カンラの南にそびえる切り立った山脈にぱっくりと口を開けた裂け目、悪魔回廊に足を踏み入れたあたしたちは、底の深い崖沿いの道を進んでいた。
「うわー……底が見えない。どれくらい深いのかな」
「ランス様、落ちたら大変ですよ」
「うむ、慎重に進むとしよう」
「あの人こんなところを通ってきたのね……意外と度胸あるのかな……」
こんなところでもモンスターはお構いなしに襲ってくる。全くご苦労なことだが、蹴散らしながら進んでいく。
「ちぇいりゃー!」「ギーっ!」バキィン! 「ぐっ……」
両手で神官ソードを叩きつけるが、くずの悪魔は生意気にバリアで防いだ。手を痺れさせて体勢を崩したあたしに悪魔はスプーンを振り上げ……そのこめかみにかなみさんの手裏剣が突き刺さった。
「ゲッ……!」「うりゃっ」げしっ
変な声を上げて動きが止まった悪魔にすかさずエールキックをかまして崖に蹴り落とす。
悪魔滅すべし、慈悲はない。
「かなみさん、ありがとね」
「ええ。……あっちも大丈夫みたいね」
向こうでは人形遣いの群れをランスお兄ちゃんが吹き飛ばしている。
「ふん! 楽勝だ楽勝!」
「崖に気を付ければどうってことないねー」
剣を収めて先に進んでいくと、前方に人影が見えた。
「げぇっ……アンタは……!」
緑色の長い髪、額の水晶、黒い肌、背中に翼、大きな鎌。どう見ても悪魔な女が、お兄ちゃんを見て顔をしかめている。
「ランス、知り合いなの?」
「おお、カスタムの地下で犯してやった悪魔じゃないか」
「えっ? どうやったの?」
「がはは、願い二つでいろいろしたあとに三つ目で全部チャラにしろと命じてやったのだ」
メチャクチャする人だなあ……
「お兄ちゃん、人をだますのは良くないよ……まあ悪魔だからいいけど……」
「よかないわよ!」
悪魔はめちゃめちゃこちらを睨み付けている。どうもお兄ちゃんに騙されたせいで階級が下がってしまい、こんなところで門番をさせられているらしい。
いい気味ではあるが、どう見ても通してくれそうにない。
「俺様達の前にここを通ったやつがいるはずだぞ。そいつはどうしたんだ」
「は? そんなの見てな……あっ」
悪魔ははっとした顔になった。なんか心当たりがありそうだ。トイレとかかな?
「えーい、とにかく通せ」
「通すわけないでしょうが! こっちも仕事なんだから……」
お兄ちゃんと悪魔はしばらく押し問答をしていたが、ふいに悪魔の顔からふっと表情が消える。
「うおっ!」ガキィン!
次の瞬間、振るわれた悪魔の鎌を、お兄ちゃんは剣を抜いて間一髪受け止めていた。
(うっわ、見えなかった……よく受け止めたなあ……)
感心する間もなく悪魔が叫ぶ。
「よくよく考えれば……もとは全部アンタのせい! ここで殺す! 殺してやるー!」
ぶんぶんぶんズバズバズバーっ! 悪魔がめちゃめちゃに鎌を振り回し、辺りの壁や床がスパスパと切り刻まれていく。すごい切れ味だ!
「悪魔なんて怒らせないでよーっ!」
「やかましい、いいから逃げろーっ!」
「ひゃーっ!」
「待てーっ!」
あたしたちはたまらず逃げ出した。
「はひー……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「髪の毛ちょっと切れちゃった……」
どうにか悪魔回廊の入り口辺りまで逃げてきた。ここまでは追ってこないようだ。
「まったく、ロゼめ。あんなのがいたら通れんじゃないか。とんだガセネタをつかませおって! 文句を言ってやる! クーリングオフだ!」
「とりあえず、もう一回あの人に話を聞く必要がありそうね……」
気は進まないが仕方ない。
「さっさと戻るぞ!」
お兄ちゃんのあとを追おうとしたあたしの視界のはしに宝箱が引っかかった。なんだろう?
「待って、宝箱が……」
開けてみると、中身はなにかの錠剤が入った薬瓶だ。
「『倍油』……? なんの薬かな?」
「何しとるんだエール! 置いてくぞ!」
「はーい! 待ってよー!」
あたしは倍油とやらをとりあえず荷物に突っ込んで駆け出したのだった。