【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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34.エールちゃんは介護する

 しぶしぶ解放軍本部に行くと、バレスさんとセルさんが待っていた。

「おお、エール殿。お忙しいところお呼び立てして申し訳ありませぬ……どうかされましたか?」

「あ、はい。いえ、大丈夫です……」

「エールさん。バレスさんにかけられていた洗脳の術を解いたと聞いたんですが……どうやったんですか?」

「え……えーっと……その……ちょっとこっちに」

 セルさんが尋ねてくるので、バレスさんから離れたところに引っ張っていって小声で話す。

「? エールさん?」

「バレスさんの事ですけど……なんか訳の分からん事を言ってたんで怖くなってチョップしたら治っちゃって……」

「……エールさん、カイズで何を学ばれてきたんですか……?」

「えーと、いろいろあって剣術ばっかり……」

「……今度、神魔法について本格的にみっちり指導いたしますね」

「お、お手柔らかに……」

 

 セルさんがバレスさんに向き直った。

「どうやら、将軍の場合は術者である使徒がすでに倒されていて、術の残滓を払うだけ、でしたのでちょっとした衝撃……こほん。施術で回復できたようですが、レイラさんの場合は……」

「術者が無事で、しかも魔人本人となると……ううむ、やはり一筋縄ではいきませぬか……」

 3人で頭を抱えていると、どやどやとランスお兄ちゃんたちがやってきた。

 おや、一緒にいる赤鎧の人は……リーザスの赤い死神? 

 じろじろと眺めてみるが、やっぱりめちゃめちゃ強いな……全然隙が見えない。

「?」視線に気が付いた赤い死神……リックさんがこちらを見る。

 でも顎のラインとか、ヘルメットから覗く目とか…… わりかしイケメンの可能性があるな……

「あのー。リックさん。あたしランスお兄ちゃんの妹でエールと言います。お兄ちゃんがお世話になっています」

「は、これはご丁寧に。リック・アディスンと申します。こちらこそランス殿と解放軍の皆さんにはお世話に」

 頭を下げる所作一つとっても全く隙がない。お兄ちゃんとは対照的だ。眼福だなぁ……ヘルメット取ってくれないかな……

「えーい、俺様の前で俺様が手を出せない美少女に粉をかけるんじゃない!」お兄ちゃんがしっしっとリックさんを部屋の隅に追っ払う。

「で、あの金色ねーちゃん……レイラさんの容体がよくないと聞いたが」

「ええ……それがですな……」 

 なんでも、レイラさんは洗脳は解けたと思われるが、その後遺症で激しい発情状態にあるそうだ。

 もう延々と男を欲しがり、自分でいじくり続け、達しても収まる様子もない。

 しかしなんちゅー後遺症だ。やっぱりあのアイゼル、変態なんじゃないかな……女ばっかり従えて……

 せっかくだからイケメンの強い男に術をかければいいのに……なんとなく手近のリックさんを眺める。……あとアリオスさんとついでにお兄ちゃんも……えへへ……じゅる。

「エールちゃん?」「あ、なんでもないです」なにとは言わないが垂れるところだった。危ない危ない。

 

「このままだと衰弱死しかねません……」セルさんが締めた。

「むぅ、発情……」「ランスさん?」「わかっとるわ。一発やっても死なれたんじゃ寝覚めが悪い。今は美女の命が優先だ。しかしどうするか……」お兄ちゃんは思案する。

 リックさんが進み出た。

「あの、以前に聞いたのですが。レッド近郊の迷子の森に住むユニコーンから採取できる蜜には、あらゆる呪いを解く力があるそうです」

 あ、その話は聞いたことがあるな。

「そういう噂あるよね、冒険者ギルドでも有名だったよ。何人かは取りに行ったみたいだけど、持って帰ったって人は一度しか見たことないな」

「ほう、それならなんとかなるかもしれんな。早速行くとするか」

「冒険に行くの? じゃああたしも……」がしっ。お兄ちゃんに続こうとしたあたしの首根っこをセルさんが掴んだ。

「へ?」「エールさんは残ってレイラさんの看病です。食事をしてくれないので、ヒーリングで体力を回復させ続ける必要があります。二人がかりでやりますよ」

「え、えーっ?」

「というわけで妹さんをお借りします。よろしいですね?」

「いいぞ。遠慮なくこき使うがいい」

「鬼! 悪魔! クソ兄貴!」

「がははははは! なんとでも言え!」

「お兄ちゃんなんか臭い! おかーさん洗濯物別にしてね! 学校で話しかけないでよ! ……チッ(目が合うと反らして無言で舌打ち)」

「何を言っとるのか分からんが、なんか地味にショックだな……」

 呆れながらも出発の準備を終え、本部を出ていくお兄ちゃん達。

「ランス殿、我らの同胞をよろしくお願い致します……」

「任せておけ、あんな美人を死なせるなどもったいない」

 バレスさんとリックさんが皆を見送るのを背に、あたし達はレイラさんの部屋に向かった。

 

『……あっ……ああーっ……熱い……熱いの……ちょうだい……んっ……んーっ!』

 

「……」めちゃめちゃ悩ましい声が聞こえてくる。

「ずっとこんな調子なのです。放っておけば死んでしまうというのが分かりましたか?」

「はい……」

「ランスさんが蜜を取ってくるまで持たせますよ。交代でヒーリングです。難しいかもしれませんが、変な気分にならないように。では、始めましょう」

 

 というわけで看病を始めたのだが、なかなか辛いものがあった。

 目の前にはひたすらに乱れるレイラさん。女のあたしでもちょっとクるものがある。

 そこにひたすらヒーリングをかける。そのやり方にいちいちセルさんの指導が入る。

 

「……っいたいのいたいのとんでけー……!」

「……んっ……んー! お願い……お願いよ! 触って! かき回して! 我慢できないのぉ!」

「気が散ってますよ、魔力の収束が乱れています! もっと集中して! いたいのいたいの全部とんでいけー!」

『ああっ……ああっ! んーっ!』ガチャガチャ

「この状況で気を散らすなって無茶いわないで欲しい……いたいのいたいのとんでけー!」

「ヒーリングが必要とされるのは怪我人が出ているとき、ヒーラーはいつも平常心が試されます。時にはこういった特殊な病状もあります。慣れてください。いたいのいたいの全部とんでけー!」

「ひーっ! 早く来てお兄ちゃん!」『あっ、あーっ! 男の人……来てぇ!』

 

 半日ほどヒーリングをし続けると、レイラさんは小康状態になり眠った。

 へとへとになったあたし達が部屋に戻ると、ちょうどお兄ちゃん達が戻ってきたところだった。

 




エールちゃんのスキルが成長しました。
☆☆ヒーリング→☆☆☆ヒーリング+
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