【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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24話、9/1の夕方くらいにちょっと書き足してます。
それより前に読んだ方は申し訳ありませんが一旦戻ってください。


25.エールちゃんは適当に名乗る

 ほわんほわんほわん(回想の音)

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 あたしがレッドの街でソロ冒険者をやっていた頃、回復魔法の使い手はそれなりに貴重なのでスカウトを受けることはよくあった。

 

 無論ちゃんとしたパーティーからの誘いもあったのだが、ぶっちぎりで多かったのが『勇者気取り』君からの『大冒険へのお誘い』だったのだ。

 

 人は棒を持つと気が大きくなる。それが剣ならなおさらである。

 そして剣を持ったのがちょっと思い込みの激しい男なら、自分が勇者だと、これから大冒険を繰り広げて世界を救う存在だと勘違いしてしまうこともよくある事だ。

 そういった、毎年大量に生まれる『勇者気取り』君がギルドで冒険者登録をしたとして、最初に探すものは何だろうか? 

 

 答えは仲間。特にお供の『聖女』である。

 その頃ラーク&ノアとかいう若い戦士と魔法使いのカップルが活躍していたこともあり、彼らは年下か同い年くらいのかわいい女の子の魔法使いを揃いも揃って欲しがるのだ。

 

 だが、勇者気取り君がその辺の男が棒を持てば誕生するのに対して聖女候補ちゃんはそうではない。

 そもそも魔法大国ゼスでもなければ魔法使いの絶対数は圧倒的に少ないし、冒険者になるものはさらに少ない。

 そして年が若い女の子、しかもどこのパーティーにも入っていない……となればもうキナニ砂漠で幸福きゃんきゃんを探すようなものだ。

 

 ほとんどの場合、勇者気取り君たちは聖女候補ちゃん探しを諦め、ソロでやるなり男ばっかのパーティーに参加するなりして、イカマンを殺したりイカマンに殺されたりするのが関の山だ。

 そして現実を思い知ってニヒルな感じに酒場でくだを巻き、バーボンだのレモン谷村だの竹ビールだの苦いばっかで美味しくない飲み物を飲んではこれが人生の味……ふっ……とかかっこつけるおっさんとなるのだ(あたしはそういうのをバカボンと呼ぶ)。

 

 さて、こういった状況で、キナニ砂漠の幸福きゃんきゃん……若くてかわいくてソロ冒険者をやってるスーパー美少女魔法使いの女の子、あたしことエール・クリアちゃんが存在してしまうとどうなるだろうか? 

 

 答えは、ペラいマントと中古ソードを装備した、今はウー君になったそのへんのくそがき君がちょっと成長した感じのバカそうな男が、僕と冒険に出ないかと誘いをかけてくる。しかも次々に来る。なんなら週に2~3人来る。

 

 そしてよわっちいぺーぺーのド素人のくせに、ぶたバンバラの腹みたいに膨らんだ、ハニーの脳みそみたいに中身のない、夢だか目標だかという名の妄想ストーリーを一方的に聞かせてくる。

 さらにニヤついた視線であたしをじろじろ見ながら、のおまけ付きだ。

 

 大抵は一度キツく断れば済むのだが、やたらしつこい男がいて、一度だけという条件で仕方なく冒険に付き合ったことがある。

 討伐任務だったのだが、そいつは弱っちいくせに「君は僕が守る!」などと叫んでモンスターの群れに突っ込んでボコボコにされるので、死なれても困るあたしは必死にヒーリングしながら戦うしかなかった。

 どうにかモンスターの群れを倒し(大半はあたしが仕留めた)、あたしが疲労でへたりこんでいると、鼻息荒く「大丈夫かい?」などと言って手を伸ばしてくる。なんなら鼻毛も出ている。

 

 なにも言う気にならず黙って帰る途中で「僕たち相性がいいみたいだね……」とか言われたが答える気力はなかった。

 

 とにかく町に帰り、ギルドで報酬を受け取ってくるというので待っていたら、戻ってきたそいつが安っぽい魔法使い用の杖を差し出してきて、

「君にはもう剣は必要ないよ、僕がこれからは一緒だからね」などと言う。

 頭痛を堪えながらも一旦受け取り、

「報酬は?」と、尋ねると

「全額使ってその杖を買ったよ」と答えた。

 

 そこから先の記憶は曖昧なのだが、気が付くとあたしは折れた杖の残骸を握っていて、目の前には全身ボッコボコになったアホが倒れていた。

 剣を抜かないだけの理性が残っていたことに感謝して、杖の残骸を捨てて帰って寝た。

 

 そのうち噂が広まって、勇者気取り君は寄ってこなくはなったが、それでも嫌な思い出なのである。

 

 たぶんお兄ちゃんに惹かれたのも、キザったらしいところがなく、スケベであっても正直で、なおかつ強いからじゃないかな。

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 ほわんほわんほわん(回想終わりの音)

 

「あの、どうかした? 急にボーッとして……大丈夫かい?」

「あ、いえ、なんでもないです平気です」

 久々にアホの直撃弾を食らって一瞬呆けていたみたい。

「あ……名前でしたね。すいません、名乗るほどの者でもないので」

 なんかしつこそうなので名前は知らせない方がいいかなあ。

 あたしはごまかしたが、アリオスは空気を読まずに続ける。

「いや、実は俺、少し前にも食中毒になってさ、その時はサイフはすられるわ、変なやつにボッコボコに蹴られるわで本当に大変な目に遭ったんだよ」

「へ、へぇ……」それは少し気の毒だなぁ……

「寝込んでる間に仕事も先を越されたし……もし今回もそんな目に遭ってたら人を信じれなくなるところだった! 是非お礼をさせて欲しい!」

 キラキラした目でこっちを見るのはやめて欲しい……めんどくさいなぁ……

「そういうことなら……分かりました」

(仕方ない。適当な偽名でも名乗っとこ……)

 えーっと……『エール』の、仮の名前だから……『エカリル』……ちょっと違うな。片方でいいや。

「あたしはエカル。神官のエカルです」

 そう、名乗ったのだった。

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