アイスからラジールまで戻ってきたら、解放軍はけちょんけちょんに負けていた。
正確に言うと、レッドに攻め込んだけど落とせなかったらしい。
「えぇー……アレだけVやねん! 自由都市解放軍! みたいな空気だしてたのに……」
「そんなぁ……」
「がはははは、嘘つきどもには似合いの結果だ」
かなみさんはがっかりしてランスお兄ちゃんは大笑いしている。
えー? 名将っていうバレスさんとかが居たのに? 落とせなかったんですか?
そりゃあね? レッドの市壁はね? ちょっと立派ですけど?
「エールちゃん、なんかニヤニヤしてません?」
「してませーん」
「それよりさー! 早くローラってねーちゃんのところに案内してくれよ! 俺待ちきれねーよ!」
連れてきた元アイス在住の頭にプロペラの刺さったくそがき……改めウーくんがぶーたれた。
「こら、一人称は僕だろうが」
「へへへ、そうだった……」
「本当に大丈夫かな……」
「かなみさん、シィルさん。一応これ……」
ティッシュを丸めて作った耳栓を渡しておく。
「あ、ありがとね……」「も、もらっておきます……」
あたしたちはぼろが出る前に酒場に向かうことにした。何とかなるといいんだけど……
「なんとかなるもんねー……」
「ほんとですねぇ……」
「がはははは、俺様の作戦だ、当然だ」
しばらく後。あたし達は首尾よく取り戻した武具を持って歩いていた。ローラはくそが……人間になったウー君を差し出すと大喜びし、そのままウー君とトイレでタグが面倒になる行為をおっぱじめ、スッキリしたあと機嫌よく武具を返してくれたのだ。
ちなみにローラはもしウー君が偽物だったらちんちんを八つ裂きにするそうだ。くそが……ウー君は強く生きて欲しい。
それは置いといて、あたしは箱に入れられた聖武具を見た。剣盾鎧のひとそろいだ。
「へぇー。これが聖武具かぁー」
どれもこれも真っ白で正直ちょっとデザインは古い。けどきっと性能はすごいのだろう。
「で、武具をようやく取り戻したけど。これをどうするの?」
そういえば聞いていなかったな。
「リア様は、魔人に対抗するための『カオス』の力の鍵、と仰ってたわ。どう使うのかは……」
「リアのところまで持っていかないといかんが、へルマンに占領されてるとこっそり入り込むのも面倒だな……へっぽこ解放軍の連中の様子でも見てみるか」
ふと思いついてお兄ちゃんに訪ねてみた。
「ねぇ、お兄ちゃん。この武具使わないの?」
「ダサいから要らん」すぱーん
ノータイムで返された。まあ真っ白だしね……黒い方が似合いそう。
「あんたねぇ……リーザスの至宝をそんな風に……」
「ふーん、へーぇ」
文句を言うかなみさんはスルーして、リーザス聖剣を手に取りぶんぶか振ってみる。うん、見た目の割りに軽い。使えそうだ。
左は中古のマルガリータを使ってるんだけど、少し頼りないんだよね。
「お兄ちゃん、これあたしが借りてていい?」
「おお、勝手に使え」
「ちょっと、エールちゃん!? ランスも!」
「ふん、リアに預けられた俺様が許しているのだ、文句はあるまい。がはははは」
「がははー」
「あ、盾と鎧も使っていいぞ」
「ダサいから要らない」すぱーん
「こ、この兄妹は……」
かなみさんは顔をひきつらせ、シィルさんは困ったように笑っていた。
「がはははははは! 負けわんわん共の巣はここかー!?」
お葬式のような雰囲気の司令部にお兄ちゃんが大笑いしながら飛び込むと、部屋にいた人たちは弾かれるように顔を上げた。
「ラ、ランス!?」「ランス殿……!?」
「おう、大大大功労者の俺様との約束を破った上に先走りした挙げ句にへルマン共に返り討ちに遭ったらしいな! 解放軍などとえらそうに言っても所詮は俺様のおこぼれに与っていただけのまぐれ勝ち! 敗北も当然だな! がーはははははは!」
マリアさんも最初はムッとしていたが、だんだん力が抜けてうなだれていった。
「う、ううっ……」
「ふん、泣いても遅いわ」
「……ひとまず、現状を説明させて頂きます。よろしいですかな?」
お兄ちゃんがちょっとクールダウンした隙に、バレスさんが切り出して現状の説明を始めてくれた。
なんでも、義勇兵の集まり具合が予想以上だったこと、数回の防衛線の結果ラジールの防壁がボロボロに壊滅しており、戦闘域もガバガバになっていて防衛戦はしたくないこと、そしてレッドのへルマン軍が出撃の構えを見せたことで、先手必勝とばかりに攻撃を決断したらしい。
しかし、なんとへルマン軍はレッドに撤退。レッドの市壁を利用した防衛戦に出た。
この時点で練度の低い義勇軍は使い物にならなくなり、突撃を得意とする赤軍も同様。
こういう状況で頼りになるチューリップ砲兵隊も弾薬不足で思ったような攻撃が出来ず、バレスさんは落とせないと判断して撤退を開始した。
結果として、負けはしたが被害そのものはほとんどないそうだ。
そんな状況から無事撤退してきたのだからバレスさんの指揮はやはりすごいのだろう。
義勇軍には傭兵隊も混じっており、その中でもヴィヤンとカリオストロという隊長の部隊は撤退戦で良い働きをしたらしく、義勇兵は今後は彼らを中心に動かすらしい。
「私の責任だわ……」
とはいえ、士気に対するダメージは大きいみたいだ。マリアさんはがっくり落ち込んでいる。
「ランス様……このままだと……」
「お兄ちゃん……助けてあげた方が……」
「えーいやかましい! 俺様に口出しするんじゃない!」「痛っ!」「きゃっ!」
ぽかぽかとシィルさんと一緒に叩かれた。横暴だと思う。
シィルさんはあんな髪の毛してるからあんまり痛くなさそうだけど……
「ランス……」
緑の帽子の魔法使いの人……志津香さんも深刻そうな顔で話しかけてきた。
お兄ちゃんを部屋の隅に引っ張っていって色々話している。渋々って感じで謝って……、あ、お兄ちゃん笑った。ってことはなんか約束でもしたな……どうせエッチなやつ……
がはがは笑いながら戻ってきたお兄ちゃんはすっかり機嫌を直していた。
「仕方がない! 超天才指揮官である俺様が面倒を見てやるとするか! がははははは!」
「ランス……ありがとうね……」
マリアさんも何だかんだ立ち直った。やはり根拠はなくても自信満々というのは大事だなあ。
それで、マリアさんはヒララ鉱石を烈火鉱山からとってきて欲しいらしい。
チューリップの弾薬や秘密兵器に必要で、ミリさんに取ってきてほしいと頼んだけどまだ戻ってこないのだそうだ。
「ミリさんが? そう簡単にやられるとは思えないけど」
「ふん。ドジったか、女の尻でも追っかけてるのだろう」
「お兄ちゃんに似てるねぇ」
「なにか言ったか?」
「べつにー」
出発は明日ということになり、お兄ちゃんはシィルさんとかなみさんを連れて部屋に引き上げた。今頃よろしくやってるのだろう。
そしてあたしはいつもの服を洗濯したので神官見習いの服に着替え、夕方に宿を出た。
目的地は近所のちょっとした公園。新しい剣を手に入れたし、軽く慣らしておかないとね。
「むっ、よっ、はっ。たぁ! そりゃ! おりゃー!」
リーザス聖剣と神官ソードを構え、基本的な剣の振り方をなぞりながら素振りをしていると、街灯のあたりの草むらががさごそと動いた。
「……っ!? 誰かいるの?」
「う、ううう……」
とっさに剣を構えて警戒するが、唸り声が帰ってくるだけだ。
草むらに近づいてみると、冒険者風のツンツン赤毛の男が横になり、お腹を抑えてうんうん言っている。うっわー……浮浪者かなぁ?
「……あの、大丈夫ですか?」
あたしは、仕方なくその男に声をかけた。
「……うう……蹴らないでくれ……」
「は? 流石に病人を蹴ったりしませんよ。どうしたんです?」
「し、食あたり……たぶん屋台の……焼肉そうめん……やっぱり……やめときゃよかった……うう……」
「はぁ、なるほど……」
気の毒なのでベンチまで移動させ、常備していた腹痛の薬を飲ませた。
「いたいのいたいのとんでけー。はい、どうですか?」
仕上げにヒーリングで体力回復。あたしに出来るのはこんなところだ。
「ふぅ……少しだけ楽になってきたよ……」
「……どういたしまして」
ちょっと顔色がましになった男は体を起こした。
よく見ればまぁまぁイケメンではある、が。
(うへぇ……それっぽいマント、それっぽい長剣、それっぽい髪型……そして……)
あたしは表情には出さないが内心げんなりする。
「ありがとうお嬢さん。俺はアリオス。アリオス・テオマンだ。よければ君の名前を教えてくれないか?」
(うっわぁ……)
想像通りの台詞と笑顔で確信した。
(間違いない。こいつ、自分のことを勇者だと思ってる……とびっきりの『勇者気取り』君じゃん……)
個人的な設定(妄想です)
ヴィヤン・ペコ
ガード 22/24
ガード1 軍師1
アイスが侵攻に備えて雇った500人程の傭兵隊の隊長。
ラジールでへルマンが撃退されたので仕事がなくなり、義勇軍に乗り換えた。
ブレストプレート、ヘッドギアに長槍の疲れた顔のオッサンだがそれなりに優秀。タハコをこっそり吸っている。
自由都市護衛兵の固有モブイメージ。
カリオストロ
ファイター 24/31
剣1
自由都市のどこかの貴族の次男坊。
家を飛び出たので家名は名乗らないらしい。
傭兵としてラジールの防衛に参加していたが敗北時に負傷、治療を受けて復帰した。ミーキルの代わりにラジールの残存兵力200ほどを率いる。
鎧兜に剣盾の古い騎士スタイル。若いがもうハゲており、人前で兜は取らない。
汎用将軍イメージ。