【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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炎の匂いしみ付いて


47.エールちゃんはむせる

「いたいのいたいのとんでけー! はい、これで大丈夫です」

「ありがとうございます!」ヒーリングで傷が癒えた兵士が礼を言って去っていく。

「お願いします!」と次の兵士が来る。まだだいぶいるな……

 

 使徒を撃退して周辺の軍を追い散らした後、リックさんとレイラさんが周辺の様子を見てくる、と偵察に行き、ヒマだったあたしはちょっとした負傷をしている兵士がいたので「よければヒーリングしますよ」などと言ったのだが。

「よかったら俺もお願いします」「私も……」「俺も!」と兵士たちがたくさん押し寄せてきてしまったのだ。どいつもこいつもちょっと雰囲気が浮ついていて、こっちをちらちらとみている。

 無論、冷静に周囲の警戒をしている人たちもいるけど……

 なんというかアレだな……例えるなら、男子校のスポーツの強豪チームに女の子が来て、監督も留守にしていて一部のアホが盛り上がっている……というような感じかな。

 やっぱり一人一人は結構強いし、昨日の活躍も観ているんだけど。

 最近はお兄ちゃんアリオスさんリックさんとすごい強い人をたくさん見ているからそんなにそそられないなぁ……あたしも贅沢になってしまった。

 

 どうにか列をさばき終えたが、ヒーリングのし過ぎで軽く頭痛がする。龍角惨でも飲むか……苦いからキライなんだけどね。

 荷物から粉薬を取り出して口に含み、水で流し込もうとした瞬間。「ねえ!」「ごふっ!?」いきなり後ろから声をかけられ、盛大にむせてしまった。

「げっほごほ!」「ああ、大丈夫かい? ほら水」

 取り落した水袋を拾って差し出してくる赤兵。とにかく受け取って水を一口飲む。

「ふぅー…… ありがとうございます」

 おめーが急に声をかけてくるからむせたんじゃんか……などと思いつつ一応は笑顔で対応する。

「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。治癒魔法をかけてもらったし、うちは男所帯だからさー……」

 何やら言いつつ赤兵はあたしの隣に勝手に腰かけてメットを脱いだ。

 割と遊んでそうな印象の雰囲気イケメン、という感じ。口元がニヤついているし、図々しいなこいつ……

「エールちゃんでよかったよね? あ、俺ザラック。よろしくね」「はぁ、どうも……」

 ザラックとかいう赤兵が頼んでもないのにべらべらしゃべったことによると、赤軍はその任務上消耗が激しいので、神官を帯同させたいという希望は前々からあったのだが、それで突撃速度が鈍るのでは意味がないということでなかなか実現しなかったらしい。

「その点エールちゃんは腕も立つし、治癒魔法も使えるしで条件ぴったりだよ! よかったらさ、戦争終わったらうちに入ってくれないかな? 副将が今は空いてるしもしかしたら……」

「えー……? でも、今はそれどころじゃ……」別に赤軍が嫌ってわけじゃないけどさぁ。

「まぁまぁ! 全部終わってからで全然いいよ! それに、俺も個人的に仲良くしたいしさ……」と肩に腕を伸ばしてくる。

 うわ、久しぶりだなこういう感じ。どうすっかなぁ……避けるのも払うのも難しくはないが……

 と思った瞬間。「ザラック殿!」でかい声がして伸ばされていた腕がびくっと止まった。

「なんだ、ドドンのおっさんじゃねーか。何の用だよ」

 声の先を見ればアラサーの赤兵が直立不動で立っている。

「貴殿は、後方の警戒を指示されていたはず! ここで何をしておられるか!」

「見りゃわかるだろ? 治療を受けてんだ」

「なるほど。だがもう済んだようだな。速やかに持ち場に戻られよ!」

「へいへい……じゃ、エールちゃん。またね」「……あ、はーい」

 赤軍にもああいう人はいるんだなぁ。面倒な……気を付けとこ。

「それでは御免!」ドドンとか言うおっさんも一礼して去っていった。この人はまじめだな。頑固そうだし、そんなに強くはなさそうだけど……

 とか思っていると少し寒くなってきた。神官服を取り出して上から羽織る。

 さて、そろそろリックさんたちが戻ってくる頃合いかな、などと思った瞬間。夜のホッホ峡を黒い光が貫いた。

 夜に黒い光というのは変だが見えるんだから仕方がない。後方……ちょうど戦車がいるあたりで爆音が響いた。

 これ……まさか黒色破壊光線!? カイズの本で読んだことがある。一流の魔法使いしか使えないという、最高クラスの攻撃魔法だ。

「エール殿!」リックさんとレイラさんが走って向かってくる。

「あの攻撃魔法は……」「黒色破壊光線ですね」

 あたしの指摘にレイラさんが続ける。

「そういう名前なの? とにかく、あれは戦車を狙っているみたいなの」

「戦車が落ちて正面が抜かれれば、間に入っている部隊が総崩れとなる可能性があります。発射点はあの高台。ここからは距離がありますが、我々で突破して術者を倒すべきかと。よろしいですか?」

 リックさんの提案に、あたしは首を振った。

「んー……そうですね。援護には行った方がいいかな」

「援護……? 誰のかしら?」

「だって……」あたしが言い切る前に、高台の方角から戦闘の音が響き始めた。驚き振り返るリックさんに、あたしは笑って続ける。

「こんな目立てる場面、お兄ちゃんが見逃すはずありませんから」

 

「魔法使いを守れ! あんな小勢、磨り潰せ!」

 高台に向かうお兄ちゃんの部隊を攻撃しようとしていたヘルマン軍の後背から赤軍が襲い掛かった。

「うわっ! こっちからも敵……ぎゃああ!」「しかも赤軍じゃねーか! なんで後ろから……!?」

 高台周辺のこの辺りはホッホ峡の中では比較的広くなっていて、展開できる部隊も多い。

 ヘルマン軍も数が多く、あっという間に乱戦になった。

「突撃! 突撃だ!」「突っ込んだ連中を援護しろ! 戦車が落ちたら終わりだ!」

 見ればかなみさんのレンジャー隊やミリさんたちの傭兵隊もちらほら見える。

 どうやらここが決戦の舞台になるらしい。いまだに数ではヘルマン軍の方が勝っている……のだが。

「ラァァァァァァ! バイ・ラ・ウェイ!」防御を固めようとした陣ごと、兵士たちを赤い剣で切り刻むリックさん。

「はあっ! 弐式・ショウキ!」解放軍兵士たちをなぎ倒していた騎士を、斬り下ろしからの斬り上げで剣ごと叩き切るアリオスさん。

「ぐあああああ!」「な、なんだこいつら……?」

 それぞれ鎧と髪が赤い二人の戦士が大立ち回りを演じ、次々に部隊ごと壊滅させていく。

 やっぱかっこいいなあアリオスさん! 

 近くに駆け寄ろうとしてヘルマン兵が割り込んできた。

「邪魔!」「とあっ!」どごっ! 「ぎゃっ!」突き込まれた槍の穂を払って剣の柄尻を顔面に叩き込む。崩れ落ちる兵士を蹴倒して、あたしはアリオスさんに走り寄った。

「アリオスさーん!」

「エカルちゃん? 無事だったか……」「えへへ、おかげさまで……あ、肘すりむいてますよ。ヒーリングしますね」「うん、ありがとう」

 あたしがヒーリングをかけていると、ヘルマン部隊がこちらに向かってくる。

「囲んで叩くぞ! 数ではこちらの方が多いのだ! 恐れずかかれ! 3軍の誇りを見せよ!」

 アリオスさんがあたしの前に出る。

「……エカルちゃん、下がって。エカルちゃん?」

「大丈夫ですよ。あたしやれます!」背中を見てるのもいいけど、あたしの趣味じゃあないかな。剣を抜いてアリオスさんの隣に立った。顔を覗き込んでくるのに視線を合わせて笑って返す。

「……わかった。無理しないでね」「ええ! もちろん!」

「かかれー!」兵士たちが一気に襲い掛かってきた! 

「……勇者として、人間を相手にするのはどうかと思うけど……魔人が絡んでいるなら、見逃せない!」

 アリオスさんが神妙になんか言って剣を構えた。

 えー……勇者……? 勇者かぁ……

 この年で真性の勇者気取り君なのかぁ……うーん……

 脳内エールちゃん会議を緊急招集した結果は賛成2反対1棄権2。

(……まぁ、これだけ強ければ思い込んじゃうこともあるよね! うん! オッケー! アリ! 閉廷!)

「行くよ! エカルちゃん!」「はい! アリオスさん!」

 オッケーということにして、あたしは剣を構えなおした。

 

「うおおおおお!」「はっ!」「がっ……」

 ヘルマン騎士の振り下ろしを合わせて打ち落とし、鎧ごと袈裟斬りで叩き切る。

 タイミングを変えて突き出された二本の槍を長剣で同時に絡めて弾き、空いたところを素早く切り抜けると二人の兵士は血を吹き出して倒れた。

 アリオスさんの剣はお兄ちゃんとは対照的な、きっちり訓練したと思えるきれいな剣だ。その辺の連中と比べると、スピードと威力は段違いだが……

 リックさんのは……あんまり比較対象として適切じゃないかな……どっちかというと曲芸……

 アリオスさんの活躍を眺めながら、絡んでくる兵士をあしらいつつ膝を断ち割った。転がりまわる兵士を避けて高台を見ると、駆け上がっていくお兄ちゃんが見えた。かなみさんたちも一緒だ。

 そしてほどなく、「がーははははははは! 魔人の使徒と言えど俺様の敵ではないわ!」

 お兄ちゃんのバカ笑いがホッホ峡に響き渡った。

「そ、そんな……」「魔法使いがやられたら……アレが来るぞ!」

 恐慌に陥るヘルマン軍。そしてキュラキュラキュラキュラ……とキャタピラ音。

 ご期待通り、岩陰から戦車が顔を出した。

「うわあああああ! ダメだ! 逃げろ!」「こら! 勝手に逃げるな……(どかーん!)ぎゃああ!」

 ヘルマン兵たちは算を乱して逃げ始め、戦車の砲撃と解放軍の兵士たちがそれを追撃する。

 こうして、後に『ジオ大会戦』と呼ばれる戦いは、ここに終結したのだった。

 




なんかたくさんの人に読んでいただけてありがたいです

これからも頑張りますので、できれば評価、お気に入り登録お願い致します
誤字報告もありがたいです

いつものように妄想です

ザラック
35/42
剣1 槍1
赤軍の小隊長。
腕が立ち、性格がまともなら副将になれそうな男だが
性格が最悪なので小隊長止まりの男。
不当に扱われていると思っていて上層部を恨んでいる。
女癖も悪く、何人もの女性と問題を起こしてきた。
リーザス城の門番の女の子に目を付けていたが、最近彼氏が出来たからとフラれた。

ドドン・ルーペ
29/29
剣0
赤軍の小隊長。
ルーペ家は当主がこれまで13人続けて戦場に散っている事である意味有名な家。本人は誇りに思っている。
実直な性格で、才能は代々の当主と同じくないが、努力して赤軍に入った。
家伝の名剣ナマクラを受け継いでいる。
実際は14代前の当主が騙されて購入した、ただのちょっといい剣。
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