そちらもよろしくお願いします
露出度の高いおねーさんはネカイ=シスと言ってキースギルドの冒険者なのだそうだ。
お兄ちゃんと顔見知りのようだが、どうもランスお兄ちゃんはネカイさんがキースギルドに所属していることは知らなかったらしい。それでいて、シィルさんとはご近所づきあいをしていたという。
つまりそれはお兄ちゃんの女センサーをかいくぐり続けていたということで……だいぶすごいことなんじゃなかろうか?
そんなことができる人はこの世に何人も……いや、結構いるのかもしれないな。
(もしかして今この瞬間にも誰かが後をつけてたりして……)
ちょっと怖い想像をしてしまい、後ろを振り返るが誰もいなかった。ほっ。
ネカイさんは自分を雇わないか、と誘いをかけてきたのだが。お兄ちゃんは断った。
意外だけど、3000Gはちょっと高いよね。まぁ戦力は足りてるし、それにチャクラムでざっくりという戦闘スタイルはちょっとゾンビ相手には厳しいかな。
「あら、残念。それじゃまったねー」
ネカイさんはひらひらひらりとどっかに行ってしまった。
「お兄ちゃん、とりあえず仲間にして後でいただくのだがははー、とかするかと思ったのに」
「うむ、それがな……何度手を出そうとしてもひらりひらりとかわされてしまってうまくいかんのだ。冒険中のアクシデントにでも乗じたほうがうまくいきそうだ」あ、お兄ちゃんが悪い顔している。
「ってことは……」「ああ、いつでも向かえるくらいの位置でゾンビを狩りながら進むぞ。あの手のタイプはつまらんことで急にぽっくり逝ったりするからな」
「まぁ……当てがあるわけじゃないからいいけどね」セルさんも聞いていないし。
というわけでネカイさんが去っていった方向になんとなく向かいつつゾンビを狩っていると、建物が崩れるような轟音が聞こえてきた。
角を曲がってみてみれば、ネカイさんは崩れた建物によって逃げ道をふさがれてゾンビに囲まれ……あ、引き倒された。
「がははははは! チャンス到来だ! 行くぞ!」
「はいはい……」「よーし! 行くわよチューリップ!」
どんどんどかーんずばっぐしゃっぴかーっとゾンビを薙ぎ払って進むと、ゾンビに下半身を捕まえられて動けないネカイさんがいた。
「あっ、ランス君……」「うむうむ、今助けてやろう……助け賃はいただくがな!」「えっ……あっ……きゃー!?」
お兄ちゃんは器用にネカイさんを捕まえるゾンビの下半身をぶった切ってからおっぱじめ始めた。
まぁ……ゾンビの仲間になるよりはましだろう。
「邪悪よ、退け! 退け! 退きなさい!」セルさんはあっちでゾンビを浄化しまくってるし。
みんなも今更この程度では文句を言う気にもならないようだ。なんとなく休憩ムードになる。
「この辺のゾンビはいなくなったし、お兄ちゃんが満足するまで待ちかなぁ……」
「そうねー……あ!」マリアさんが何かに目を止めた。
「どうしたんです?」
「あの通りの先にうし車があるでしょ? あれ、烈火鉱山から、ヒララ鉱石をカスタムまで運んできてくれてたやつなのよ」
マリアさんが指さす方を見ると、壊れたうし車が建物に突っ込んでいた。
「コーでうし車が襲われたから、遠回りだけどラジール経由のルートに切り替えたって聞いてたんだけど……あの中、ヒララ鉱石があるかも!」マリアさんの眼鏡越しの目はめっちゃキラキラしている。
「なるほど……んじゃちょっと時間かかりそうですし、あたしたちだけで見てきましょうか?」
「え? いいの?」「マリアさん一人だと危なそうですし。前衛くらいいたほうがいいでしょ?」
どーせヒマだしね。お兄ちゃんの方はあんまり見ないほうがいいし。描写すると面倒なこともあるのだ。タグとか。
あたしとマリアさんは慎重に通りを進み、うし車のそばまでたどり着いた。マリアさんは中を調べ始める。
「……やっぱり……積み荷はヒララ鉱石だわ! これだけの量は運べないけど……いいのがあるかも!」
「あたしが外を警戒してますから、ゆっくり探してください」
「ありがとねエールちゃん!」マリアさんはうし車の荷台でがさごそやり始めた。
そのまま待つことしばし、中から「あった……あったわ!」マリアさんの歓声があがった。
「大丈夫ですかー?」「ちょっと待って……引っ張り出すから……うーん……わっ、きゃあ!?」
どんがらがっしゃん、という音とともにうし車からマリアさんがどってーんと転がりだしてきた。無理やり引っ張り出してきた輝くヒララ鉱石を手に持っている。
「あらら、ヒーリングいります?」「いや、大丈夫……え?」
ごごごごと地響きがし始めた。見れば、うし車がめり込んでいた建物がひしゃげて崩れ始めている!
「わっ……わ……」マリアさんがわたわたしているうちに、柱が一本こちらに倒れてきた!
「っ……危ない!」どん「きゃっ!」がらがらがしゃーん! とっさにマリアさんを突き飛ばすと、あとからどんどん瓦礫が倒れてきて向こうが見えなくなる。
積み重なった瓦礫は不安定で……こりゃ登るのは危ないなあ……つまり、みんなの居るほうと分断されてしまった。
「エールちゃん!? 大丈夫!?」向こうからマリアさんの声が聞こえる。
「平気です! いまからどうにか回ってそっちに……」瓦礫の山に向かって叫ぶあたしの後ろから、べちゃりべちゃりと歩く音がする。
「……うわぁ」振り向くと、崩れた建物からわらわらわらと大量のゾンビが湧いてきていた。
「すいません、できるだけ早めに助けを呼んできてもらえます?」
「わ、わかったわエールちゃん! 気を付けてね!」マリアさんが走っていく音。
「浄化、覚えておけばよかったかなぁ……」あたしはぼやきつつ、腰の剣を抜いた。
「……てりゃ! そりゃ! たぁー!」
ゾンビ達の間を駆け抜けながら双剣を振り回し、手や足を切り飛ばしていく。あたしの腕力ではお兄ちゃんみたいに胴体を叩き切るのは難しい。
腕や足を切られたゾンビは倒れるが、それでもお構いなしに残った手足で這ってくる。
そんなことを考えているうちにゾンビにすっかり囲まれてしまった。
こうなると、あたしみたいなタイプには手だてがない。
ネカイさんがどういう風に追い詰められたかも想像がついてきた。これは人のこと言えないなあ……
あたしは苦笑いしつつ深呼吸し、両手をだらりと垂らして集中した。
お兄ちゃんと冒険をするようになって、時々思うことがあった。
あたしの剣は軽い。というか単純に腕力が足りない。
カナリアンやガーディアン、それにへルマン騎士といった固い相手には通じる技がない。
このままでも別にいいと言えばいいだろう。あたしは十分強いほうだし、レイラさんみたいに対人剣術を習ったり、神魔法を身につけて神官になるのもいいかもしれない。
でも、あたしは最近思うのだ。お兄ちゃんの、ランスという男の活躍をもっと傍で見ていたい。そして、隣で闘えるようになりたい。
そのためには、もっと単純に力が必要だ。ムキムキになるまで鍛えるのもアリではあるが……それより、あたしにとってはもっと簡単で現実的な方法があった。
深呼吸して両手の剣を握り直し、唱える。
「……よし、いくぞー! ……ヒーリング9!!」
魔法を唱えた瞬間、あたしの視界は赤く染まったのだった。