキちゃん帰りまーす。ばいばーい」(ぴゅーっ
ユキはそのまま頭だけでどっかに飛んでいってしまった。
「あっ!待て…」
「ダメですランス様!今激しく動いたら…その…」がしっ
「下手したらシンボルクラッシュだすよ!」
「う、ぎ、ぎ、ぎ、ぐ…っ…あっ…さっ…寒い…」
追いかけようとしたお兄ちゃんはどうにか引き留められ、いもむしDX&オウゴンダマx2全滅の事態は一応避けられたのだが…
ちょっと前までカッコよかったうちの兄は、露出した〈ハイパー兵器〉を見事に凍らされ、このクソ寒いダンジョンの中で全裸で震える事になってしまった。
(だ…ダサい…史上最高にダサい…)
何があったのかというと、さっきの魔人サイゼルの使徒、氷雪系キジルシ女のユキが急に出てきたので、
「ケーケケケ!いきなり氷雪吹雪―!」
「なんのデカブツバリア!」げしっ
「どわっ…ぐええええええええーーーっ!」びゅおおおおおおおおーっ
「ああっ!パットンさん!」「氷雪吹雪を至近距離から!」
「がはははは!でかい壁がいると便利だな!ランスアターック・平!」べちこーん!
「きょえーーーーっ!」びたーん!
「今だ!やってしまえ!」「「「「おーっ!」」」」
という感じでぼこぼこにした。なお、パットンさんはちょっと凍ったけど筋肉で脱出した。ヘルマン生まれってすごい。
そこまではいいんだけど、取り押さえたユキに挑発されたお兄ちゃんはよせばいいのにユキを裸に剝いてタグが面倒になる行為をおっぱじめたのだ。
「がははははー!どうだ俺様のテクは―――!絶対あへあへひぃひぃ言わせてくれるわーー!」
「それはどうかなー?ララララー。瞬間冷凍―。」ぱきーん!「アッー――――!」
案の定、使徒ユキの身体が頭を残して全て氷と化して砕け散り、そこには局部を凍らされたお兄ちゃんが残ったというわけだ。
「くわばら、くわばら…うー寒っ…」
「その…辛いですね…どうにかならないでしょうか」
「うむ、男としては同情せざるを得ん」
「…ええ………しかしなんでマジックはこんな…」
そんなお兄ちゃんを男性陣はちょっと内股になって遠巻きに見守り、
「これまでの悪事のツケが来たんだな」
「それ、砕け散った方が平和になるんじゃない?」
「さ、流石にかわいそうだよ…」
「この男は…」ぷるぷる
「うう…リア様に何て言えば…ま、まぁランスのことだからまた生えてくるかもしれないし…」
「えっ?そうなのですか?」「なわけないでしょ」
「神よ…これも試練なのでしょうか…」
「ランス、取れちゃったら代わりになるムシ入れたげようか?火とか、毒とかレーザーだせるよ」
「いらんわ!」
女性陣はあくまで他人事なのでやはり遠巻きに見守っている。
「えーい!うるさい!うるさい!シィル!舐めて溶かせ!」
「こ、こんな大きな氷、舌が張り付いちゃいますよう!」
「ぐっ…エール!なんか氷を溶かす魔法とかアイテムとかないのか!」
「そんなピンポイントなもの知らないよ…あるかもわかんないし…」
何となくだけど、魔法の氷ならなんでも溶かす魔法やアイテムみたいな都合のいいものはこの世界に無い気がする。もし魔法で溶かすんなら…
「あ、シィルさん。弱めの炎の矢で撃ってみたら?」
「そうですね、やってみます…ちび炎の矢、ちび炎の矢…あぅ、無理です…」
「あきらめるな!もっとやれ!」
「は、はい…ちび炎の矢、ちび炎の矢、ちび炎の矢…うぅ…」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を横目で見ながらその辺に落ちた氷のかけらを拾って調べてみる。
「うん…やっぱり使徒の魔力で出来た氷だし、砕くのはともかく人間の魔力で溶かすのは無理かなぁ…アニスさんか、ガンジー王くらいの魔力があれば…」
「うーむ、ゼットンを使えばその氷も溶かせそうだが…その場合は中身も無事では済まんだろう」
「やめろバカ!ぐ…ぬぬ…さっきのガキか、サイゼルでないとこれは溶かせないというのか…」
「落ち着かんかい、心の友。人間なんだから頭を使え。ほれ、前に凍らされた時もお湯で溶けただろう。あっちの温泉で溶かせばいいじゃろがい」
「む…駄剣のくせにいい事を言う…よし、温泉だ、温泉に向かうぞ」
「ですけど、急いだほうがよろしいですわね。早くしないと壊死するかもしれませんわ」
「壊っ…」「壊死かぁ…」「壊死ねぇ…」
どことは言わないが凍り付いた部分がもろんともげてゴトンと落ちる様子が一同の脳裏をよぎった。
「お兄ちゃん…もし何かあったらモロッコ行く?付き合うよ」
「冗談じゃない!急ぐぞ…いたっ」
氷は重いから接続部に負担がかかるらしく、ガニ股でそーっと歩くしかない。
「ランス様…そっと…そっとですよ…いっちに、いっちに…」
「こっちはおらが支えるんで、一歩ずつ行くだすよ。いっちに、いっちに…」
「うむむ…いっちに…いっちに…なんて不便な…」
ズボンが履けないので上半身だけ服を着て、下半身はフルチン…ではない、氷一丁(?)のお兄ちゃんをシィルさんとロッキーさんが支え、えっちらおっちら進んでいく。はっきり言って死ぬほど情けない。
「こんな状態ではランスは戦えんな」
「もし今魔人に襲われたら、どうにか逃げるしかないな」
しゃべりつつ進んでいくと、ようやく目当ての温泉が見えてきた。
「おお…温泉、温泉だ…さっそく…」
「待って。アレをみて」
さっそく向かおうとするお兄ちゃんをかなみさんが止めた。指差す先を見てみれば、そこにはでかい銃を持った女性が背中の羽で浮かんでいる。
「うわ…サイゼルじゃん…」
「最悪だな、温泉で待ち構えているとは…やつがいてはとても温泉に浸かってなどいられんぞ」
「他に温泉はないの?」
「残念ながら近くには…前に溶かした時みたいに、お湯で茹でるのはどうでしょうか?」
「こんなに凍りついた洞窟では薪もあるまい。手持ちの燃料ではとても足りん」
「サイゼルをどうにかあそこから退かすしかないということか…」
「しかしカオスもなしで魔人を退かすのは無理じゃない?」
「逃げるならともかくねぇ…」
「あ…なんだか感覚がなくなってきた…」がくがく…
「ランス様!しっかり!」
あたしたちが頭を抱えている間にも、お兄ちゃんの顔色はどんどん悪くなっていく。
「リックさんがカオスを使うのはどうでしょう?剣の腕なら申し分ないのでは?」
「私で良ければ…」
「あー…やめといたほうがいいぞい。真面目君とは相性が悪いしな」
「そうです!いけません!危険です!」
リックさんを必死で止めるセルさん。そりゃそうだよね…
というかリックさん、ちょっとカオスを持ちたがってない?
まあ戦士のサガではあるけどねー…あたしの脳裏にカオスを持ってゲヒゲヒ笑っていた血まみれの盗賊の姿がよぎった。
「それにお前、なんか心のどっかに迷いがあるだろ。食われても知らんぞ」
「ぐっ…しかしランス殿の他に適合者がいない以上…」
「ダメですよリックさん…やめといた方がいいです。ちょっと前にもカオスは…」
渋るリックさんを止めようと一歩前に出る。
「…お、そういえば…嬢ちゃんならいけるかもしれんな」
「へ?」「え?」
そんなあたしに、カオスのダミ声がかけられた。
「前に恐竜だらけの世界でしばらく一緒におったじゃないか。それでも特に影響はなかったじゃろ」
「いや、そうだけどさ、あれは武器として使ってなかったからって…」
「あの時はそう言ったけどさー…儂って、実は
「…」
「だから嬢ちゃんは心の友ほどじゃないにしても耐性があるんでたぶん平気…」「ふんがー!」べちーん!「ぐえーっ!」
「はよ言わんかい!」
あたしはカオスをひっつかんで床に叩きつけたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
パットンがユキの氷を砕けたのは単に破砕時のダメージに耐えただけです。
ハイパー兵器ではHPが足りませんね。
以下、妄想です。
カオスの浸食ですが、
人を斬る>何かを切る>振り回す>裸で持ち歩く>何かで包んで持ち歩く
の順番で影響が大きくなるイメージです。
また、人を斬る感覚を知っている戦士の方がそうでない人間よりも危険が大きく、
加えて、剣を振ることに迷いがあったり、根本的な部分で自信が無かったりするとさらに危険です。
手にした瞬間暴走するところまであり得ます。
ただ、剣を振るったことのない人物、例えば神官が聖布で包んで持ち歩く分にはほぼ影響はありません。
ランスクエストのマチルダは人並み以上の耐性はあったはずで、武器として振るう事はしませんでしたが
布で包んだりはせずに長時間持ち歩いていたので心が壊れてしまいました。
ですので、サウルスモールで長時間持ち歩いて焼き串や包丁代わりに便利に使っていたのにまるで影響を受けていないエールちゃんはかなりの耐性の持ち主、とカオスは判断しました。
黙っていたのは、もし正直に言ったら捨てられそうだったからです。