烈火鉱山からラジールまで帰る途中、ミリさんがハピネス製薬に寄りたいというので、アイスで一旦休憩した。
薬屋さんをやってるらしいし、色々やることがあるんだろうか。
あたしは薬には興味ないのでぶらぶらしていると、インダス書房という本屋の前のワゴンで料理の本を見つけた。
「ふーむ……料理かぁ」
自炊なんてしたことないし、夜営でも保存食しかかじってないし、よく考えたら孤児院でもイモの皮剥きくらいしかやったことないけど、そろそろあたしも勉強すべきかもしれない。
あたしの脳裏に、へんでろぱをガツガツ食べるランスお兄ちゃんをニコニコしながら見るシィルさんが浮かぶ。
『がつがつがつ。げーふ』
『ランス様、おかわりはいかがですか?』
『うむ、大盛りでな。さっさとよこせ』
『はーい、おまたせ』
『ありがとうエカルちゃん。いただくよ』
『どうぞ召し上がれー。うふふ』
「……」「お客様?」「わひゃあ!?」
いつの間にかその光景がアリオスさんとあたしにすり変わっていたあたりで店員に声をかけられ飛び上がってしまった。
「先ほどから本を開いたまま立っておられるので、どうしたのかと……」
「あっ、あ、はい! なんでもないです! この本ください!」
つい買ってしまった料理の本を鞄の奥に押し込んで駐車場に戻ると、お兄ちゃんがウィリスさんを呼び出していた。
「……めーた、ほーら、ぴーららら……はい、かなみ さんはレベルアップしましたよ」
「がはは、かなみ、なんか言え」
「えっ!? えーと……にんにん!」「……」「な、なによ! なんか言えって言ったのはランスでしょ!」
騒ぐ二人を無視してウィリスさんは辺りを見回した。
「他にレベルが上がる方は……」「……頼めるか」
「はい、バーニング さんですね」
へー、シミターの冒険者さん、バーニングさんって言うのか。
流石はレベル神様。お兄ちゃんのパーティー以外にも顔も広いんだなあ……
作業が終わってから声をかけた。
「ウィリスさーん。結局あたしたちの才能限界ってわからないままなんですか?」
前に呼ばれたときに分からなくて、神界で文献とかを調べてみるとか言ってたのだが。
「あ、エールさん……はい。前例とかも見つからなくて……まあ、たぶん害はないでしょうし、問題ありませんよ」
「うーん……まあいいかあ。あ、レベル上げお願いします」
「はい、分かりました」
薬を買い込んできたミリさんと合流してラジールに戻ると、お兄ちゃんはヒララ鉱石をマリアさんに届けに行くというので、あたしたちだけを下ろしてお兄ちゃんはうし車でカスタムに向かった。
宿に帰る前に店で本を見ながらへんでろぱの材料を揃え、宿に帰って主人に話して厨房を借りた。
こっそり廊下を歩いていると、
「あれ? エールちゃん?」
「わひゃあ?」
シィルさんに見つかってしまった。
驚いた拍子に鞄の口が開いて、中の材料が丸見えになる。
「これは……ほららの切り身、こかとりす、金魚。ぽちにストーンGの涙……ヒラミレモンまで。エールちゃん、へんでろぱを作るんですか?」
材料だけでばれた。当然か。
「は、はい……その。食べて欲しいひとが……」
なんとなく赤くなってうなだれる。
「わぁ……そうなんですか。うまく行くといいですね! あ、お手伝いは要りますか?」
「い、いえ、大丈夫です……」
「うふふふふ。そうですか、頑張ってくださいね! ファイトです!」
めちゃめちゃ恥ずかしい。
満面の笑みでニッコニコ笑うシィルさんから逃げるように厨房に駆け込んだ。
戦いは熾烈を極めた。
あたしは見くびっていた。料理がこれほど難しいものだとは思わなかったのだ!
「くううううーっ!」
あたしは姿勢を低くして耐えつつ鍋をかき回す。
鍋の中身は毒々しい赤オレンジ色から蛍光ピンク、夏のため池のような緑へと目まぐるしく色を変え、そこで煮込まれたほららとこかとりすの切り身が『おぎゃぎゃぎゃぎゃー!』『ぽひー!』『オガアチャン……オガアチャン……!』などと叫び声のような音を立てる。
ゴーグルをしていてもめちゃめちゃ目に染みるが、怯んではいられない!
「次はっ……」
金魚が涙目でぶんぶんと首(?)を振るのを無視してむんずとつかんで鍋に放り込み、
「とああああーっ!!!」どぼぼぼーっ!
すかさずぽち1リットルを流し込んだ。
『ピィィィィいいいいーッ!!!!』ぼむっ
名状しがたき絶叫を立てて鍋がガタガタと震え、ボフッと紫色の煙を立てた。
なんかドクロの形になって留まろうとする煙をぱっぱっと払って、本をもう一度確認する。
「よし、これで金魚が浮いてくるまでしばらく煮込んで……ん?」
ぷかりとこの世のものとは思えない表情をした金魚が浮かんできた。
「ちょっと早くない? ……あれ?」「…………」びゅーん!
金魚は尿路結石のおかゆフィーバーみたいな顔になると、鍋の水面からゆっくりと浮かび上がり、空中で静止したかと思うとすごい勢いで窓から飛び出し、そのまま空の彼方へと消えていった。
「うーん。まあいっか!」
金魚はたぶん出汁を取るために入れるものだったのだろう。
しかしシィルさんや、世の主婦や料理人の皆さんがいつもこんなに大変な作業をしているとは思わなかった……。改めて尊敬の念を抱いてしまう。
「はらはら……」
厨房の入り口からはシィルさんが心配そうに覗いている。あたしはシィルさんに向けぐっと親指を立てて笑い、ヒラミレモンとストーンGの涙を鍋に入れる!
その瞬間、鍋はカッとわずかに青みを帯びた強い光を放ち、あたしの視界は白に染まった。
目を開けると、鍋の中にはへんでろぱが完成していた。ちょっと紫色でポコポコと泡立っているし、こかとりすとほららは欠片も見えない。溶けてしまったか……? まあ最初にしては上出来かな?
「シィルさん! 出来ましたよ! へんでろぱです! 出来ました!」
「えっ……あっ、はい……おめでとうございます……」
「なにをやっとるんだお前達は……」
お兄ちゃんが返ってきた。
「あっ! お兄ちゃん! あたしへんでろぱを作ってみたんだ! 味見してくれない?」
へんでろぱをすこし皿によそって差しだした。
「あん? 構わんが……っ!?」
お兄ちゃんが呆気に取られている。
「な、……なんだこれは?」
「へんでろぱだけど。ちょっと最初だからうまく行かなくて……」
「……おい、シィル」「は、はい……」
お兄ちゃんはシィルさんを手招きして、ヒソヒソと話しはじめた。
「……お前……見て……材料は……」「……ちゃんと……」「……手順……」「……それも……問題は……」「……間違いないな……?」「……はい……それは……」
お兄ちゃんはこちらに向き直った。
「…………うむ、いいだろう」「ランス様……(はらはら」
席についてへんでろぱを匙ですくい、ゆっくりと口に入れ……停止し、
「…………え"んッ!?」奇声をあげてばたんと倒れた。
「お、お兄ちゃん!?」「大丈夫ですか!? ランス様!?」
「……はっ……ユ、ユニバース感覚……」
お兄ちゃんはすぐに目を覚まし、よく分からん感想を述べた。
「よく分かんないんだけど、そんなに美味しかったってこと? よかったー」
あたしはへんでろぱをタッパーに移して蓋をした。
「じゃ、あたし行ってくる!」
部屋に戻って神官服に着替え、宿を飛び出したのだった。
「……あいつ、なんだって?」
「どうしてもあれをおなか一杯食べさせたい人が居ると……」
「そうか、エールの奴……そんなに恨みがある相手がいたのか……言えば俺様がずばーっと……いや、俺様の妹だ。自分の手でやらんと気が済まんのだろうな……」
なにやらお兄ちゃんとシィルさんが遠い目で話していたが、よく聞こえなかった。
傭兵隊の詰所で彼の特徴を聞けば居場所はすぐに分かった。裏の空き地で剣の稽古をして居るというので早速向かうと、アリオスさんは片手に剣を持ったままぼーっと突っ立っていた。
「アリオスさーん! ……? アリオスさん?」
「……ん……はっ!? 俺はなにを……あれ? エカルちゃん?」
我に返ったアリオスさんがわたわたと慌てる。
「どうしたんですか? なんかボーッと突っ立ってましたよ」
「うーん? 剣を振ってたらなんか光が差し込んできて、急に気が遠く……」
「まあ、病み上がりだから仕方ないのかもしれません! そうだ! あたしへんでろぱを作ってきたんです! これで栄養をつけてください!」
「えっ!? いいのかい? 嬉しいなあ……」
適当なベンチに座り、タッパーを空けて渡す。
「え、エカルちゃん……? これは……?」
「へんでろぱです! ちょっと見た目はあれですけど……お兄ちゃんも褒めてくれたんですよ」
「へぇ、お兄さんがいるんだ……そういうことなら」
アリオスさんは匙ですくって一口食べ……停止した。
「ど、どうですか……?」
使徒を相手にしたときより緊張しながら聞く。
アリオスさんはブルブルと震えはじめ……
「……う、うまい……うまいよ……」
感動に打ち震えながら、絞りだすように言葉を口にした。
「ええ!? そんなにですか!?」
「ああ! 俺、何度かへんでろぱは食べたけど……こんなにうまいのは初めてだ……いや、生きてきた中でも一番美味しいかも知れない……こ、これ、全部食べてもいいかな!?」
「もちろんですよ! そのために作ってきたんですから!」
「ありがとう! いただくよ!」
アリオスさんはすごい勢いでへんでろぱを平らげ出した。
いやぁ、苦労した甲斐があったなあ。えへへ。
あたしは、アイスで想像したシィルさんみたいな笑顔を浮かべたのだった。
もし、法王様がこのエールちゃんの技能レベルをチェックしたら
剣戦闘1 神魔法2 魔法1…とだらだら続いた後に『料理:技能なし』という表記が見えるはずです。
あと、急にアリオスに下記技能が生えました。
不思議なこともあるものですね。
悪食LV2
食物の限界を超えたなにかでも美味しく味わうことが出来る。
普通の味覚が失われるわけではないので普通の食べ物も食べられるが、刺激がなくて物足りないと思ってしまうかもしれない。
なお、食べられるのはあくまで食物、食べることを目的に製造調理されたものであってその辺の石とか木とかをおいしく食べられるわけではない。毒も効く。
某姫の団子は全然行ける。
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こんな妄想垂れ流しの文章を読んでいただきありがとうございます。
評価、感想をくれる方にも本当に感謝しています。
これからも、うちのエールちゃんの応援をよろしくお願いします。