【マジノライン再稼働計画】
とうとうマジノラインまでたどり着いた
ゼス国の未来はこの作戦にかかっている
明日はいよいよ突入だ、しっかり英気を養おう
フルーツ遺跡の転送装置を通ってたどり着いたのはだだっ広い空間で、なんでもマジノラインの近くにあるゼス軍の地下基地であるらしく、魔軍に発見された様子もなかった。
そろそろ日が沈むし、暗闇でマジノラインに突っ込むのは危険だよね。それにここまでダンジョン二つを突破して魔人二人を倒してるわけで……正直へとへとだ。
マジノラインへの突入は明日にしよう。ということになり、あたし達は魔法ハウスで一泊することになった。
「あれ? お兄ちゃんは?」
「さっきまで居たんですけど……」
「どうせ誰かを連れ込んでるんでしょ」
「あはは……えーと、それじゃあ私は皆さんの晩御飯を用意しますね」
「シィルさん、おらも手伝うだすよ」
「ありがとうございます、ロッキーさん」
「ごめん、わたしはちょっとマレ……秘密兵器の搬入があるから」
「マリアさん、秘密兵器って何?」
「ふふふ……明日を楽しみにしてなさい。ふふふ……あーはっはっはっは!」
マリアさんは不気味にメガネを光らせ高笑いしながらのしのしと去って行った。
「行っちゃいましたね……」
「あのメガネたまに光ったりするけどそういうアイテムなのかなぁ?」
「さぁ……」
「ああなったマリアはどうしようもないから……代わりに私が手伝うわ」
「あ、私も……」
「わかりました。それじゃあ……」
志津香さんとリズナさんも申し出た。なら……
「あ、あたしも手伝……」
「「「「「「「ダメ!!!!!!!!!!」」」」」」ぽ────い「あ~れ~」
という感じで放り出されてしまったあたしは、基地の中をうろつき始めたのだった。
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「……報告は以上です」
「うむ、ご苦労だった」
「あれ? ウィチタさん?」
「ん? ああ、エールか」
話し声がしたのでそちらに足を向けてみると、ロングポニテの魔法剣士ウィチタさんとガンジー王がいた。無論カオルさんもそばに控えている。
「どうしたんですこんなところまで……もしかして、あたし達と一緒にマジノラインに突入するとか?」
「いや、ウィチタは連絡役を務めてもらっている。ここには状況報告に来たのだ。今のところ予定通りに事は進んでいるらしい」
「そうなんですね」
「ああ。軍の準備も進んでいて、リーザス軍にも動きはない。後はマジノラインを復帰させられれば……」
それを聞いて、あたしはちょっとほっとした。
ウィチタさんは炎の剣を使う、あたしとは違うタイプの魔法剣使い……なのだが。
炎に包まれた剣を振るう姿は実際見た目はカッコいいんだけど、当然敵に斬り付けないと効果がない。この時点でもう普通に炎の矢を撃ったほうがマシである。なにせ魔法は基本必中だしね。
そして別に本人が強くなるわけではないので、命中させられるかは本人の剣技次第。そしてウィチタさんの剣の腕は……あたしの見立てだと、魔法抜きでやって10回中3回は負けるくらいかなぁ?
要するに弱くはないけど中途半端なんだよね。正直強敵を相手にするときに前衛でちょろちょろされると困るし、後衛で出来ることもない類の人で、そういうのはもうサーナキアさんでたくさんである。
こんなところまで一人で来ているあたり、隠密行動はそれなりにできるのかもしれない。そっち方面を目指せばいいのに……
「それではガンジー王、私はこれで」
「うむ、気を付けてくれ」
「……そうだ、エール」「なんですか?」
そんなことを考えていたら、報告を終えたウィチタさんがこちらに向き直って話しかけてきた。
「ここに来る途中でナガールモールを経由したのだが……そこでアリオス殿に会ったぞ」
「ああ、魔軍と戦ってくれてるんですよね」
「そうか、会っていたのか。女の子に囲まれていて大変そうだったが」
「女の子……?」居場所を教えたエリザベートとへケート……かな?
「知っていたならいいんだ。行方不明になったと聞いていたのでな。君の様子について聞かれたので、機密だがマジノライン復旧作戦に参加していると伝えておいた。落ち着いたら会いに行くといい。ではな」
それだけ言って、ウイチタさんは手を振って去って行ってしまった。
うーん……なんとなくいやな予感がする……まぁ今はどうしようもないか……。
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「ちょっといいかしら?」「ん?」
もやもやしながらぶらぶらしていたらマジック王女が声をかけてきた。なんだかやたらやる気に満ち溢れた表情をしている。
「どうかしました?」
「ちょっとあなたに話があるのよ」「はぁ……」
そう言ってマジック王女はしゃべり始めた。
なんでもよく考えたら、お兄ちゃんが王様になっても自分を妃にしてくれると決まっているわけではない、ということに気がついて取り乱したのだが、ならば自分が活躍してぜス王になりお兄ちゃんを婿にすることにした……らしい。
んで、そのための協力を妹のあたしにもお願いしたい、無論礼はする、復興後のゼスでもそれなりの地位を約束する、だそうな。こういうことを周りの人たちに言って回ってるのだろうか? ご苦労なことである。
だいたいこの人が王になれたところで無理矢理結婚しろ等という命令に従ううちの兄ではないし、そもそも偉くなりたいならとっととリア様と結婚して王様にでもなっているだろう。あたしも宮仕えなんぞまっぴらだしね。
「ていうかそんなにポンポン地位を約束していいんですか?」
「いいのよ。長官も軍人もたくさん死んだし、どこかに空きはあると思うわ。それにこれからのゼスは魔法使いとそうでない人が手を取り合っていくしかない。貴方みたいに剣も魔法も使えて両方の気持ちが分かる人が居てくれたら、きっと助かると思うのよ」
なるほど、この人も結構考えてるんだなあ。こうやってガンジー王とかがしそうにない根回しをするあたりも努力と言えないこともない。
「……ん?」じぃ──ー「?」
などと考えていたら、マジック王女が目を細めてあたしの顔をじろじろ見ていた。
「なんです? あたしの顔になにかついてます?」
「貴女の顔……アダムの砦で見かける前に見たような……どこかで会ったかしら?」
不思議そうな顔であたしを見つめるマジック王女。あー、そういえば卒業試験のときに変装して王女に近づいたんだった。
ていうかその時も今と同じようなこと言われたな……うーん……ばらしちゃってもいいかな? いや、めんどくさいな……
「いえ、そんな覚えはありませんが……ていうかこんなスーパー美少女、普通一度会ったら二度と忘れないでしょ?」にこーっ
「……うーん、まあ、そういうことでいいわ。じゃ、ランスの件考えておいてね」
あたしが渾身の美少女スマイルでごまかすと、それだけ言って、マジック王女は去っていったのだった。
まぁ、この危機を乗り越えてもゼスは大変だろうし、仕官とかする気はないけれどたまには手伝ってあげてもいいかもしれないな。
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「ふぅ、次は……おや?」
「え、タマネギさん?」
「ああ、エールさん……では、無事に追いつけたようですね」
転送装置が動いたと思ったら、現れたのはアダムの砦に残ったはずのタマネギさんだ。
「どうしてここに?」
「ええ、ある筋から情報を入手しまして……雷太鼓やアムンゼンと言った大変貴重な女の子モンスターがマジノラインにいるというのです。これはぜひとも捕獲したいと思いまして、皆さんの後を追ってきたのです」
ある筋ってどの筋だよ。まぁいいや、そんなことより……
「はぁ……でも、追って来たってどうやったんです?」
「ふふふ……雌の残り香をたどることくらい調教師には朝飯前ですよ……特にリズナさんのような素晴らしい穴奴隷はね……芳しく香りますから……ふふふ……」
「へ……へぇー……」
「おそらく名のある調教師の手によるものなのでしょう。あれほど見事に花開いた穴奴隷はなかなか……おっと、失礼。それでは、私はランスさんに挨拶しますので……」
「あ、はい」
タマネギさんは去って行った。
悪い人ではないのはわかって……いや、悪い人だなあれは。
お兄ちゃんとウマが合うから現時点では恐らく害になることはないというか……うん。深く考えるのはよしとこう。
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「あ~なんかお腹すいてきたな……ご飯まだかな……ん?」
すきっ腹を抱えてふらふらしていたら、なんだか香ばしい匂いがしてきた。これは……ヘルマンで食べたピロシキかな? 誰かが食べているのかもしれない。ちょっと分けてもらえないかなあ。
「がつがつ……ん、うめぇうめぇ」
「あーっ! パットンさんいいもの食べてる!」
「むがっ……? ごくん。なんだ、エールの嬢ちゃんかよ」
匂いをたどってそっちに行ってみると、パットンさんが大きなピロシキをがつがつと口にしていた。
「あれ? 今、誰かといませんでした?」
パットンさんの向かいに誰かが立っていたような気がしたんだけど、そのあたりを見回しても誰もいない。
「ん? ああ、隠れたのか……別にいいっちゃいいんだがなぁ。俺の乳母だよ。ピロシキとこれを届けてくれたんだ。防御力アップの効果があるらしい」
パットンさんが示したのはぶっとい腕に嵌められたごっつい腕輪だ。なんか全体的にのっぺりしたデザインで、はめこまれた赤い玉の周囲にはビスで打ったような跡がある。
「なんか……独特なデザインですね」
「ははは、お気に召さなかったか。まぁフリークって大年寄りの作ったもんだからなぁ。センスが古いのは仕方ないさ」
「フリークさんって……あの青銅で出来てるおじいさんですか?」
「ん? 知ってるのか? ああ、イラーピュでヒューバートに会ったって言ってたな」
「なんだ、フリークたちの知り合いなの?」「えっ?」
声がした方を見ると、肩当てから鉄の腕が生えた鎧を身に付けた黒髪の女性が立っていた。顔に絆創膏が張られていて、額にはクリスタルが……
「え? カラー?」
でもカラーの髪色って薄い青だったような……よく知らないけど。
「ハンティ・カラー。そこのデカいのの保護者よ」
「あ、どうも。エールです」
「ヒューバートたちが世話になったみたいね。ありがとう」
ハンティと名乗った女性はきししといたずらっぽく笑ったのだった。
話してみるとハンティさんは結構気さくな人だった。なんでもパットンさんの味方をしてくれる人たちはヒューバートさんやフリークさんをはじめとして結構いて、ヘルマンを取り戻すためにいろいろ頑張ってるみたいだ。
「ああ、そうだ」「え?」
「……いや、なんでもないよ。はい、あんたの分のピロシキ」
「あ、ありがとうございますー」
ハンティさんはどこからともなくピロシキを取り出してくれた。ありがたく受け取ってパクつけば、口のなかに油の味が広がって実にんまい。
「ていうか、どっかで見た顔だと思ったらスターブラスターを持ち歩いてた子じゃない」
「え? じゃああたしが寝てる間にあの剣を持って行ったのって……」
「うん、私私。まぁ返してもらったってことで。ていうか、アレどこで手に入れたの?」
「リーザス城の広間に落っこちてたそうで……」
「あーやっぱパットンがあの時落としたのか。こいつ、弱っちい癖にノス相手にアレで斬りかかってさー……案の定、全然効かずに吹き飛ばされて、ありゃ死んだかと思ったね」
「ひえー……良く生きてましたねぇ……でもあの頃から頑丈だったんですね」
「………………」
ピロシキを食べつついろいろ話している間、パットンさんはだいぶ居心地悪そうにしていた。やっぱ頭が上がらないんだろうね。
「んじゃ、そろそろ帰るよ。パットン、せいぜい気を付けなよ。エール、こいつのことをよろしくね」
「ああ」「はーい」
ハンティさんは手を振って、その場からパッと消えてしまった。
なんでも瞬間移動というすごい魔法らしい。そんな魔法を使えるだけあって強力な魔法使いらしいし、マジノライン攻略を手伝ってくれないかなぁと思ったけど、訳があってそういうわけにはいかないそうな。
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その後は、カロリアちゃんと一緒にセルさんの神ボール(願いを書いた折り紙で作ったボールを1000個集め、燃やすと願いが叶うと言われるおまじない)作りを手伝ったりした。
ちなみに中身は「お兄ちゃんが真人間になりますように」。うん、人の夢って儚いよね。
そうこうしているうちにご飯ができて、あたし達は決戦前の最後の夕食を美味しくいただいたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと引っ越しとか転勤とかで執筆時間が全然取れませんでした…
少なくともカーミラダーク完結までは頑張ろうと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。
ちなみにハンティはエールちゃんの分のピロシキの用意がなかったので、わざわざヘルマンまで取りに行ってくれました。
ダメージを受けることが多いパットンを助けてくれるであろう神官には親切にしておこうという感じですね。
立派なヘルマンの男に成長したパットンが後ろに引っ込んでいられるわけはないということはわかっていますが、それでも内心すごく心配しています。