カスタム近郊での戦闘はカスタム防衛隊とリーザス軍が勝利し、敗走するヘルマン軍は大隊長ヘンダーソンが死んでいたこともあり建て直すこともままならず、残党は狩られるかレッドまで一目散に逃げていったらしい。
スッキリした顔のランスお兄ちゃんと一緒に部屋から出てきたマリアさんは、休む間もなく防衛隊の皆に連行されていった。
「せめてシャワー浴びさせてー!」とか叫んでいたのは流石に気の毒だったな。
なんでもマリアさんはカスタム防衛隊の指揮官として、リーザス軍との話し合いやら現状の確認やら、やらなければいけないことが多いらしい。
当然お兄ちゃんがそんなのに付き合うはずもなく、翌朝起きてすぐに仮設司令部に押し掛け、「約束のカスタムの女全員セックス」をやらせろと迫ったのだが……
「ぐぬぬぬぬ……マリアのうそつきめ! なーにが『今それどころじゃない』だ!」
お昼のカレーマカロロ(フランスパンにシチューを詰めてうどんを巻いたイタリアのおふくろの味)をもしゃもしゃと食いちぎりながら貧乏ゆすりするお兄ちゃん。
「もう、機嫌直しなよ。今マリアさん達めちゃめちゃ忙しそうだよ?」
「そうですよ、皆さん目の下に大きなクマを飼ってました」
なにやらラジールにてカスタム防衛隊に、洗脳から解放されたリーザス軍、ラジールの残存戦力を加えた一つの軍団を作ってへルマンに対抗しようという話になっているそうで。
おまけにアイスや周辺の都市からも義勇兵が続々と集まっているらしく、マリアさんは彼らとの交渉やらなんやらで死ぬほど忙しいそうな。かなみさんもリーザス軍の手伝いに出掛けている。
「百万歩譲ってマリアは仕方ないとしても、志津香は許さん!」
マリアさんがめちゃめちゃ忙しそう、かつ少しは申し訳なさそうにしていたのに対して、緑の帽子の魔法使い、魔想志津香さんは「そんな約束をした覚えはない、あんたが勝手に言ってるだけ」とぴしゃりと言ってどこかに行ってしまった。
追いかけたお兄ちゃんは粘着地面の魔法で地面に張り付けられていたので、それを二人でどうにかひっぺがしてきたのだ。
「まったく腹立たしい。うーむ、腹いせに今日はナンパでもして過ごすか……?」
「あのさー……」
2個目のカレーマカロロのうどんをほどきながら(ぴろぴろしていて嫌いなのだ)あたしは口を開いた。
「……それはいいんだけど……あたしたちなんのためにラジールを目指してたんだっけ?」
「ん? そういえばなんでだったか?」
「ローラさんを探して聖武具を返してもらうんじゃ……?」
「おお、そうだったそうだった。気は進まんがまあいい。あのリス女を探すとするか」
あたし達が食事を終え、席を立つと同時にかなみさんが戻ってきた。
「はぁ……疲れた……お腹すいたぁ……」
「おお、すぐに出るぞかなみ。ローラを探すのだ」
お兄ちゃんがかなみさんを掴んでずるずると引きずっていく。
「え? えー……あたし昨日の夜からなにも……」
「ほう? 食事と主君の命令とどっちが大事なのだ?」
「う……うー……」
忍者というのは大変だなあ。あとでアメでもわけたげよ。
結論から言えば、ローラはすぐに見つかった。近所の酒場でご飯を食べていたのだ。
早速お兄ちゃんは聖武具を返せと言ったのだが……
少し後、あたしたちは酒場の外で頭を抱えていた。
「うー……頭がくらくらします……」
「なんていうか……すごかったわね……」
「あたし、あんなに悪口が回る人初めて見たよ……」
「まったく手がつけられんな……」
ローラに対して何か1言うと、その度に100の罵詈雑言が大音量のキンキン声で帰ってくる。
その上悪口のボキャブラリーが異様に豊富、加えてキレも凄まじく、ちょっと感心すらしてしまう。
最終的には、返してほしければ彼女の恋人? であるプロペラの生えたリス(毛の生えた丸いモンスター。弱い)のウーくんとやらを探してこい、ということになったのだが。
「ウーくんを探す……って言ってもねえ。結局そのリスどうなったの?」
「私たちはローラさんのご家族から魔物から取り返して、って依頼を受けてリスの洞窟に行ったんです。
それでローラさんを見つけてみたら、リスのウーくんと私は恋人だ、と言って……結局話がこじれて戦いになって、ウーくんを倒してしまったんですが、そのあと……」
「ランスのリスが人間になれる方法があるってホラを真に受けてどっかに行ってしまったのよ……」
「えー……そんな方法あるわけないし、どこ行ったかわかんないじゃん……そんな悠長に探していられないよ……」
「うーむ……そのへんで他のリスを捕まえてくるか……?」
「騙されてくれるかなあ……」
「あの女、アホそうだしどうにかなるだろ。リスがどこに居るかは……キースにでも聞いてみるとするか」
「アイスに戻るの? まあ仕方がないわね」
レッドに行くにしてもマリアさんたちの準備が整うまでまだ少し時間がかかりそうだしね。あたしたちはすぐに出発することにした。
ラジールの西門から出てカンラを経由してアイスに到着した。
相変わらずのハデハデ看板をくぐってギルドに入ると、やっぱりキースさんは秘書さんの尻を撫でていた。
「おいキース、リスのいそうな所を教えろ」
「あん? リスだぁ? モンスター狩りの依頼でも受けたのか?」
キースさんはペラペラと資料をめくり始めた。
ちょっと時間がかかりそうだな……
「あ、すいません。トイレ借りますね」
あたしは断って席を外してお花を摘みに行くことにした。
スッキリして戻ってくると、ちょうど部屋からお兄ちゃん達が出てくるところだった。
「どうだった? リスはいた?」
「乱獲の影響でもうゼスの……周辺(あまねべ)の森くらいにしか居ないそうです」
「えー……どうすんのそれ……」」
西の大国、ゼスまで行って帰れば一月くらいはかかりそうだ。
話しながら外に向かうが、後ろから誰かついてくる。
振り返ると、戦闘ジャケットを着こんでシミターをぶら下げた、筋肉質な長身の男が無言でついてきていた。
(なんだ、ここの冒険者さんか。どこかに行くのかな?)
あたしはその人の事は気にしないことにして、お兄ちゃん達の後を追った。
「ふむ……おっ、そうだ!」
外に出てしばらく考え込んでいたお兄ちゃんは、急にゴミを漁って竹トンボとストローを拾ったかと思うと、それらを組み合わせてプロペラ……らしきガラクタを作った。
「それをどうするの?」「うむ、これをだな……ぐさー!」
「ぎゃ────!」
その辺を歩いていた男の子の頭に刺した!
「なにやってんの!?」
男の子も当然キレているが、お兄ちゃんに「女は欲しくないか?」と聞かれて急に黙った。
お兄ちゃんはこの子を人間になったウーくんとしてローラに突き出すつもりらしく、ウーくん(仮称)も乗り気だ。男って時々アホだなあ……
「どう考えても無茶ですよ……」
「うーん、でもリスを恋人にするようなぱっぱらぱーな子なら……騙される可能性も……?」
「はぁ。どうせゼスまで行ってる暇はないし、これで行きましょ。もしダメなら……」
かなみさんは言葉と共に一瞬冷たい表情になったが、あたしは見なかったことにした。忍者というのは大変なんだなあ。
ちなみに、アイスからラジールに戻る途中でもシミターの冒険者さんは後ろをついてきていた。
ラジールで義勇兵にでもなるのかな? 誰も触れないし、彼も何も言わないので、あたしは気にしないことにしたのだった。
原作だと、ヘンダーソンをぶっ殺して外に出るともうリーザス軍とカスタム防衛隊の再編成と義勇兵の参加が終わってんですよね…
ちょっと無理があるので編成に時間を要する、としています。
もしかしたら原作では四日くらいランスくんが遊んでいたのかもしれません