【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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レッドの名物は赤いレンガの町並みと、アカメフルトにしゃもじだそうです


31.エールちゃんは煽る

 レッドの町の市壁は少し壊れていたが、中に入ればラジールみたいにあちこちが壊れていたり燃えていたりということもなく、通行人が見当たらないことを除けば以前と特に変わらなく見える。

「エール! 司令部に使えそうなでかい建物はどこだ!」

「都市長の屋敷としゃもじ会館! あとは……オレリイ大聖堂くらい?」

 ランスお兄ちゃんの問いに心当たりを返す。

「都市長の屋敷からいくぞ! マリア! 道中のヘルマン兵士は蹴散らせ!」

「ラジャー! ガンガンいくわよ!」

 

 そこからは圧巻だった。戦車が市街を突き進み、時々立ち塞がる敵兵達はあっという間に吹き飛ばされる。時々なんか踏んだのか爆発したり戦車が止まったりするが、すぐに復帰して問題なく突き進んでいく。

「都市長の屋敷はもぬけの殻みたい」

「しゃもじ会館もだ!」

「じゃあ大聖堂だ! いくぞ!」

 

 大聖堂に向かう途中で地面がボコボコになっている辺りを通過したあと、戦車の下で大きな爆発が起きて少し宙に浮いた。

 戦車に大してダメージはなかったが、見てみると戦車の下に潜り込んだ丸焦げのヘルマン兵士がいた。

 

「うーん、すごい人だった」

「ヘルマンにも気合の入った奴がいるもんだなあ」

「ランス殿ー!」

 感心しながら話していると、門の方からバレスさんがやってきた。

「おう、外は片付いたのか?」

「はっ、敵はあらかた逃げ出しました。ホッホ峡への道を開けて逃走を促し、側面から攻めて出血を強いつつ赤軍に追撃をさせております……して、敵大隊長は?」

「まだ見つかっとらん。どっかに隠れたか……」

「お気をつけくだされ。敵指揮官はフレッチャー・モーデルと申しまして……」

「ふん、ぶたの名前などどうでもいいわ! 行くぞ!」

 フレッチャー・モーデル? あのぶたバンバラはそんな名前なのか……でもどっかで聞いたような……

 あたしたちはバレスさんを置いてオレリイ大聖堂に向かった。

 

 久しぶりのオレリイ大聖堂は、外見は特に変わっていなかったが、いつも昼間は解放されていた聖堂の大扉は閉ざされていた。

 仕方がないので、通用口の扉を叩く。

「はい、なんのご用でしょう……」

「セルさん! あたしです! エールです!」

 固い顔をしたセルさんが出てきたが、あたしを見ると笑顔を見せてくれた。

「エ、エールさん? ああ、ずいぶん立派に……後ろの方々は?」

「あ、お兄ちゃんとお友達です!」

「お兄さんが見つかったのですか? まあまあ……」

「おっ、なかなかの美人のシスターではないか」

「ランス、今はそれどころじゃ……」

「……ちっ、わかっとるわ」

 お兄ちゃんがずいと前に出た。

「俺様はランス、リーザス解放軍の頭をしている。セルさんと言ったな? ここにヘルマン軍の連中はいないか?」

「……っ! ここは神の家です。そのような人たちはおりません。お引き取りを」

 セルさんの顔が急に仮面みたいになった。丸分かりだよ……

 あたしはこっそりかなみさんの袖を引っ張った。

「……(彼女、なにか事情が?)」かなみさんはセルさんに目線をやってからこちらを見る。

「……(たぶん)」あたしはこくりと頷いた。

 かなみさんがどこかに駆け出すのを見てから、お兄ちゃんと押し問答をするセルさんに抱きついた。

「エールさん!? 何を……」

「ごめんねセルさん」ひょい「きゃっ!」

「行くぞ!」

 久しぶりの感覚を味わいつつじたばたするセルさんを抱えあげて退かすと、お兄ちゃん達はずかずかと上がり込んでいく。

「あっ……ああ! いけません!」

 セルさんを下ろしてあたしも続く。

 

「こ、こら! 貴様! 誰も通すなと言っただろうが!」

 案の定、という感じだった。数人の市民に対して武器を突きつけるヘルマン兵。奥には汗まみれの大隊長のデブ。マントのイケメンもいる。

「わ、私は止めようと……」

「ええい役立たずめ! 貴様ら! その場から一歩でも動いてみろ! こいつらの命はないぞ!」

 わかりやすい人質だなあ……かなみさんはもうちょっとかかかりそうだし……どうしたもんかなあ。

 あれ? 奥のフレッチャーとかいうデブ。良く見ると、着てるのは延びまくってるけど武闘着だな……? ん? 武道家? 

「え? ……フレッチャー・モーデルって、モーデル脚のフレッチャー・モーデル?」

「なんだそいつは?」

「ヘルマンの生ける伝説と呼ばれる武闘家だよ。かつて魔物界を一人で横断して、魔人と引き分けたとか。すらりと長い足を活かしたモーデル脚ってすごい技を使うんだって……」

「ええ……?」「こ、こいつが?」

「ぶっふっふ……ぶーの事を知っているようだぶー」

 デブがドヤ顔をして立ち上がる。

 うっわあ……マジか……なんというか……うん。

 良く良くよーく見ると……この体型の割には足運びそのものに乱れはないし……おそらく筋肉もついてはいるみたいだけど……ぜい肉が……ものすごい……いくらなんでもサボり過ぎ……

 とはいえ、使えそうだなこれ。

「うんうん、で、そのモーデルさんは今こんなところで何やってんの?」「ぶ?」

 あたしはギザ歯をわざと見せるようにニヤニヤ笑いながら続ける。

「その人類最強のフレッチャー・モーデルさんが、戦場で負けて真っ先に逃げ出した挙げ句こんなところで一般人に武器突きつけて『来るなーっきたら殺すぶーっ』とかやってんの?」

 一呼吸を置いて、鼻で笑う。「だっっさ」

「ぬ、ぶぶぶぶ……」フレッチャーは顔を真っ赤にしている。

「エ、エールちゃん……」

 シィルさんがあたしの手を引こうとしたのを志津香さんが止めた。

 お兄ちゃんも珍しく神妙な顔をして黙っている。たぶん察してくれたかな。

「あーあ。カイズで読んだあの伝説が全部嘘だったなんてがっかり。それともあんたと引き分けた魔人ってもしかしてすっごい弱い、ノミとかぼうふらの魔人だったの? それともどっちがぶたバンバラにそっくりかの勝負でもしたの? ウケるww」

「き、貴様! 殺す! 殺すぶー!」

「あははははは! 殺すぶーってwww笑い殺す気? そもそもこっちまで来れるの? はい、あんよあんよこっちおいでー♪」

「ふ、ぶきー!」「フ、フレッチャー様!?」どっすん、どっすんとこちらに歩いてくるフレッチャー。

 次の瞬間ぼふんと音がして、聖堂の中を白煙が覆った。

「なっ……なんだ!?」「今よ!」「煙幕……? ぐあっ!」「ぎゃああ!」

「な、なんだぶー……なんにも見えな……ぐえぶー」

 どすーんと転がる音。どうにかうまく行ったかな。

 

「ったく、かなみとこそこそなんかしとると思ったら……」

「まあまあ、うまく行ったからいいじゃん」

 剣の血を振って落とし、呆れたように言うお兄ちゃんに笑って返す。

 煙が晴れると、ヘルマン兵はみんなにやられて全員倒れており、人質になっていた市民達はへたりこんでいた。

 ヘルマン兵士はみんな真っ黒な格好だから煙幕の中でも目立つもんね。

 セルさんの態度からどうせこんなことだろと思っていたので、かなみさんに伏せて貰ってあとは臨機応変に流動的に対応したのだ。

「ば、ばかな……ぶー……? そんな……ぶー!」

 フレッチャーはよろよろと立ち上がり、イケメンに駆け寄る。

「ア、アイゼル殿! どうか助けてくれぶー! こいつらを」「醜いですね」ずばっ「……ぶっ?」

 アイゼルと呼ばれたイケメンの目が光った、と思った瞬間。フレッチャーの太い腕が霞み……太い首から血が吹き出していた。

「ぶっ……ぶ……? ぶーの……し、真空波……? なんで、ぶーが……ガームロア……せんせ……」どさっ……

「おや、最後の手刀だけはなかなか美しかったですね……さて……」

 アイゼルは崩れ落ちるフレッチャーに冷笑を向けて、こちらに向き直った。

「こ、こいつは……」

 かなみさんが震えている。

「おや、あなたはリーザス城でお会いしましたね」

「リーザス城だと!? ってことは……!」

「ええ。魔人のアイゼルと申します。お見知り置きを」

 魔人は、マントを翻して優雅に礼をしたのだった。




囲師必闕うひょー。
令和の時代は煽り耐性がないと生きていけない。

フレッチャーという人は、
幼いうちにガームロアに才能を見いだされ、ガームロアに稽古を受けて、ガームロアに言われるがままに戦い、ガームロアに命じられて魔物界横断をこなし
戻ってきたらガームロアが死んでいてどうしていいのか全く分からなくなった
という人間だと解釈しています。
たぶん暴食癖は現役の時からあって、ガームロアに怒られるから控えていたとかじゃないですかね
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