ここからは、あたしが意識を取り戻してから聞いた話になる。
セルさんに宿屋で説教をされていたランスお兄ちゃんは、かなみさんの知らせを受けて司令部に向かったそうだ。
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「むぅ、ひどくやられたな」
ボロボロになった解放軍司令部。あちこちに兵士の死体やそのなりそこない共が転がっている。
「ああ……大変です。神よ……」セルさんはそのへんの死に損ないに片っ端からヒーリングをかけ始めた。
「そうだ、俺様の女共は無事か? おーい!」
「ムニャ……ナニ、らんす」「なんだスー。寝とったのか」
スーとかなみを連れて建物の奥に行くと、ミリと志津香、血まみれのジジイがへたりこんでいた。
そばには赤いのもボロボロで立っている。こいつもさすがに魔人には敵わんか。
「どけジジイ」「がふっ!?」邪魔なのに蹴りをくれて二人に向き直った。
「……ランス?」「おいおい……怪我人にひどいことするなあ」
「ふん、男などどうでもいい。他のはどうした」
「……マリアは無事だ……あと、シィルちゃんが魔人にさらわれた」
「なに!? シィルが?」
「返してほしければ聖武具を持ってハイパービルに来い、だとさ……」
「全くシィルのやつめ、主人に手間かけさせやがって……」
仕方がない。行って取り戻すか……。えーと他には……
「……そういえばエールの奴はどうした? ヒーリングでもかけて回っとるのか」
「……」ミリは押し黙った。「ランス……」志津香が言いにくそうに口を開こうとしたのをミリが制する。
嫌な予感がする。
「……おい、どういうことだ!? 奴がどうした!?」
「あたしらもまだ確認してないんだが……」
ミリは一度言葉を切って続けた。
「エールは最後までシィルちゃんを守ろうとして……ガーディアンの一撃をもろに食らって……あの向こうに吹っ飛んだ。それから見てない」
ミリが崩れた壁を指差した。そばにはエールの双剣と帽子が転がっている。
「ちっ! 馬鹿が!」
崩れた壁の向こう側の部屋に入ると、血溜まりの中に俺様と同じ色の髪をした女が倒れていた。
全身の血がさぁっと引く。
「おい! エール! しっかりせんか! おい!」
まだ暖かい、軽い体を抱き起こしたが反応はない。
「こら! 目を覚まさんか!」
「ランス……もう……」揺すろうとして、ミリに止められた。
「ええいうるさい! こいつがこんなことで死ぬか! さっさと起きろ!」
ミリの手を振り払って肩を掴み、何度も揺さぶる。エールの細い首がグラグラと力なく動き……
「……けほっ……」
微かに咳をして、血を少し吐き出した。細いが呼吸も……してるな。
「ふぅー……、よし、生きとるな」
「……はっはっは……マジかよオイ」
「ふん、俺様の妹だ。そう簡単にくたばる訳がない」
騒ぎを聞き付けてセルさんがやってきた。
「どうしましたランスさん……エールさん!?」
「おう、セルさん。悪いがこいつを頼む」
「は、はい……! 主よ……どうかお慈悲を……」
セルさんにエールの奴を任せて部屋を出た。
「で、これからどうするの」志津香が尋ねてくる。
「無論、俺様の奴隷を取り戻しに行く」
「……でしょうね。いいわ、あたしも付き合う」
「ほう、俺様がそんなに心配か」
「勘違いしないで。シィルちゃんにも借りがあるのを思い出しただけよ」
ともかくハイパービルに向かうことになった。
ヘルマンがどうのとかつまらん話をするマリアは放っておく。
俺様、かなみ、志津香、ミリ、スー。
それからセルさんもついてきた。エールの奴はバファムーンとか言うおっさんに預けてきたそうだ。
あの貧相な体に欲情する奴もおらんだろうし、それにホモなら心配あるまい。
なんでもセルさんは魔人と戦うのに何か手があるそうで、エールが落としたダサい剣を持ってきた。
あと姿が見えないがフェリスと……他はまあどうでもいい。
ハイパービルは腹が立つほどでかい、誰が建てたかさっぱりわからん巨大建築物だ。なんか変な管理人もいるらしいが……
どうにか楽ができんかと思ったが、フェリスで飛ぼうにも俺様一人で突入は無茶だし、一階からチマチマ行くしかなさそうだ。
俺様達はハイパービルに突入し、モンスターを蹴散らして奥に行き、階段の前で待ち構えるガーディアンと対峙した。
セルさんに言わせれば魔人と対決するのに聖武具が要ると言うので、渡さんと通さんというこいつにくれてやるわけにはいかない。
仕方なく全員でボコボコにしてどうにか倒したのだが……
「はぁ……やっと倒れたか……しんど……」
「フランチェスカの幻が見えた……」
「ぜー……ぜー……これで上に……」
いこうとした瞬間、ガーディアンは体を復元させ復活した。
「聖武具ヲ、ワタセ!」
「がーっ! 相手してられるか! 撤退だ! フェリス! 殿をやれ!」「えっ……わーっ!」
フェリスを盾にして、どうにかビルの外まで逃げ切った。
「ちっ、あいつをどうにかせんと上に行けんぞ……」
「だが、ランス。もう全員ボロボロだぜ……」
「だらしのない連中だ……仕方ない、一度帰るぞ」
一旦レッドに帰って体勢を整える事にして、宿屋に向かっているとマリアの奴がうろついていた。
「どうした。ヘルマンの相手で忙しいんじゃないのか」
「あ、ランス……その様子だと、うまく行かなかった?」
「ふん、一時撤退しただけだ。またすぐに向かう。……で、お前は何をしとるんだ」
「あ……そうだ! 大変なのよ! エールちゃんが急に……え、あ、ランス!」
俺様は最後まで聞かずに司令部に向かって走り出した。
門番が止めてくるのを無視して人が集まっている部屋に飛び込み、「おい! エール!」大声で呼び掛けた。
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「もぐもぐもぐもぐ……ごっくん。あ、お兄ちゃん、おかえりー」
部屋に飛び込んくるなりすてーんと転んだお兄ちゃんに、あたしは口の中のものを飲み込んでから声をかけた。
患者服のあたしの前の机にはこかとりすの3段焼き、イカカレー、ほららの煮物、やきそば、うし乳、その他……の空になったお皿やビンが山積みになっている。
「はーい、うなぎ、とろろ、ステーキ、たくわん、各種サプリメントお持ちしましたー」
「わー。いただきまーす」
追加で届いたお料理を片っ端から平らげていると、お兄ちゃんはギギギギと立ち上がった。
「……おのれは何をしとるんじゃ……」
「なにって……ごはん。なんだかすっごくお腹が空いちゃってさー」
バファムーンさんによると、あたしは相当の深傷だったそうだが、意識を失う前に多少自分で無意識にヒーリングをかけていたそうだ。頑丈なレディチャレンジャーも役立ったみたい。
それにしてもすごい回復力だ、と驚かれたが。
まあそれはいいのだが……なんでかものすごくお腹がすいてすいてすいてすいて仕方がないのでこうして用意してもらって、それでも足りないのでマリアさんがさらに追加の料理を李立酒家に頼みに行ってくれたところだ。
マリアさんが戻ってきてお兄ちゃんに声をかける。
「話は最後まで聞いてよねー。エールちゃんが急にすごい勢いでごはんを……」「ふん!」ごちごちーん! 「きゃん!」「あたっ!」
「まったく! 人騒がせどもが!」
あたしとマリアさんの頭をはたいてランスお兄ちゃんはぷりぷりとどこかに行ってしまった。
「いったいなー……叩くことないじゃない……」「マリア。ちょっと……」「あ、うん……」
志津香さんがマリアさんを連れて行き、
続いてニヤニヤしながら入ってきたミリさんがことのあらましを話してくれたのを、スーちゃんと一緒に食後のまんじゅうを食べながら聞いた。
へ────ー。ほ────ー。ふ────ーん。へぇ────────────?
『彼はきっと本当は優しい人のはずです』
あたしは先日セルさんが言ってたお兄ちゃんに対する見解に、ちょっぴりなら同意してもいいな、と思ったのだった。
ずっとセスナの苗字をベンヒールだと思っていた!
ベンビールだった!!!!誤字報告ありがとうございます!
UAも1万いきました!だいたい200人強くらいは読んでくれてると思うと感無量です。
展開が落ち着いたら番外編でも書いてみようと思っています。
03以外の時期でも全然オッケーですので、ネタがあったら感想にください(妄想のネタが欲しい)。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。