【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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43.エールちゃんは遠くを見る

 うし車を飛ばしてアイスに戻り、キースギルドで求人票を出すとネカイさんがしゃらりと出てきてあたしでよければオッケーよんなどと言う。

 求人票で雇われたのだから貸し借りはチャラ、あらためてよろしく、という事らしい。したたかな人だなぁ……

 ラジールでカスタムの工房に寄りたいというマリアさんに付き合って志津香さんが一緒に降りた。

 ミリさんはミルちゃんの薬屋の様子を見に行くと言ってコーには来なかったのだが、合流して戻るそうだ。

 

 というわけであたしたちがレッドの司令部に戻ると、かなみさんがちょうどヘルマンの士官を誘拐して戻ってきたところだった。

 ずだ袋から漏れる声を聞く限り女の子だ。となるとお兄ちゃんがやることは決まってるよね。

「がははははは! 俺様がばっちり尋問してくれるわ!」と部屋に閉じこもってしまった。

 まぁろくな目には遭わないだろうが、よその国に侵略してきたのだからそれは仕方がないだろう。なむなむ。

 

 で、シィルさんは服のつくろいや懸賞はがき書きをはじめ、

 かなみさんはさすがに疲れたと寝てしまい、

 セルさんは教会の掃除をしに行き、

 スーちゃんはいつの間にかどっかに消え、

 ネカイさんもふらっといなくなったので、あたしは一人になってしまった。

 なんでか突っ立っているバーニングさんに会釈して、

 あたしは司令部の適当な椅子に座り、まだ痛む手足にヒーリングをかける。

 

 そのうちに筋肉痛もよくなったので、あたしは外に出て剣を振り回すことにした。

 一通りの型を終え、汗を拭いているとすっきりした感じのお兄ちゃんが出てくる。

「あ、お兄ちゃん。尋問は終わったの?」

「がははは、俺様にかかればヘルマン軍人といえどちょろいちょろい。情報はばっちり聞き出した。今ジジイに準備をさせとる」

「そっかー。また戦いになるんだね……」あたしはなんとなくジオの方を眺めた。

「……ふん、何をガラに無く落ち込んでいる」お兄ちゃんはあたしの隣に並び、ハナに小指をつっこんでほじっている。きちゃない……でも態度の割に鋭いなぁ……女の子相手だからかなぁ……

「……いや、みんなに迷惑かけちゃって……バカなことしちゃったな、って」あたしがうなだれながら答えると、お兄ちゃんは丸めたハナクソを指でピーンと飛ばしてくる。

「うわっ」あたしがとっさに避けると、お兄ちゃんはがはがは笑ってから答えた。

「確かにバカだな」

「……うー……わかってるよ、もうやらないよ」「違う。落ち込んでいることがだ」「え?」あたしはお兄ちゃんの方を向いた。

 お兄ちゃんは、いつもの自信にあふれた顔ではなく、冷静な、はっきり言えば冷たい顔で遠くを眺めていた。

「冒険して危険に出くわすなんぞ当たり前だ。そして最終的にうまくいったなら経過なぞどうでもいいのだ。金もお宝も手に入れて経験値も稼いだし、誰も死んでないしケガもしとらん。どこに問題がある」

「でも、あたしヒーリング9とか使ってお兄ちゃんたちに迷惑を……」

「……お前があのけったいな魔法を使わなかったとして、あの数のゾンビに囲まれて……俺様が駆けつけるまで無事で済んだか?」

「……」お兄ちゃんはあたしを横目でねめつけた。何も言えずに黙り込む。

 お兄ちゃんは心底面倒くさそうに頭を搔きつつ続ける。

「勝てない逃げられない相手に出会ったとき、そのままおとなしく死ぬようなやつはいくら強くてもカスだ。特に戦士が死ねば後ろの弱っちい連中も一緒に死ぬ」

「……え~と?」

「……つまりだな! 戦士なら、自力でどうにかする方法を用意しようとするのは……間違ったことじゃないということだ」

「……もしかして、慰めようとしてくれてる?」「やかましいわ」ぽかりと頭をはたかれた。

「いたた……えへへ」なんだかうれしくなってニヤニヤしてしまう。

「何をニヤついとる、気持ち悪い奴だな」「べっつにー?」

 お兄ちゃんはあたしに背を向けた。「ふん、シィルでも抱いて寝るとするか……」

 その途中で足を止め、半分だけ振り返ってこちらを見た。

「そうだな、あの変な魔法だが……剣を叩きこむ瞬間だけかければいいんじゃないか?」

「え、でも急に解除すると肉体に負荷が……」

「そんなもん自分で治せばいいだろ。ちょっとは頭を使え。ばーか。がはははは」

 それだけ言って、お兄ちゃんは宿に入っていった。

「……うん。よし!」あたしはその背中を見送ってから、剣を構えなおした。

 

 翌朝。お兄ちゃんは集まってきた面々を見渡し、胸を張って口を開いた。

「うおっほん! では、俺様のスーパーな作戦を発表する! おい、シィル」「はい、ランス様」

 シィルさんが机の上にホッホ峡の地図を広げる。

 お兄ちゃんの抽象的な話を要約すると、ヘルマン軍は今日の深夜に一気にホッホ峡を抜けてくるので、あらかじめ部隊を分けて脇道に伏せておく。

 本路を進んでくる敵前衛をこちらの主力で抑え、動きが止まったところを横から伏兵でズタズタ、という作戦のようだ。

(よくわからないけどどうなのかなぁ)とバレスさんを見る。

「な、なんと……それでは……いやしかし……ううむ……成程……左様……」などと勝手に驚いて勝手に疑い勝手に納得して勝手に感服していた。まぁなんか理にかなっているんだろう。

「では、各部隊の振り分けを……」

 まず本路。ここは激戦が予想されるので、リーザス軍の主力。それから修理された戦車も配備する。脇道じゃつっかえちゃうもんね。

 戦車がいるならマリアさんは当然ここ、志津香さんも付き合うらしい。

 

 そして主な脇道は2つ。それぞれリックさんレイラさんのリーザス赤軍、ミリさんの傭兵隊が担当する。

 1本ある細いやつはかなみさんがスーちゃんネカイさんなど身の軽い人たちを率いて抑えるそうだ。

 セルさんはミリさんと一緒に行くみたい。お兄ちゃんとシィルさん(と、フェリス)は離れたところの高台で待機。予備兵力ってことね。

 バレスさんは民兵とかの中から弓を使える人たちを集めて各所を援護するらしい。

 なるほど、なんか行けそうな気が……ん? 

「お兄ちゃん、あたしはどうすんの?」お兄ちゃんがこっちを振り向く。

「そうだ、忘れてた……で、昨日遅くまでいろいろやっとったようだが……上手くいったのか?」

「うん、ばっちり! 名付けて『AL魔法剣』!」笑顔にVサインを突き出して答える。

「『AL』……? ああ、AL教のか」お兄ちゃんはふん、と鼻を鳴らす。

「だったら赤いののところに行け。連中はどうせ無茶するから激戦になるし、どっかが崩れるとこの作戦は失敗だ。せいぜいヒーリングして回っとれ」

「はーい! まかしといて!」

「よろしいのですか?」とリックさんがお兄ちゃんに尋ねる。

「ま、足手纏いにはならんだろ。 よし! お前ら準備にかかれ!」

 お兄ちゃんの号令でみんなが忙しく動き始める。よーし! あたしも頑張らないと……

 と思ったその時、袖をくいくいと引かれた。振り向くとシィルさんだ。

「どうしたんです?」「あのですね……ちょっと聞きたいことが……」こそこそと声を低くしている。あたしもつられてボリュームを下げた。

「AL魔法剣のLって、もしかしてランス様の名前から取ってます?」

「え、あ、うん、そうだけど……」ズバリ言い当てられた。ちょっと恥ずかしいなぁ……

 シィルさんは困った顔をして「ランス様の綴りはRanceです。頭文字はLじゃなくて、Rなんですよ」

「えっっっっっっっ!?」

 どうしよう! 百万点の美少女スマイルとVサインで宣言しちゃったよ! 昔の有名な騎士でランスロット(Lancelot)ってのがいるからLだとばかり! 

「シ、シィルさん……」「ランス様は感づいていないようなので……このまま内緒にした方がいいかと……」「こら、お前ら何こそこそとサボってる。さっさと動け!」

 お兄ちゃんにしっしっと追い払われ、部屋から追い出された。最後にシィルさんと目を合わせてお互いに頷く。

 このことはお墓まで持っていこう……あとシィルさんの好きなお菓子とか聞いとこ……

 

「エール殿。作戦の打ち合わせをしますのでこちらに」「よろしくね、エールちゃん」「あっ、はい……」

 リックさんとレイラさんに連れられて歩いていく。

(……よし! 今晩の戦いに集中するぞ!)

 あたしはとりあえず問題を棚上げしたのだった。

 




エールちゃんのスキルが成長しました。

☆☆☆
エール斬りW

☆☆☆☆
エール斬りW改
馴染んできた二刀流から適当に繰り出す斬撃

☆☆☆A魔法剣

☆☆☆☆AL魔法剣
兄の助言で編み出した自分なりの必殺剣
魔法で肉体を強化して無理やり繰り出す
綴りを間違えているのは内緒

ランス君の剣にはデカデカとRがついてたりついてなかったりしますが
03のイラストだと柄が見えないので確認できず
ゲーム中で何度か買い換えてるのでついてなかったとします
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