【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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36.エールちゃんはお茶を濁す

 そういうわけであたしたちは、迷子の森にセルさんと一緒にもう一度向かい、マボロシの木をミラクルミですり抜けて、滅んだラプの集落に手を合わせてから、先に進んでユニコーンの蜜をゲットしたのだった。

 端折りすぎ? 詳しく描写すると面倒なこともあるのだ。タグとか。

 とりあえず言えることは、毎朝毎晩歯を磨く習慣があってよかったってことと、セルさんの唇は甘くて熱かったってことくらいかな。

 

「おらどけデカブツ!! これから俺様がレイラさんをあへあへのとろとろ……じゃない、このユニコーンの蜜で治療するのだ! シィル! 見張っとけ! がはははははは!」レイラさんの病室のドアが閉まって、あたしたちだけが残された。

「うーむ、熱心な方ですなぁ」と髭をいじってごちるのはランスお兄ちゃんに追い出されたバファムーンさん。色黒で体格のいい神官様だ。

 拳のタコがすごいし格闘もするみたい。この人もだいぶ強そう……

 まぁお兄ちゃんはおそらく治療の名目でおっぱじめるのだろう。シィルさんは……いつも大変だなぁ。あとでお菓子でも持っていこう。

「あ、というわけでお兄ちゃんの治療が終わるまでしばらくかかると思うので……お茶でも入れますね」

「あ、はい、お構いなく……」「すみませんが、ほかの怪我人を見舞いますので。御免」

 バファムーンさんはさっさと行ってしまった。立派な人だ……

 セルさんを別室に案内して、備え付けのお茶を二人ぶん入れる。一息ついたところで、セルさんが立ち上がった。

「ちょっとランスさんの様子を見てきます」「あっはい……」

 たぶん説教する気なんだろうなぁ、でもなぁ……うーん。

 お茶をちびちびやっているとセルさんが戻ってきた。見事に頭痛が痛くてタマランチという感じの顔をしている。

 しばらく黙っていると、セルさんが切り出した。

「エールさんは、ランスさん……お兄さんの行いについて何か思うところはないのですか?」

「えーっと、いろんな女の人に手を出しまくってることですか?」

「はい、シィルさんは奴隷にして、たくさんの女性に手を出して、挙げ句に悪魔を従えるなど……」

「うーん……」困ったなあ。頬をぽりぽりと掻く。

「まず、あたし的には別にいいんじゃないのと思います」

「そんな……何故ですか? 不健全では?」

「……冒険者とか孤児とかやってるとですね。男ってすごい勢いで死んじゃうんですよ。特に勇気があって優しかったりすると真っ先に。だから、女の子って余るんですよね」

「……それは……」

「そうなると、もう甲斐性のある男の人には何人かまとめて面倒みてもらわないと困るんですよね。その点、お兄ちゃんは強いし……少なくとも守ろうとしてくれるし、乱暴も……あんまりしないし。充分かと思います」

「それに、悪魔は別として……お兄ちゃんの回りの女の人、ほとんどはお兄ちゃんのこと心底嫌いという感じではないですよね? シィルさんも、服従の呪文で従ってるようには……」

 セルさんはため息をついてお茶を口に含んだ。

「はぁ……私も、ランスさんが心の底から邪悪だとは思っていません。きっと本当は心優しい人のはずです。私は彼を正しい道に導きたいと思っています」

「えー……はぁ……まあ……そういう面もあるかもですね……」

 あたしは『なわけないやろ、うちの兄ちゃんそこそこの鬼畜ではあるで』などとは言えずにお茶を濁したのだった。

 

 セルさんはレイラさんの症状が収まり、落ち着いて眠っているのを確認すると、お兄ちゃんを連れてどこかに行ってしまった。お説教かなあ……

 お兄ちゃんとセルさんを見送って、もう一眠りするかなあ、と司令部をほっつき歩いていると、シィルさんがご飯を作っていた。

「あ、おはようシィルさん。あたし手伝いますよ」

「えっ……あ……えっと……はい。えー……じゃあダイコンの皮むきをお願いします」

「はーい」皮むきは普通にできる。イキのいいダイコンの皮をぞりぞりと剥いていく。

「はらはら……」シィルさんがちらちらこっちを見ていたが、やがてほっとしたように視線を戻したその時。

 ずずん……ガラガラ……「うわーっ!?」「フ、フランチェスカ……! がふっ」「石の巨人と……女?」

 地響きと、何か崩れる音。そして人の叫び声。そして何より。

「逃がさんと言ったはずだぞ! ランス! 聖武具を渡せ!」

 女のものと思しき声。そして戦い……いや、一方的に蹴散らされる音! 

「て、敵襲ー! 敵襲ー!」

「こ、この声は……魔人のサテラさん!?」シィルさんが顔を青くしている。

「えっ……ラプの集落を滅ぼしたっていう!?」

 よく考えたら撒いただけらしいからそりゃあそのうち来るよね! 

「魔人……魔人かぁ……どうしよう……」しかも遊び半分だった変態アイゼルと違って殺す気バリバリだ。

 神魔法になんか対抗策になる手段があった気がするんだけどよく覚えてない! 聞こうにもセルさんがいない! いてもどうにかなるとは思えないけどお兄ちゃんもいない! 

「くっ! この!」「はああっ!」「白色破壊光線!」

(みんなも戦い始めた……でもあたしが行っても……)迷ったあたしを置いて、シィルさんがおたまを持ったまま駆け出した。

「……くっ!」一瞬遅れて後を追う。

「シーザー、イシス。片付けろ!」「サテラサマノテキ、コロス!」「うあっ!」ガシャーン! 

 駆けつけてみると、ミリさんがでかいガーディアンが振り回すハルバードを食らって吹き飛ばされたところだった。

「ファイヤーレーザー! ……くっ……ああっ!」「がはぁっ!」

 志津香さんの魔法も大して効いてない! 前に入ったバレスさんとまとめて殴り飛ばされる! 

 一方では、細身のガーディアンとリックさんがすごい速度で切り結んではいるが……パワーで圧倒的に負けて押される一方だ。

(や、やばい……まずいかも……)

 考えるあたしをよそに、シィルさんは怪我人にヒーリングをかけまくっている。

「いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいのとんでけー!」

「ん? お前、ランスと一緒にいた……やつの恋人か……?」

 そんなシィルさんに魔人が気が付いた。

「そうだな、逃げ回るのを追いかけるのも面倒だ。奴から来させるか……」

 サテラが近寄ってくる。

 あたしは…… 剣を抜いてその前に立ちふさがった。

「ん?」魔人がこちらを一瞥する。それだけで膝が折れそうなのをどうにかこらえる。お兄ちゃん、本当によくアイゼルに啖呵切れたなあ……

 リーザス聖剣には特に反応しないな。見た目を知ってるわけじゃないのね。

 つらつら考えつつ、シィルさんにささやく。

「シィルさん、逃げて……」「え、エールちゃん……」

 あーあ。何やってんだろあたし。もうちょっとおいしいものとか食べて、恋愛とかして。いろいろ冒険もしたかったなぁ……でも、たぶんシィルさん置いて逃げたらお兄ちゃんに嫌われるしなぁ……

「次から次に……邪魔だなあ。片付けろ」「……」

 リックさんを吹き飛ばした細身のガーディアンが襲い掛かってくる。

 ガーディアンの無造作な突きをどうにか弾く。次の切り払いを受け損ねて脇腹を切り裂かれる。

「……」「くっ……あうっ……やあっ!」痛みを無視して回復の魔力を込めつつ石の隙間に剣をねじ込むが、ダメージが入った気がしない。

 バカ力で弾かれ、両刀が宙を舞う。ガーディアンが刃を振りかぶった。

(あ、死ぬ……)

 何度目かの感覚。ここにお兄ちゃんはいない。誰も助けてはくれない。本当に死んでしまう。

 あたしは何も考えず、ただ手を突き出して叫んだ。

「あっち行けー!」  ドゴオッ! 

 何の前触れも音もなく、細身のガーディアンが吹き飛んで、壁にめり込んだ。

「は……なんだ?」「え?」「……へ?」

 魔人も驚いているが、あたしもあっけにとられてガーディアンを見る。

 その視界が、バカでかい石の拳で塗りつぶされ……あたしの腹にめり込んだ。

 骨がまとめて折れる音、体の中身が全部口から出そうな感覚。

 吹き飛び、壁を突き破って転がっていく。

 全身が痛いけどお腹は痛くない。感覚がないのか……「……げ、げぼっ……」吐き気がして、床に転がったまませき込むと、びっくりするくらいの量の真っ赤な血が吐き出された。

「……何かと思ったが大したことなかったな。イシス。無事か?」「……」「無事そうだな。さて、お前。一緒に来てもらうぞ……」「あっ、えっ……」

 サテラとシィルさんの声が遠くなっていく。瞼が重い。

 ……お兄ちゃん、アリオスさん、セルさん、みんな、ごめんね……いたいのいたいのとんでけ……いたいのいたいの……

 そこで、あたしの意識は途切れたのだった。

 




なんか急にお気に入りに入れてくれる方がいっぱい来たなぁ、どっかの掲示板で紹介でもされたかなぁ、さて、ランキングで面白そうな新作でも探すか~
と思ってたら一瞬日間30位に入ってて目を疑いました。
ありがとうございます。めっちゃうれしいです。
烈火鉱山のコンビーフの宝箱でバイラウェイの☆6引いたときみたいな気分です。

当初目標にしてた総合評価500にも到達しました。
感想、お気に入り、評価ありがとうございます。


こんな場面が見たい、とか設定が知りたい、とか希望がありましたら感想にでも書いていただけたらありがたいです。

よろしくお願いいたします。
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