むやみやたらに長い悪魔回廊をやっと抜けて、あたしたちはようやく一息つけた。ダンジョンの中の空気はあんまりよくないし、あそこは特に悪魔が多いしね。
フェリスはあーひどい目に遭った、という顔で去っていこうとしたが、ランスお兄ちゃんがこんな美人を当然手放す気はなく、そのまま使い魔にされてしまった。
まぁ悪魔だからいいか……とはいえちょっと気の毒かな。お兄ちゃんの女、ということになるし、気が向いたら少し優しくしよう。
カスタムにはすぐに着いた。半年くらい前にあった事件で町は大きな被害を受けたらしく、それから急ピッチで復興していると聞いていたんだけど。
その復興目覚ましい町並みはあちこちが破壊され、燃えたけど消し止められたみたいな建物も見える。どう見ても戦いの痕だ。
そして何より街に人っ子一人いない。
「ねぇ、お兄ちゃん、これって……」
振り向くとお兄ちゃんも顔をひきつらせている。
「いや、まさかとは思うが……」
「あれーっ!? ランスじゃない!?」
そんなあたしたちの背後から明るい声がかけられ、振り向くと眼鏡をかけた青髪の女の人が立っていた。
なんに使うのかよくわからない銀色の筒を背中にしょって、なんだか機能的な作業服を着ている。
眼鏡の女の人はマリアさんといい、前にカスタムの町をお兄ちゃんが救ったときに助けられたのだそうだ。
その時に魔力を失ったのだが、今では発明家として活躍をしており、背負っているチューリップとかいう銀色の筒も発明品の一つらしい。なんに使うのかな?
シィルさんとは顔見知りらしく、笑って旧交を暖めていた。
かなみさんは頑張ってシリアスな忍者っぽい態度で接しようとして、案の定お兄ちゃんに邪魔されて失敗した。かわいそうに……
「それでランス、この子は?」
「はい、あたしはエールって言います! ランスお兄ちゃんがお世話になってます!」
「こちらこそお世話に……って、ええっ!? ランスの妹さん!?」
「はい! よろしくお願いします!」
「これはどうもご丁寧に……えー……ちょっとごめんね」
マリアさんはそっぽを向いているお兄ちゃんを見て、あたしを見てからシィルさんに身を寄せてごにょごにょと話をし始めた。
「……って、ほんと……? 自称とかじゃ……?」「……鑑定とかは……けど、状況とかで……才能限界も……ほぼ間違いは……リーダーでも……嘘は……」「……確かに……似てるし……」
二人は離れて、マリアさんはこちらに微笑んだ。
「えー、こほん。そうなんだ、ランスに妹がいたなんてびっくりだわー。わたしはマリア。マリア・カスタードよ」
あたし達がきゃっきゃと話していると、お兄ちゃんが割り込んできた。
「ところで、この有り様はどういうことだ。ヘルマンに攻められとるということだが……」
「うん、話せば長くなるから……まずは司令部に案内するわ」
マリアさんが道すがら説明してくれたところによると、隣町のラジールに急にヘルマン軍5000が攻めてきて、カスタムも援軍を出して防衛に参加し、撃退した。
しかし、その後敵にリーザス兵とおぼしき集団4000ほどが加わり合計9000で攻められてラジールは陥落。都市長さんも死んだらしい。(かなみさんはショックを受けていた)
マリアさんたちは撤退したけど、ヘルマン軍はカスタムにも攻めてきて、どうにか撃退したけど被害も大きく、次に攻められたらもうわからないそうだ。
カスタム防衛隊の司令部といっても、なんというか狭いし町内会の会議室という感じだけど、さすがに雰囲気はものものしい。黒板には地図が張られ、あちこちに武器などが入った木箱が積まれている。
その辺の部屋に怪我をして唸っている人たちもたくさんいるのを見て、あたしはマリアさんに申し出ることにした。
「あの……よかったらあたしヒーリングして回りましょうか?」
「えっ? あなた神官なんだ、助かるわー! カスタムの神殿は今誰もいないし、そろそろ薬も尽きるしで、困ってたのよ!」
「ランス様、私も手伝ってきていいですか?」
「おう、勝手にやっとれ」
「じゃあよろしく。ランスとかなみさんはこっちね」
マリアさんにつれられてお兄ちゃん達は司令部に入っていった。
「じゃあ、エールちゃん。わたしはこっちからやっていくから……」
「はーい。いたいのいたいのとんでけー!」
「うぅ……あ、ありがとう……」
あたしたちは横たわる負傷者に片っ端からヒーリングをかけていく。
「……いたいのいたいのとんでけー! ……ふぅ……」
これだけ大量にヒーリングを唱えたのは初めてだけど、思っていたよりきついなぁ……
「いたいのいたいのとんでけー……、これで大丈夫ですよ。はい、お水です。あっ、包帯きついかな? 少し緩めますね」
ふとシィルさんを見てみると、あたしより大分早いペースでヒーリングをかけつつ負傷者に水を飲ませたり包帯を巻き直したり。すごい手際だ。
あたしがびっくりして見ていると、シィルさんはこちらを見て大丈夫? というように首をかしげた。
負けてらんないな。あたしは首を振ってヒーリングを続け、ようやく終わったときにはへとへとになってしまった。
「あー……」「お疲れさま、エールちゃん」
壁に背中を預けて唸っていると、シィルさんがお茶をいれてくれた。二人で座り込んですする。
「大変でしたねー……」シィルさんはいつもの笑顔で、全然こたえてなさそうだ。
「シィルさん……タフですね……」「あー……ランス様と一緒にいると……なんというか、体力がつくので……」
お兄ちゃんは奴隷と言ってるけど、ほぼ夫婦みたいなもんじゃないかなあ? 服従の魔法がかかってるとは聞いたけど、あんまりそうは見えないし……
しばらくすると、司令部からお兄ちゃん達が出てきた。
マリアさんとかなみさんの他にも、緑の大きな帽子をかぶった魔法使いっぽい人、セクシーな鎧の剣士さん、チャイナ服の女の子がぞろぞろ出てくる。
「というわけで俺様の作戦は明日から始める。お前らは勝手にしておけ。がはははは!」
お兄ちゃんはかなみさんとシィルさん、マリアさんをつれてどこかに行ってしまった。多分宿屋だろう。元気だなあ……
お兄ちゃんを見送ったあと、セクシー剣士さんがチャイナ服の子をつれてこちらに来た。
「おう、お嬢ちゃん。ランスの妹なんだって? 俺はミリ。よろしくな」
(一人称が俺の女の人……俺女だ……初めて見た!)
チャイナ服の女の子が続ける。
「んで、あたしはミル! あたしたち薬屋をやってるんだ!」
「で、あっちでつーんとしてるのが魔想志津香、うちの魔法使いだ」
緑の帽子の人はこちらをチラリと見て会釈し、そのまま行ってしまった。
「エール・クリアです。よろしくお願いします」
とりあえず立ち上がって頭を下げると、ミリさんはかったるそうに頭を掻いた。
「いやあ、そんなにかしこまられるとむず痒くなっちまうよ。もうちょい砕けた感じで行こうぜ」
「そう? じゃあよろしくね、ミリさん! ミルちゃん!」
改めて挨拶して、二人と握手を交わす。
「で、エールが怪我したうちの連中をヒーリングしてくれたんだって? ありがとな」「わっ」
ミリさんはにっこりと笑って距離を詰め……、顔をグッと寄せてきた。
(っ……!? 見えてたけど……反応できなかった!?)
「この町は初めてだろ? お礼と言っちゃなんだが、俺に町の案内をさせてくれよ……退屈は、しないで済むと思うぜ……?」
動揺するあたしの耳元で、ミリさんはしっとりと囁いたのだった。
エールちゃんは神魔法LV2持ちですが魔法の修行をろくにしたことがありません。
なんか適当にやったら出来た、みたいなヒーリングで十分回復してるので、回りにはちゃんと修行したんだな、と思われてますが
使ってる魔力に対して効率が悪いのでたくさん唱えるとめっちゃ疲労します。