次の日の朝。あたしたちはレッドの解放軍司令部に集合していた。
「えー? ユニコーンの蜜、取ってこれなかったの?」
「はい……逃げ足が速くって……あといろいろあって……」シィルさんがうつむいて答えた。
「ユニコーンの奴、誰が近づいても暴れて逃げていくのだ。どうしたものかな……」
「? ユニコーン、大人シイ。スー、イツモ仲良シ」
いきなり知らん野生児っぽい子が口をはさんできた。
「お兄ちゃん、この子誰?」「らんす、コノ子ダレ?」
「同時にステレオで聞くんじゃない。自分たちで話さんか」
あたし達はお兄ちゃんに言われて向かい合った。
「初めまして。エールです。ランスお兄ちゃんの妹です」
「スー……ラプノ集落デ育ッタ。妹……オ兄チャン、らんす?」
「え? うん、妹だけど……」
「らんす、妹モウ居ル……スー ノ兄チャン 成レナイ?」
「よく分かんないけど、妹は何人いてもいいんじゃない?」
「ジャア、スー モらんす、妹ナル……エール、スーノ、妹?」
「えー? さすがにあたしがお姉ちゃんじゃない?」
「ムー……スー 姉チャン……決着……ツケル?」「お、やる?」
すちゃっとお互いの武器を構える。むっ、斧か……
「えーい、どっちでもいいわ!」
お兄ちゃんがぐいぐいとあたしと妹(NEW!)を引き離す。
「で、スー。ユニコーンは大人しいだと? んなことはなかったが……」
「ア……チョーロー、言ッテタ。ユニコーン、処女ガ好キ」
なんというか、変態親父みたいな習性だな……
「うむむ、処女か……」
お兄ちゃんの視線がぐるーっと一同を巡り、一通り皆をからかった後、スーちゃんを通り越してあたしのところで止まった。
「おっ、処女ならエールが居たではないか」
「え、そりゃそうだけど……スーちゃんは違うの?」
「スーはもう処女ではない、俺様がいただいた」
「らんす、スーノ処女、ドッカヤッタ?」
「うわっ……最低……」「あはは……」
回りのみんなはドン引きしている。
しかし、小さい女の子にお兄ちゃんと呼ばせてねぇ……
「へー。ほー。ふーん? へぇ──ー」
あたしはお兄ちゃんの周りを回りながらじろじろ見る。
「なんだその目は! スーが勝手に言ってきただけでだな!」
「いえいえ、別にー。へー。ほー。ふーん……」ぐるぐる
「へー。ホー。フーン」ぐるぐる
スーちゃんが真似して二人でお兄ちゃんの周りを回る。
「やーめーんーかー!」二人とも襟首を捕まれて持ち上げられた。
ギャーギャー騒いでいたのを聞き付けたのか、セルさんがやってきた。
「どうしたんですか?」
「おっ、セルさんも処女だな? 連れていこう」
「はあ……?」
「セルさん、実はかくかくしかじかで……」あたしは手短に状況を説明した。
「はぁ、まるまるうしうしと……そういうことでしたら、私もご一緒させていただきます」
「レイラさんは大丈夫なんですか?」
「はい、話を聞き付けて徳の高い司祭様が来てくださったんです。バファムーンさんという方で……」
「なんだそいつは。男か?」お兄ちゃんが割り込む。
「はい、男性ですが……」
「いかんぞ、危険だ! 男なんぞあのレイラさんのそばに置いておけるか!」
「また自分を棚に上げて……」志津香さんが呆れた様子でぼやく。
「ああ……そういう心配はないかと……なんといいますか……女性には興味がない方なので……」
「む、ホモか……ならよかろう」
「そういうわけではないのですが……まあいいです……」
話はまとまったので、早速出掛ける準備をしよう。
「いろいろ要るものがあるし、あたしの友達のお店に寄ろうよ」
「女は居るのか?」
「うん、かわいい子だよ」
「おお、それはいい。早速行くぞ!」
あたし達はバレスさんに見送られて司令部を出発した。
「……スリープ!」(くわっ
「なっ……ぐーっ。ぐおーっ」
店に入るなり、ハンモックで寝ているワヨソさんにイタズラしようとしたお兄ちゃんはスリープをかけられ寝てしまった。
「やっほーワヨソちゃん」
「あら、エールさん。このスリープがよく効くあんまり頭のよろしくなさそうな方は……まさか……」
「うん。あたしのお兄ちゃん。カッコいいでしょ」
「……相変わらずの悪趣味ですのね……ふぁぁ。まあ、おめでとうございます?」
「ありがとー。そっちも無事でよかったね」
「ベンビール家の女はしたたかですのよー……ところで、今日は何の御用で?」
「あー。冒険に行くからいろいろと入り用で……」
「はいはい……その辺の棚にありますから適当に見繕ってくださいまし」「はーい」
勝手知ったるあたしは店の棚からひょいひょい商品を取っていく。
「えーっと、スーちゃんたちの毛布にロープに世色癌に……ん? こ、これは……!」
チェック模様のミニのプリーツスカート、クリーム色の襟付きトレーナー。カーキ色のジャケットにゴーグル、帽子、ポシェットの一揃い! 女冒険者の憧れ! 服系防具の最高峰!
「レディチャレンジャー!? なんでこんなところに!?」
「こんなところとは失礼ですわね~。貴女がわざわざ似た格好をしてるくらいに欲しがっていたから確保してあげておいたのに。まあ、廉価版モデルですが」
「うわ────ありがとうワヨソさーん!」
あたしはハンモックに駆け寄ってぬいぐるみごと彼女を抱き締めた。
「はいはい、暑苦しいですわ……それに、廉価版とはいえ値段は張りますのよ」「う……」値札を見る。さすがに結構するなあ……お小遣いじゃ足りない……
「ねぇ! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」ゆさゆさ「んー……んが?」
あたしは床でぐーすかぴーと眠るお兄ちゃんを揺り起こした。
「……なんで俺様はこんなところで寝とったんだ……」
「そんなことはどうでもいいでしょ! ねぇ、あたしあれ欲しいの。買ってくれない?」
「あん? まぁ服くらいなら……? ちょっと高いな……」
「ねぇ、お願い!」
「今も似たようなの着てるじゃないか。それでいいだろ」
「これはそれっぽい古着を集めて着てるだけ! ずっと欲しかったやつで、防御力も段違いなの! ねぇ買ってよー! 買ってくれないと……あたしにも考えがあるよ」
「ふん、どうするつもりだ?」
「ダダをこねる」きっぱり。
「がははは、やってみろ」
「では僭越ながら……」
あたしはお兄ちゃんから一歩離れ、息を吸い込んだ。
「買って買って買って買って買って買って買ってー!」腕を振り回してお兄ちゃんをぽかぽかと叩きながら叫びまくる!
「やめんか!」お兄ちゃんに軽く押されて倒れる!
「買ってくれないとヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!」しかしめげずに床でじたばた! そしてとどめ!
「ヤダ──────!!!!!!!」ブリッジしながら絶叫!
「うるせ────ー!!!!!!!」お兄ちゃんも叫ぶ!
「うるさいのはあなた方ですわー」ごーん「「ぐえっ」」
ワヨソさんが何かの紐を引くと、タライが二つあたし達の上にボコボコと落ちてきた。
「はぁ……はぁ……どうよ?」
「……仕方ない。ちょっと面白かったから買ってやろう」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」ぎゅーっ
「ええい、ベタベタするんじゃない!」
「本当にやかましい兄妹ですわねー……」
ワヨソさんが呆れるのも気にせず、あたしはお兄ちゃんの腕に思い切り抱きついたのだった。