お礼ねぇ……言われても特に思い付かないなあ……この人、お金もなさそうだし。
「じゃああたし、これから剣の練習をするので気が付いたことがあったら教えてください」
「わかった。お安いご用だよ、エカルちゃん」
ニヤついた笑みとキザったらしい態度で返事して、ベンチに戻るアリオス。
背筋がイーッとなるが、ほっといて練習しよ……ジト目で軽く見返して、あたしは練習に戻る。
どうせ今夜限りでもう会うことはないのだ。教えたのも偽名だしね。
「ふっ……はっ……てりゃっ! やっ! はぁっ!」
一通りの型をやっている間、アリオスはベンチに腰かけたまま、表情を変えずにこちらをじっと見ているだけで特になにも言わなかった。
(ふふん、口も出せなかったかな。じゃ、最後にあれの練習をしよっと)
あたしは気息を整えて二歩下がり、足を曲げて思いきり跳躍、着地と同時、気合いと共に両手の剣を振り下ろす!
「とりゃ────!!!」
うーん、うまく行かない。ならばもう一度!
「うりゃ──!! そりゃー!!! どりゃどりゃ────ーっ!」
何度も繰り返したがやはり成功しない。やっぱりお兄ちゃんの技はあたしには無理なんだろうか?
必殺技、かっこいいし強いから真似したいんだけどなあ……
「はぁ……はぁ……」
「ちょっといいかな?」荒い息をついていると、アリオスがいつの間にか近づいてきていた。邪魔しないで欲しい……ため息混じりに振り向く。
「はぁ……なんですか?」
「もしかしてだけど、エカルちゃんは必殺技の練習をしてるの? それも誰か別の人の技を」
ぎょっとした。大当たりだ。
「……なんでわかったんです?」
「君の剣術、基本的には我流だろうけど、一度はちゃんと訓練を受けてるよね? たぶん二刀は最近始めた」
「はえー……そんなこと見てるだけでわかるんです?」
「足運びは乱れてないからて、ちゃんと基礎は積んでる。けどその割に剣筋が左手だけちょっと乱れぎみだし、最近始めたんじゃないか、って」
「……」あたしは黙って続きを聞く。この勇者気取り君、ちょっと他とは毛色が違うのかもしれない。
「それで、基本的にはエカルちゃん、スピードと手数で勝負する感じだろ? そのスタイルにさっきの大技、跳躍からの振り下ろしは合ってないよ」
アリオスは両手を剣を持つような形にして、ゆっくり振り下ろしてみせた。
「多分その技を使う戦士は、普段からこうやって両手での振り下ろしをやって……いや、違うかな。普段は片手で振り回し……? 多分。剣を両手で、いや全身で振り回すには、を追求した感じじゃないかな……」
右手一本だけを振り回す感じは、利き手こそ違うけど少しお兄ちゃんの剣に似ていた。
「す、すごい……当たってますよ……」
何者なんだろうこの人……? どっかの剣術の師範かな?
「うん。で、まあ戦士の必殺技って……なんていうかなぁ。才能ある強い戦士が、自分の得意を突き詰めた先の先で、何かを越えることで身に付くものだから……他人の必殺技を真似しても、相当の努力をしないと身に付かないし、身に付いても本人の技の威力には全く届かないよ」
「へぇー…………」
め、めちゃめちゃわかりやすい……なるほど……
というか、これまで丸まったり座ったりしてるだけだからわからなかったけど……
この人、めちゃめちゃ強いな!? お兄ちゃんと張るかもしれない。ってことはもしかして……
「あの、アリオスさん。もしかして貴方も必殺技使えたり?」目を見開いてアリオスさんに迫る。
「ああ、うん。一応ね」
「見せてくれないかな~って……」
「あーうん、あー……腹痛も収まってきたし一回くらいなら大丈夫かな……」
「えーと、これでいいか」アリオスさんは、そのへんの木の枝を拾って軽く突き刺して立てた。
そこから二十歩ほど離れると、長剣を抜いて腰を落とす。あたしは固唾を飲んで見守る。
「すぅー……壱式ハヤブサ!!」
アリオスさんが息を整え、裂帛の気合いと共に銀光が閃いた。木の枝は音もなく三つに別れて地面に転がり、大して深く刺してもいないのに一番下の部分は地面に突き刺さったままだ。
「……」見えなかった。正確に言うと、最初の剣閃しか見えなかった。
右の半身に構えていたアリオスさんは振り切った体勢で残心しているが、剣は右側に戻っている。つまり剣は往復したのだが、二太刀目は全く見えなかった。
たぶん、あたしがあの剣を受けたら一発目を防げた、と思った瞬間逆から斬られて真っ二つだろう。
「す、すごい! すごいですよアリオスさん! ……アリオスさん?」「うっ……うう……」
あたしが目を輝かせて振り替えると、アリオスさんはお腹を押さえていた。
「うう……ごめん、またちょっとお腹が……」
「あっ、すみません! ベンチに戻りましょ。失礼しますね」
無理させてしまったかもしれない。あたしはアリオスさんに肩を貸してベンチにゆっくりと移動させた。
「いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいの……」
「もう大丈夫だよ。エカルちゃん。ありがとう」
爽やかな笑みと紳士的な表情でヒーリングの礼を言うアリオスさん。
「あたしのためにやってくれたことなんだから当然ですよ」あたしは彼の隣に腰かけた。
「あー、うん。話を戻すけど、必殺技を身に付けるには、自分の得意技を磨くべき、という話なんだよ」
アリオスさんは何となくこっちから目をそらしながら続ける。別に減るもんじゃないので見てくれたっていいのに……
「あたしの得意技というと……あ、回復しながら攻撃するやつがありますよ」
「いいと思うよ。魔法剣という技術もあるし。そっちを鍛えてみよう」
「はい!」
あたしはお兄ちゃんの必殺技の練習をやめて、回復の魔力をより強く全身に巡らせながら剣を振る練習を始めた。
「やっ! たあ! とりゃー!」
「安易に飛んじゃだめだ、地面に足をつけてないとステップは生かせないよ!」
「うー……えい!」
「剣に気を取られて足が止まってたら本末転倒! 体重移動を滑らかに!」
練習は夜遅くまで続いた。
「はぁ、はぁ……」
あたしは気息を整え、剣を構え……
「はぁっ!」回復の魔力を充足させながら足を踏み出し、体を回転させながら斬りつけ、飛び退き様に魔力を解放した!
「出来た……あたしの魔法剣……」ぐらっ「おっと……」
気が抜けてよろめいたあたしをアリオスさんが抱き止めてくれた。
「……うん、形にはなったと思うよ」
「はい……まだ練習が必要ですね……」
見ると、そろそろ夜が明けそうだ。一晩中練習してしまった……
「あ、あたし戻らないと……ありがとうございました、アリオスさん」
なんとなく気恥ずかしくなって体を離す。
「うん、役に立ててよかったよ。エカルちゃんはリーザス解放軍に参加してるの?」
「あ、はい。でもちょっと今日から別の仕事があって……」
「そうなんだ。俺も解放軍に参加するつもりだから、また会えるかもしれないね」
「そうですね! それじゃあ!」
あたしは朝方の町のなかを走っていった。
宿の前で、あたしがいないことに気が付いて探しに出てきたお兄ちゃんに出くわした。
「ん……? こら! エール! こんな時間まで何しとったんだ!」
「ごめん! 新技の練習をしてたら夜が明けてて……」
あたしの荒れた掌と汗だくの姿を見て納得したお兄ちゃんは「ったく、人騒がせな……」ぶつぶつ言いながら二度寝しに行った。
一睡もしてなかったあたしは、烈火鉱山に向かううし車に乗り込むなり寝てしまい、お兄ちゃんに顔に落書きをされる羽目になったのだった。
……なんでかシミターの冒険者さんもうし車の隅っこに乗ってたけどなにか用事でもあったのかな? よく一緒になるなあ……
エールちゃんのスキルが成長しました。
☆☆剣と加護
↓
☆☆☆A魔法剣
ある人との特訓で編み出した
剣と加護の改良技(未完成)
Aの文字はその人物の頭文字
アリオスの必殺技の描写は完全に妄想です。
多分どこでも描写されてないので…
どっかで描写されてたら教えてください。
壱式ハヤブサが旋回力に優れた格闘機なので素早い横薙ぎの往復、
弐式ショウキが急降下急上昇を得意とした機体になりたかった感じなので切り下ろしから跳躍しての切り上げとしてます。