「……だから……違うって……」
あたしたちの目の前で、どう見ても盗賊なモヒカン革ジャン男が倒れてぴくぴくと震えている。
鉱山に入るなりいきなり出くわし、うわーとかおれだーとかやめろーとか叫んでいたのでランスお兄ちゃんとあたしでボコボコにしたのだ。
「いきなり盗賊が現れるなんて物騒だねぇ」
「まったくだ、管理がなっとなんな」
盗賊がよろよろと立ち上がった。
「……いや、だから俺だって……キースギルドの……ルイスだよ……」
「お前など知らん」
「あの、この人何度かギルドでお見かけしたような……」
「そーなのシィルさん?」
ちょっとだけ悪いことをしたかもしんない。
ヒーリングでもかけるか、と思ったが、
「おお……ってそれどころじゃねーんだ! 出たんだよ! もう無理だよ! 俺は逃げる! じゃあな!」
ルイスとやらはスタコラサッサと逃げていった。弱い割にはタフだなあ……
「なにかが出たって言ってたわね、ミリが危ないかも」
ついてきた志津香さんが言う。確かにそうだ。
「うむ、さっさと行くぞ」
お兄ちゃんに続いて先に行こうとしたが、志津香さんがこっちを見ているのに気が付いて立ち止まる。
「……あの、何か?」
「……いえ、なんでもないわ」先に進んでいく。
なんだろ? あたしも後を追った。
鉱山のなかは割とモンスターがうろうろしている。
「うわっ、ぬぼぼの集団」
『ぬぼーっ』『ぬぼぬぼ』『ぼじょれー』『ぬぼーん』『ぬーぼー……』
ぬぼぼはこんなしゃべり方していたかな? まあどうでもいいか……
お兄ちゃんたちはあっちで三つ目とかげと戦っている。こっちはあたしと志津香さんでやるしかない。
「志津香さん、あたしが引っ掻き回しますから魔法を……」
「わかったわ。局地地震……はここでは不味いか……」
「よーし! いくぞー!」「蝶のように舞う!」
なにやら詠唱始めるのを待って、あたしはぬぼぼの中に飛び込んだ。
「そりゃ!」『ぬぼー?』「えい!」『ぬぼぼーっ』「痛っ……くっ! えーい! A魔法剣!」『ぬぼぼーっ!?』「がふっ……フランチェスカ……!」『ぬぼぼ……』「よし、まだ行ける!」
あたしは両手の剣を振り回して暴れ、ぬぼぼ達を牽制した。暗くてよく見えないし、物理は効果が薄いが気にしない。なにか居た気もするが気にしない。
「……今よ! 退いて!」
声に反応し、あたしが飛び退いた直後、
「……火爆破!」どっかーん! 『『『ぬぼー!?』』』
放たれた火の玉がぬぼぼの真ん中で爆発する! 爆炎が吹き荒れ、モンスターは焼き尽くされたのだった。
「よーし! 勝ち! いぇー!」
あたしは志津香さんに向けて手を持ち上げて差し出した。
「……何これ?」「ハイタッチですけど」
なんかお兄ちゃんにはツンツンしてるけど、出来れば仲良くしたいし……
それにあたしの妹としての勘が告げているのだ! この人、一見冷たく見えるが……情が深いタイプだと!
「…………」「…………はぁ」笑顔で手を持ち上げ続けること数秒。根負けしたようにため息をついて軽く手を合わせてくれた。
「いぇー。えへへ」
「……はぁ……あっちも片がついたみたいよ。行きましょ」
向こうを見ると、三つ目とかげが崩れ落ちてお兄ちゃんががはがは笑っていたので、あたしたちは先を急ぐことにした。
少し先に行くと分かれ道があった。ミリさんはどっちに行ったか痕跡が残っていないか調べていると、天井から小石がパラパラ落ちてきた。
「うわっ、天井にヒビが……」
「ランス様……」
「落盤なんかが起きたらシャレにならんぞ」
「大声は出さずに静かに行きましょ……」
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
その瞬間、耳をつんざくような凄まじい叫び声が奥から聞こえてきた。
「うわっ、なにこれ!」
「さっきの人が出たって言ってたのはこれ?」
「そういえば鉱山の奥には大型のボスモンスターがいるって聞いたことが……」
「そういうことは早く言え!」
皆耳を塞いで耐えていると、落ちてくる小石が増えてきて……
「あっ!? 天井が!?」上を見ると、天井のヒビが大きくなり……大きな岩が次々に落下してきた!
「総員退避ぃー!!」
「うわー! 痛っ、いだだっ!」「きゃあ!?」頭にも体にもゴンゴン大きな石が当たる中を必死で逃げ回る。このままじゃお兄ちゃんと分断される!?
「えっと……えっと……」
シィルさんがどっち側に走るか迷っている。まずい!
「この馬鹿が!」どがっ! お兄ちゃんがシィルさんを蹴り飛ばした!
「きゃっ……」「シィルさん! こっち!」ぐいっ「えっ……痛たた、痛いです!」
よろけてこっちに来たシィルさんの髪の毛を引っ付かんで、あたしは分岐路の片方に飛び込んだ。
間一髪で、ずずんという音と共に来た方の道は崩れて完全に塞がってしまった。
「えーと……皆いる?」
かなみさん、志津香さん、シィルさん、あたし。うん、お兄ちゃん以外全員いるな。
「ううー……」シィルさんが涙目で髪の毛をいじっている。
「ごめんなさい。髪の毛引っ張っちゃって……すっごく持ちやすかったんです」
「いっ、いえ! いいんですよエールちゃん! それよりランス様が……」
「はぐれてしまったわね……どう見てもここは掘れないし……」
かなみさんが崩落部分を確認して言った。どう見ても完璧に崩れている。
「もしかしたら、分岐路が先で繋がってるかも知れないわ。進んでみましょう」
仕方なくあたしたちは前に進むことにした。
暗い坑道をザクザク進んでいくが、なんだか静かだ。いつも騒がしいお兄ちゃんが居たからだな……
シィルさんなんか少し涙を浮かべて、心配そうにきょろきょろしている……
「ねぇ」
「わっ」
急に志津香さんに話しかけられてビックリしてしまった。
「な、なんですか?」
「……ええ。貴方、ランスの妹で最近再会した、と聞いたんだけど」
「はい、そうですが?」
あたしは首を傾げて答える。志津香さんは少し言いにくそうにしてから尋ねた。
「その、急に兄とか、家族が現れるのって、どんな気持ち?」
「ん? んー……? そうですね……」思ってもない質問に、あたしは思わず考え込んで思考をまとめて、話し始める。
「んー。ええと、うん。まず、お兄ちゃんみたいな男性、結構タイプなんですよ」
志津香さんがこいつ男の趣味悪っ、みたいな顔で見ているが構わず続ける。
「そんな人がお兄ちゃんで嬉しい、とか。そういう個人的な評価とかをさっ引くと……たぶん、繋がりが増えた、ですかね」
「繋がり?」
「ええ。例えばあたしに友達や恋人が居たとして。あたしがメチャクチャなことやったら友達も恋人も居なくなって関係が消えちゃうじゃないですか」
「……そうね」
「でも、兄妹はずっと兄妹なんです。そりゃ仲良くできる方がいいんですけど、どんなに憎しみあっていても関係が消えることはないんです」
「……」
「その繋がりがいいか悪いかは別として……それは、なんかこう……落ち着くというか……ちょっといいかなって思いました」
「……そう」
「すみません、要領を得ない答えで」
「いや、いいわ。参考になった。ありがとう」
(ふふふ……見たぞ……)
礼を言う瞬間、志津香さんが少しだけ柔らかい表情を浮かべたのをあたしの高精度妹センサーは見逃さなかった。即座に妹タックル改(妹力×280%ダメージ)の発射体勢をとり、抱きつこうとした瞬間。
『ギャオオオオオオオオオオオオ!』
前方から例のモンスターの叫び声が聞こえてきた!
「これは……さっきの!?」
「ちょっと待って! 聞こえない?」
かなみさんの言葉に皆口を閉じた。
「……の野郎め!」「……ンス……危な……」
「お兄ちゃんとミリさんの声だ!」
「無事だったのね! でも戦ってるみたい! 急ぎましょ!」
あたしたちは、助太刀すべく急いで走りだしたのだった。