悪魔回廊に再突入して崖際の道をひたすら突き進むと、前方に例の女悪魔が見えた。
「げ、またあんた達……? 今度こそ……え!? その気配……悪魔?」
「がはははは、ちょっと思うところあって悪魔になってみたのだ」
ものすごい嘘つくなランスお兄ちゃん……ちょっと思うところあってなれるもんなのか? とはいえ。
『お前ら三人に喋らすとボロが出そうだ。黙って見ていろ』
といわれた通り、三人でお口にチャックして見ていると、女悪魔はお兄ちゃんの口八丁手八丁に言いくるめられて名前を教えてしまい、挙げ句に下僕にされてしまった。あーあ……
我が兄ながら悪魔の才能があると思う。
「……あう……あはは……」「……あー……」
シィルさんは困ったように笑い、かなみさんはなんだか遠い目をしている。身につまされるものでもあるのだろうか?
「それじゃあおらは帰るだ」「うむ、ご苦労」
ロゼの手下の悪魔ダ・ゲイルは用は済んだと帰っていき、
フェリスというらしいその悪魔は肩を落として少し先を飛んでいる。
やっちゃったー……まあ仕方ない……みたいな顔をしているが……お兄ちゃんに絶対服従の身になって、そんな程度で済むとは思えないな。
まあいっか。悪魔だし。
少し先に進むとなんか絵の描かれた石板がたくさん敷き詰めてある通路にたどり着いた。
「なんだこれは?」
「どれも同じ模様ですね。なんだろうこれ? なにかのシルエット?」
「人影じゃない?」
「あっ、これGODっていう光の神様の絵だよ。あたし本で見たことある」
なんでも常にめちゃめちゃ光ってるのでまぶしくて本当の姿は誰も見たことない神様なのだそうだ。どうやって絵を描いたんだろう?
「ふははは、その通り! それは光の神のブロマイドである!」
なんか丸々としたケモノの頭と両手だけ、みたいなモンスターが飛び出してきた。確かねこたまだ。
「貴様ら人間は畏れ多かろう、それを踏みつけて行くことなど出来まい! ここは悪魔回廊……悪魔のみを通す道である!」
「セコい上にバチ当たりな仕掛けを……」
ブロマイドを踏まないように気を付けていけば問題ない……と思ったんだけど。
「がはははは! そんなもん俺様に関係あるか!」げしげしっ「ああっ……」
お兄ちゃんはがはがは笑いながらブロマイドを踏みつけまくっていた。悪魔もねこたまもドン引きだ。
「そらそらそらーっ!」たたたたったかたたん!
タ、タップダンスまでしてる……
「お兄ちゃんやめなよ……バチが当たるよ?」
「ふん、当てられるものなら当てて見るがいい」
『バチ、当ててやる』「えっ!?」
どっかから不思議な声が聞こえた気がした。
「気のせいかなあ……?」「あっ、エールちゃん!」「えっ……? あ!」
シィルさんが指差した先。驚いた拍子にあたしの靴がバッチリブロマイドを踏みつけていた。
「あっ、つい……ごめんなさい!」
『許さん……貴様にもバチ当ててや……えっ? 何? 今取り込み中で……え?』
不思議な声はなんかドタバタしている……
『あ、あっはい……えーと……素直に謝れるのは偉いね! そこの男は許さんが! 次から気をつけてね!』
それきり声は聞こえなくなった。なんだったんだ……
「どうしたのエールちゃん。ボーッとして」
「うーん? 変な声が聞こえて。お兄ちゃんのこと許さないってさ」
「ランス様……神官のエールちゃんがそう言うってことは、神様を怒らせてしまったのでは……?」
「ふん、神だろうが悪魔だろうが俺様の道を遮ることは出来んのだ」
とりあえず根拠がない自信でも、自信があるのはいいことだと思う。
ようやくブロマイド地帯を抜けていくと、前方にはたくさんのゴールデンハニーがいた。
「わぁ……こんなにたくさん……全部倒したらいくらになるかな?」
「こんな数のゴールデンハニーに襲われたら命がいくつあっても足りないわよ」
「うむ、今は俺様の女が先決だ。ハニワなんぞにかかずらわってる暇はない」
ゴールデンハニーはでかいけど動きは鈍いので避けていくのは難しくない。広間を抜けて先に進むが、まだ光は見えない……
「えーと、悪魔の……人?」
詳しそうな悪魔に声をかけてみる。
「……フェリスでいいわよ。何?」
「じゃあ、フェリス。出口までどれくらいなの?」
「よくわかんない……たぶん半分くらいかな……あたしいつも悪魔の力でワープしてたから……」
マヌケな上にズボラな悪魔だなあ……流石に口に出しはしないが。
次の通路には大量の悪魔が座り込んでいた。どいつもこいつも疲労困憊、という感じだ。
リターンデーモンという、人をどこかに飛ばす魔力を持った悪魔らしい。
お兄ちゃんが手近にいた一匹と何やら話しているが、それによるとこいつらが座り込んでいるのはロゼが全員とセックスしまくって残らず骨抜きにしたのだそう。
最低が最低を一周してある意味すごくなってきたな……
結局お兄ちゃんとの間で何らかの話が付いたらしく、かなみさんと二人でしばらくどこかに消えて、戻ってきたら道を空けてくれた。
その後も何度か悪魔に遭遇するたびにお兄ちゃんとかなみさんはどこかに消えて、お兄ちゃんは上機嫌になり、かなみさんは逆にどんどん凹んでいった。
「あの、大丈夫ですか?」「キルミーバー舐めます?」
どーせタグが面倒になる目に遭っているんだろう。だいたい事情を察したシィルさんとあたし、二人で慰めるが……
「うう……ありがと……でも少しほっといてくれると嬉しい……」
心の傷は深いようだ。強く生きて欲しい。
そこから先はひたすら長い通路だった。皆疲れで口数も少なくなり、ひたすら出口を目指して歩くこと二時間ほど。
あたしたちはようやく、悪魔回廊の出口にたどり着いたのだった。